「定住こそリスクが高いから」バンライフを送る夫婦の八ヶ岳での試み

「定住こそリスクが高いから」バンライフを送る夫婦の八ヶ岳での試み

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2020/11/24
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職種、職場、ライフラインに縛られない新たな生き方を気付かせてくれるコミュニティ「リビングエニウェアコモンズ(LAC)」。

”新しいつながり”を重視するこちらでは有機的なネットワークが自然発生し、メンバー同士で新たな企画やイベントを開催するケースも多い。それがビジネス創生の場にもなりつつある。

今回は7月にオープンしたばかりのLAC八ヶ岳北杜でプロデューサーを務める、”渡鳥ジョニー”こと池田秀紀さんが登場。地方移住やバンライフを送りながら”自分らしい暮らし”を見つめてきたジョニーさんが目指す、未来の八ヶ岳時間に迫る。

明るい未来を求めて、ノマドに暮らせるバンを買う

今春にLAC八ヶ岳北杜のプロデューサーとなったジョニーさんは、それまでメルセデス・ベンツのバンで移動型の生活を送るなど、文字通りのノマドライフを送ってきた。

定住型のライフスタイルはリスクが高い。そう感じた背景には、ロストジェネレーション世代として、慶應義塾大学へ進学するも常々「未来は闇ばかりだな」と思っていたことにある。

バブル崩壊は小学生のとき。そして就職活動戦線は氷河期。就活はするものの、満員電車での通勤や、会社員になったらきっと住むのだろう没個性的な住まいでの暮らしに疑問を抱いた。結果、戦線から早々に離脱。

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ジョニーさんがLAC八ヶ岳北杜のプロデューサーに就いてからも活躍中の愛車と。8月にはバンライファーたちとの実験イベント「バンライフフェス」を催した。

仕事は、大学在学中に独学でウェブデザインを学んでいたことからフリーランスのウェブデザイナーに。しかし居住コストの高さなどから、いつか都心暮らしから距離を置こうと考えていた。それを実行に移すことになったきっかけは東日本大震災だ。

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熊本時代。自然栽培による旬の野菜とウェブ制作仕事を交換するなど「物々交換」ならぬ「物技交換」など新しい暮らし方を実践してきた。(c)ikedahidenori

発生3カ月後の6月には都市一極集中ではない暮らしを求めて熊本へ移住。古民家を改築したり、お金を介さない”物技交換”をしながら、のちに札幌にも移り住むなど地方での暮らしを約7年間楽しんだ。

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九州・熊本から北国・札幌へ。冬は雪深いこともあり、燃料費が3分の1程度になる高性能なエコハウスをリノベして住んでいた。(c)ikedahidenori

私用のため東京に戻ったのは2年程前。暮らしに対する疑問は相変わらず抱いたが、「シェアリングサービスが充実し、テザリングを使えばどこでも仕事ができたりテクノロジーが進化していました」と、東京を出る前と社会環境が大きく変わっていたことを実感した。

「そこで都市型バンライフを始めたんです。まずは1987年製のメルセデスのバン『307D』を購入。ベッドやキッチンなど内装はDIYして、ビル内のすべてがシェアできる『永田町グリッド』のパーキングにバンを停めて、ワークスペースを使いながら仕事をしていました。ウェブデザインはネット環境とPCがあればできますから」。

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四季折々、日本の良い景色のところを2人で巡ってきたジョニーさん夫妻。

永田町の駐車場を拠点に、ジョニーさんはバンで移動しながら”職場”を変えてきた。

そんな移動型生活を送るなかで出会ったはる奈さんと結婚したあとも、バンライフを送ってきた。そうして地方移住とデジタルノマドを手段に、この10年は好きなときに好きなところで暮らしてきたジョニーさん。半面、はる奈さんとは「ゆくゆくは四季のある山に住みたいね」と話していた。

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はる奈さんは、写真家、スタイリストの顔も持ち、「ノマドの食卓のまわりにある暮らし」をコンセプトとしたフードプロジェクトを行い、発信している。

「海か山なら山。暑いか寒いかなら寒い。八ヶ岳、すごくいいよね。そんな話をしていたんです。実際、長野県の富士見町にあるシェアオフィス『富士見 森のオフィス』はよく利用していましたし。そしてLACとの出会いがあって、昨年、LAC八ヶ岳北杜のプロデューサーに就くことになりました」。

いざ!というときに自立できるようにオフグリッドを

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八ヶ岳の麓にあるLAC八ヶ岳北杜の施設。周辺の環境は抜群だ。

自由に移動する暮らしから、ひとつの場所に根を下ろした暮らしへ。

ジョニーさん夫妻の生活は次のステージに入った。彼らが新しい拠点とするLAC八ヶ岳北杜は昨年7月にオープンしたばかり。東京から車で約2時間でアクセスできる山梨県北杜市にあり、保養所とボーリング場の跡地を活用したおよそ3000㎡という広大な敷地は進化の途中。

