お酒が飲みたくなる...忙しない社会人に刺さるワケ。アニメ映画 『駒田蒸留所へようこそ』徹底考察。忖度なしガチレビュー

お酒が飲みたくなる...忙しない社会人に刺さるワケ。アニメ映画 『駒田蒸留所へようこそ』徹底考察。忖度なしガチレビュー

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  • 更新日:2023/11/21
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©2023 KOMA復活を願う会/DMM.com

P.A. WORKS制作による映画『駒田蒸留所へようこそ』が現在公開中。本作はP.A. WORKSの「お仕事シリーズ」初のオリジナル長編アニメーション作品であり、監督を務めたのは『有頂天家族』(2013)の吉原正行。今回は、本作のレビューをお届けする。【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】(文・あさかしき)
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●「お仕事シリーズ」最新作。舞台はウイスキー蒸留所

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本作は、P.A. WORKS制作によるオリジナルアニメーション映画作品。P.A. WORKSはこれまでアニメ制作会社の日常を描いた『SHIROBAKO』(2014)、沖縄の水族館を舞台にした『白い砂のアクアトープ』(2021)など、「仕事」をテーマにしたアニメ作品を世に輩出しており、本作はその「お仕事シリーズ第5弾」にあたる。

そんな本作の舞台は、作品タイトルにある通り「蒸留所」。

長野にあるウイスキー蒸留所「駒田蒸留所」を継いだ若き女社長・駒田琉生(早見沙織)が、経営の立て直しと幻のウイスキー“KOMA”の復活に奮闘するという筋書きだ。

まず、本作はアニメ特有ともいえるファンタジー展開は一切ない。空は飛ばないし時間は巻き戻らない、異世界にも飛ばないし超常現象は起きない。そのような妄想パートも無い、地に足のついた構成だ。

いわゆるギャグ要素も殆どない。時おりクスっとするシーンはあれど、基本的には至極真面目なお仕事ドラマとして進行している。

実写作品と比較した時、アニメにおける上記のようなファンタジー表現はまさに強みと言っていい。それを敢えて捨てた制作陣が本作で伝えたかったものとは何なのか。早速、次のページから考察していきたい。

●社会人としての成長を描く

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主人公は琉生であるが、メインの視点となるのは、琉生の仕事相手であるニュースWebサイトの新人編集・高橋光太郎(小野賢章)。本作は、光太郎の社会人としての成長物語でもある。

光太郎は、編集長の安元(細谷佳正)の指示で、ウイスキーに造詣が深い琉生をインタビュアーに、各地のウイスキー蒸留所をインタビューして回る連載記事を急遽担当することになる。

突然の辞令だったことと、元よりウイスキーに馴染みが無い光太郎は、事前知識や下準備が不十分なまま取材に立ち合ってしまい、失言や勘違いなどのミスを連発。それを琉生がフォローする、という状態がしばらく続く。

光太郎は、この2年余りで転職を繰り返しており、好きで編集を志したという訳でもないため、仕事への情熱や意志が低く、ただやらされて仕方なくここにいるという態度を隠さない。(本人は隠しているつもりかもしれないが端から見ればバレバレである)

そんな2人の緊張状態は、中盤で破裂することとなる。

光太郎は、琉生にとって絶対に他人に見られたくないウイスキーのテイスティングノート(飲んだお酒の特徴や感想を記録したもの)を駒田蒸留所社員の前でバラまいてしまう。一連の流れで堪忍袋の緒が切れた琉生は、光太郎の頬を叩き、怒りを露わにする。

すると、光太郎は逆ギレを起こし、「やることが決まっている人生でいい身分だ、羨ましいよ」と言い放つ。

琉生は亡くなった父親の跡を継いで「駒田蒸留所」の社長になった。後を継いだ後に開発したクラフトウイスキー「わかば」がヒットしたことで世間的に注目を集めていた。一見華々しく見える琉生の経歴に、光太郎は劣等感を抱いていた。

序盤の光太郎の在り方は、現代の悩める若者のモデルケースの1つと言えるだろう。自分が何をやりたいのか分からない、それを見つけるためにどうしたら良いのか分からないのに、周りの人たちは充実して輝いて見える…。この悩み自体には、多かれ少なかれ、共感できる部分がある人は多いのではないだろうか。

