〝路上を徘徊する犬〟のような80代現役カメラマン「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい:写真家 森山大道」

〝路上を徘徊する犬〟のような80代現役カメラマン「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい:写真家 森山大道」

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  • 更新日:2021/05/04

■連載/Londonトレンド通信

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©Daido Moriyama Photo Foundation

岩間玄監督のドキュメンタリー映画『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道』が、4月30日から公開だ。世界で評価された写真の数々と、写真家歴半世紀を超えた今もまだ撮りまくる森山大道その人に打たれる。

世界的な評価の理由は、写真を見れば、すぐわかる。他にはない、見たことのない写真、被写体が珍しいのではなく、どこにでもいるような犬が代表作『三沢の犬』になる。

森山はカメラを離さない。この映画でも撮影されながら、話をしながら、海辺で拾い上げたものをひょいと手に乗せ、撮る。

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©『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい』フィルムパートナーズ

車で行けば窓から撮り、街を歩けば、道行く人を、店を、広告を、撮る。カメラを初めて手にした子供のように、あらゆるものに興味を示し、あらゆるものを撮りまくる。

そうやって切り取られた一コマが、恐ろしくパワフルな見過ごせない写真になる。

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©Daido Moriyama Photo Foundation

好きに撮るばかりではなく、馴染みの編集者から仕事も受ける。今年83歳になる写真の大家は、文字通り現役カメラマンなのだ。

テレビでヒット番組を放ってきた岩間監督は、1996年に美術番組『路上の犬は何を見たか? 写真家 森山大道1996』で撮影から暗室まで森山を追った。今度は劇場の大画面に向け、森山を追ったのが今回の映画だ。

映画は、昨年の10月から11月にかけて開催されたレインダンス映画祭でも、上映された。通常はロンドン中心部の複数映画館を会場とする映画祭だが、コロナ禍でオンラインがメインとなった。

岩間監督は、オンライン上映後、やはりオンラインで視聴者の質問に答えた。それから数カ月経った今、監督に聞いた。

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©Daido Moriyama Photo Foundation

オンライン参加でしたが、レインダンス映画祭の感想などお聞かせください。

本番の直前、イングランドには二度目のロックダウン決定が宣言されました。上映はおろか映画祭自体が本当に開催されるのだろうか?と案じていました。しかし、映画祭スタッフから強い意志と覚悟で「こんな時だからこそ映画祭はやる!オンラインの利点も最大限生かして、今こそ映画のチカラをロンドンから世界に発信する」という連絡を受けた時に、胸を打たれました。

現地時間11月3日16時からのオンライン上映後のトークは日本時間、真夜中の3時開始でした。パソコンを開くと熱い質問が次々と飛んできて驚きました。顔も姿も見えないけれど、国籍も場所も年齢も分からないけれど、世界のどこかからこの映画をたった今観て、一人の日本人に今こうして一生懸命質問をしてくれている。とても不思議で温かい気持ちになりました。

コロナ禍の今、映画祭はにわかに違う役割を果たそうとしているのではないか。こんな時だからこそ、映画を皆で分かち合おう。オンラインだろうが何だろうが構わない。みんなで一本の映画を同じ時に観よう。そして語り合おう。映画を通じてどこかの誰かと「つながろう」。我々は一人ではない。そのことをこの映画祭を通じて今一度思い出そう。これは、そんな誇り高き戦いなのかもしれないな。そんな風にすら思いました。コロナ禍により現地ロンドンに行けなかったことで、逆に映画祭のもう一つの力を見たような気がしました。

撮る天才を撮るのは、どういうものでしたか。

「大道サンの映画を作りたいんです…」と恐る恐る告げる僕に、森山大道さんはこう言いました。「僕は一人で狭い路地をウロウロ歩いてスナップしているだけだから、映画の大所帯の撮影隊が来るのは困る。でも、あなたがたった一人で撮影するならいいですよ」と。

正直、面食らいましたが、僕は無謀にも撮影・監督・編集と一人三役に挑戦することになりました。こうして僕と大道サン二人だけの撮影が始まりました。森山さんは、型落ちした小さなコンパクトカメラを片手に、うろうろと路地を彷徨い、時折匂いを嗅ぎ、はっと立ち止まってシャッターを切っていきます。その姿はまさに路上を徘徊する犬、電信柱に身を寄せる猫、日陰を這いずり回る虫のようでした。

後ろを小さなムービーカメラで追いかける僕。ちょこちょこ動く二人の姿は到底映画を作っているようには見えなかったと思います。森山大道さんは家並、看板、ネオン、ポスター、広告、雑踏を電光石火のごとくパッパッパッと瞬撮していきました。その動きを追いかけ記録していく僕は、天才の創作現場に立ち会えている幸せをかみしめながら、絶対に撮り逃すまいと食らいついていくのに必死でした。

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©『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい』フィルムパートナーズ

身近で過ごした森山大道はどんな方でしたか。

「同じようなところばっかり撮ってて飽きないかね?って聞かれるんだけどさ、これが飽きないんだよ」「カメラなんて写ればいいんだよ」「ピントが合ってなくてもいいんじゃない」「写ればいいんだから、写ればしめたものよ」…そんな冗談とも本気ともつかない言葉を飄々と語る森山大道さんは、実は大真面目な心優しい写真家でした。

ハードでパンクでアヴァンギャルドな作風とは真逆の、とても静かで繊細な人でした。息子のような歳の僕をいつも気遣い、慮り、思いやりに溢れた言葉をかけてくださいました。紛れもない世界の巨匠なのに、ちっとも偉ぶらない。まったく巨匠然とせず、いつも写真のことを真摯に考えている哲学者のような佇まいでした。

僕は四半世紀前に森山さんの姿を撮影しましたが、四半世紀経った今も、まったくその撮影スタイルは変わっていないことにも大変驚きました。アナログからデジタルへの変化なんてどこ吹く風。周囲の世界がどれだけ変わろうが、森山さん自身は全然変わっていないのです。でもこの変わらなさこそが、森山大道さんという人の核であり強みなんだな。この人はずっと長い間、こうしてブレずに写真を撮り続けてきたんだな。あらためてそう思いました。

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©『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい』フィルムパートナーズ

『過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい 写真家 森山大道』は、2021年4月30日(金)より新宿武蔵野館、渋谷ホワイトシネクイント他全国順次公開

文/山口ゆかり
ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。http://eigauk.com

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