なぜ「円安なら株高」が崩れたのか。株価が上がらぬ2つの元凶と「円高」急旋回リスク=斎藤満

なぜ「円安なら株高」が崩れたのか。株価が上がらぬ2つの元凶と「円高」急旋回リスク=斎藤満

  • マネーボイス
  • 更新日:2022/05/14
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「円安=株高」という解説をよくみかけますが、因果関係が弱く、この構図はもう崩れたと言えます。今回の円安・株安を見てもそれは明らかでしょう。現状の円安の原因を紐解きながら、ここから急激な円高に向かうリスクについても解説します。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)

「円安ゆえに株高」が通用しない

以前、為替と株価の関係について書きました。円安なら株高との一般認識は必ずしも妥当ではなく、アベノミクス当初外人投資家が日本株を買う際に為替ヘッジの円売りをしたために、株高と円安が同時進行したことをご紹介しました。従って「円安ゆえに株高」の因果関係は弱いことになります。

そしてこのところの東京市場では、円安が進んでいるのにむしろ株安が進んでいます。例えば、昨年9月には日経平均が3万円をつけましたが、当時のドル円は110円前後でした。そして足元ではドル円が130円まで安くなりましたが、日経平均は逆に2万6,000円に下げています。

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米ドル/円 日足(SBI証券提供)

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日経平均 日足(SBI証券提供)

日経平均を構成する銘柄では製造業が多く、本来なら円安の利益を受ける業種が多く採用されています。それにも拘わらず、円安の中で株価が下落しています。

このことは「円安は企業収益にプラスだから株高」も当てはまらないことになります。

外国人投資家にとって円安はマイナス

特に外国人投資家にとっては、円安は為替差損をもたらすので逆風になります。

実際、前述の例でみると、昨年9月の日経平均3万円は1ドル110円で割ると、ドル建てでは271ドルになります。そして最近の2万6,000円の日経平均を1ドル130円で割ると200ドルになります。

円ベースではこの間、株価は13.3%安でしたが、ドル建て日経では26.2%の下落となります。外国人投資家にとっては、大幅な下落で、ここで日本株を買っていたら大損となっていました。

このように、為替が円安に向かっている時には、為替差損をカバーしうるほどの円ベースの株価上昇が必要になり、ハードルはそれだけ高くなります。

外国人投資家主導の株高を期待するなら、投資家に円安期待を持たせないようにする必要があります。あるいは、円安が終わってこれからは円高だ、との期待が出れば、外国人投資家には日本株を買いやすくなります。

もっとも、外国人投資家まで「円高は株安」と思っていると、せっかくの買いチャンスを逃すことになります。

1970年代の変動相場制移行後の円高傾向の中で、外国人投資家はドル建て日経平均の大幅上昇を長年謳歌してきました。そして通貨が下落する国、例えばアルゼンチンやトルコには投資が難しいことも知っています。

円安期待を高めてしまうと、外国人投資家が日本市場を敬遠して、株がかえって上がらないことになります。

「ワニの口」でも円安が進まない

もう1つの疑問符は、米国の積極的な引き締めに対して、日銀の指値オペ明確化はいわば緩和の強化にあたり、FRBと日銀との間には「ワニの口」が大きく開いた形になっています。

それがはっきりした4月の日銀決定会合後に1ドル131円を付けましたが、そのあとは、FRBの積極引き締め策提示にもかかわらず円安は進んでいません。

市場関係者の間では1ドル125円の節目が破られたので次の節目は135円で、これを破れば140円、150円もあり、との声が聞かれます。「ワニの口」が開いていれば、その間はずっと円安が進むと言わんばかりです。

その掛け声のわりにドル円が重い動きとなっているのは何故でしょうか。

投機筋はすでに大きな円ショートを形成

1つは投機筋があらかじめこの「ワニの口」を織り込んで、通貨先物取引で円ショートを積み上げたことです。

シカゴIMMの通貨先物非商業取引をみると、日本の大型連休中には10万枚ものネット・ショートとなっていて、ここからの投機筋による追加売りの余地が次第に小さくなっていることがあります。

政府財務省の警戒感

もう1つは為替の所轄官庁である財務省の円安警戒感です。4月28日に1ドル131円台を付けたことを受けて、財務省高官は「足元の動きは極めて憂慮すべきもの」と発言しました。この「極めて憂慮すべきもの」との言い回しは、従来であれば為替介入をしてもおかしくない時の表現です。

政府と財務省は、黒田日銀総裁とは異なり、物価高につながる円安の行き過ぎには強い警戒感を持っています。為替に関しては最終的に財務省が管轄し、日銀はその子分として、財務省の指示で動く形になります。

その点、日銀の「円安は全体としてプラス」の認識よりも、政府、財務省の「極めて憂慮すべき」の認識が優位にあります。

この関係を認識する市場関係者は、日銀の指値オペなど、円安容認策にもかかわらず、政府、財務省が円安を止めにかかる可能性を意識しています。鈴木財務大臣とイエレン財務長官との間で為替介入の話をしたとの報道に対して、「そのような事実はない」と否定しましたが、介入のリスクはゼロではありません。

また今日の円安には「黒田円安」の感もあり、政府財務省が日銀に「政策協調」を求め、円安につながるような金融政策の修正を求めるか、総裁交代の圧力をかける可能性も排除できません。

市場には「黒田総裁辞任なら10円以上円高に」との認識もあります。日銀以外、政府財務省、財界ともに歓迎しない円安にベット(賭ける)することには相応のリスクがあります。

PPP(購買力平価)との乖離

さらに、根本的な問題として、現在の円安が「均衡レート」から大きく乖離していることです。

その基準としてしばしば引用されるのがPPP(購買力平価)で、計算に用いられるインフレ指標や基準時点のとり方で変わりうるのですが、生産者物価基準では1ドル90円前後、消費者物価基準では1ドル100円台との計算が見られます。トランプ前大統領は以前長期トレンド水準からみて円は25%割安だと述べました。

購買力平価からある期間乖離することはありますが、乖離幅が大きくなれば、均衡値に戻ろうとする力が大きくなります。ちょっとした事象(信用リスクや黒田総裁辞任など)をきっかけに、為替水準が急速に修正される可能性があります。

その際、しばしば修正は行き過ぎるので、過去の例から見て均衡水準を超えて1ドル80円台まで円高が急伸する事態も考えられます。

また国際決済銀行(BIS)は円の実質実効レートは50年前の水準まで逆戻りする形で大きく低下していることを示しました。それだけ円の購買力が大きく低下していて、国民の生活水準を引き下げ、外国人にとっては日本が大規模な「セール」をやっているようなもので、「安い日本」となっています。

すでに均衡水準から大きく乖離して割安となっている分、円安が進みにくくなったと言えます。

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