フェス、ライブ、クラブ、コンサート 新型コロナと共存しながら実現可能な音楽イベントとは?

フェス、ライブ、クラブ、コンサート 新型コロナと共存しながら実現可能な音楽イベントとは?

  • 文春オンライン
  • 更新日:2020/10/16

手指消毒、マスク着用、ソーシャルディスタンス……新型コロナウイルスとの長期的な対応にあたって、生活には新たな規範が求められ始めた。それだけに私たちは新型コロナウイルスについて「分かったふり」をするのではなく、しっかりと「分かる」ことが大切になるといえるだろう。ここでは、新型コロナウイルスの感染が広がったクルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号に一時乗船した感染症医としても知られる岩田健太郎氏による著書『丁寧に教える新型コロナ』(光文社新書)から、これからの音楽イベントのあり方について、専門家としての見地を引用し、紹介する。

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「一般解」と「特殊解」に分けて考える

もしも~ピアノが~弾けたなら~♪

……というわけで、ぼくは音楽関係についてはいろんな意味でド素人です。歌もろくに歌えませんし、どの楽器もまともに扱えません。

また、音楽業界の仕組み、構造も知りません。どのくらいの頻度でどのくらいの集客力のある場所でどういう金額でのコンサートをやる、やり続けるのが、アーティストや音楽関係者たちの生活を支えるのに必要なのかも、存じません。

もちろん、ぼくも音楽を鑑賞しますけれども、どちらかというと家でレコードを聞く「ひきこもり」派で、ライブハウスに行ったり、好きなアーティストを追いかけたりする習慣を持ちません。

ですが、先日もある方面から「安全にコンサートを開催するには」という問い合わせを受けていたので、素人なりにいろいろ調べてみました。

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©iStock.com

こういうときは、「一般解」と「特殊解」に分けて考えるのが大事です。

一般解とは、音楽に関係なく、集団を形成することで生じる新型コロナウイルス感染のリスクと、そのリスクヘッジの方法です。

特殊解は、コンサート会場であること、音楽活動をやること「そのもの」がもたらす特殊なリスクです。おそらくは、楽器演奏がこれに当たるのではないかとぼくは想像します。

楽器演奏については、すでに株式会社ヤマハミュージックジャパンが新日本空調株式会社と実験しています。これを拝見すると、直感的にはたくさんの飛沫を撒き散らしそうな印象のある管楽器の演奏――トランペットとかトロンボーンとか――は、実はそれほど大量の飛沫を発生させないことが分かりました。頭の中で考える演繹法(机上の空論とも言います)だけでなく、ちゃんと実証してみる「帰納法」って大事ですね。

「歌」による感染リスク

むしろ、問題は合唱などの「歌う」行為です。すでに、コーラスによるコロナウイルス感染のアウトブレイクが報告が報告されています(※閲覧日7月2日)。

リスクゼロ、を希求するならば、やはり合唱など歌唱を伴う発表会は中止するしかないのですが、それはコミュニティの感染の程度との相談です。ウイルスがほとんど存在しない地域であれば、集団の数を減らし、時間を短くし、換気を十分にするという形でコンサートを開催できるかもしれません。

そんなわけで、コンサート、その他の音楽活動においては、一般的な新型コロナウイルス対策を行うことが、最も堅牢かつ現実的な感染対策なのだと考えます。

基本的なことを地味に行うことが大切

新型コロナウイルス感染対策では、「数」とか「状態」の把握が大事だと繰り返し申し上げています。コミュニティで感染が蔓延している状況では、どんなイベントも中止せざるをえません。

幸い、本稿執筆時点(2020年6月末)では、日本ではほとんど新規の新型コロナウイルス感染が発生していません。また、たとえ発生していても、クラスターとして追跡できるものが大多数です。

このような状況では、そうしたクラスターに所属しない一般市民の間で感染がどんどん広がって、という可能性は非常に低いです。また、数々の抗体検査の結果は、「日本に住んでいる人のほとんどは新型コロナウイルスに感染していなかった」ことを示唆しています。海外のように住民の1割とかそれ以上が感染していた、みたいな事実はないのです。

ですから原則的には、「こういう状況下では」、どんな社会活動も普通にやってよいとぼくは考えます。ウイルスがいないところでは、ウイルス感染は起きない。単純な理屈ですが、感染症学の基本中の基本です。

アメリカのCDCが6月12日に、イベント、集会を行う際のガイドラインを出しています。ざっと読んでみても、特別なことが少しも書いていません。ということは、イベント、集会を行う場合にも、「基本的なこと」を地味にやることが大事だし、地味にやる以外にこれという決定的な対応策はないのです。

