サッカーW杯の裏で進む外交 カタールが存在感高める

サッカーW杯の裏で進む外交 カタールが存在感高める

  • Wedge ONLINE
  • 更新日:2022/11/25
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中東で初の開催となったサッカーワールドカップ(W杯)カタール大会は日本が強豪のドイツを破るなど盛り上がりを見せているが、サッカーファンの熱狂の水面下で、タミム同国首長が天然ガス生産からあがる莫大な資金を使って紛争調停者としての存在感を誇示している。その背景には「中東最大の米友好国」の座を獲得した自信がある。

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(新華社/アフロ)

小国の意外な裏の顔

W杯の開会式が行われた11月20日のドーハの競技場。その式典の脇でタミム首長が2人の大国の指導者が握手を交わすのをにこやかに見守っていた。長年不和が続いてきたトルコのエルドアン大統領とエジプトのシシ大統領の和解を演出したのだ。

エジプトでは2013年、当時国防相だったシシ将軍がイスラム原理主義組織ムスリム同胞団出身のモルシ政権を軍事クーデターで打倒した。これに同胞団を支援してきたトルコのエルドアン大統領が反発、シシ氏を「殺人者」「独裁者」と激しく非難し、両国関係が断絶状態にまで悪化した。

しかも両国はリビアの内戦でも対立。トルコがトリポリの暫定中央政府を支持したのに対し、エジプトは東部の武装勢力を援助、不和に拍車が掛かった。ちなみにカタールはトルコとともに、暫定中央政府を支援していた。中東専門誌などによると、タミム首長はW杯をスポーツ外交の好機ととらえ、夏以降、和解を渋るエルドアン氏を説得し、両国間の修復にこぎ着けた。

首長は国境紛争などで断交中の北アフリカのモロッコとアルジェリアの調停も進めたが、モロッコ国王がW杯の出席を取りやめたため、この和解は実現しなかった。人口300万人にも満たない、しかもその9割が外国人労働者という小国のカタールがなぜ紛争調停者として動くのか。「そこには小国故の知恵がある」(ベイルート筋)のだという。

ペルシャ湾に親指のように突き出たカタールの原動力は豊富な天然ガス資源だ。生産量は世界第5位(21年)、埋蔵量は同第3位を誇る。タミム首長はこの天然ガスの輸出からあがる莫大な資金を武器に09年、W杯の招致に成功した。隣国の大国サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)といったライバルたちを蹴り落としての勝利だった。当時「ジョークだろ」と言われたほどの劇的な結果で、「FIFA(国際サッカー連盟)などの関係者に巨額の賄賂をばらまいた」(ベイルート筋)と批判された。

その後、カタールはW杯の成功に向け、しゃにむに突き進む。冷暖房付きのサッカースタジアムを7つも建設、他に1つを改築した。国内に高速道路を張り巡らし、鉄道網も建設した。世界中から訪れる観戦客のためホテルを次々に建てた。12年間で2000億ドル(約24兆円)という巨費を投じたのである。

周辺国からの〝いじめ〟に堪え抜く

カタールはサウジが主導する湾岸協力会議(GCC)のメンバーだが、小国のW杯招致はサウジやUAEの妬みを買った。その上、タミム首長のムスリム同胞団支援やイランと友好関係を維持していること、サウジなどを批判するメディア「アルジャジーラ」を抱えていることなどを理由にカタール〝いじめ〟が始まった。

サウジ、UAE、バーレーン、エジプトの4カ国が17年、ムスリム同胞団への支援停止、イランとの関係断絶、アルジャジーラの閉鎖などを要求してカタールと断交、同国への陸路と空路を封鎖した。4カ国にとってムスリム同胞団は体制の脅威であり、カタールがテロ組織を支援していると非難した。

食料・日用品を外国に全面依存するカタールはサウジなどから陸路と空路を閉ざされて、たちまち困窮した。そこに手を差し延べたのがイランとトルコだった。

両国はカタールに物資を送り、トルコは国土防衛のためとして、軍隊まで派遣した。カタールとイランの関係は逆に強化される結果になった。

カタールはこうした〝いじめ〟に堪え抜いた。21年1月、米国の仲介もあり、サウジなど4カ国が断交を撤回し、カタールとの関係を修復した。カタールは公式的には4カ国の要求に一切応じなかったが、ムスリム同胞団などへの支援は自粛せざるを得なかった。苦い勝利だったのである。

この時の経験がカタールの「小国の知恵」として残った。「国際舞台で貢献し、再び上げ足を取られないようにする」(ベイルート筋)という教訓だった。それが紛争や対立の和平の調停者として水面下で立ち回り、政治的な存在感を固める、というタミム首長の野望につながった。

米国とのパイプを作った2つの要因

首長のこうした戦略の背景には、米バイデン政権と太いパイプで結ばれているという自信がある。W杯の開催をめぐっては、カタールの人権軽視や同性愛者に対する偏見があらためてクローズアップされ、一部から批判を浴びている。人権など理念を重視するバイデン政権が厳しく対応してもおかしくないが、カタール批判は慎重に避けている。

それどころか、バイデン大統領はW杯開会式にブリンケン国務長官を派遣し、米国とウエールズ戦を観戦させた。こうした米国の姿勢はカタール重視を示すものであり、タミム首長に恩義すら感じているように映る。

その理由の第1は混乱を極めた昨年のアフガニスタンからの米軍撤退の際、カタールから多大な協力を得たことだ。

アフガン撤退は数万人に上る米軍協力者の脱出や撤退時の誤爆などをめぐりバイデン大統領が強く批判されたが、カタールは米国の要請に応じて避難のための拠点を提供した。同国にある米軍の中東最大の空軍基地「アルウベイド」がその中心的な役割を果たし、アフガンの新しい支配者になったイスラム組織タリバンと米国との交渉場所を設定した。

第2は、ウクライナ戦争で米国のロシア包囲網に同調しているからだ。同じ米国の友好国であるイスラエルやサウジがロシア非難を控え、あいまいな姿勢に終始しているのとは大きく異なっている。

ロシア制裁で欧州が依存していた天然ガスが不足した苦境に対し、カタールは増産で助けている。サウジがバイデン氏の要求を蹴って石油の減産を決定したのとは対照的だ。

だが、今後カタールが調停者としてうまくやっていけるかには危うさも伴う。バイデン政権とべったりということは2年後の米大統領選挙で政権交代ともなれば、対米関係に変化が生まれかねないからだ。

サウジやUAEとの関係もこのまま平穏に推移すると見る向きは少ない。W杯後、新設したスタジアムなどが廃墟化するという恐れもある。カタールの前途は多難だ。

佐々木伸

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