「入学後は同じ授業を受けるのに...」中学入試の合格ラインに男女で40点もの差、その正当性は?《関西にも「男女別定員制問題」》

「入学後は同じ授業を受けるのに...」中学入試の合格ラインに男女で40点もの差、その正当性は?《関西にも「男女別定員制問題」》

  • 文春オンライン
  • 更新日:2022/01/16

2021年、都立高校の男女別定員制の是非が話題となった。調査の結果、2021年度の都立高校入試では、男女合同定員制であれば合格していたはずの女子が約700人不合格になっていたことが判明し、今後男女別定員制を段階的に廃止することが決まっている。

【表】男女で合格ラインに40点もの差が…一覧表を見る

2018年にも、医学科の不正入試問題が発覚し、衝撃が広がった。今まさに日本は、入学試験における性差別的な構造や不均衡が指摘され、改善されていく過渡期にあると言えるだろう。

近畿圏の中学受験における「男女別定員制問題」

2000年代後半に近畿圏で私立中学校を受験した筆者らは、先日『私たちの中学お受験フェミニズム』と題した同人誌を発行し、受験生だった当時には気づけなかった、男女の中学受験生を取りまく環境の違いなどについて考察した。

中でも、筆者らが強い問題意識を持ったものに、近畿圏の私立中学受験における「男女別定員制問題」がある。近畿圏では受験生に特に人気のある難関共学校のうち3校が「女子生徒の数を少なく設定した」男女別定員制を採用しており、合格者最低点も女子の方が高い状態が続いているのだ。

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写真はイメージです ©iStock.com

私立であれば男女別定員制を敷くことも裁量のうち、という意見もあるかもしれない。しかし、同じ学校での教育のために女子にだけ高いハードルを課す方針の妥当性は問われるべきだろう。また、近畿圏の中学受験事情を踏まえれば、この3校の男女別定員制が女子中学受験生にもたらす不利益は大きいように思う。

この記事では、なぜこの3校の男女別定員制が女子中学受験生にとって大きな問題となるのかを解説し、こうした男女別定員制に関する見解について3校に取材した結果得た回答を紹介する。

男女別定員制を採用している人気校3校

3校のうちの2校、洛南高等学校附属中学(京都府、以下「洛南高附属」)と西大和学園中学(奈良県、以下「西大和中」)は、現在の近畿圏における‟女子最難関”校である。どちらも複数の中学受験塾で偏差値序列のトップに位置づけられている学校だ。

そして、大阪医科薬科大学と経営母体を同じくし、大阪の女子二番手にあたる高槻中学(大阪府、以下「高槻中」)(※1)も男女別定員制を採用している。

これら3校には、最近15年ほどの間に共学化した元男子校であるという共通点がある。

偏差値60以上で、女子を受け入れる学校はたった3校だった

2005年度までは、近畿圏の中学受験において、各府県のトップ校はいずれも男子校だった。言わずと知れた兵庫県の灘中学、その次点とされている甲陽学院中学、大阪府の大阪星光学院中学、奈良県の東大寺学園中学、これらすべてが現在もなお男子校である。

京都府も洛星中学・洛南高附属と男子校の二強状態で、奈良県ナンバーツーであった西大和中も2013年度までは男子校だった。

そのため、過去の近畿圏では、女子が受験できる難関中学の数は男子に比べて少なく、かつ府県トップとされる学校を選ぶことはできなかった。洛南高附属が共学化した2006年度の中学入試でいえば、偏差値60以上の学校で男子が受験できる学校は8校、女子が受験できる学校は洛南高附属を含め3校だった(※2)。

さらに、入試日程上、女子の併願パターンが限られていたことも影響し、男子と女子の受験校の選択肢には差があったのだ。

女子の合格者最低点のほうが40点高い「洛南高附属」

上記3つの元男子校のうち最初に共学化したのが、洛南高附属だ。

共学化初年度である2006年度入試の合格者数は、男子263名、女子64名と男女で大きく違いがあった(※3)。洛南高附属は募集定員を男女別で公開していないが、合格者数の男女差はその後も顕著にあり、事実上の男女別定員制を設けていると考えられている。

ただでさえ女子が受験できる高偏差値帯の中学校が少ない中で、洛南高附属が共学化すればそれだけで女子の人気を集めることは十分予想されたが、女子の合格者枠の狭さから、倍率や合格目安偏差値は男子に比してより高くなった。その結果、偏差値が1違うだけでブランド力に大きく差がついてしまう中学受験界で、洛南高附属は一気に‟関西女子最難関”の座に躍り出たのである。

