「SNSだけで学ぶのは危険」会社員からライターを経て小説家に転身したカツセマサヒコが語る、学びの本質

「SNSだけで学ぶのは危険」会社員からライターを経て小説家に転身したカツセマサヒコが語る、学びの本質

  • Schoo PENCIL
  • 更新日:2020/09/16
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人生で一番、自然な学びを求めた小説執筆期間

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――本格的な小説を書いたのは、今回が初めてですか?

カツセマサヒコさん(以下、カツセ):ライターとして、Web小説の依頼を受けて書いた経験はあります。ただしWeb小説は長くても5000文字程度。文芸作品として出版するにあたっては、10万字近く執筆する必要がありました。

短距離走と長距離走で使う筋肉が違うように、文章も文字数が違えば使うスキルが変わります。執筆期間中は筋トレをするような感覚で、これまで未経験の文字数に慣れていきました。

――『明け方の若者たち』執筆にあたり、小説についてどのように学びましたか?

カツセ:主に取り組んだのは、文芸作品や映画の研究です。作品のどこに山場が来るのか、どういった構成なのか俯瞰しながら、メモを取りつつ読み取りました。映画を観るときは、時計を見ながら物語の展開タイミングをチェックしていたこともあります。

小説の書き方に関する指南書も数冊読みましたが、実際の作品から得た情報のほうが多いと思います。そもそもノウハウを語る本を読むときは、はじめから全部を鵜呑みにしないよう心がけています。一冊につき3つくらい学びがあれば十分だと思っているんです。

――執筆期間は約2年半と伺いました。学びという観点で振り返るとどんな期間でしたか?

カツセ:学ばなければ、と気張ったわけではありません。自分の作品を書きたいからほかの作品にも興味が芽生えて、インプットする時間が増えていきました。目標が明確にあるときの学びは、自然に向き合えるものなのだと思います。

本作は10章に分かれていますが、前半4章までを書き上げるのに1年以上かかりました。それが先ほど話したような“筋トレ”や研究の期間だった。そして、ある程度小説の書き方について慣れた後半からは、スムーズに書き進むことができました。作品の前半と後半で文章の印象が異なるように感じる方がいたら、それは得られた学びの差などがあったからだと思います。

学びにも目標にもしない、SNSとの付き合い方

――小説執筆にあたってSNSを利用した場面はありましたか?

カツセ:リアルな感情を参考にする場としては、SNSから得たものも大きいです。特に(僕が運営している)公式LINEアカウントではフォロワーさんのほうから話しかけられますから、他の誰にも話せないような本音や意見を集めることができました。そうした話から発見した気付きは、作品の随所に取り入れています。

――SNSはあくまで読者の声を聴く場であり、学びとは異なるものなんですね。

カツセ:そもそもSNSを通じて学びを得ようとする姿勢は危険だと思っています。

SNSは自分の見たい情報を得るためにフォローしているはずなので、その時点で、偏った情報から学んでしまう可能性が高いんです。もしもSNSを通じて学ぼうとするのならば、自分が興味のない情報や苦手だと思う情報も意識的に取り入れる必要があると思います。

――ツイッタラーとしても有名なカツセさんですが、「SNSで影響力をつけること」をどう捉えていますか?

カツセ:僕にとってSNSでフォロワーを増やすことは目標を達成するための手段のひとつではありましたが、影響力をつけること自体が目標になったことはありません。

もちろん小説出版の機会はTwitterがあったからこそいただいたものだとは思います。一方で、もしも「影響力の拡大」自体を目標としていたら、もっと早くツイートをまとめただけの本を出したり、オンラインサロンを作ったりしていたかもしれません。そちらのほうが楽じゃないですか。でも、僕はそっちに逃げたくなかったです。

成長し続けるために使い分けるふたつの目

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――今後、作家として挑戦してみたい作品はありますか?

カツセ:今回『明け方の若者たち』では、きわめて自分に近い主人公や周辺の世界を描きました。次は、例えば高齢のおばあちゃんのような、自分とはかけ離れた人物を中心に作品を書いてみたいです。

“自分と共通点のない環境や対象でも通じあえるのが共感の力だ”という言葉を胸に刻んでいます。自分と近しい境遇や感情に共感するのは当たり前ですから、かけ離れた対象を描いても共感を得られるような作品づくりが次の目標です。

――ストイックに挑戦し続けるカツセさんですが、現状に満足することなく進む原動力はありますか?

カツセ:上には上がいることはいつも意識しています。もしかしたら、僕は新人作家としては売れているほうかもしれませんが、じゃあ又吉直樹さんの『火花』と比べればどうかと考えれば、足元にも及びません。だから、満足なんてほど遠い。僕が作家としてほんとうに満足する日が来るのだとすれば、日本一の作家陣のひとりとして認められたときではないでしょうか。

一方で、常に大きな背中を追いかけていたら息切れしてしまいますから、今目の前にある一つひとつのしあわせを感じる時間も大切にしています。本を出版できたこと、こうして取材を受けていること……大学生のころの僕が今の僕を見たら、きっとおどろくはずです。 上を目指す眼差しと、今の自分の努力を見つめる目。このふたつの目を使い分けています。そのほうがしあわせに生きられると、昔から感じていた気がします。

成長とステップアップの根源にあるのは「逆算」と「自覚」

――大手企業から編プロへ転職、独立、そして作家デビュー……着々と目標を達成し次のステップへ進んでいるカツセさんですが、キャリア形成のコツはありますか?

