高校サッカー選手権のロングスロー、あれってファウルじゃない?【2020年度人気記事】

高校サッカー選手権のロングスロー、あれってファウルじゃない?【2020年度人気記事】

  • Sportiva
  • 更新日:2021/05/03

2020年度下半期(20年10月〜21年3月)にて、スポルティーバで反響の大きかった人気記事を再公開します(1月10日配信)。

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高校サッカー選手権で大きな得点源になっている、ロングスロー

冬の高校サッカー選手権と言えば、話題になるのがロングスロー。今年も青森山田高校がロングスローで多くの得点を挙げたのをきっかけに、数日前からサッカー系のSNSは『ロングスローの好き嫌い』で持ち切りだ。ある意味、風物詩のようなもの。年始感がすごい。

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話題の中心は「好き嫌い」であって、「OKかダメか」ではない。主観だ。そこがまさに、この手のテーマが盛り上がる理由でもある。好き嫌いに正解はない。正解のない議論は誰でも発言しやすく、果てしなくつづく。ロングスローに限らず、サッカーはそんな話が多い。

一方、なかには「あれってファウルスローじゃないの?」とルール違反を問う声もあるそうだ。そこはハッキリさせたほうがいいかもしれない。

正直、何回かに1回はファウルスローだと思う。サッカーの競技規則では、スローインの項目は以下のとおりに記載されている。

ボールを入れる時、スローワーは
・競技のフィールドに面して立って、
・両足ともその一部をタッチライン上またはタッチラインの外のグラウンドにつけ、
・ボールが競技のフィールドを出た地点から、頭の後方から頭上を通して両手を用いて
ボールを投げなければならない。

焦点は2つめだ。「両足とも(中略)グラウンドにつけ、」と書いてある。スローワーはボールを投げる時、両足ともに地面から離れてはならない。しかし、ロングスローの場合は投球フォームに勢いがあるので、後ろ足が浮いてしまいがち。

そこでスローワーは、その後ろ足を勢いのまま、地面を擦りながら前へ持って行き、最後は両足をそろえるような姿勢で投げる。この工夫をすれば、投球の勢いを殺さずに飛距離を出し、なおかつ両足も地面から離れない、というわけだ。

でも、本当に? 本当に、本当に、その後ろ足、地面を擦り切ってると言える??

浮いてない? 実は、浮いてない? ほんの一瞬、浮いてない?

思い出した。そう言えば昔、似たような主張をした覚えがある。あるチームで練習をした時、ウォーミングアップで1タッチの鳥かごをやり、私は中でオニ役だったが、外でパスを回すひとりが足をボールにくっつけたまま、1タッチでクイックイッとL字を描くように、右と見せかけて左へパスを送り出した。軽やかなフェイントに引っかかった私は...、

「離れてない? 今、クイッの時足が離れてない? 2タッチした! 交代、交代!」

1回目の地団駄は、みんな笑って答えてくれる。でも気をつけてほしい。二度、三度と繰り返すと、

「.........。」

だいたいこんな空気になる。気をつけて。引き際、大事。

件のロングスローも、厳密に言えば、何回かに1回は足が地面から離れている気はする。ならば! 副審の方には、腹ばいになって足元をチェックしていただこうか。あるいはプレミアリーグで数ミリのオフサイドさえ指摘できるという、エキサイティングなVARシステムを使い、「足浮いた!」とゴール判定をひっくり返そうか。

ピッチ内そっちのけでスローワーの足元を撮る、ロングスロー監視カメラを置けば、不可能ではなさそうだ。あっ、1ミリ離れた! 抜群の精度が期待できる。ただし、おすすめはしない。

「.........。」こんな空気になるだろうから。

「まあ、大きく離れてなければ、いいでしょ」「大きくってどのくらい?」「大きくは大きくだよ」。サッカーはその辺、とても大雑把なスポーツだ。VARの出現以降、競技規則もだいぶ細かくはなったが、それでも依然として主観任せの部分は多い。最終的には「だってサッカーだもの」という魔法の言葉でバッタバッタと片付けられる。

実際、「ロングスローの後ろ足が微妙に浮いたからファウルスロー」と判定される場面はまったく見たことがないので、多少の誤差はOKなのだろう。サッカーだから。

それにしても、なぜ高校サッカー選手権では、これほどロングスローが流行るのだろうか。Jリーグでもまったく見られないプレーではないが、圧倒的に高校サッカーのほうが多い。

その理由は2つあると思うが、まずは何と言っても、「有効だから」に尽きる。3回戦の帝京大可児戦で、青森山田は4得点中3得点をロングスローから決めた。ロングスローを多用する戦術以上に、こんなにもロングスローで得点が入ることのほうが驚きだ。たとえば3得点も挙げるストライカーがいたら、外す理由がどこにあろうか。