共学化から15年経つ現在も依然として、洛南高附属の男女の合格者数には大きな差がある状態だ。

昨年実施された2021年度入試では、女子合格者が81名、男子合格者が219名。たった400点満点の入試で、専願者の合格者最低点は女子の方が男子より40点も高くなっている(※4)。

女子の合格最低点が18点高い「西大和」、約40点高い「高槻」

西大和中は2014年度の募集から中高ともに男女共学となった。

同校は、共学化以前から、難関大学の合格実績を伸ばしていることで注目を浴びてきた。近年は、東京大学への合格者が関西では灘高校に次ぐ数字となっている。2015年には『田舎の無名高校から東大、京大にバンバン合格した話―西大和学園の奇跡』(主婦の友社)という書籍も出版された。

同校も共学化以降、女子の募集が少ない男女別定員制を採用し続けている。2021年度入試の募集人数は男子180名、女子40名と大きく差がある。男女の合格者最低点は500点満点で18点の違いがあり、女子の方が高い(※5)。

2019年度には同じく500点満点で56点もの大差がついていた(※6)。

高槻中が男子校から共学化したのは2017年度と最近である。2021年度入試における募集人数は男子180名、女子90名であった。

男女の合格者最低点はA日程で約40点差、B日程で12点差と、やはり女子の方が高い結果だった(A日程は400点満点、B日程は320点満点)(※7)。

解消されない、女子中学受験生の不利益

これらの学校が共学化した結果、近畿圏で女子が受験できる中学の選択肢は増えた。しかし、共学化したいずれの学校も女子の定員は少なく、また、以前から府県トップであった学校は現在も男子校のままである。男女の選択肢の差が完全に解消されたとは言えないだろう。

また、日本ではいまだに東大など難関大学の女子入学者が増えないのが現状だ。その中で、上記3校はいずれも難関大学の合格実績を大々的にアピールしているトップ進学校である。

そのような進学校が「女子生徒の数を少なく設定した」男女別定員制を採用していることは、難関大学のジェンダーバランスを固定化することに繋がりうるという指摘もある。

このような疑問から、今回上の3校に対して、「文春オンライン」編集部を通じて質問状を送付した。

質問状の要約は以下のとおりである。質問項目全文と各校からの回答は記事の末尾に掲載する。

【質問状 要約】

Q1、2:女子の合格者が少ない男女別定員制を採用している理由、廃止予定の有無。

Q3、4:合格者最低点の男女差に対する見解、合格者最低点の男女差によって何人の女子受験生が不合格となっているか。

Q5:現在以上に女子生徒の数を増やすとすれば、具体的にどのような環境整備が必要になると考えているのか。

Q6:トップ私立中学の男女別定員制が難関大学の男女比にも影響を及ぼしているとの指摘に対する見解。

西大和中、高槻中からは期日までに回答を得た。なお、洛南高附属からは、入試業務が立て込んでいることを理由に、回答を得ることができなかった。

現状の合格者最低点の差は「やむを得ない」…西大和中の回答

西大和中からは電話での回答があった。

入試担当者は、男子校から共学校となるときに男女別定員制を採用した理由について、「女子生徒様を受け入れる設備が整っていなかったこと」「文化的にも男子生徒様を教育する風潮が根強く残っていたこと」を挙げた。

西大和中は、共学化から8年経つ現在まで男子180名女子40名という募集人数を変えていない。女子定員の増員は念頭に置いているものの、「拙速に実施する段階ではない」と認識しているという。

合格者最低点が女子生徒の方が高い入試結果が続いている現状については「本校で男女別定員制を廃止した場合、入学者の女子比率が非常に高くなる可能性」があり、「男子生徒様・女子生徒様の別なくリーダーを育てていくという本校の方針を考えたときに、現在の男女比率のほうが現状では妥当だと考えて」いるため、学校の経営方針として「やむを得ない」と語った。

女子の人数を増やす上でネックとなっているのは「女子トイレ、女子更衣室、更衣のために使う空き教室数の不足」。「現状の数でようやく休み時間中のトイレ使用に対応できているという状況」であり、「女子生徒様の募集定員や入学者数を増やすことが難しいのが現状」のようだ(回答全文はこちらから)。

女子定員を増やし「計画的に共学化に取り組む」…高槻中の回答

高槻中からは書面での回答があった。

高槻中の教頭によれば、現状の男女別定員制は「設備面では女子更衣室や手洗いの改築が必要であったこと、また、女性教員が少ない現状を踏まえ」たものだという。

ただし、2022年度入試からは募集人数を男子160名、女子110名に変更している。男子の募集人数を女子へ20名分移動させるかたちだ。

「2020年に80周年を迎えるにあたり、計画的に共学化に取り組み、2020年3月に校舎の改築工事が終了しました。女子生徒の増員を検討するためには、サポート体制の構築は必至ですので、女性教員の増員については今後も計画的に取り組んでまいります」