カツセ:僕は先に将来の目標を設定してから、逆算して今の行動を決めます。目的地に向かって船をこぎながら、「この方向で合っているかな」と確認して進むイメージです。

目標の解像度を高くすることも重要かもしれません。例えば、僕の場合は2015年ごろから文芸作品を世に出したいと思っていました。そしていざ出版が決まったとき、より具体的なビジョンを描いてみたんです。すると、ただ半端なクオリティのものを書いて刊行するだけではきっと売れないし、人生に何の変化も訪れない予感がしました。

書店でエッセイやタレント本の棚ではなく、文芸の棚に置かれるためには? 帯にはどんな人からコメントをもらえるだろうか? いろいろな可能性を考えて未来の解像度を高めることで、今どんな仕事をすべきかがわかってくるんです。それこそネタ系の面白記事ばかり書いていた時期もあったんですけど、それをやっていたらいつまでも小説家にはなれないよな、とか(笑)。

――その逆算思考がコンテンツをつくるときにも役立っているから、多くの人の心に届く、共感性の高いコンテンツを生み出すことができるのでしょうか?

カツセ:そもそも僕は“大衆に届くものを作りたい”という意思が明確にあります。だから音楽でも映画でも人気のあるものはひと通りチェックしますし、それらに素直に感動できる大衆的な心を忘れないようにしています。広く浅く知って、なんでも好きになる。僕は正直に言えば、凡庸な人間です。それを自覚しつつ、一方で「そのままじゃダサいよね」と問いかける自分自身もいます。

この狭間にいるからこそ、学び続けなければならないと思えるし、その凡庸さを強みにフルスイングしてホームランを狙いに行こうとも思えるんです。自分のダサさや凡庸さを自覚することで、大衆に届くメッセージにたどり着くことができると思います。

――では、そのメッセージを伝えるときに意識していることはありますか?

カツセ:ある企業の代表が言っていた言葉なのですが、“面白いより、面白そうのほうがエラい”という言葉が指標になっています。

サムネイルとタイトルだけでWeb記事を読むかどうか判断するように、消費者は想像以上に抽象的なきっかけで心を動かし、行動するものです。“ばっくりとした”消費者的な視点を忘れることなく、“なんとなく面白そう”と思ってもらえる伝え方を心がけています。

『明け方の若者たち』も、内容や装丁、タイトルなど、あらゆる部分に読者が面白そうだと感じる工夫を凝らしました。

どんな人生だって「こんなはずじゃなかった」。だから明日も学ぶ人生を選べる。

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――学び続けるビジネスパーソンにアドバイスはありますか?

カツセ:もちろん学ぶ意識は大切ですが、まずはやってみることから始めましょう、と伝えたいです。

僕にとって学びは、“学び足す”ものです。まずは行動してみて、何が不足しているのかを明確にしてから、それを補足するための手段が学びなんです。

たくさんあるルールをゼロから覚えようとすると、時間がかかりますよね。まず行動してみて何を学ぶべきか選んでからのほうが、目標に向けて効率的な学びを得ることができます。

――現状を打破したいビジネスパーソンに、メッセージをお願いします。

カツセ:『明け方の若者たち』には、「こんなハズじゃなかった」というキーワードがたびたび登場します。この言葉は、失敗したひとだけのものではないと思っているんです。

どんなに成功した人生を送っているように見えるひとでも、必ず人生のどこかには「こんなハズじゃなかった」を抱えています。もちろん、僕だって「こんなハズじゃなかった」って思って生きています。

でも、努力して変わったところで「そんなもんなんだ」と、あきらめることはいつだってできるんです。そこで腐っちゃったら、他人の人生に相乗りするだけの人間になってしまいます。

だからこそ僕らはあがくし、そこから学んで、また変わっていくんだと思います。今の自分の努力を認めてあげつつ「こんなハズじゃなかった」と悔いて、より良い明日を目指し続けることで、自分の人生を生きられるのかもしれません。

僕もそうやって、あがき続けています。そして皆さんと一緒に、あがき続けたい。そんな思いをこめて『明け方の若者たち』を書いたので、皆さんにその想いが届くことを願っています。

取材・文=宿木雪樹写真=藤原 慶

【プロフィール】

カツセマサヒコ1986年生まれ。大手出版企業就職後、ブログがきっかけでライターとしてスカウトされ、2014年編集プロダクションへ転職。Twitterで理想の恋愛模様を事細かに描く“妄想ツイート”が10~20代を中心に話題となり、フォロワー数を伸ばす。2017年、独立。ライター、編集者としてウェブ、誌面、テレビ出演等幅広いメディアで活躍中。2020年6月、初の著書『明け方の若者たち』(幻冬舎)で作家デビュー。

【作品情報】

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『明け方の若者たち』カツセマサヒコ幻冬舎

早期内定の“勝ち組”だけが参加する飲み会で出会った、あるひとりの女性。「私と飲んだ方が、楽しいかもよ笑?」。彼女から届いたそのメッセージから、恋は始まった。学生さいごの季節をひた走る、燃えるような恋心と鮮やかな情景。時間を重ね理解を深めるごとに、彼女への想いは募っていく。

そして就職という節目を迎え、主人公の心は徐々にモノクロームな日常に侵される。彼女への想いと、人生への「こんなハズじゃなかった」という悔いはふくらみ、やがてある日を境に、ひとつに交わる。 時間の使い方や人生のとらえ方が激変する大学卒業から新卒時代までの心の動きを精緻に描いた本作は、誰もが過去を重ねて共感する恋愛物語であり、大人のための青春譚であり、今を悩むビジネスパーソンが人生を振り返るための一冊でもあるのだろう。

登場人物それぞれが持つ仕事観やキャリア選択、そして2010年代のカルチャーをフラッシュバックさせる、随所にちりばめられた名曲やスポットの描写も見どころだ。若者たちのための物語でありながら、過去に若者であった人たちの心にも響く作品である。

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