スイス時計産業を襲った危機 きっかけは日本の「クォーツ」誕生 「スウォッチ」と「組織再編」で復興

スイス時計産業を襲った危機 きっかけは日本の「クォーツ」誕生 「スウォッチ」と「組織再編」で復興

  • ラジオ関西
  • 更新日:2022/09/23

腕時計の駆動方法は、「機械式」と「クォーツ式」の2つに大きく分かれます。この「クォーツ腕時計」を世界に広めたのはセイコーだったことは、あまり知られていません。クォーツ時計が広まった、1960年代から80年代にかけては、スイス時計界には大きな激震が走りました。登録者数が6万4千人を超える「腕時計YouTuber」であるRYさんが、『やさしい腕時計』(ラジオ関西Podcast)で解説しました。

【写真】世界中に衝撃を与えたセイコーアストロンのファーストモデル「35SQ」

◆1969年に発表された世界初のクォーツ式アナログ腕時計「セイコーアストロン」

No image

セイコーアストロンのファーストモデル 35SQ。Instagram・@plus9timeさんの投稿より

「水晶子(クォーツ)に電圧を加えたら振動する」という事象は、実験室レベルでは19世紀に発見されています。しかし、この発見を実用化する具体的な手法に辿りつくまでには、もう少し時間が必要でした。

20世紀に入って少し経つと、この水晶子に電圧を加えて「一定のリズムで振動する」仕組みを時計のムーブメント(駆動機構)に応用する動きが出てきたのです。1927年にはベル研究所(アメリカ)のマリソンが大型のクォーツ時計を発明し、1937年には日本の電気通信学者、古賀逸策が国産のクォーツ時計の開発に成功しました。

セイコーは、このクォーツ時計の小型化に取り組み、遂に1969年、世界初のクォーツ式アナログ腕時計「セイコーアストロン」の開発に成功します。しかし、発売当時の価格は45万円。当時では乗用車が買えるほどの高価なものでした。

セイコーがこのクォーツの特許技術を公開したことによって、世界中でクォーツ時計がつくられ始めます。

◆クォーツショック(クォーツ・レボリューション)によって何が起きたか

No image

クォーツ時計の心臓部は水晶子。宝石に使われるものは不純物が少なく透明度が高い鉱石が使われるが、時計用の水晶は多少濁っていてもOK。

1970年代から80年代初頭にかけて、特許の公開によって香港や台湾に「クォーツ時計部品」を量産化できる工場が次々と設立されます。世界の市場に低価格のクォーツ時計が溢れ、従来の時計産業は大打撃をうけるのです。

この、クォーツ時計の普及によって時計業界に走った「激震」を一般的に「クォーツショック」や「クォーツクライシス」、または「クォーツレボリューション」と呼びます。

No image

1980年頃のセイコーのクォーツ時計。安価でも高精度な時計はスイス時計界に衝撃を与える。

当時の時計業界の中心はスイスとアメリカでした。そのため「クォーツ時計の躍進」によって、それら地域の時計産業の売上は大きく落ち込む結果となります。スイスにおける、1980年代前半の輸出高は、1974年と比べると半分以下にまで落ち込み、多くの時計関連企業が廃業や倒産に追い込まれました。

従業員数は、スイスでは1984年に1970年代の3分の1まで落ち込んだとさえ言われます。当時のスイスやアメリカの時計産業目線ではこのクォーツ時計の普及は文字通り「ショッキング」な出来事でした。

しかし、「誰もが正確な時間を知ることができるようになった」と考えれば、低価格なクォーツ時計の普及は「ショック」ではなく「レボリューション」な出来事です。世の中の人々が皆「正確な時を刻む腕時計」を買える世の中へ変貌させたクォーツ時計は、いま振り返ると人類の生活の改善へ大きく貢献したと言えるでしょう。

◆時計業界の再編、高級化と大衆化の二極化が進む!

「クォーツレボリューション」を経て、まず大きく動き出したのがスイスの時計業界です。現在の「スウォッチグループ」が先導し、その中心にいたのは、ニコラス・G・ハイエック氏(1928-2012)でした。

「スイス時計産業の救世主」と言われた彼は、元々時計業界とは無縁のコンサルタント会社の経営者でした。しかし、スイス時計業界から請われ、その再編に着手します。まず、彼はクォーツのムーブメントの薄さを活かしたプラスティック製のクォーツ時計「スウォッチ」を作りました。

No image

スウォッチの時計ivantaborov/(C)123RF.COM

その後、彼は▼生産設備への巨大な投資▼厳格な品質管理▼セールスの見直し(直営化)――を業界へ導入させます。ハイエックはこのスウォッチの成功体験を「オメガ」にそのまま転用、「ロンジン」や「ティソ」などの老舗時計ブランドと共に「スウォッチグループ」を設立します。

業界のグループ化(コングロマリット化)の流れは他のブランドにも波及します。2000年前後より腕時計メーカーはラグジュアリーブランドのグループ傘下へ入る動きが活発化し、2022年現在では「スウォッチ」のほかに「リシュモン」と「LVMH」が腕時計の3大グループ(コングロマリット)を構成しています。

しかし、そんな業界の動きの中でも、「独立を保つ腕時計ブランド」があることも見逃せません。ロレックスやパテックフィリップ、セイコーもそのひとつです。

このように、腕時計産業は「クォーツレボリューション」を経たことで、大きく変化し成長しました。機械式時計は息を吹き返し、高級化へシフトする一方、工作機械の進歩で「質の高い低価格な機械式腕時計」も増加中です。

クォーツ時計も40万円以上の製品が出るなど、両者(機械式・クォーツ式)共に価格帯は二極化する傾向にあり、なおかつ両者の「棲み分け」も実現しました。

クォーツ時計の出現から約半世紀以上経過して、クォーツ時計が「機械式時計の良さ」を再認識させてくれた事も見逃せません。これからは機械式とクォーツ時計を上手に使い分けて、腕時計を楽しんでくださいね。

(ラジオ関西Podcast『やさしい腕時計』 #16『「スウォッチ」誕生の裏にセイコーの存在 クォーツが機械式と肩を並べるまで』より)

ラジオ関西

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加