ユニコーン輩出大国スウェーデンの「成長の7ファクター」に迫る

ユニコーン輩出大国スウェーデンの「成長の7ファクター」に迫る

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2021/05/06
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「北欧」がイノベーション先進地域として認識されるようになってきたが、中でもスウェーデンは、2020年のEuropean Innovation Scoreboards (EIS)で堂々の1位を獲得。首都ストックホルムにおける人口あたりのユニコーン輩出数もシリコンバレーに次いで世界トップクラスだ。音楽配信のSpotifyやゲーム会社のMojangを輩出しており、Skype創業者のニクラス・ゼンストローム氏もスウェーデン人だ。

スウェーデン大使館のペールエリック・ヘーグべリ大使によれば、ストックホルムには世界中からスタートアップ企業や起業家が集まる様々な魅力があるという。

「第1に、職場環境の良さがある。オフィスには平等性や多様性があり、フラットな企業体制ゆえに自分の意見に耳を傾けてもらいやすいため、仕事への情熱や、やりがいが出る。さらに、ワークライフバランスも取りやすい。第2に、美しい自然が身近にあり、優れた文化や食のカルチャーがあることで人生を心豊かに過ごすことができる。第3に、新しいことを受け入れやすい価値観があり、最新テクノロジーの導入が早い」

このような環境は、破壊的なアイディアが生まれやすいと考えられる。

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駐日スウェーデン大使 ペールエリック・ヘーグベリ

欧州のスタートアップ事情に精通しているEDGE of INNOVATION 代表の小田嶋 Alex 太輔氏によると、「スウェーデンは日本進出に積極的な国の一つ。昨年には、北欧5カ国連合でNordic Innovation House Tokyoという進出拠点も開設され、Business Swedenを始めとした政府機関が日本展開を後押ししている」という。

筆者も親交の深い日本語が堪能なコミュニティディレクターのNiklas Karvonen氏も、活発に北欧と日本を繋ぐオンラインイベントを開催している。また、2018年の国王来日の際には、小田嶋氏が運営するスタートアップ拠点 EDGE of 渋谷を訪問され、日本のスタートアップと交流の機会を設けるなど、国をあげてイノベーションの促進に力を入れていることが伺える。

スウェーデンからイノベーションが生まれる7つのファクター

では、スウェーデンは一体どのようにイノベーション創出を促進してきたのか。スウェーデンでスタートアップ起業経験があり、現地のエコシステムに精通した小林麻紀氏をはじめ、教育者、投資家、上場経験者など関係者に話を聞くことができた。

1.農業中心の国からの脱却

IKEAのInnovation & Co-CreationのディレクターCindy Soo氏は言う。

「スウェーデンは1800年代半ばに義務教育の導入により教育レベルが向上したことで農業中心の国から発展し、起業家文化の礎となった。そもそもスウェーデンの土壌は決して豊かでなく、1800年代には何度も不作に見舞われ飢饉が発生。当時はヨーロッパの中で最も貧しい国の一つであり、北米に大量の移民を出していた。しかし、飢饉の後に産業革命が起こり、森林からの原料や鉄鉱石、穀物などが必要になった。このニーズに呼応し企業が設立され、輸出用の加工品が作られるようになり、輸出増加に伴って熟練した労働力が必要となったため、急速な都市化が進み、研究・開発・エンジニアリングを中心とした教育に力が注がれた」

輸出収入に大きく依存していたスウェーデンでは、企業や投資家がグローバルな視点で考え、国境を越えた事業展開をする必要とされていたのだ。

現在、社会福祉やデザイン分野で有名なスウェーデンは、世界的な科学技術大国・工業立国としても知られている。医学系大学で世界第5位のカロリンスカ研究所や、北欧最古の大学であるウプラサ大学などアカデミアが充実し、古くはノーベル賞の生みの親でダイナマイトを発明したアルフレッド・ノーベルや、植物分類学の父カール・リンネなど、優れた発明家や科学者を輩出してきた。

この200年以上戦争をしていないスウェーデンは、戦争に参加したヨーロッパ諸国に比べて経済発展においてはスタートが早かった。そのうえ、工業大国として競争力のある産業の裾野が広いことが、フィンテック、ディープテック、ライフサイエンスやE-コマースに至るまで、幅広いカテゴリーのスタートアップを育む土壌となった。

国民の英語力も高いため、優秀な外国人を移民として受け入れやすいこと、そして人口が1000万人足らずと東京都の人口にも満たず国内市場が小さいことから、スタートアップは設立時から海外展開を目指し、グローバル標準でのプロダクト開発を進める事が多い。さらに、成功した企業、創業者、従業員が地元に留まることで、文化、資金、ノウハウに地元のエコシステムがアクセスでき、その価値やリソースプールを利用することで、成功から成功を生み出している。

