フィギュアスケート男子の米国代表 ネイサン・チェンを通して見るスポーツ選手の人生

フィギュアスケート男子の米国代表 ネイサン・チェンを通して見るスポーツ選手の人生

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  • 更新日:2018/02/15

【高柳昌弥のスポーツ・イン・USA】米スポーツ専門局のESPN専属ライター、ボニー・フォード記者が書いた記事を読んだ。登場人物は平昌五輪のフィギュアスケート男子に米国代表として出場しているネイサン・チェン。彼が繰り出す4回転ジャンプは今や世界を席巻するようになったが、18歳という若さにもかかわらず、過去と未来にいろいろなものが詰め込まれているのがよく分かった。

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フィギュアスケート男子・米国代表のネイサン・チェン(AP)

「ではみんな、片足で立ってみて」。3歳で通った人生最初のスケート教室。片足立ちというバランス感覚を講師に求められたチェンはいとも簡単にその課題をクリアした。通ったのは6週間。それが終わると、母ヘティー・チェンさんは教えていた講師に「うちの子に専属コーチをつける価値はあるでしょうか?」と質問したのだという。そして母親の“目利き”は正しかった。おそらく「LIFE」という言葉さえも知らない年齢でチェンは人生最初の岐路を迎えていた。

5人兄弟の末っ子。姉2人はフィギュアをやっていたが、五輪レベルのスキルはなかったようだ。兄2人はアイスホッケーに夢中になったが、トップレベルのプレーヤーではない。すると5人目もこと運動能力に関しては凡庸な才能しかないと思いがちなはずだが、一生懸命にバランスを取った我が子の姿はへティーさんに何かしら電気的な刺激を与えたようだ。

バレエを習い、体操でもジュニアのトップ選手だったことはよく知られている。経歴を見てみると、そのほかにダンスやピアノも習っている(習わされた?)。

中国南部・広西チワン族自治区出身の父・陳志東さんは米ユタ大で薬学を学んだインテリで、北京出身の母へティーさんは薬学専門の翻訳家。2人は中国で出会い、1988年にユタ州のソルトレイクシティーにやって来たが、両親の人生もまたフィギュアスケート界の革命児誕生に大きな影響を与えている。

チェンは平昌五輪後に大学に進学する予定だが、志望しているのはいずれも全米の難関校。通称「SAT」と呼ばれる大学進学適性試験の数学で満点を取ったというのだから勉学だけでも人生を切り開ける能力がある。

2002年のソルトレイクシティー五輪。まだ2歳だったチェンの記憶の中に少しだけ残っているこの大会で女子フィギュアを制したのは米国のサラ・ヒューズ。彼女はその後、アイビーリーグのひとつエール大学に進学して人生を切り替えている。

五輪で燃え尽きてはいけないのだ。五輪だけがすべてではないという生き方はこれまでにも多くのアスリートが示してきたが、チェンの言動やパフォーマンスの中にもその強い意志が見え隠れしている。

「片足で立って」と言われて15年が経過。ひと言もしゃべらずにさっさとその課題をクリアしてしまった元3歳児は今年の全米選手権で4回転ジャンプを計7回も成功させた。2010年の五輪と世界選手権では全選手併せて4回転ジャンプの成功は7回。それをチェンは1大会で、しかも1人でこなしてしまった。トリプルアクセルが苦手という弱点は残っているが、バレエとアイスホッケーとダンスとピアノと体操が組み合わさって?出来上がった1メートル66の小さな体にはいろいろなものが詰まっている。

言わせてもらうと、私も昭和中期、母の厳命を受けてピアノ、珠算、絵画を習いながら野球とバスケットボールをやっていたが、チェンと違ってどれひとつ“習熟”することはなかった。高校3年時には「数3」についていけなかった。なので、彼のストーリーを読んでいると正直、嫉妬(しっと)してしまう。「ああ、世の中には自分と対極にいる人間もいるのだなあ」というぼやきも少々。それでも平昌五輪では彼の4回転ジャンプを見てみたいと思う。日本勢を応援している方には申し訳ないが、そのジャンプの向こう側にある過去と未来を感じてみたいと思う。

世界が注目する平昌五輪の男子フリーは17日。さてヘティーさんは黒のコスチュームに身を包んだ末っ子の滑りを、どこでどのように見守るのだろうか?(専門委員)

◆高柳 昌弥(たかやなぎ・まさや)1958年、北九州市小倉北区出身。上智大卒。ゴルフ、プロ野球、五輪、NFL、NBAなどを担当。スーパーボウルや、マイケル・ジョーダン全盛時のNBAファイナルなどを取材。50歳以上のシニア・バスケの全国大会に7年連続で出場。

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