人生折り返し地点を回ったらスタート地点で子供が走っているのが見える件

人生折り返し地点を回ったらスタート地点で子供が走っているのが見える件

  • 文春オンライン
  • 更新日:2017/10/12

44歳、人生80年とするならば折り返し地点を回ったところで、いまスタートを切って最初の5kmぐらいを走っている拙宅三兄弟の姿が見える感じがします。私も流石に体力は衰えてきたし、持病もあるので無理はできず、ゴールに差し掛かった親の面倒も見ながら生きていくのがマラソンだとするならば、転んだり腹が痛くなるのもまた人生なのでしょうか。

長男の様子を見ながら、体調の変化に怯える夏休み

私も子供の頃からずっと身体が弱く、とにかく喉のリンパ腺が腫れたり中耳炎が治らず発熱を起こしては入退院を繰り返す小学校時代を送りましたので、とにかく自分の体力には自信がもてませんでした。健康って大事だよってずっと思って生きてきた人生です。

そういう少年時代の体験もあって、介護と育児を人生の中心に据えて仕事をかなり減らしてセミリタイアすることにした私ですが、8歳になった長男が楽しみにしていた学校の夏休み2泊3日の宿泊学習(林間学校的なもの)前ぐらいから「腹が痛い」と訴えるのですごく心配していました。出ては消えを繰り返す腹痛と高熱。これには歯科医師(口腔外科医)で医学の知識のある家内も焦り気味で、また家内の体調も長らく芳しくなかったため、夏休みの予定を大幅に変更して、海外旅行や地方のお得意先巡りもキャンセル。長男の様子を見ながら、体調の変化に怯える夏休みを過ごしました。

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山本家の夏休みの一コマ

男の子の親というのは難しいもので、もちろん男の子特有の向こう見ずな行動で生傷が絶えず、また日々騒いだり喧嘩したり泣いたり激しい要求に辟易したりする日々を送る反面、女の子に比べてやはり病気になりやすいようで……。思い返せば、三男も高熱でしばらく入院したり、次男も遊び中に板間の床に頭を打ち付けて救急車で運ばれたり、まあいろんなイベントはあります。毎季節、何か起きるのです。

熱さえなければ元気な長男、趣味の宇宙や深海に興味爆発、次男や三男を巻き込んで都内の科学博物館や水族館にいっては、展示物を片っ端から見物し、何やらメモを取り、DVDを買い、図鑑で調べて自分でスケッチしています。誕生日プレゼントには顕微鏡を要望され、近所の汚い池や水たまりや泥をせっせと採取してきて、水で薄めてプレパラートで観察して楽しむ夏休み。元気なら三兄弟で近所のプールに行きますし、ロボットをいじり、望遠鏡で満月を観察している日々は、親として目を細めて見守るのみです。思い返せば、こんな私も子供の頃は未知なるものに心を躍らせていた日々があったように思います。44年の歳月は残酷です。あんなに純粋な探究心に満ち溢れていたはずなのに、私はどうしてこうなった。

消耗するけど独特な夏休み

ただ、長男は何度も熱を出します。さっきまで元気だったのに、夜になると赤い顔して布団をかぶって寝る長男。夜に悪寒がするといって高熱が出るたび、夫婦で手分けして徹夜しながら小児科救急に連れていき、すーっと熱が下がっては「この熱は何だったんだろう」と首を傾げる日々。特に誰かに感染るものではないと診断されていたのですが、精密検査をしてみても病因がよく分かりません。夫婦で困惑しつつも朝は寝ないまま親父お袋の介護に、お昼は子供の宿題に、夕方は習い事や科学博物館に、という日々は、消耗するけど独特な夏休みで、いかにも山本家らしい過ごし方だと割り切っておったのです。

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©iStock.com

何かあっても、行きつけの病院にすぐに行けるように、ということで、どうしても、病院の近所でやっている科学博物館の「深海展」にはヘビーローテーションになります。結果として、この夏23回お伺いしたでしょうか。大変お世話になりました。もはやどの展示がどこにあるかも子供たちは記憶するようになり、長男は深海探査艇に、次男は東日本大震災発生のメカニズムに、三男は地中深くまで掘削して行う調査に、強い関心を示すようになりました。

4歳になる三男に地球の気候変動について質問されても、残念ながら私には知識がありません。もう少し子供らしい興味の持ち方はないのかと感じなくもありませんが、ビジュアルで分かりやすく繰り返し興味を持って見ていくと、子供はいろんなものを見て、感じて、吸収するようです。家に帰ってみると、やはり去年何度も足を運んだ「海のハンター展」で買ったサメの図鑑を引っ張り出し、海の生物の化石をスケッチしています。そうか、そんなに深海が好きか。科学博物館と、NHKの偉大さを知りました。ありがとう、科学博物館。ありがとう、NHK。年パスでも受信料でも十年分前払いしたいぐらいです。

