谷繁元信「ずる賢さが足りない」と指摘。セ・リーグ捕手を細かくチェック

谷繁元信「ずる賢さが足りない」と指摘。セ・リーグ捕手を細かくチェック

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  • 更新日:2021/06/11

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今季のプロ野球は開幕から約60試合を消化し、セ・リーグでは阪神が一歩抜け出している。得点はリーグ1位タイ、失点は同2位と、攻守にバランスのいい戦いぶりだ(成績は6月9日時点)。

【写真】正捕手争い続く巨人。二軍調整中の 小林誠司が必要になる時が来る

好調のポイントは枚挙にいとまがないなか、立役者のひとりに正捕手の梅野隆太郎が挙げられる。全56試合のうち54試合で先発マスクをかぶり、打率.228(リーグ24位)、18打点(リーグ22位)。チーム防御率3.36(リーグ2位)と投手陣をうまくリードしている。

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好調な阪神の投手陣を牽引する梅野隆太郎

通算27年の現役時代に捕手としてゴールデングラブ賞に6度輝き、2014年から2016年まで中日の監督を務めた谷繁元信氏は梅野をこう評す。

「今年はすべていい。もともと打力はありますが、とくに今年はチャンスで意味のある打点を挙げている。チームの勝率も防御率もいい数字が残っていますしね」

チームに定位置がひとつしかない捕手は、評価の難しいポジションだ。とくに賛否両論寄せられることの多いリードは「正解がない」。

では、首脳陣は捕手をどのように評価しているのだろうか。自身も長らくマスクをかぶり、監督経験もある谷繁氏が説明する。

「リードがよくても勝てない時はあるし、逆に悪くても勝てる時はあります。リードは評価しづらいものだから、マスクをかぶっていた時の防御率と勝率、それに盗塁阻止率、パスボールの少なさなど数字で評価します」

強肩に定評のある梅野だが、今季の盗塁阻止率.231はリーグ5位。捕逸2はリーグ最多タイだ。ただし、現段階では母数が少なく、評価の対象にしにくい。

もうひとつの持ち味がブロッキング、つまりワンバウンドのボールを止める技術だ。股関節が硬いなどブロッキングに難がある捕手の場合、投手はベース板の前で落ちるような変化球を使いにくくなり、配球に影響が出ることもある。梅野のブロッキングは谷繁氏の目にどう映っているだろうか。

「うまい部類に入ると思いますね。個人的にはそれほどいい形に感じないけど、結果的には止めています。あれだけ止めるということは、ピッチャーからの信頼はあると思います」

梅野は昨年まで3年連続ゴールデングラブ賞を獲得するなど、現在の阪神に不可欠な存在だ。"扇の要"が決まることで、チームはシーズントータルの戦い方を計算しやすくなる。加えて、投手が打席に立つセ・リーグで一定以上の打力を備える捕手は、攻撃面でも大きな存在だ。

対して2位・巨人は近年、正捕手を固定できていない。梅野が阪神に4位指名された2013年ドラフトで、巨人がハズレ1位で獲得したのが小林誠司だった。当時、阿部慎之助(現二軍監督)が30代中盤に差しかかり、球団は後継者の獲得を急務としていた。

小林は強肩とインサイドワークを持ち味とする一方、打撃に課題を抱えたままで、今季はほとんど出番を掴めていない。メインで使われているのは打撃を武器とする大城卓三だが、5月以降は守備型の炭谷銀仁朗が先発出場する機会も増えている。

大城は打率.258(規定打席未満)、盗塁阻止率.423(リーグ1位)という成績を残している一方、たびたび指摘されるのがリード面の課題だ。谷繁氏の目には「ずる賢さが足りない」と映っている。

「ベンチから言われたことを素直にやっている感じがします。パターン化されている配球が多いから、相手に読まれる確率が高くなる。もっと"自分"を出していいと思います。

ただし、キャッチャーはある程度、力をつけてベンチから信頼されないと、なかなかそこはできない部分でもある。僕もプロに入って最初の頃はそうでした」

巨人はエース菅野智之が故障で離脱するなど、先発陣の駒が足りていない。そうした事情もあり、経験豊富な炭谷が先発出場する機会が増えているのだろう。

ただし、炭谷の課題も打率.196の打撃だ。さらに33歳とベテランの域にあり、この点もベンチの起用法に影響すると谷繁氏は語る。

「炭谷があと何年レギュラーでできるかと言えば、そう長くはないと思います。全体の編成を考えると、チームが困った時に、ベテランの経験を活かしてくれる存在としていてくれたほうがいい。チームの将来を考えると、大城か岸田を"エースキャッチャー"にしていきたいところです」

