フランス人記者が見る、安田純平氏「自己責任論」の根底にある社会的背景

フランス人記者が見る、安田純平氏「自己責任論」の根底にある社会的背景

  • 週プレNEWS
  • 更新日:2018/11/09
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「日本では、ジャーナリストがリスクを冒して戦地から得る貴重な情報よりも、日本人が現地で事件や事故に巻き込まれないことが優先される」と語るメスメール氏

3年4ヵ月もの間、シリアで武装勢力に拘束されていたフリージャーナリストの安田純平氏に対し、「自己責任」を問う激しいバッシングが沸き起こった。日本で長らく生活する外国人ジャーナリストの目には、この「自己責任論」はどう見えているのか? 「週プレ外国人記者クラブ」第132回は、フランス「ル・モンド」誌の東京特派員、フィリップ・メスメール氏に聞いた――。

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──日本政府が渡航自粛を呼びかけていたにもかかわらず、現地に入って拘束された安田さんに対し、「自己責任論」によるバッシングが沸き起こっています。メスメールさんはこうした反応をどのように見ていますか?

メスメール ある程度予想できたことで、特に驚いてはいません。日本で「自己責任論」が最初に沸き起こったのは、2004年にイラクでボランティア活動家ら3人の日本人が人質になったときだったと思いますが、当時と今回では状況が大きく異なります。

2004年のときは自衛隊のイラク派遣問題が絡んでいたという政治的な事情もあり、政治家たちが積極的に言及して自己責任論を広めていた。それに対し今回は、より単純な「フリージャーナリストが海外で人質となった」事件であり、自己責任論は政府からというより、日本社会の中から沸き起こり、拡散しているように見えます。

もちろん、日本人のすべてが自己責任論を支持しているわけではないでしょう。しかし、2004年から14年が経った今、自己責任論的な考え方が日本社会に広く定着し、既に多数派を占めているように感じています。そこで、私なりに考えてみたのですが、自己責任論が主流派になっていることには、いくつかの背景があると思います。

──どんな背景でしょう?

メスメール まず挙げたいのは「日本人と情報」の問題です。安田さんは自らリスクを背負って危険な現地に赴き、「シリア内戦で何が起きているのか」という現実を、自分自身の手による「生の情報」で伝えようとしていたわけですが、日本社会ではそういった「生の情報」、「正確な情報」の重要性が理解されていない、あるいは軽んじられているように思います。

日本社会が「情報の価値」よりも優先するのは「社会の調和と安定」です。リスクを冒して戦地から得る貴重な情報よりも、日本人が現地で事件や事故に巻き込まれないことが優先される。だから、政府は危険地域への渡航自粛を呼びかけ、テレビや新聞などの大手メディアもその要請を受け入れる。なぜなら、それが双方にとって安全で、都合がいいからです。

そのため、「フリージャーナリストが政府の自粛要請に反してシリアの戦地に入り、人質となって社会に迷惑をかけた」という文脈で問題が捉えられ、「社会の調和を乱した人」と批判の対象になる。これが自己責任論の最も大きな背景だと思います。

言い換えれば、貴重な情報を社会に提供するために「必要なリスクを取る」という覚悟が足りない。情報がそれほど重要なものだという認識が共有されていない。そのため、シリア内戦のような危険を伴う現場に入り「生の情報」を伝えようと努力しているのはテレビ局や大手新聞社や通信社ではなく、安田さんのようなフリーランスのジャーナリストばかりです。

──確かに、欧米ではBBCやCNNなどのテレビ局や大手新聞社、通信社などのメディアが戦地にジャーナリストを派遣していますが、日本はフリーランス頼みという感じですね。

メスメール 第2の背景は、「情報の価値」とも関係するのですが、日本社会における「ジャーナリストの扱い」です。フランスでもシリアやアフガニスタンなどの戦地で取材をしていたジャーナリストが現地で人質になったり、長期間拘束されたりという事件がいくつも起きていますが、多くの場合、開放されたジャーナリストは称賛の対象になっても批判の対象にはなりません。解放され、帰国したジャーナリストを、わざわざ大統領が空港まで迎えに出向くといったことすらあります。

近年はジャーナリズムに対するさまざまな批判も沸き起こっていますが、それでもなお「多くの人たちの代わりに、見えない事実を明らかにし、情報を広く世の中に伝える」という、ジャーナリズムの役割に対するリスペクトはフランス社会に広く共有されていますし、メディア側でジャーナリズムに関わる人たちも、自分たちの責務に対する誇りを持っています。

しかし、特に近年の日本では、ジャーナリズムの意義に対する社会のリスペクトも、メディア側の誇りも、急速に弱まりつつあるように見えます。日本政府の対応にはジャーナリズム、メディアへのリスペクトが全く感じられませんし、特に、安田さんのような大手メディアの組織に属さないフリーランスに対する日本社会の扱いは酷いですね。

──民主主義が正しく機能するためには「言論の自由」や「報道の自由」が欠かせません。主権者である国民の「知る権利」を支えるのはメディアやジャーナリズムが伝える「情報」のはずなのに、その大切さが日本人にはきちんと理解されていない......と。

メスメール 第3の背景は、急速な高齢化に伴う社会全体の「保守化」があると思います。一般的に言って高齢化は社会の保守化を引き起こします。彼らの関心はどうしても「内向き」になり、「日本の外で起きていること」への関心はあまり高くない。

それどころか、近年は高齢者だけでなく、若者の間でも保守化や内向き化が進んでいて、政府が目指す国際化とは逆に、社会全体が「閉じてゆく」傾向にある。その中では、石油や天然ガスといったエネルギー供給の問題を除けば、中東などの遠い国で起きている内戦や難民の問題は、情報の価値が低いのです。

こうした日本社会の保守化と共に、自己責任論の背景にあるのが、世界的に広まりつつある「新自由主義」的な考え方です。今回の安田さんの件だけでなく、合理性や競争原理を基準に、すべてを「成功」か「失敗」で判断し、成功すれば「勝者」、失敗すれば「敗者」という、単純な構図で世の中の事象を捉えてしまう傾向が、日本社会に広がる自己責任論の根底にあるように思います。

●フィリップ・メスメール
1972年生まれ、フランス・パリ出身。2002年に来日し、夕刊紙「ル・モンド」や雑誌「レクスプレス」の東京特派員として活動している

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取材・文/川喜田 研 撮影/長尾 迪

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