共学化してからの歴史が比較的浅い同校だが、着実に環境を整え、「男女共同参画社会の実現に向けて、先進的な教育を女子にも提供できるよう、共学化を進める過程にある」という。今後の取り組みに注目したい(回答全文はこちらから)。

問題視され始めた入試の不平等

ここまで、男子校から共学化した人気3校の男女別定員制について述べてきた。

前述の通り、近畿圏の私立中学受験において、府県最上位を占めるほとんどが男子校であり、女子に門戸を開くトップ校が少ないというそもそもの問題がある。高偏差値帯の女子校も少ない中、女子受験生は共学校にすら扉を狭められ、男子よりも高いハードルを分かった上で、上記の共学校を受験するしかない。

確かに、元男子校の共学化を経て受験可能な学校数の不均衡は縮小し、女子も厳しい競争さえくぐり抜ければ‟最難関校合格”の称号を勝ち取ることができるようになった。しかし、入学後に受ける授業は男子と変わらないはずだ。同じ学校で教育を受けるために越えなければならないハードルの高さが男女で異なるのは、性差別ではないだろうか。

「女子は男子よりも努力しなければ男子と同じ扱いを受けられない」。不平等な受験制度を、大人である教育者でさえ、取り立てて指摘してこなかった。

その制度の中で受験勉強を頑張っている最中の生徒たちが、選抜システムの中にある不平等に自ら気がつき、異を唱えることができるだろうか。合格者最低点が違ったとしても、受験は一度きり。「女だから仕方がない」「文句を言ってもすぐには変わらない」と受け入れるしかなかったのではないか。

実際に、過去の筆者らは受験のジェンダーギャップに鈍感な高校生だった。「どこそこの医学科は女子の合格者数を絞っているから女子は合格しにくい」と予備校で教えられても、そんなものだろうと思っていた。それでも良い点を取って受かればいいんじゃん、と思っていた。

だから、2018年に医学科の不正入試が問題となったときには驚いた。2021年に都立高校の男女別定員制の是非が議論の俎上に上がったときにも驚いた。「私たちは怒っても良かったのだ、私たちは差別されていたのだ」と。

私立中学が男女別定員制を採用するかどうかの判断は、私立校の裁量にゆだねられているのかもしれない。だが、その不平等な制度は、子どもを苦しめるものではないか。社会における教育機関の態度として、その是非が問われるだろう。どうか、真に公正な試験がすべての入学試験において実現することを願う。

※1https://www.nichinoken.co.jp/np5/schoolinfo/pdf/r4/results/r4_2021_w_f.pdf
※2 本記事では『私立・国立中学受験 学校案内(2007年入試用/関西・中国・四国・九州版)』(2006年、日能研)中に記載のある、日能研による結果R4偏差値(入試結果から算出した、合格可能性80%ラインとなる偏差値)を参考としている。
※3 『2007中学受験用 私立中学への進学 関西版』2006年、教育・出版ユーデック、p.247
※4https://www.rakunan-h.ed.jp/to-candidate/admission/examinfo-junior/
※5https://www.nishiyamato.ed.jp/wp/wp-content/uploads/2021/01/453433d47d466e1664ce2ca0bd933ad2.pdf
※6https://nyuushi.shingakukan.com/nishiyamato.html
※7https://nyuushi.shingakukan.com/takatsuki.html

3校へ送った質問項目全文

Q1 貴校は共学化以降、女子が男子よりも少ない男女別定員制を採用していますが、その理由を具体的にご教示ください。

Q2 今後、女子合格者数を男子合格者数と同程度に増やす予定はありますか。あるいは、男女別定員制自体を廃止する予定はありますか。

Q3 定員差の結果、合格者最低点にも男女差があり、女子の最低点の方が高くなっていることについて、どのようにお考えでしょうか。

Q4 合格者最低点の男女差によって何人の女子受験生が不合格となっているか、データとして把握されていますか。もし把握されている場合には、これまでのデータを開示いただきたいです。

Q5 男子校から共学化するにあたって、様々な環境整備が必要であったかと思いますが、現在以上に女子生徒の数を増やすにあたって、設備は足りていますか。足りていないとすれば、具体的にどのような整備が必要になると考えているのでしょうか。

Q6 東京大学をはじめとする難関大学の女子入学者が増えない問題が社会的に注目を浴びています。難関大学合格実績を誇るトップ私学校である貴校による女子合格者数の限定が、難関大学のジェンダーバランスを再生産し固定化する要因になっているとの指摘があります。この点についてご見解をお聞かせください。

