星野源にも絶対わからない「東京五輪を開く理由」

星野源にも絶対わからない「東京五輪を開く理由」

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2017/08/11
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東京オリンピックまで、あと3年。いまだ諸問題は落ち着かないが、私たちはこのイベントについてどれほど知っているだろうか。

ジャーナリストの森田浩之氏がオリンピックの知られざる重要な側面を追い、「TOKYO 2020」を多角的に考えるための連続リポート。最終回は、オリンピックを開く動機・メリットから、重大な問題を明らかにする。

第1回はこちら『東京オリンピック「経済効果予測」のオカシさを暴こう

ライバルは、1964年?

東日本大震災のときにテレビの公共広告で一躍知られるようになったACジャパンが、2020年東京オリンピックにまつわるCMを作った。

このCMで歌い、語るのは、いま人気絶頂の星野源だ。

「2020」という4けたの数字が、パラパラパラと「1964」にまで戻る。「1964」の世界で最初に映し出されるのは、今はなき国立競技場。東京オリンピック開会式での聖火点灯のシーンだ。

人々の笑顔が映る。今とは明らかに雰囲気が違う半世紀前の日本人の顔。子どもたちの笑顔。家族の笑顔。純朴という言葉が頭に浮かぶ。まだ貧しい国であることもわかる。

そして、植木等が登場する。星野源も「憧れの人」だというスーパーコメディアンのとぼけた顔。ある時代を象徴する植木の顔が、なんとも魅力的に映る。

星野源のナレーションが入る。

〈あのころの日本人に、笑顔で負けるな〉
〈見る夢の大きさで負けるな〉
〈人を思いやる気持ちで負けるな〉
〈暮らしの豊かさだけじゃなく、こころの豊かさでも、ぜったい負けるな〉

決めの言葉は──

〈ライバルは、1964年〉

最後に〈2020年に向け、日本を考えよう〉というテロップが入る。

楽しいCMである。ネット上の評判も、とてもいいようだ。

だが同時に、このCMはオリンピックについて重要な問題を示している。

それはオリンピックを開く理由が、過去の自分たちを乗り越えることくらいしかなくなったという点だ。

オリンピックに向けて国民がひとつになるには、〈あのころの日本人に笑顔で負けるな〉といった合言葉を持ち出さなくてはならなくなったということだ。

オリンピック開催のメリット

そもそも、1896年に始まった近代オリンピックは、今までなぜ開催されてきたのか。オリンピックの開催地には、どんな利益があると考えられてきたのだろう?

この点については、昨年のリオデジャネイロ大会後にNHK『おはよう日本』で刈屋富士雄解説委員が語った内容が論議を呼んだ。

「伸身の新月面が描く放物線は、栄光への懸け橋だ!」をはじめとして、オリンピックの実況アナとして数々の名言を残している刈屋は、「五輪開催5つのメリット」として以下の項目をあげた。

1 国威発揚
2 国際的存在感
3 経済効果
4 都市開発
5 スポーツ文化の定着

このうち最初に掲げた「国威発揚」が、「オリンピックは国家間の競争ではない」と定めたオリンピック憲章に反するとして、刈屋の指摘は批判を浴びた。

だがオリンピックの歴史を振り返れば、刈屋のあげたポイントはまったくまちがっていない。むしろ、国家間の競争ではないというオリンピック憲章の規定が建前でしかないことに、多くの人が勘づいている。

「国威発揚」と言うと、ヒトラーが政治利用したと言われる1936年のベルリン大会が頭に浮かぶ。刈屋がそれをトップにあげたことも、批判を誘う大きな要因になったかもしれない。しかしベルリン以外の大会でも、国威発揚が目的ではないオリンピックなどあっただろうか。

たとえば、1964年の東京大会。敗戦からわずか19年後にこのメガイベントを開催する目的が国威発揚でなかったとしたら、いったいほかに何があるだろう。

国威発揚という言葉の響きはよくないが、当時の日本が1964年の東京オリンピックを成功させることが国際社会に復帰する第一歩と考えていた点は異論のないところだろう。

何かが変わりはじめた

そのあたりまでは、まだライバルはいたのだ。大会招致にも対抗馬がたくさんいたし、大会が始まればメダル争いも激しかった。

オリンピックが実際には国家間の競争であり、国威発揚の場であることは、大会期間中の新聞やテレビで報じられる国別のメダル獲得数が何より大きな証拠だった。

しかし、ここへ来て何かが変わりはじめた。

いくら国威発揚に効果的だとはいえ、オリンピックは金がかかりすぎるイベントになった。そのため、大会招致に住民の支持を得にくくなってきている。

17日間のスポーツ大会のために巨額の金を投じて街をつくり変えようという都市は、今ではすっかり少なくなった。

2022年の冬季オリンピックでも、オスロ(ノルウェー)とストックホルム(スウェーデン)が開催に住民の支持が得られないとして立候補を取り下げ、サンモリッツ・ダボス地域(スイス)や、クラクフ(ポーランド)、ミュンヘン(ドイツ)は住民投票で反対が多数だったことから招致を取りやめた。