ロングスローは本来、それほど有効な戦術ではない。たとえゴール前にボールが届いたとしても、蹴ったクロスとは違い、ふわふわと緩いハイボールであり、フリーでヘディングするのはほぼ不可能だ。さらにボールに勢いがないため、額にかすらせてコースを変える、といったフリック系ヘディングも難しい。

反動をつけて、ハンマーヘッドでボールを叩いて勢いをつけなければならない。そうなると、相手にしっかりと競り勝つ必要もあるわけで、本来ロングスローは得点の難易度が高いプレーだ。

逆に守備側からすれば、むしろ通常のクロスよりもイージーな状況と言える。たとえ自分が競り勝てなくても、相手に勝たせなければ、ゴール性のヘディングは飛んで来ない。

具体的には、相手が跳ぶ瞬間に体をぶつければいいのだ。相手を跳ばせない。そうすれば、競り合いは引き分けだ。自分が勝てなくても、相手に競り負けることもない。真正面から正々堂々と競り合うから、負けるわけで、そこはやり方を変えればいい。

ルヴァンカップ決勝、前半終了間際の柏のゴールを覚えているだろうか。CKのこぼれ球がふわふわと浮いた時、FC東京のGK波多野豪は手を伸ばして処理しようとしたが、そこに柏の大谷秀和がスッと潜り込み、背中を当てた。体勢を崩された波多野はボールを処理できず、落ちたボールを瀬川祐輔に押し込まれてしまった。

あの大谷と同じ駆け引きをすればいい。大谷は競り合いに勝ったわけではないが、波多野にも勝たせなかった。そして、ボールの処理は味方に任せる。ロングスローの対策も、基本的には同じように考えられる。

◆サッカーPKあるある。決める時、外す時>>

あとは誰も触れずに流れていくボールを、味方GKに任せる。ロングスローに対しては、最強の空中戦プレーヤーであるGKが積極的に出て行けばいい。捕球してパントキックでカウンターか、あるいはパンチングで大きく飛ばすか。入ってくるボールに勢いがないのだから、GKには広い守備範囲を期待できる。

もし、GKの動きを邪魔する相手がいたら、レフェリーにアピールしつつ、GKを守る選手もつける。両ゴールポストに人を置くのも忘れずに。対策さえ打てば、ロングスローの優位性をひっくり返すことは十分可能だ。

ただ、こうした競り合いの駆け引きは、プロでも下手な選手が少なくなく、高校3年生の時点でどこまで身につけられるか、引いては何の習得に時間を使うかという話になる。

そうなると、より頻度が高いインプレー、足元のプレーのほうが優先されるため、ロングスロー対策はどうしても盲点になりがちだ。とはいえ、原理はファーサイドへのクロス対応と似ているので、うまく対策できるチームはもっと増えてもいいのではないか。

さて、理由の2つめにいこう。それは、アマチュアだからだ。

そもそもロングスローに限らず、高校サッカー選手権はFKなどを含めたセットプレー全般に妙手が多い。そうやってセットプレーに時間をかけると、アクチュアルプレーイングタイムが削られ、試合はダイナミズムを欠くかもしれないが、そんなことに彼らが責任を感じる必要はない。

あるいは、ひたすらロングボールの応酬になり、面白みがまったくない試合も少なくないが、それも関係ない。彼らは自分のために、自分が思うようにプレーするだけ。それがアマチュアだ。

一方、プロ選手は自分以外のファンやサポーター、地域の人々など多くの存在を背負い、対価をもらって他者のためにプレーする。勝利はもちろんのこと、彼らから「期待されるプレー」も意識しなければならない。仮にロングスローが自分たちのファンからネガティブに受け止められているなら、その戦術は再考に値する。他者のためにプレーするのが、プロだからだ。

だが、アマチュア競技にそんなことは関係ない。あくまでも自分や身内のためにプレーする。まして部活動は教育活動の一環だ。どこの誰とも知らない人から、好きだの嫌いだのと言われ放題など、本来は迷惑な話である。

ときにプロ以上の注目度を誇る高校サッカー選手権ならではの現象とも言えるが、選手たち本人には、あまり気にせず受け流してもらえればいい。

アマチュアに似つかわしくない注目度と、アマチュアならではの制約のなさ。このアンバランスさこそが、高校サッカー選手権で毎年のように話題のプレーが飛び出し、盛り上がる大きな要因だろう。

清水英斗●文 text by Shimizu Hideto

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