ジョニーさんは、屋外でも働けるワーク環境、オフグリッドキャンプの実装、物づくりしたい人が集う実験の場、などのビジョンを掲げ、これからの数年で実現したいと意気込む。

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広大な敷地にはキャンプサイトもある。しかもWi-Fi環境が整っているため快適な”お外”で仕事ができるのだ。

確かに富士山や八ヶ岳連峰という雄大な景色を眺められる環境だけに、施設内で黙々と仕事に励むだけではもったいない。芝生の上やキャンプサイトのテントの中でも電源やWi-Fiに困らない環境を確保し、ここならではのワーケーション体験を提供したいと考える。

「オフグリッドはバンライフでの課題でもあって、エネルギー事情を含めて自立できるようにしたい。同じようにLAC八ヶ岳北杜もできるだけ社会的なインフラから解放された環境にしていきたいですね。衣食住、水や光熱などエネルギー含め、自分たちで暮らしを作れるようにしたいと思っています」。

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ジョニーさんのバンの屋根にはソーラーパネルが。エネルギーを自給しながらバンライフを送ってきた。同様にLAC八ヶ岳北杜でも2年を目安にエネルギー自給を目指す。

この点、はる奈さんは興味深い視点を教えてくれた。

「オフグリッド環境の良いところは、平時はインフラを利用しながらも有事の際には自立できる自分になれるといった、ある種の柔軟さを育めることにもあります。LAC八ヶ岳はそのためのショールームのような役割も担えたらと思っています」。

はる奈さんは長く会社員として、企業の危機管理や防災に関するコンサルタントを仕事にしてきた。やがて「企業も防災も人次第。人の意識を変えることは大切」と思って独立。今はフリーランスとして企業案件を受けつつも、個人に対して「有事のときに対応できる力」を高める仕組みを作りたいと模索している。

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北杜市でも過去には台風による山腹崩壊などの自然災害があった。LAC八ヶ岳北杜では、有事のときでもシャワーが使えるなど、できるだけ困らない施設を目指す。

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LAC八ヶ岳北杜の館内にあるコワーキングラウンジ。

「その力はレジリエンスと言うんですが、ロンドンの大学で危機管理のマネジメントを学んだ際、教授たちは日本の防災システムについてベタ褒めしたんです。

ただシステムが優秀すぎるから個人のレジリエンスが弱い。ヨーロッパはその逆で、システムが弱いから個人の力を高める必要性が生じる。日本は自然災害が多い国。多くの人がレジリエンスを高められるサポートをしていきたいんです」。

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オフグリッド化されれば、施設は災害時にシェルターとなる。

防災と日常は結びつきづらい。そこをジョニーさん夫妻は結びつけようとしている。たとえば、有事に役立つポータブル電源をはじめ、オフグリッドでも使える最新で見た目も良いプロダクトやテクノロジーを普段から備え、軽やかに。

クリエイターが集まる、世界が注目する場所へ

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「あんなモノを作りたいな」といったアイデアをカタチに変える場がここにはある。人が集えばアイデアは磨きやすい。

そしてジョニーさんが最も注力していきたいのが”モノを作る場所としての環境づくり”だという。

「アーティスト・イン・レジデンスのメイカーズ版、メイカーズ・イン・レジデンスを作りたいんです。そのためにLAC八ヶ岳北杜を、CNCルーターをはじめとする先進的な設備を備えた住みながらモノを作れる場所とする。

そうすればデザインは自分で行い、工程はコンピューターに任せるという具合でモノ作りができて、グラフィックデザイナーで家具が作りたいといった人の夢も叶えられると思うんですよね」。

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撮影や配信に使えるスタジオも用意。フード撮影などのほか、ZOOMやYouTubeなどを使い、制作した映像コンテンツをここから発信できる。(c)Syuheiinoue

もちろん生産されたプロダクツが流通する仕組みも構築予定だという。まさにモノ作りしたい人にとってのパラダイスは、「未来は闇ばかり」と感じていたジョニーさんが想うLAC八ヶ岳北杜の未来像。そこには明るい光が煌々と差し込んでいる。

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この夏に仲間入りしたヤギのニーナちゃん。LAC八ヶ岳北杜のアイドルだ。

池田秀紀◎LAC八ヶ岳北杜プロデューサー。1980年、千葉県生まれ。大学卒業後、フリーランスのウェブデザイナーに。東日本大震災後に熊本へ移住。「物技交換」など震災後の暮らし方を発信する。帰京後、都市型バンライフをスタート。また妻・はる奈さんはカメラマン、スタイリストとしても活動中。

(この記事はOCEANS:連載「”職遊融合”時代のリアルライフ」より転載しています)

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