フィンランド独立100周年、貧しさから脱した方法は

フィンランド独立100周年、貧しさから脱した方法は

  • WSJ日本版
  • 更新日:2017/12/05
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【ヘルシンキ】フィンランドは今週、独立から100周年を迎える。これには、困難な状況をものともせず、この国が生き延びたことを祝う意味もある。

レーニンは、ロシアで自ら権力を掌握した数日後に、ロシアからの自治権をフィンランドに認めた初の世界的な指導者となった。しかし本人でさえ、その状態が長く続くとは思っていなかった。レーニンは、フィンランドがじきに自身のボリシェビキ(訳注=ロシアのボリシェビキの支援を受けた赤衛隊)革命運動に屈し、ソ連に加わるだろうと計算していた。だが、そうした革命運動は、激しい内戦にもかかわらず、失敗した。第2次世界大戦中にフィンランドを併合しようとしたソ連の試みも同じように失敗した。フィンランドは戦後、とりわけ東西冷戦期を通じて慎重な外交によって生き残り、西側の国としての地位を確立することができた。

しかし12月6日の記念日は、フィンランド人が建設した国を祝う日でもある。彼らはこの100年間で、欧州で最も貧しかった一角を、世界で最も豊かで平等かつ満足度の高い国に変えた。フィンランドは教育、イノベーション(技術革新)、政治的安定および生活の質という点で、常にランキングの最上位付近に位置する。しっかりとした制度と強力なセーフティーネットを基盤とするフィンランドの「ノルディック(北欧)モデル」は、開発途上諸国、とりわけ紛争後の再建に取り組む国々にとって指針となっている。

この北欧モデルは、意図的に作られたのではなく、必要によって生まれた。これはフィンランド人たちが真っ先に認めることだ。有名なフィンランドのエガリタリアニズム(平等主義)の発端をたどると、ボリシェビキ的なアジェンダ(政策課題)の大半を受け入れることで、内戦で受けた傷を急速にいやす必要があったことにたどり着く。とりわけ、土地改革との関係でそうだった。第2次大戦後の数々の成果、例えば産業基盤の構築、質の高い教育と強力なセーフティーネットの提供、男女平等の推進といった成果を得られたのは概して、ソ連に賠償金を支払うためにフィンランドの全資源を動員する必要があったからだった。

だが、冷戦が終結しても、フィンランドの苦難は終わらなかった。同国はソ連崩壊後の1990年代初めに深刻な不況を経験した。ソ連は当時、フィンランドの主要な貿易相手だったからだ。近年でも、2011年から15年にかけての4年間は、一連の打撃を受けて経済が収縮した。

例えば、紙の需要が世界的に急減して森林セクターが打撃を受けたことや、アップルのiPhone(アイフォーン)の台頭による携帯電話部門の不振によって通信大手のノキアが崩壊寸前になったこと、14年に欧州連合(EU)が制裁を始めたためにロシアとの貿易取引が失われたこと、原油価格の崩落とロシア通貨ルーブルの切り下げ、そしてユーロ圏危機などだ。

実際、失業の増加と生活水準の低下により、フィンランドを原因として欧州が不安定になるのではないかと思われた時期もあった。2011年の総選挙では右翼でユーロ懐疑派のナショナリスト政党、「真のフィンランド人」が得票率19%で第3党になり、15年の総選挙では得票率17%で第2党となった。それは、その後2年間にわたって欧州を吹き荒れたポピュリスト(大衆迎合主義)的反乱の先駆けだった。

2015年に「真のフィンランド人」は連立与党の一角として政権入りさえ果たし、ユーロ崩壊を防止するためギリシャに提供される救済措置にフィンランドが拒否権を発動するのではないかとの懸念が高まった。同時に論客のなかには、フィンランド自身がユーロを放棄すべきだと主張する向きもいた。ユーロを維持していては本当に必要な通貨切り下げが不可能だからという主張だった。

それでも、フィンランドはこのような破滅論者に挑んできたし、再び繁栄しようとしている。政府は、輸出と投資が力強く伸びた結果、今年の経済成長率を2.9%と予想している。フィンランド経済に打撃を与えたショック現象はおおむね逆転した。例えばユーロ圏は力強い回復途上にあるうえ、ロシア貿易は、制裁が依然として実施されているものの、石油価格上昇につれて拡大している。そしてノキアと林業は再編されて回復している。そうしている間に「真のフィンランド人」は分裂し、大衆の支持を失った。

フィンランドはそれでもなお難題に直面している。人口の高齢化はそれに関連する支出が増加するに連れ、国家財政への中期的な圧力になろう。生産性の伸びは、他の先進諸国と同様この10年間で半減しており、フィンランドが寛大な福祉制度を維持できるかどうか疑問の声が上がっている。

現政府は、1年以上にわたる交渉の末、雇用主と労働組合との間で「競争力協定」で合意できた。賃金凍結と労働時間引き上げのための3者間協定だ。だが、極めて硬直的な労働市場の改革までは合意できなかった。長期的な生産性を改善し得る抜本的改革では意見がまとまらなかったのだ。

それでも、フィンランドの行く末は、政府の措置よりも同国のイノベーション力にかかっているかもしれない。例えばヘルシンキで先週行われた北欧最大級のスタートアップ(新興企業)祭典である「SLUSHスタートアップ・イベント」の成功から判断すると、イノベーション分野の展望は明るいようにみえる。この種のイベントでは、学生ボランティアで運営される唯一のもので、世界中から約2万人の起業家、投資家、サービスプロバイダーを集めた。

長年にわたり、SLUSH(フィンランド語で「解けかけた雪」の意)は、フィンランドで隆盛のハイテク部門、例えばゲーム開発会社のスーパーセルやロビオなどに投資とノウハウを取り込むのに貢献してきた。より重要なことに、SLUSHの成功は、スタートアップ文化を受容してきた若いフィンランド人と、同国公共部門の双方にとって、文化的シフトを促す助けになっているようにみえることだ。その結果、フィンランドは新たなアイデアの実験場になっている。テクノロジーを広範囲な社会的難題にいかに活用できるかのアイデアを生み出す場だ。

フィンランドがこの100年を生き抜いてこられたのは新たな難題に自らの北欧モデルを適応させる能力に負う部分が大きい。まったく同様に、フィンランドはこれからの100年もそうして生き抜いていく用意ができているようにみえる。

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