オンキヨー破産「高性能でも勝てない」時代の現実

オンキヨー破産「高性能でも勝てない」時代の現実

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2022/05/15
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一世を風靡した往年のブランドがまた1つ行き詰まりました(写真:Alamy/アフロ)

驚きのニュースが飛び込んできました。日本を代表するオーディオ機器メーカーのオンキヨーホームエンターテイメントが5月13日、大阪地方裁判所に自己破産を申請しました。音楽がCDではなくレコードだった当時からの音楽ファンであれば特に寂しいニュースと感じるのではないでしょうか。

オンキヨーは戦後のオーディオブームを支えた名門の一角です。家電量販店の店頭などで「ONKYO」のブランドロゴを目にした中高年世代の人も少なくないでしょう。手ごろなミニコンポも販売していましたが、高級品のアンプやスピーカーでも有名でした。当時はよりよい音を聴こうと思ったら、アンプを高級品に変え、スピーカーを高級品に変え、それらをつなぐケーブルを高級品に変えることが大切な時代でした。

ハイエンドユーザーの減少が響いた

音楽の世界でこのようにして音を楽しむ習慣が変わり、高性能や最高級を志向する「ハイエンド」なユーザーが減少したことに伴い、最終的に市場が縮小してオンキヨーが経営破綻したというのがわかりやすい経済学的な説明です。オンキヨーだけではなくサンスイ、コーラルなど世界レベルだった日本の高級オーディオ機器メーカーのブランドが消滅したのも同じ理由です。

しかしあらためて考えてみたいのですが、なぜハイエンドのオーディオ市場は縮小しているのでしょうか。読者のみなさんは「ハイエンド市場なんてスマホ全盛のデフレ経済下では縮小するのがあたりまえだよ」とお考えかもしれません。その直感に反する話を2つほど並べてみたいと思います。

ひとつは音楽アーティストの方に話を聞く機会があればピンとくるかもしれない話です。アーティストは実に深く録音にこだわります。マスター音源を聴くと違いがわかるそうですが、音が違う。それがCDというパッケージになるとどうしても簡素化してしまうのが彼らの不満です。

もうひとつ別の話ですが、レコード会社はマスター音源というものをとても大切な資産だと考えていて、昔は門外不出の財産でした。ところが時代が変わったということでしょう。最近ではハイレゾというほぼマスタークオリティの音源が販売されています。これが音楽業界の流通にかかわるひとたちにとっては信じられないほどの方針転換だというのです。

ハイエンド音源のユーザーは数%しかいない

言い換えると私たちが大好きな音楽アーティストが提供してくれる商品には、私たちがよく聴いている商品以外に、同じ曲なのに聴こえ方がまったく違う商品が存在し、それが販売される夢のような時代が来たということです。普通の音楽ストリーミングとハイレゾはそれほど違うにもかかわらず、ハイレゾがなぜか売れない。本当の意味でのハイエンド音源のユーザーは音楽市場の中でおそらく数%しかいないと推定されるのです。

実はかなりの数の音楽ファンがハイレゾを聴いてみるといい音と普通のCDの音の違いがわかるそうです。ライブと同じだといえばピンとくるでしょうか。ライブ会場のステージから聞こえるあの迫力のある音と、その興奮をもう一度味わいたいと購入した動画で視聴するライブ。たとえ同じ日の演奏であってもこのふたつは全然音が違って感じられるものです。

違いがわかるにもかかわらず音楽市場がハイレゾではない方向に拡大した理由は利便性です。レコードからCDにメディアが変わった段階で高音域と低音域の音が一定レベルで切り落され、それが音楽プレイヤーで聴く際にはAACやMP3のようにさらに圧縮され音が変わります。

ところがそのダウングレードが生み出す利便性が勝ることで、音楽はかつて以上に日常的な楽しみに変わりました。アップルが提供するiPhoneに接続したAirPods ProはBluetoothの利便性とノイズキャンセリング技術の静謐性で、どこにいても没入感ある音楽が私たちを楽しませてくれます。