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首都ストックホルムを中心に大型都市が近接する。

2. 苦境から生まれたイノベーションエコシステム

他の北欧諸国を見ると、ノルウェーには素晴らしい天然資源があり、フィンランドには巨大企業Nokiaがあり、デンマークにはLegoとMaerskがあり、合わせてGDPの40%近くを占めているが、スウェーデンにはそのような支配的なプレーヤーはいなかった。また、給与税が非常に高いため、雇用されていては裕福はなれないし、1年のうち6カ月は暗くて寒い冬のため家の中で過ごす環境にある。

しかし、これらの苦境をバネにして、起業家精神の強い人材やコンピューターに強い人材を多く輩出。現在では、Ericsson・IKEA・Volvo・H&M・現AstraZenecaなど、日本でも名前が知られる世界的な大企業が数多く存在し、スウェーデン経済を支えている。

3.  政府による積極的なICT投資による効果

スウェーデンのシリアルアントレプレナーで、Mr. GreenというオンラインカジノゲームでStockhold Nasdaqで上場を果たし、これまで30社以上のスタートアップにエンジェル投資をしてるMikael Pawlo氏は、国民のITリテラシーの高まりがスタートアップの成長を加速させていると考えている。

Pawlo氏は「1980年から2000年にかけて、Commodore 64、Amiga 500、そしてPCが登場し、それが企業の基盤となった。また、90年代から政府によるパソコン購入の税控除や、世界最大級のオープンなファイバー回路網を構築するなど、政策的にITインフラ整備が行われてきた。2000年代初頭には家庭用PCに対しても政府から補助金が出され各家庭に普及。さらに、民間企業によってスウェーデン全土にブロードバンドが整備され、すべての人が繋がるようになった。現在、国民はマイナンバーで管理され、電子政府化が進んでいる。これらの理由により国民のITリテラシーは高く、スタートアップのサービスが根付きやすい環境がある」と語る。

また、スウェーデン政府は先のICT投資に加え、独自のVCファンドindustrifondenによってスタートアップを後押ししている。

4. 若者のロールモデルとなる「バブル崩壊に打ち勝ったクレージーな起業家たち」

ストックホルム証券取引所で上場経験もあるシリアルアントレプレナーで、米国、東南アジア、ドイツ、スイスなどでエンジェル投資家のBoris Nordenstrom氏によると、「90年代半ばにはクレイジーな若い起業家たち(Tele2、Metro新聞、ラジオ・テレビ・電気通信の規制緩和などを手がけたJan Stenbeckの影響を受けた者が多い)が先頭に立ち、数々の企業(Icon Medialab、Lets buy it、Spray、Joblineなど)を立ち上げ成功し、グローバル企業となった。

今日までに3回のバブル崩壊があり(1998年、2000年、2007年)、今日のユニコーン企業の創業者の多くがこの逆境からの脱却のために、ビジネスを構築してきた。ドットコムバブル崩壊後にSkypeが生まれ、大成功し、その後、Mojang(Mine Craft)などの企業が続いた。これらは再び、若者のロールモデルとなり、現在、ユニコーンは約16社に達している」という。

ストックホルムに本社を置くベンチャーキャピタルEQT VenturesのSofia Grant氏によれば、「ユニコーン起業家による後輩達への投資やメンターシップといった好循環が起き、コワーキングスペース、イベントハブ、補助制度、VCが支えるスタートアップエコシステムも発達。特にストックホルムでは、起業家コミュニティが多く、たとえ起業に失敗してもその経験は一つの資産として受け入れられ、他の起業家からもスカウトされやすい」と言う。

5. 大学でのアントレプレナーシップ教育の充実度

スウェーデン王立工科大学・ストックホルム商科大学・カロリンスカ研究所・ストックホルム大学の四大学連合であるStockholm School of Entrepreneurshipでは、インターカレッジで多くの学生が起業家要請プログラムが受けられる。異なる学問を学ぶ学生がスキルを持ち合うことで、プロジェクト形式の授業から実際に起業に至るケースも多い。各大学独自のファンドやインキュベーションプログラムも多く、フィンテック分野のユニコーン企業Klarnaはストックホルム商科大学の起業ラボ出身である。

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Stockholm School of Entrepreneurshipのホームページ。プログラムの充実が際立つ。

また、スウェーデンの教育は非常に実践的で、企業とコラボレーションしたプロジェクト形式の授業も多い。そもそも、高校卒業後は一度就職し、やりたいことを見つけてから大学に入ることが「普通」なので、学生の目的意識は明確であり、即戦力スキルを持つ学生への企業側の期待は高い。企業と学生による共同研究や、長期間のインターンシップも多く、夏のインターンシップを延長して休学し、一年働いてから復学するといったケースもよくある。

