
高校での投資教育が必須になるなど、経済に対する教育への関心が高まっています。本記事では、専門的な知見を生かし、経済に関するニュースをわかりやすく解説することで人気を博している経済キャスターのDJ Nobby氏が、著書『実は大人も知らないことだらけ 経済がわかれば最強!』(KADOKAWA)から、日本と世界の経済について解説します。
資源保有国の動向が、世界経済を大きく揺るがす
【TOPICS】ロシアの戦費支出を、石油燃料輸出額が上回る!?
ロシアによるウクライナ侵攻が起き、2022年3月以降、西側諸国ではロシアからの原油やガスの購入を控える動きが継続しています。これは本来、ロシアにとって深刻な経済制裁となるはずでしたが、実際は想定されたほどの打撃を与えられていないようです。
フィンランドに拠点を置く「エネルギー・クリーンエアー研究センター」(CREA)によると、2月24日から6月3日までの100日間でロシアが得た化石燃料の輸出による収入は、970億ドル。戦費よりも輸出額のほうが上回っていると推計されています。
ウクライナ侵攻により、世界の主要国から経済制裁を受けたにもかかわらず、ロシア経済が持ち直した大きな要因は、「資源」です。
資源を巡り、世界の景気は大きく揺れ動きます。時に、資源争いが戦争に発展することも多くあります。ここでは「資源」に注目し、世界経済を見てみましょう。
国の電源構成から見る、日本の特徴
人々が生活するにあたり、電気やガスなどのエネルギーは必要不可欠です。
電力に注目し、主要国の電源構成を見ると、8割ほどの国が化石燃料(石油・石炭)に依存している傾向にあります。特徴的なのは、フランス。他国に比べ原子力発電の比率が大きく、全体の約7割を占めていることがわかります。

[図表1]電源別発受電電力量の推移
【Nobby‘s point】エネルギー供給に見る、ヨーロッパの地理的優位性なの?
ヨーロッパは地続きのため、EU圏内でお互いに電力の融通ができます。
例えば、資源がほぼないイタリアはエネルギーの8割を輸入に頼っています。国民投票で原子力発電の再開が否決されたこともあり、再生可能エネルギーの自給率向上を国家戦略として策定しています。
一方、フランスのメイン電源は原子力発電。ウクライナ危機と連動し各国のエネルギー不足がフォーカスされていますが、ドイツやベルギー、イギリスはフランスから原子力で作られた電力を輸入し、恩恵にあずかっています。
エネルギー安全保障という意味では、EU内の電力融通はなかなかよい体制になっているのではと思います。
日本は資源を持たず、さらに海で他国と隔てられた島国。ヨーロッパのように他国からエネルギーを融通してもらうことができないため、先進国の中では積極的に原子力発電に注力していました。
しかし、2011年東日本大震災で起きた津波により、福島第一原発で事故が発生。それまで安全・安心と言われてきた原子力神話が崩壊し、現在はほとんど稼働していません。
エネルギーを輸入に頼る日本にとって、電源の安定供給手段の確保は早急に解決しなければならない課題の1つです。
再生可能エネルギーの現状
化石燃料を用いた発電は、大きな問題を抱えています。それはCO2排出量の増加。CO2の増加は、気候変動など地球規模で悪影響をもたらしています。そこで先進国を中心に取り組んでいるのが、再生可能エネルギーの開発。
太陽、水力、風力、地熱など再生可能エネルギーを用いた発電はCO2をほとんど排出しないという特徴があります。
その一方で、自然に頼った発電方法であるため大量かつ安定的に確保することが難しいという課題を抱えています。地熱発電は比較的安定していると言われているものの、発電施設建設のために広大な土地が必要なため、立地を確保するのが難しいという問題があります。
また、太陽光発電や風力発電などは天候や時間帯によって発電できる量が大きく変動します。そのため、使い切れない分の電気を効率的に貯めておく仕組みが必要となりますが、電気を大量に貯めることはまだ技術的に難しく、原子力発電や火力発電などと組み合わせてきめ細かく発電量を調節する仕組みが求められています。
加えて、再生可能エネルギーの発電コストは割高であり、開発費を誰がどのように負担するか、という問題も解決しなければなりません。
他国にエネルギーを依存する危険性とは?
日本をはじめ、海外に資源供給を依存している国は数多くあります。海外に資源を依存することは、どんな危険性をはらんでいるのでしょうか。
◆戦争時の保障がない
ウクライナ侵攻を受けて各国はロシアに対して経済制裁を実施しました。世界屈指の資源大国であるロシアから原油やガスを輸入することができなくなったことで、エネルギー供給を他国に依存している国々では問題が深刻化。日本はもちろん、ヨーロッパなど各国に影響が出ています。
原油などの化石燃料の埋蔵量は地域によって大きく偏りがあります。資源生産国には中東やロシアなど、政情が不安定な国も多く、いつ戦争が起きて資源供給が滞るか予測がつかないため、これら資源生産国との関係性が重要になります。
原油市場ならではの危険性
◆原油市場は変動が大きい
原油市場には、さまざまな参加者がいます。実際に原油の需要(実需)があって市場から購入するために参加している参加者のほかに、相場の変動で利益を得ることを目的として参加している投資家も多く存在します。
取引金額で見ると投資家の取引の方が多いため、政情不安や需給バランスの変動が予測される局面では、多くの投資家が一斉に一方向の取引を行います。そのため、投資家の思惑によって大きな価格変動が起こりやすいといえます。
自国内で原油をほとんど生産できない日本は、原油市場における変動が国内の物価に影響しやすい国であると言えるのです。
【Nobby‘s point】日本の再生可能エネルギー促進制度
日本には、改正FIT法に基づく再生可能エネルギーの「固定価格買取制度」という特殊な制度があります。
これは、“再生可能エネルギー(太陽光・風力・水力・地熱・バイオマス)で発電した電気は、電力会社があらかじめ決められた価格で買い取る”ことを義務付けるもの。民間企業が再生可能エネルギーを事業化する際のリスクを軽減することを目的とした制度です。
再生可能エネルギー事業は初期投資がかさむため、成功するか見通しが難しく、参入に二の足を踏む企業が多くなります。固定価格での買い取りを保証することで、再生可能エネルギー分野への投資を促進しようという取り組みが「固定価格買取制度」なのです。
DJ Nobby
経済キャスター、金融コメンテーター、ラジオDJ
DJ Nobby