
次世代モビリティの象徴「BMW Vision Nueu Klasse」(画像:BMWジャパン)
世界的に加速するEVシフト
電気自動車(EV)に関するネットニュースやコラムを見ていると、EVに批判的なコメントが多い一方で、エンジン車には肯定的なコメントが多いことに気づく。なぜそのようなコメントが多いのか。本稿ではそれを考えてみたい。
【画像】えっ…! これが電気自動車の「世界販売台数推移」です(計10枚)
ファクトとして、世界的にEVシフトがどの程度進んでいるのか、ふたつの側面から検証してみよう。
まず、ドイツ・ミュンヘンで開催された国際モビリティ見本市「IAAモビリティ2023」では、欧州連合(EU)が2035年から新型エンジン車の販売を原則禁止(一部で合成燃料を認める動きもあるが)することを控え、欧州市場でのEVシフトが加速している。欧州や中国の自動車メーカーは、EVコンセプトカーや新型モデル、EV新戦略を華々しく発表した。
開催国のドイツでは、自動車メーカー各社がバッテリー式電気自動車(BEV)コンセプトを発表し、自動車産業における電動化の流れと、来るべきEV時代への対応を明確にメッセージした。
今後、EVへのシフトが着実に進んでいくことを実感させられるイベントだった。
市場動向からEVシフトを検証
2027年以降、ガソリン車/ディーゼル車の比率は50%を下回り、その後着実に低下する。
各国のカーボンニュートラル政策やEV普及策により、2050年頃にはガソリン/ディーゼル車が全廃される傾向に変化はなく、エンジン車の寿命が尽きてくることを意味する。
このように、世界的にEVシフトが着実に進んでいることは紛れもない事実である。

EV充電ステーション(画像:写真AC)
EVシフトに逆らうスタンスの深層
世界的なEVシフトの流れのなかで、EVに対するネガティブな印象を拭えない層がいることは、ネットニュースに寄せられたコメントからも容易に想像できる。彼らのEVに対する懸念は次のようなものだ、
・EVが増えるだけでは環境問題は解決しない
・リセールバリュー(再販価値)に懸念がある
・トータルコストが高い
・バッテリーに不安(信頼性、寿命、交換コストなど)がある
・充電施設が少なく、電欠が怖い
・集合住宅に充電設備が普及するか。
・航続距離が短い(あるいは航続距離データの信頼性に疑問がある)
・車体や機械部品の修理費が高い
・火災のリスクが高い
こうした懸念からEVに否定的な反応を示すのは、従来のエンジン車とEVを比較した際に抱く違和感を並べているだけで、これまでに体験したことのないものを受け入れる許容度が低く、あたかも新しいものが受け入れられないかのような拒否反応かもしれない。
その一方で、エンジン車は永遠に使えるかのような称賛のコメントも多い。最近は旧車の人気が高まっており、30年後、40年後もニッチな需要として少数ながら生き残っていくだろうが、そこには変化を好まず、既得権益に支配された保守的な思想が反映されているように感じる。
数十年後には乗れなくなるガソリン車を、今のうちに存分に楽しみたいという気持ちもわからなくはないが、スマホ全盛期にガラケーを使い続けるように、どこか時代に逆行しているようで情けない。
やはり、新しいものを受け入れにくい保守的な層が残しているコメントといっても過言ではないだろう。

2023年3月30日、高陽市のKINTEX展示場で行われた「2023ソウルモビリティショー」のプレスプレビューで、テスラモデルXを眺める来場者(画像:AFP=時事)
EVシフトに遅れた原因
日本が世界のEVシフトから大きく遅れていることは、多くの人が指摘している。
「EVがこんなに早く市場に広まるとは思っていなかった」
という意見もよく聞かれるが、「チャイナスピード」といわれるように、中国市場はあっという間に中国勢が席巻するようになった。
中国勢のスピードについていけない現状は、いまだにEV批判が繰り返されていることからもわかるように、危機感の欠如が蔓延しているからだと考えられる。中国では、政治的な背景もあるが、EVを疑うことなく容認する風土が形成されたことで急速に普及したのであり、これを見習ってEVに寛容になるべきである。
1980年代以降、日本の自動車メーカーは高品質なガソリン車を次々と世に送り出し、世界の自動車市場を席巻してきた。その数十年後、彼らは「脱エンジン化」を迫られたが、広範なサプライチェーンを持つ日本の自動車業界にまん延する既得権益が足かせとなり、世界の潮流から取り残されてしまった。日本の自動車産業は
「基幹産業」
であり、中国に追い抜かれながら衰退していく未来は何としても避けなければならない。
前述したEVに対する懸念に対応するためには、自動車業界だけでなく、他の幅広い業界も早急に対策を講じる必要があり、日本の産業全体が抱えるさまざまな課題を早急に解決する機運が高まることが望まれる。また、世界的な潮流となりつつあるEVを軸としたライフスタイルの変化にも柔軟に対応できる態勢を整える必要があるだろう。
目まぐるしく変化する現代社会では、時代の変化を敏感に察知し、迅速に対応していく必要があり、EV批判とエンジン車賛美を繰り返すことは、時代にそぐわず、滑稽にさえ映りかねないことを自覚すべきである。
このような発言を繰り返すうちに、自分たちがさらに時代に取り残される危険性があることに気づいてほしいと切に願う。
小城建三(自動車アナリスト)