結局、開催都市は北京に決まった。雪が降らない街だが、幸か不幸か、住民投票もない。

立候補した都市の撤退が相次ぎ…

東京オリンピックのあとの2024年と2028年の夏季大会の開催都市選びをめぐっては、前例のないことが起こった。

2024年大会を招致したのは、ハンブルク(ドイツ)、ローマ(イタリア)、ブダペスト(ハンガリー)、パリ(フランス)、ロサンゼルス(アメリカ)の5都市だった。ところが立候補の届け出後に、撤退する都市が相次いだ。

ハンブルクは2015年11月に行った住民投票の結果、反対票が過半数に達したため、招致を取り下げた。

ローマは昨年9月、財政難を理由に辞退した。

ブダペストは今年2月、招致の是非を問う住民投票を行うことを求めた署名が必要数に達したため、招致成功の見込みが薄くなったという判断から、やはり立候補を取り下げた。

こうして2024年大会の開催地候補に残ったのは、パリとロサンゼルスの2都市だけになった。

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〔PHOTO〕gettyimages

2022年の冬季大会では、招致を検討しながら断念した都市が相次いだ。2024年の夏季大会では、正式に立候補した5都市のうち実に3都市が撤退した──この状況に、IOC(国際オリンピック委員会)もさすがに焦ったのだろう。

IOCは奇策を考えついた。

2024年と2028年の2大会を、2024年大会にまだ手を挙げているパリとロサンゼルスの2都市に割り振るというものだ。将来、立候補都市が出てこなくなる日がやって来るのではないかという不安の表れだった。

パリは2024年大会を、前回開いた1924年大会の100周年の記念大会にしたいと考えていた。そのためもあって、2024年大会はパリ、2028年大会はロサンゼルスで開催という方向でほぼ決まり、9月のIOC総会で正式決定される手はずになっている。2028年の開催都市は、実に大会の11年前に決まることになる。

もうオリンピックは、よほどのことがないと開けないイベントになった。この先、巨額の開催費用に対する住民の目はさらに厳しくなり、大会招致に手を挙げる都市はいっそう限られてくるだろう。

オリンピックは、IOCも扱いに困るモンスターのようになってきた。

はたして大義はあるのか

そんななかで、なぜ東京はオリンピックを開くのか?

思い起こせば招致活動中、オリンピック招致に対する住民の支持は、2020年大会に立候補した都市のなかで最も低かった。オリンピックに尻込みする国や都市が増えているなか、東京が2度目のオリンピックを開く大義とは何なのだろう。

NHKの刈屋解説委員があげた5つのポイントに沿って考えてみる。

まず「国威発揚のため」や「国際的存在感」を高めるためというポイントは、1964年大会を開く理由としては当てはまっただろう。しかし日本が世界の大国となってから開催する2020年大会で大きなメリットになるかと考えると、いささかピンと来ない。

「経済効果」に期待する向きはもちろん多いだろうが、以前の記事(参照「東京オリンピック『経済効果予測』のオカシさを暴こう」http://gendai.ismedia.jp/articles/-/52141)で指摘したように、これほどいい加減で当てにならない指標もない。

「都市開発」は「経済効果」というポイントと重なるように思えるし、「スポーツ文化の定着」は他の4項目に比べると大会を開くメリットとしては小ぶりな感じがする。

なぜ東京はオリンピックを開くのか──この問いに対して納得できる答えは、なかなか見つかりそうにない。

「あの日を超える未来」とは?

そこで、星野源の出番となる。

東京でオリンピックを開く理由が見つからないなら、大会に向けて日本人をひとつにする大義がないなら、つくり出してしまえばいい。

競うべきライバルが見つからないなら、こちらもつくってしまえばいい。自分たち自身をライバルと位置づけてもいい。そう、〈ライバルは、1964年〉でかまわないのだ。

国民みんなが共有できるような大きな目標を見つけにくい時代に、ニッポンをひとつにするのはむずかしい。そこで人気絶頂の星野源が引っ張り出され、〈笑顔〉や〈見る夢の大きさ〉や〈人を思いやる気持ち〉や〈こころの豊かさ〉で、1964年当時の日本人に負けるなと説くことになった。

オリンピックを開けば、2020年には本当に〈笑顔〉でいられ、〈こころの豊かさ〉を保っていられるのか。東京オリンピックにからんで、すでに私たちは笑顔ではなく、しかめ面をするようなニュースをたくさん見聞きさせられてきた。

大きなトラブルだけをあげても、新国立競技場の設計案が白紙撤回され、公式エンブレムも「パクリ疑惑」から撤回された。新たにコンペで決まった新国立競技場の設計案は、聖火台の設営を忘れていた。そのうえ、招致活動に裏金が動いたと英紙に報道される始末。

あと3年間の道のりは、どうなるのだろう?

ACジャパンのCMのバックに流れる星野源の曲「Hello Song」に、<いつかあの日を><超える未来>というフレーズがある。

〈あの日を超える未来〉──映像と合わせて聴くと、東京が輝いた1964年より素晴らしい未来がまもなくやって来るという意味に思える。

その未来とは、2020年のことだろうか?

答えは、星野源にもわからないにちがいない。

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