
2022年4月にカズの試合観戦に訪れた納谷宣雄氏
【No Ball、No Life】今月8日、耳を疑う訃報に接した。元日本代表FW三浦知良(56)=オリベイレンセ=の実父、納谷宣雄氏が亡くなった。享年81。顔を合わせると必ず笑顔で握手を求めてくる、あの笑顔にもう会えないかと思うと、寂しい…。
カズの担当になったのは、J2横浜FCに在籍していた2007年。ホームのニッパツ(三ッ沢)での試合には、静岡から宣雄さんが何度か観戦に駆け付けていた。最初のころは、こわもてでとっつきにくい方に見えたのだが、あいさつすると、そうでもなかった。笑顔で話し好き。「これ、持ってけ」と、おまんじゅうなどをいただいたこともあった。
15年4月19日。ホームでの長崎戦でカズがゴールを決めた。先発出場し、前半12分、右からのクロスボールを頭で合わせる先制点だった。当時のJ最年長ゴール記録。試合は2-2で引き分けたが、試合後は応援に駆け付けた宣雄さんや夫人のりさ子さん、長男の獠太さんらがカズを祝福。カズと獠太さんのツーショット写真が、サンケイスポーツ1面を飾った。
それから3年後の18年8月19日。J1リーグ、清水-浦和(午後6時キックオフ)の取材のため静岡を訪問。昼過ぎに静岡入りし、宣雄さんが経営していた「七八寿司」(現在は閉店)に足を運んだ。アポなしだったにもかかわらず「よく来たね」と笑顔。お店に隣接する自宅に招いてくれた。試合までの時間、昔話をたくさん聞かせてくれた。
「2人の息子(泰年氏と知良氏)がね、サッカーでここまで成功してね。私の誇りだよ。知良なんか、15歳でブラジルに渡るときに、本当に大丈夫かと思ったよ。それが、まだ現役。よくやっているよ」
その自宅の居間には、3年前のサンケイスポーツ1面、カズと獠太さんのツーショットの新聞が額縁に入れられ、飾ってあった。「あれは、いい写真だね。あんたの記事だろ。ありがとうな。あの新聞は家宝にしようと思ってね」と肩をたたかれ、えらく恐縮した。このときも、手土産に「紅白まんじゅう」をいただき、試合会場まで車で送っていただいた。

J1昇格を家族と喜ぶ横浜FC・三浦知良。(手前右から)長男・獠太さん、次男・孝太さん(後ろ左2人目から)妻・りさ子さん=2019年11月
21年の年末。カズが横浜FCから移籍する可能性が浮上し、記者は静岡を訪問。宣雄さんは「聞きたいことがあるんだろ」と、すでに見透かされていた。「聞きたいことがあったら、いつでも来いよ」と言われ、涙が出そうになった。
昔は厳格な父親で、やんちゃな人だったことは接していて、よくわかった。ただ、晩年の宣雄さんは、優しくて面倒見のいい気さくなおやじさんというイメージ。もう会えないと思うと悲しいが、しばらくしたらお墓参りに行こうと思う。あらためて、ご冥福をお祈りいたします。(宇賀神隆)