単なる役得ではない 米企業幹部の強欲に寄り添う「Perks」の実態

単なる役得ではない 米企業幹部の強欲に寄り添う「Perks」の実態

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2019/11/11
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アメリカの多くの企業は、12月末を年度末にしているので、この季節、来年の予算づくりで右往左往する。その際に揉めることのひとつに、幹部や役員の報酬がある。

あいかわらずアメリカのCEOの報酬は、諸外国からみても異常と思えるほど高い。かつて、市場原理を主張するブッシュ(息子)大統領でさえ報酬の異常な高さを憂い、「企業の役員会は役員報酬の合理性に十分目を光らせるべきだ」と警告した。もちろん、それなくしてアメリカの強さは維持されないという趣旨でだ。

中産階級の生活の向上を訴えて当選したオバマ大統領になり、国民は大きく期待したが、この役員報酬については、私企業の純然たる経営行動なのでほとんど手を打つことはできず、2011年には「ウォール街占拠運動」さえ生み出した。

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2011年の「ウォール街占拠運動」(Getty Images)

今日、上場企業の開示義務がいっそう厳しくなり、役員の報酬は報酬委員会が設置され、その適正が判断されるが、当の役員によって招聘された委員たちが、ことさらに報酬の高さを不適切だと指摘するケースはとても少なく、今後も流れは変わりそうにない。

幹部の報酬はマーケットプライス

かつて、GE(ゼネラル・エレクトリック)の会長だったジャック・ウェルチが自著で力説したように、幹部の報酬はマーケットプライスだから、そもそもそこに介入しようとする行為は間違っているという主張は、確かに合理的ではある。マーケットプライスを払わなければ、幹部を失うことになり、企業の収益性を損なうと言う意味でだ。

正直なところ、もらう方の金銭欲は、もらえばもらうほどさらに増幅するようで、とどまるところを知らない。CEOが報酬第一主義なら、それに続く幹部もそれに影響される。

しかし、良い人材を確保するのは金だけではない。アメリカの人事政策上、大切な言葉がある。「Perks(パークス)」というが、これがまた日本語にしにくい。「役職者の特典」、または「役得」といったところだろうか。ストックオプションのようなものかと言われがちだが、そんなものではない。

たとえば役職者が出張をするとき、混雑した飛行場のロビーに着き、専用の航空会社の専用ラウンジに行って出発前にコーヒーを楽しみながら静かな時間をすごす。ラウンジそのものが大事なのでなく、「おれは役職者だ」と感じられるようなものすべてがPerksになる。

そんなものはくだらないと思う日本の経営者も多いかもしれない。しかし、報酬額がどんどんつり上がってくると、Perksで役員の強欲に寄り添うという考慮なくしては、いい人材を得られないというのがアメリカの実情だ。

「カー・アローアンス」という制度も実に定着している。役職者がオンボロのクルマでトップ営業にいかれては困るので、それなりのクルマを買って維持してもらえるように会社が自動車代を支給する制度だ。これは月に10万円を超えることもあるので、交通費とは呼べず、税法上も所得税の対象となる。だからPerksなのだ。

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Getty Images

このほか、法人契約の野球観戦チケットやら休暇の翌年持ち越し、法人クレジットカードのマイレージを利用した役職者だけの座席のアップグレードのルールなど、Perksは枚挙にいとまがない。

アメリカに住む日本の駐在員の質素な暮らしぶりに比べ、広尾や麻布あたりに住むアメリカ人のゴージャスな生活ぶりとのアンバランスは、まさに住居用のマンションがPerksなのだ。

そして、Perksなしでは彼らエグゼクティブは日本に留まらないと考えるのが正しい。そこには日本には珍しいビルトインの大型食器洗浄器や、秋葉原でも売っていないGE製の超大型冷蔵庫など、これまたPerksに囲まれている。

ところがやっかいなことに、「交渉はなんでもストレートに」と思われがちなアメリカ人だが、Perksをめぐって会社と役職者が「交渉」することはまれだ。観戦チケットや冷蔵庫のことで、会社と交渉するのは企業人として恥だという意識が確実にある。

従って、会社のほうが積極的にPerksを慮って用意してやり、「そっと差し出す」というやり方が求められる。金でないぶん、実にやりにくいのだ。

このたび、ラスベガスの観光局の局長、ロッシー・ラレンコッターがPerksをめぐって逮捕された。ラスベガスの観光局は、おそらく世界最大の権威をもった観光局で、委員は、各メガリゾートのCEOやネバダ州知事、ラスベガス市長などの重鎮で構成される。

たとえば、去年、初めてラスベガスにプロホッケーチームを誘致したり、あるいは、プロフットボールのレイダースをオークランドから引っ越させたりなど、各ホテル独自ではできないことを、チームラスベガスとして交渉している強力な組織だ。

それでも非営利団体なので、局長の報酬は年収1億円を超えることはなかったが、ラレンコッターは不当に私腹を肥やした罪で逮捕された。

観光局は、ラスベガスをハブとするサウスウエスト航空との提携キャンペーンで、同航空に6年間、毎年約2000万円の広告費を払っていた。見返りに、同航空は、観光局にギフトカードを6年で900万円分寄贈していたが、このうち、局長のラレンコッターが160万円(6年分だとしたら、年に27万円)を私的旅行に使っていたという容疑によるものだ。

ラレンコッターは、引退後も、観光局に対するコンサルティング報酬(実態は不明)として年間1800万円ももらうような待遇を保持しており、年に27万円の私的旅行で逮捕されるとはとてもせこい話だ。

しかし監査法人も、各種組織内委員会もこの不正を見抜けず、地元新聞が一大スクープとしてすっぱ抜いて始めてわかったことであり、Perksがこの透明会計時代に不正の温床となっており、収まらない金銭欲への緩和剤となっていることを改めて浮き彫りにした。

翻って、「秘書、個室、専用車」の3つだけで満足する日本型Perksが長続きすることを、日本という国のために願いたい。

連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信

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