米FRBは金融政策の正常化に踏み出すか

米FRBは金融政策の正常化に踏み出すか

  • マイナビニュース
  • 更新日:2021/06/11
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マネ―スクエアのチーフエコノミスト西田明弘氏が、投資についてお話しします。今回は、米国の金融政策について解説していただきます。

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○5月のインフレ率は一段と加速

米国の5月のCPI(消費者物価指数)は前年比5.0%と、大幅に上昇した4月(同4.2%)から一段と加速。エネルギーと食料を除くコアCPIも3.0%から3.8%に加速しました。

CPIは2カ月連続で、米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)がインフレ率の目標としている2%を大きく上回りました(※1)。

(※1)FRBが重要視している物価指標はPCE(個人消費支出)デフレーターで、食料とエネルギーを除いたコアですが、4月のPCEコアは前年比3.1%と高めでした。5月分は6月25日発表。
○FRBが静観する2の理由

インフレ率が加速するなか、FRBは静観の構えを崩していません。主な理由は2つ。

1つめは、「インフレ率の上振れは一時的」と判断しているからです。足もとのインフレ率を前年比でみると、比較対象となる1年前が低かったことの反動、いわゆる「ベース効果」で押し上げられています。ベース効果は今年5月に最も大きくなり、その後は徐々に低下するとみられます。

また、原材料価格や労働コストの上昇は、コロナ対策での操業停止などサプライチェーンの障害に起因している面もあります。米国ではワクチンの普及に伴って新規感染者数が減少しており、行動制限も順次解除されています。サプライチェーンの障害も早晩解消されそうです。

2つめは、FRBがインフレ率の上振れを容認するよう金融政策のスタイルを変更したからです。かつてはインフレ率が2%に接近すると、それを超えないように早めに金融を引き締めていました。しかし、低インフレ環境が長期化したこともあり、単にインフレ率が2%に到達することを目指すのではなく、一定期間の平均が2%になることを目指すようになりました。

例えば、上述したPCEコアデフレーターの前年比は過去5年間の平均が1.6%です。したがって、FRBは今後5年間の平均が2.4%であっても容認するかもしれません。もっとも、FRBはどのぐらいの期間で平均をみるのか、その場合どの程度の上振れまでは容認するのかを明確にはしていません。そのため、FRBは極めて裁量的に判断を下す可能性もあります。

○高インフレが長期化する可能性

もっとも、インフレの上振れが長引く可能性は否定できません。ベース効果は徐々にはく落します。ただし、CPIは今年に入って前月比0.5%のペースで上昇しています。仮に、そのペースが続くならば、ベース効果がゼロになったとしても、CPIの前年比は今年中に6%に達して、その状態が続きます。コロナの行動制限が解除されて、世界中で個人消費などの需要が急回復すれば、サプライチェーンの障害が解消されても、需給のひっ迫が続き原材料の価格は高止まりするかもしれません。

金融市場では、将来的にインフレ率が2%を超えるとの見方が強まっています。5年物と10年物の通常国債とインフレ連動債、それぞれの利回りからブレークイーブン・フォワードレートを算出することができます。これは、今から5年後から10年後までの5年間のインフレを金融市場がどう予想しているかを示します。このブレークイーブン・フォワードレートは今年に入って2%を超えており、5月には一時2.4%を超えました(6月11日時点で2.25%)。
○世界の中央銀行は動き始めた!?

世界の中央銀行も、インフレに対する警戒を強めたり、少なくとも現行の強力な金融緩和を修正すべきと考えたりし始めているようです。BOC(カナダ中銀)は4月にQE(量的緩和)のペースを縮小しており、早ければ7月にも一段の縮小に踏み切る可能性があります。そして、22年後半の利上げ開始を示唆しています。RBNZ(ニュージーランド中銀)は22年7-9月期の利上げ開始を想定しています。BOE(英中銀)やECB(欧州中銀)は年末あるいは来春にQEを終了させる可能性があります。
○6月FOMCの判断はどうなるか

FRBでも、4月のFOMC(連邦公開市場委員会)で「今後の会合のいずれかでテーパリング(QEの段階的縮小)の議論を開始するのが適切」との意見も出ました。最近になっても、クオールズ副議長やクラリダ副議長が、近々テーパリングの議論を開始すべきと述べています。早ければ、6月15-16日のFOMCで何らかの公式メッセージが発せられるかもしれません。雇用や物価関連のデータ次第では、7月のFRB議長の議会証言や8月のジャクソンホール会合(※2)などで十分に意図を説明したうえで、22年の早い段階からテーパリングを開始するとのシナリオも現実味を帯びるかもしれません。

(※2)FRB傘下のカンザスシティ連邦準備銀行が例年8月にワイオミング州ジャクソンホール(Jackson Hole)で開催する経済シンポジウム。過去に何度か金融政策の変更に関するメッセージが発せられたことがあり、金融市場関係者が注目しています。21年は8月26‐28日開催。

西田明弘(マネースクエア) マネースクエア チーフエコノミスト。日興リサーチセンター、米ブルッキングス研究所、三菱UFJモルガン・スタンレー証券などを経て、2012年にマネースクウェア・ジャパン(現マネースクエア)入社。「投資家教育(アカデミア)」に力を入れている同社のWEBサイトでレポートを配信(一部は口座をお持ちの方限定で公開)する他、投資家のための動画配信サイト「M2TV」でマーケットを解説。 この著者の記事一覧はこちら

西田明弘(マネースクエア)

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