もちろん、琉生にも事情がある。琉生には年が離れた兄・圭(中村悠一)がおり、兄が蒸留所を継ぐはずだったため、琉生がそもそも跡を継ぐ予定は全く無かった。美大を中退して駒田蒸留所を引き継いだ時、琉生はウイスキーの知識を殆ど持っていなかったのだ。

●ものづくりへの誇りだけでなく仕事に目標を見いだせない人へのエールも

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琉生の中にも不安や葛藤は当然あり、それでもがむしゃらにやってきたから、今の琉生がある。しかしそれでも会社の経営は安定していない。おまけに琉生は“KOMA”復活のための設備投資のために何千万もの負債を抱えていた。

被災によって“KOMA”の原酒が失われたとき、駒田滉(堀内賢雄)は“KOMA”の開発を断念し、焼酎の販売に専念すると決断した。が、焼酎の売り上げが突然倍増する筈もなく、駒田蒸留所の経営は一気に傾き、“KOMA”の製造中止に反発した兄は、駒田蒸留所を辞めて出て行ってしまった。

“KOMA”は駒田一家にとって家族のお酒であり、それが失われたと同時に家族もバラバラになってしまった。琉生は“KOMA”を復活させることで家族を取り戻したかったのだ。

上述したように、本作はウイスキー蒸留所を描いている。ウイスキーの製作過程を知ることで、ウイスキーに詳しくない人でもウイスキーに興味を持ち、上質なウイスキーを飲んでみたいと思わせられる。

劇中で描かれた、蒸留のための機械をはじめ、ウイスキーの瓶や、グラスなど、ウイスキーに関係する道具一つ一つが美しく、アニメ制作陣のこだわりがこれでもかと伝わる。そして、それにより、蒸留所で働く人たちの、ものづくりへの誇りと情熱を十分に感じ取れる。

一方で、望まない職業についた人、仕事に目標を見いだせない人へのエールも感じさせる。作品全体に派手さはないが、見た人の心を暖めてくれる良作と言えるだろう。

とはいえ、本作に欠点が全く無いとは言えない。残念ながら、ファンタジーやギャグ展開に走らなかったことによる弊害も起きていると筆者は感じた。

現実が舞台であることで、作品自体が緩急が激しい作風ではないため、どんでん返しのような展開は起こらない。序盤でヒントは既に提示されているので、ストーリー全体を通して驚くような展開はなく、全ての出来事が起こるべきして起こる予定調和感は否めない。とはいえ、それはないものねだりに過ぎないだろう。

●アニメとウイスキーの共通点

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話をウイスキーに戻そう。本作がウイスキーを題材にしたのは、アニメーションとウイスキーの間に共通点があることに由来していると考えられる。

劇中台詞によると、ウイスキーは樽詰めしてから、熟成して出来上がるまでには最低でも3年かかるという。アニメもまた、企画から制作が順調に進行し、世に出るまで最低3~5年はかかると聞く。

また、ジャパニーズウイスキーが世界中で注目を浴び、人気のお酒は価格高騰で入手困難だというニュースも記憶に新しい。日本のアニメーションも同じく世界から注目されているように、この共通点がアイデアの根底にあると考えるのが自然だろう。

このリンクが、作品にウイスキー関連の描写に説得力を持たせている。非の打ち所がないとはいえないが、言うなればウイスキーのように味わい深い作品に仕上がっている。

(文・あさかしき)

【作品概要】
タイトル:『駒田蒸留所へようこそ』
11月10日(金)より、全国ロードショー
<スタッフ>
原作:KOMA復活を願う会
監督:吉原正行
脚本:木澤行人、中本宗応
キャラクター原案:髙田友美
キャラクターデザイン・総作画監督:川面恒介
音楽:加藤達也
アニメーション制作:P.A.WORKS
製作:DMM.com
配給:ギャガ
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<キャスト>
駒田琉生:早見沙織
高橋光太郎:小野賢章
河端朋子:内田真礼
安元広志:細谷佳正
ほか

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