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山本家の一コマ

長男の高熱が下がらなくなった

夏休みも終盤に近づいた頃、出ては引いていた長男の高熱が下がらなくなってしまいました。普段は元気印の長男が腹痛を訴えてずっと呻いており、心配でしょうがない次男や三男も火が消えたように静かにしています。さすがに様子がおかしい。あまりにも痛いのか深夜に泣き出して、仕方なく午前3時にタクシーを拾い、何度めかの深夜の救急にお世話になりに行きます。また、すっと熱が引いてくれることを信じて。夏休みも終わりそうだし、また午後どっか行こう。

しかし、腹痛は治まっても、熱は下がりませんでした。何かがおかしい。家内もそう判断し、担当してくれた医師も追加の精密検査を勧めてこられたので、真っ赤な顔でぐったりした長男はそのまま入院することになってしまいました。付き添いをする親として、替われるものなら替わってやりたい心情で張り裂けそうになりながらも、点滴をされ静かな寝息を立てる息子のそばに座っている以外にできることはありません。

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家内も心配が尽きないものの、次男三男の生活もあり、また介護も慌ただしい状況で、夫婦で手分けしてどうにか乗り切ろうと決心するわけです。闘病は本人も相当大変ですが、いつ快癒してくれるか分からない家族と向き合って暮らしていくのはキツいのです。病状に一喜一憂しても周辺がアップダウンで疲れるだけ、というのはがん闘病中の父親の、一気にしぼんでいく背中を見ていれば嫌でも理解させられます。

それでも、本当に苦しいときには家族しかいないのです。隣の病室で、夜に一人「ママ、ママ」と叫ぶ子の声が廊下に響き、容態が急変した子を慌ただしく運び出す看護師さんの必死さが伝わってくると、具体的には何もできなくてもそばにいてやれることで少しでも本人の気持ちの支えになれば、と願う気持ちで一杯になります。我が家の長男だけじゃなくて、この部屋にいる、この病棟にいる子供全員が元気に退院できる日が来てほしいと、病室に付き添いで泊まる夜は祈るのです。

長男の精密検査の結果を聞く日

夏休みが終わり、入院も一週間が過ぎ、二週間が経って、長男が楽しみにしていた「深海展」は終わってしまいました。また、とても行きたがっていた筑波の高エネルギー加速器研究機構の一般公開も見送りになってしまい、病室で長男がとても残念そうな顔をして不貞腐れています。それでも治療の甲斐あって少しずつ病状が穏やかになり、熱が引くようになると、静かに寝ている病弱な少年は一転、激しく元気になって、一刻も早く科学博物館に行きたいマンに変貌します。図鑑を読み漁り、NHKご製作のDVDを何度も観て、歴史を超えて海を生き抜いた生物のオウムガイやデメニギスやマリアナスネイルフィッシュ、あるいは深海探査艇の「しんかい6500」や「トリエステ」、さらにはトリケラトプスの骨格標本まで、紙に写しまくります。

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熱が引くようになると、一刻も早く科学博物館に行きたいマンに変貌します

そして、長男の精密検査の結果を聞く日……。熱も下がり元気になって、退院に希望を持って先生の話を聞いてみると、あくまで疑いとしながらも、実に聞き慣れた病名が。私が子供の頃、ずっと困っていたものが、そのまま長男に。

……マジか。私と、一緒か。そうですか。でもそりゃそうなんですよね、親子なんですから。物事にハマり込むと最後までやり遂げないと気が済まない性格も、何かあるとどこかが腫れて熱を出す体質も、だいたい受け継いだってことなんでしょうか。退院が決まって、久しぶりに家族揃ってホクホク顔で帰宅する途上も、私は色々と思案することしきりでした。

我を過ぎんとするものは 一切の望みを捨てよ

まあ、私も私なりに平坦とはとても言えない人生の半分を景色すら楽しむことなく走ってきたけれど、まだ走り始めた長男がしっかりと自分の足で完走できるように、かといって、私と同じような道ではなく彼なりの使命や宿命を抱いて前に往けるような、そういう支えになっていかなければいけないのでしょう。

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地獄の門を前にする三兄弟

そんなわけで、科学博物館に行くついでに、西洋美術館で今日も「地獄の門」を見てきました。『我を過ぎんとするものは 一切の望みを捨てよ』ってやつです。子供たちが「地獄の門」を好きなのも、NHKがクリエイターの井上涼を起用した子供向け美術番組を三兄弟が食い入る様に観て、その本物が、目の前にあるんですから、そりゃ喜んで見物しますよね。人生のマラソンにおいて、貴重な景色なんだと思います。

子供にはいろいろ教えられます。だって、私一人で生きていたら、絶対に「地獄の門」なんて興味持って見に行くなんてこと、ありませんからね。マラソンが終われば、いずれ私もそこを通ることになるのだとしても、ろうそくの最後が尽きるそのときまで、ヨレヨレになっても走り続けるのが人生なんだと息子に教わった気がします。

写真提供=山本一郎

(山本 一郎)

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