西大和中の回答

西大和中からは電話での回答があった。その要旨を掲載する。

Q1 本校は平成元年に「次代のリーダーを育成する」をコンセプトに掲げ、開校しました。当時はジェンダー平等に関する問題提起が現在ほどされておらず、また、カリスマ的なリーダーが単独で引っ張るような組織が多かったため、そういったリーダーを養成していくために男子教育を中心に据えておりました。しかし、社会状況やニーズが変化していく中で、今から9年前、女子生徒様の募集を開始した次第です。

しかし、もともと男子校中学であったため、女子生徒様を受け入れる設備があまり整っていませんでした。また、文化的にも男子生徒様を教育する風潮が根強く残っていたことから、女子生徒様の定員を抑えた状態で募集を開始したことが、現在でも男女別定員制を採用している背景です。

Q2 女子生徒様の定員を増やすことも念頭に置いて、学校経営を進めております。しかし、拙速にそれを実施するという段階ではないと考えており、男女別定員制自体の廃止、といった結論を出す状況ではありません。

Q3 Q2にもかかわることですが、関西地区において、女子生徒様の受け皿になるような進学私立校が少ない状況の中、本校で男女別定員制を廃止した場合、入学者の女子比率が非常に高くなる可能性が考えられます。

男子生徒様・女子生徒様の別なくリーダーを育てていくという本校の方針を考えたときに、現在の男女比率のほうが現状では妥当だと考えておりますので、学校の経営方針として、女子生徒様の合格最低点が高くなるのはやむを得ないと考えています。

Q4 そのようなデータは作成しておらず、把握しておりません。均等に男子生徒様、女性生徒様を合格者として並べるという作業自体が今の本校の方針に合わないので、そのような作業はしておりません。

Q5 設備は足りていません。特に課題となるのが女子トイレ、女子更衣室、更衣のために使う空き教室数の不足です。女子トイレに関しては増設もしましたが、現状の数でようやく休み時間中のトイレ使用に対応できているという状況です。

また、更衣場所も増設してはいるものの、教室から遠い等の問題があります。そういったソフト面・ハード面両方において、女子生徒様の募集定員や入学者数を増やすことが難しいのが現状です。

Q6 全国的に見ても進学私立女子校の数は多くありません。また、公立学校からのトップ大学への進学が多い地方でも、男女別募集定員制を設けていない進学校において、男子生徒比率が高い実情があると思います。

ですから、仮に我々私立学校が女子生徒様の定員枠を広げたとして、本当に女子生徒様に来ていただけるのかという疑問もあります。 また、私立学校がそのジェンダーバランスを固定化する要因の一つでない、とは言い切れませんが、そもそも社会全体の問題でもあるのではないでしょうか。

そういった意味では、男子校としてスタートしながら、女子生徒様も一部募集させていただくことは、女子生徒様も社会のリーダーとして活躍していただける社会になりつつあるという考え方に基づいています。だからといって、男子生徒様のリーダーとしての成長を排除するものでもないです。 本校ではジェンダーバランスを是正する取り組みをしていると考えています。

高槻中の回答

高槻中からは書面での回答があった。その全文を掲載する。

Q1 本校は2017年、中学新入学生から男女共学に移行しました。それまで77年に渡り男子校としての歩みを続けてまいりましたので、共学化にあたり、特に2点、設備面と教員の男女バランスが課題でした。設備面では女子更衣室や手洗いの改築が必要であったこと、また、女性教員が少ない現状を踏まえ、当初募集人数は、男子約180名、女子約90名としました。

2020年に80周年を迎えるにあたり、計画的に共学化に取り組み、2020年3月に校舎の改築工事が終了しました。女子生徒の増員を検討するためには、サポート体制の構築は必至ですので、女性教員の増員については今後も計画的に取り組んでまいります。2022年度中学校入学試験からは、男子約160名、女子約110名の募集に変更します。日常の学校生活はもちろんですが、校内行事、校外行事共に生徒のサポート体制を考慮し、生徒の男女比を定めています。

Q2 女子の募集定員枠を今後段階的に増やす計画はあります。男女別定員制自体の廃止については、現段階では検討していません。

Q3 現状は、男女別定員制において入学試験を実施していますので、その結果としてご理解ください。

Q4 把握しております。開示いたしません。

Q5 設備としては、更衣室、手洗い等、一定整っています。しかし、次年度6学年すべてが共学となり、また、女子の定員を増やしますので、状況に応じて対応します。

Q6 そのようなご意見があることは承知しています。男子校であった本校が、男女共同参画社会の実現に向けて、先進的な教育を女子にも提供できるよう、共学化を進める過程にあるとご理解ください。

(てぱとら委員会)

てぱとら委員会

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