6. イノベーション人材は流転する~会社員の起業を支える仕組み~

著名ベンチャーキャピタリストのSarayu Srinivasan氏は、「医療費や教育費を負担する社会福祉制度があるため、国民は安心して、自由に、起業のような通常はリスクの高い事業に取り組むことができる」と語る。

一般に会社員勤めと起業は相容れないキャリアパスと考えられがちだが、スウェーデンは、会社で働く正社員が就業期間中に1回だけ取れる無給のサバティカル休暇がある。これは従業員が会社に籍を残したまま6カ月間起業に挑戦できる制度であり、法律で保証された権利なので、雇用主は事業が直接的競合であったり、欠員がオペレーションに重大な影響を及ぼすといった事由がない限りは拒否できない。

大企業向けに社内起業等、イノベーション創出支援サービスを提供しているEpicenter StockholmのJack Melcher-Claësson氏によれば「社員が新規事業に挑戦することで、成功すれば既存事業に貢献する事業になるかもしれないし、失敗しても社員に起業家マインドが生まれ、会社の変革を推進するイノベーション人材として貢献する。また今日において、優秀な若手社員のリテンションには、社内で挑戦できる機会を与えることが必要不可欠である」ため、この制度は雇用主にもメリットが大きいそうだ。

スウェーデン人に年功序列・終身雇用の概念はなく、やりがいや成長を求めて数年で転職を繰り返すことが一般的で、優秀な人材ほど流動性が高い。起業のために退職する社員もいれば、起業家が新規事業創出のために転職してくることもある。留学や旅行、自分探しも含めたブランク期間を人生経験として前向きに捉えることが、物事の本質をとらえ、従来の方法に囚われず、より革新的な考え方ができるイノベーション人材が多くなる所以である。

事業立ち上げには、経験に裏打ちされたスキルを持ち、アイディアを形にして実行できる人材が不可欠である。この点、スウェーデンのグローバル企業は優秀な新卒学生の受け皿となり、彼らが就業を通して社内外での起業に必要な経験とスキルを得、課題意識と起業へのインスピレーションを持てる場を提供している。大企業は起業家の教育機関としての役割も持ち、持ちつ持たれつの関係でイノベーションエコシステムを支えているのである。

7. 持続可能な社会の実現の為にクリエイティビティが高まる

スウェーデン人は、より高い目的を達成するために何かを作りたいという生来の欲求がある。寒冷な気候と電力を必要とするハイテク社会のために、世界平均の3倍ものエネルギーを消費している。1990年代、ストックホルムは持続可能性の一環として緑地の保護を決定し、環境と気候変動は、すべてのスウェーデン人にとって重要な問題として上位に登り続けている。

その一例が、「食品廃棄ゼロ世代」に対応したアプリ「Karma」だ。このアプリは、小売業者が余った食品を消費者に安価で販売することを可能にし、素晴らしい食品が無駄になることを防ぐ。同じミッションを持つレストラン「Spill」では、シェフたちがレストランのサプライヤーから余った食材を入手し、95クローナ(約1200円)で毎日2品の料理を作り、無料でおかわりもできるサービスを行なっている。このような「もったいない精神、持続可能な社会の実現」は日本の精神との親和性も高く、学ぶところが多い。

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Karmaのホームページ。食料廃棄は本当に愚かだ、と強いメッセージを発信している。

コロナ禍における起業家コミュニティーの今

Tech Nordic Advocatesスウェーデン代表のBarry OBrien氏によれば、スウェーデンは、ホワイトカラーはほぼ在宅勤務に移行、コワーキングスペースでもメンバーは3割程度に減り、オンラインでのネットワークハブを開設し、海外の投資家も参加できるオープンイベントを増やしていくそうだ。オフラインでは物理的な壁に阻まれていた者同士が繋がりやすくなった今、未だかつてないほどイノベーションにつながるセレンディピティを起こしやすい状況といえよう。

Clubhouseでも、Nordic Tech Clubというクラブが立ち上がっており、とてもフレンドリーでユーモアに溢れ、知性が感じられるトークが毎回楽しく、筆者が当コラムでインタビューさせて頂いた投資家や起業家などと知り合うきっかけにもなった。

コロナウィルスによるパンデミックで従来の社会の前提が揺らぐ今、欧州におけるイノベーション指標で首位を獲得したスウェーデンの取り組みには、日本が今後進むべき方向を考える上で多くのヒントが隠されているのではないだろうか。

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