そしてここがビジネスとして難しいところなのですが、ハイレゾ音源は結局このアップルが提供する市場がいちばん大きくなってしまった。多くのユーザーがApple Musicの提供するハイレゾの曲をAirPods Proで聴くのですが、そうなると音質はハイレゾではない。

ハイレゾ音源をダウンロードして、それなりのオーディオ機器をそろえて有線接続して、たとえば地下室のオーディオルームでがんがんかけることができれば音の違いはわかるのですが、そのような富裕層市場が少ししかないのです。

BOSEやソニーはそれでも生き残っている

一方でユーザーから支持を得てハイエンドのオーディオ市場で勝ち残っているメーカーも存在します。たとえばボーズ(BOSE)やソニー。ここが経営学でいうマーケティング力の差というものだと私は思います。

ボーズのスピーカーはいい音を聴きたいというユーザーが高額でも買う商品です。私事ながらわが家にも1台あって、これは私個人の感想ですが、ボーズのスピーカーの強みはたとえ圧縮音源でもいい音が聴けるという点にあると思っています。音源の中で低音部分を迫力ある音で再生して左右方向の音を違う方向に出力することで、商品サイズはコンパクトな大きさなのに普通のスピーカーとは全然違う音に聴こえる秘密ではないかというのが私の観察です。

ソニーのスピーカーの強みはデザイン性というか、もう少しはっきり言えばインテリア性だと私はにらんでいます。音はそれなりにソニーの強みなのですが、価格が高いのは部屋に置きたいと思わせる優雅さがあるからだと私には思えます。そもそも有機ELの大画面テレビのデザインもヨーロッパ的で、それに合ったホームシアターシステムを揃えようとしたらソニーのスピーカーがいちばん合う。大画面の画質が良いことも加わって映画でも音楽ライブでも臨場感があるように感じさせます。

ボーズもソニーもスピーカーのハイエンド市場の商品ですが、実は大半のユーザーがハイレゾではない音を楽しんでいるニアハイエンドだという点が市場ニーズの現実です。オーディオ製品の場合、本当の意味でのハイエンド市場は縮小し、記号としてのハイエンド市場がそれに変わったと表現してもいいかもしれません。

ハイエンドではないけれども高くて売れているオーディオ機器としてミライスピーカーがあります。この商品も私は「買ってよかった」と思っています。これは高齢になった両親が「テレビの音がよく聞こえない」と言い出したので一昨年の敬老の日にプレゼントした実用品です。人間が聴きやすい音を出力するスピーカーなのでハイレゾの逆で、原理的には音域が絞られているはずです。評判は聞いていたのですが、確かにこのスピーカーを接続したとたん、両親の家のテレビが私にも聞きやすくなって驚いたものです。

このように事例を挙げてみると、成功しているハイエンド市場の音響製品は存在します。しかし冷徹なもうひとつの事実を言うと、そのように富裕層向けの差異化に成功している商品のユーザーは実は最高の音を求めていない。これが皮肉な真実です。

音楽アーティストがこだわりにこだわりぬいて制作したマスター音源とほぼ同様のハイレゾ音源を、レコード会社が過去の慣習を捨てて蔵出し販売をして、それで本当に異次元の音楽を聴くことができる夢のような時代になったけれども、そのような商品は売れていないのです。

「いい商品なら少し高くても買う」をとらえているか

寂しい話ですが、ハイエンド市場とはすばらしさを追求する世界ではない。そうではなく「いい商品なら少し高くても買う」という消費者心理のボリュームゾーンを捉えた商品こそが、資本主義の時代に生き残っていくハイエンド商品なのだということです。

そして今回、オンキヨーが自己破産したという事実は、またひとつそのことを裏付ける新しい証拠が増えたということです。経営破綻とともに高級オーディオ製品を製造する職人たちもまた消えていくことになるでしょう。イチ音楽ファンとしてはとても哀しく残念なニュースでした。

(鈴木 貴博:経済評論家、百年コンサルティング代表)

鈴木 貴博

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