北朝鮮の人事から読み解く対米関係 「強面」昇進が意味するメッセージとは

北朝鮮の人事から読み解く対米関係 「強面」昇進が意味するメッセージとは

  • AERA dot.
  • 更新日:2021/02/23
No image

米韓合同軍事演習で、対化学兵器防護訓練を行う韓国軍兵士ら/2017年8月21日、ソウル郊外の仁川空港(写真:東亜日報提供)

北朝鮮の李善権(リソングォン)外相が政治局員に昇進した。李氏の経歴からすると破格の厚遇だという。2021年3月1日号では、李氏の昇進に込めた北朝鮮の意図を読み解く。

【写真】南北高位級協議で共同報道文を読む李善権・祖国平和統一委員会委員長

*  *  *

朝鮮労働党中央委員会総会が8~11日に平壌で開かれた。わずか1カ月前の党大会で決まった国家経済発展5カ年計画の目標が見直され、党経済部長が更迭された。制裁や新型コロナウイルス問題で経済が混乱している様子が浮き彫りになった。そんな中、目を引いたのが、「強硬派」に位置づけられる李善権(リソングォン)外相の昇進だった。

■破格の厚遇で政治局員

李氏は今回、党政治局員候補から政治局員に昇進。政治局員は20人足らずのメンバーで構成される政治エリートだ。政治局員だった金頭日(キムドゥイル)党経済部長が更迭され、空席ポストに滑り込んだとも言えるが、李氏の経歴を考えると破格の厚遇と言える。

李氏は元々、板門店での南北将官級軍事会談の北朝鮮代表で、2010年3月に軍大佐に昇進した。南北協議を担当する祖国平和統一委員長を経て、20年1月に外相に就任。北朝鮮では通常、閣僚に就任する軍人の階級は大将クラスがほとんど。同じ政治局員の金正官(キムジョングァン)国防相は軍大将だ。金氏は07年に軍少将に昇進している。

李氏が昇進に値する活躍をしてきたわけでもない。李氏は祖国平和統一委員長時代、韓国と協議を重ねたが、思うような経済支援を得られなかった。外交官経験があるわけでもなく、外相就任後も伝えられるのは、海外の友好国に祝電を送ったなど形式的な仕事ばかりだ。

そんな李氏が唯一目立ってきたのが、米国や韓国に対する「強面(こわもて)」を意識した振る舞いだ。18年9月、平壌で開かれた南北首脳会談。同行したサムスン電子の李在鎔(イジェヨン)副会長らが玉流館で食事をしている姿を見かけた李氏は、「冷麺が喉を通るのか」と言い放った。南北経済協力も進まないなか、「どの面さげてやってきたのか」という意味だった。

■再び軍事挑発路線

外相就任後の20年6月には、シンガポールでの米朝首脳会談2周年にあたって談話を発表。「我々は二度と、何の代価もなしに米国の指導者に業績を宣伝する材料という風呂敷を渡さないだろう」と罵倒した。

脱北した元党幹部は、北朝鮮の思惑について「李善権の外交手腕に期待しているわけではない。米国について強硬な路線を取るというシンボルとして使っているだけだ。米朝対話が始まれば、李容浩(リヨンホ)前外相らが復帰するだろう」と語る。

ただ、北朝鮮内部の不満や不安は確実に高まっている模様だ。党中央委総会で、わずか1カ月前に発表した5カ年計画の目標を修正した背景には、関係部門からの「そんな目標を達成できるわけがない」といった反発や、逆に市民などからの「そんな程度の目標では生活は良くならない」という不満の噴出があったようだ。金正恩(キムジョンウン)総書記は、経済責任者を更迭し、目標を修正してみせたが、そんなことで問題が解決するとも思えない。

バイデン政権は北朝鮮政策の見直しを進めているが、無条件での制裁緩和などありうるはずもない。行き詰まった北朝鮮が向かう道は結局、過去に繰り返してきた軍事挑発路線しかなさそうだ。中央委総会で政治局員候補に昇進した金成男(キムソンナム)党国際部長は、金正日(キムジョンイル)総書記らの中国語通訳を務めた。南北関係筋は「米韓と対決するための後見役として中国に接近する戦略を反映した人事かもしれない」と語る。

3月初めには米韓合同軍事演習が予定されている。北朝鮮は演習を口実に、「人工衛星運搬ロケット」の発射などに踏み切る可能性もある。李氏の昇進は、その序曲として米国に投げたメッセージだろう。(朝日新聞編集委員・牧野愛博)

※AERA 2021年3月1日号

牧野愛博

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加