エースキャッチャーとは谷繁氏による表現で、"レギュラー未満の第一捕手"という位置づけだ。バッテリーの中心として牽引しながら、近い将来、正捕手を掴んでほしいという期待を首脳陣から寄せられている。

「1年間をトータルで考えた時、エースキャッチャーという存在ができないと、チームの流れが出てこないと思っています。だから、少なくとも100〜110試合守れるエースキャッチャーを作っていく。体力、知力の体力に加え、ピッチャーやベンチの信頼を得られるかがポイントです」

阪神、巨人を追いかける中日は、交流戦に入って状態を上げている。とくに奮闘が目立つのは、正捕手の木下拓哉だ。

木下は全59試合のうち53試合で先発マスクをかぶり、打率.271(リーグ18位)、22打点(リーグ16位)とバットで結果を残しながら、チーム防御率2.89と12球団最高の成績で投手陣を引っ張っている。盗塁阻止率.394はリーグ2位だ。

木下がトヨタ自動車から中日入りした2016年、監督を務めていたのが谷繁氏だった。

当時からキャッチング、打撃ともに一定の水準に達し、他の捕手より伸びしろも見えた木下を"エースキャッチャー"にしたいと谷繁氏は考えたという。ところが春季キャンプにやってくると、ペナントレースを戦うには体力が足りなかった。

「攻守にいいものを持っていましたが、そのすべてに影響しそうなほど体力がないと、僕は判断しました。これでは50試合ももたないだろうと。まず1年間は体力をつけさせて、そこさえプロのレベルに達すれば、ある程度の力を出す選手になるだろうと思っていました」

プロ6年目の今季、29歳になった木下は攻守で高いパフォーマンスを発揮している。今季の中日は勝ち頭の柳裕也を筆頭に、エース大野雄大、小笠原慎之介など投手力が強みで、木下のリードもカギを握りそうだ。

セ・リーグで、その中日のひとつ上を行くのがヤクルト。決して前評判は高くなかったものの、3番・山田哲人、4番・村上宗隆が中心に座る強力打線が牽引している。

見逃せないのが、「2番・捕手」に入ることも多い中村悠平だ。全57試合のうち44試合で先発マスクをかぶり、打率.286(リーグ11位)と打棒を発揮。盗塁阻止率.273はリーグ3位で、チーム防御率3.96はリーグ5位だ。

昨季は故障もあって29試合の出場に終わったが、今年は見違えるような活躍を披露している。実は昨年、谷繁氏は中村から「自分には何が足りないですか」とアドバイスを求められたという。その答えは、「表現力」だった。

「キャッチャーとして自分をもっと表現できるようにすれば、もっと周りが見られるようになるのではという話をしました。見え方が変わってくると、相手バッターに対する攻め方も絶対変わってくるはずなんです」

捕手に求められる「表現力」とは、たとえば「腕を振れ」と右手で大きく示すジェスチャーや、ミットで地面を叩いて「変化球を低めに投げろ」と伝えるものだ。こうした指示を嫌う投手も少なくないが、それでも必要なことだと、谷繁氏は強調する。

「ピッチャーにすれば、『俺はプロだから、そんなことわかっているよ』と思うでしょう。でもキャッチャーは、『わかっていても、できていないじゃないか』と伝えるしかない。大事なのは、そういう表現をやり続けることです」

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高卒13年目で31歳を迎える今季、中村は昨季までと明らかに変わったと谷繁氏は見ている。

「今年は攻撃、守備ともに必死で、なんとか信頼されるキャッチャーになりたいという姿勢が表われるようになってきました。中村は2015年に優勝した後、伸び悩みましたが、それはキャッチャーとしての引き出しが少なかったということです。今は相手を抑える方法や、自分のチームのピッチャーをどうリードすればいいか、以前より引き出しがだいぶ増えたと思います」

フィールドの野手でひとりだけ反対方向を向き、"扇の要"や"女房役"と形容される捕手は、文字どおりチームの中心だ。各チームでキャッチャーがどんな役割を果たし、どれだけ勝利に貢献できているかを見ていくと、ペナントレースの味わいは一層深まっていく。

中島大輔●取材・文 text by Nakajima Daisuke

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