マスクを身につける意義

例えば、布マスクや医療用の不織布マスクは周りからの感染を防ぐ能力は乏しく、むしろ感染者が周りに感染を広げないために着用するものです(よく誤解されていますが、WHOもCDCも「マスクをしろ」と主張しているのではなく、「外出せざるをえず、かつソーシャルディスタンスが保てないときは次善の策として行え」と言っています。感染経路の遮断こそが感染防御の基本であり、その遮断能力に乏しいマスクは、ステイホームやソーシャルディスタンスの「代わり」にはなりえません)。

すでに述べたように日本では、「現在」、感染者はコミュニティで非常に少ないと考えられますから、「あなた」がマスクを着用することで得られる利得はほとんどありません。

ありませんが、おそらくソーシャル・アタイア(社会的装い)として、マスクの着用が要請される可能性は高いです。ジャケット着用のレストランでジャケットを着用するようなノリで、スタッフや客はマスクを着けることになるかもしれません。

でも、ライブで興奮して息苦しくなったら、マスクを着けるリスクのほうが増しますから、取ったほうがいいでしょう。

ミュージシャンのほうはマスクを着けて歌ったり演奏したりは大変でしょうから、必要ありません。距離をしっかり確保していればいい。通常の飛沫感染対策(ソーシャルディスタンス)で十分です。

マスク以外の方法も、同じ理由で不要だと考えます。フェイスシールドとか、お店のアクリル板やビニールみたいな。そういうのがあると、音響上も良くない気がしますし(音響については素人なので、適当なことを言っています)。

一般的なコロナ対策が、音楽関係のコロナ対策と同義

過去のライブハウスでの感染を考えると、人と人との距離(ソーシャルディスタンス)と接触感染予防(頻回な手指消毒)、そして適切な換気が重要で、要するに「一般的なコロナ対策」が「音楽関係のコロナ対策」とほぼ同義になります。席がツメツメにならないよう、肩と肩とがすりよったりしないよう、もちろん、ハグなどもないような環境が大事です。そういうタイプのライブをぼくはよく知らないので、ファンにどのくらい許容できるかははっきりは分からないのですが。

適切な換気の頻度もまだはっきりとは分かっていませんが、すでに何度も申し上げているように、「今の」日本で感染者がたくさんいる可能性は非常に小さいので、曲の最中に換気をするような無粋な真似はしなくてよいと個人的には思います。

「フェス」の開催は可能なのか

空間と時間こそが感染対策の要諦なのですが、時間も大事ですね。よって、朝から晩まで演奏したり、何日も興行する「フェス」のようなタイプのイベントは実施困難だと思います。

全国公立文化施設協会がガイドラインを定めています。また、コンサートプロモーターズ協会、日本音楽事業者協会、日本音楽制作者連盟が「無観客公演」のガイドラインを定めています。

無観客も、スポーツ同様、当初のリスクヘッジとしては妥当性が高いものですから、興行上のフィージビリティ(実行可能性)が許せば、一つの選択肢だと思います(会場までの歩行がしばしば集団を作りますし)。

現段階で行えるコンサートの実現形態とは

※追記

本書のゲラチェックの時点までに、クラシック音楽公演運営推進協議会、日本管打・吹奏楽学会が「クラシック音楽演奏・鑑賞にともなう飛沫感染リスク検証実験 報告書」を発表しました(8月17日)。各楽器の演奏時の微粒子を測定する実験です。

これによると、フルートやオーボエ、クラリネットなどの管楽器では、楽器先端部でこそ微粒子を測定するものの、距離が離れた測定点では微粒子の検出はなかったようです。微粒子発生の多かったトランペットやトロンボーンですら、2mの距離をとれば測定はわずかになりました。バイオリンなどの弦楽器も(予想通り)周囲への微粒子の発生はわずかでしたし、声楽ですら、口元以外からの微粒子の測定はわずかでした。ぼく自身がクラシック音楽に詳しくなく、実験系と「リアルワールド」の違いを十分に知悉しているとは言えないのですが、少なくともこのデータを見る限り、観客席でのソーシャルディスタンスや「ブラボー」などの声がけを控えた形でのクラシック・コンサート開催は可能なのでは、と考えました。他の領域の音楽ライブなどでも同様のデータが集積されるとよいな、と思いました。

週刊誌で「新しいダイエット法」が話題になるようなもの? 医者も誤解する感染症薬の効果と理由へ続く

(岩田 健太郎)

岩田 健太郎

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