イングランドで高まる52年ぶり戴冠への期待。躍進に導いた「ゆとり世代」を操る指揮官の手腕【ロシアW杯】

イングランドで高まる52年ぶり戴冠への期待。躍進に導いた「ゆとり世代」を操る指揮官の手腕【ロシアW杯】

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  • 更新日:2018/07/11
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イングランド代表がワールドカップ準決勝に挑む。国民からの優勝への期待は高まるばかり【写真:Getty Images】

22年前の応援ソングが再ヒット。高まる国民の期待

ロシアワールドカップの準々決勝が、11日に行われる。28年ぶりにその舞台への挑戦権を手にしたイングランド代表だが、大会前の下馬評は決して高くなかった。では、なぜここまで勝ち進むことができたのだろうか。グループの組み合わせに恵まれたくじ運だけでない理由があった。(取材・文:松澤浩三【イングランド】)

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白熱したロシアワールドカップも残りわずか。準決勝まで残ったのはフランス、ベルギー、クロアチア、そしてイングランドの4チームだ。イングランドがメジャー大会でセミファイナルに進出したのは、自国で開催したEURO1996以来となる。ワールドカップに限れば、1990年のイタリア大会まで遡らなくてはならない。

久々の代表の活躍により、イングランド国内は大きな盛り上がりを見せている。大衆紙『ザ・サン』によると、直近の準々決勝対スウェーデン戦は、国民の半数以上に上る3000万人が観戦したとされている。また、前述のEURO1996の際に流行したイングランド代表応援ソングである「スリーライオンズ」がリバイバルヒットを果たし、先週末の時点ではヒットチャートのトップに躍り出たほどだ。

当時、コメディアンのフランク・スキナーとディビッド・バディールがザ・ライトニング・シーズというバンドとともに作ったこの曲は、「フットボール・イズ・カミング・ホーム(フットボールが帰ってくる)」というシンプルでキャッチ―な歌詞とポップなリズムが特徴だ。これまでも、スタジアムへ行けばこのリズムに合わせたチャントを耳にしたことは頻繁にあったが、現在は普段サッカーを見ない“にわか”ファンの心さえも掴んでいる。

セミファイナル進出を果たしたとはいえ、大会前の国民の期待は非常に低かった。識者の中には「特大の期待が重圧に変わり、屈するのがいつものイングランド代表。だから今回は逆に奮闘するかもしれない」と冗談めかす人もいたほどだった。今となってはその言葉がまんざら的外れではなかったような気もしてくる。

しかしながら、躍進の最大の理由はそこではない。もっとも単純な答えは、くじ運の良さではないだろうか。以前のイングランド代表は、言い訳と言えばそれまでだが、ビッグトーナメントのグループリーグで強豪と同組に“なったり”もしたために、上位進出できないこともあった。例えば前回ブラジル大会はグループ最下位で敗退したが、ウルグアイとイタリアと一緒の組になったうえ、最終的にグループ首位で決勝トーナメントに進出したコスタリカも絶好調だった。

躍進の理由は「くじ運」なのか?

翻って今大会では、くじ運に大きく恵まれている。勝負の世界で“たられば”を考えても仕方ないのだが、もし日本がイングランドのグループでチュニジア、パナマ、ベルギーと対戦していたら、イングランドと同じ2位で通過した公算は高いのではないだろうか。そして決勝トーナメントではハメス・ロドリゲスを欠いたコロンビアと当たり、準々決勝ではスウェーデンと対戦。サムライブルーもここまでいけたのではないかと考えてしまう……。

スウェーデン戦後。高級紙『ガーディアン』のポッドキャストに登場したポール・ワトソン記者は、「『フットボール・イズ・カミング・ホーム』に間違いはないのだが」と自国愛を強調したうえで、「少し心配なのは、ここまでのイングランドは強敵と対戦していないところ。クロアチア、ベルギー、フランスは本当に強い。準決勝まで到達したとはいえ、ここまでのイングランドはチャンピオンシップ(イングランド2部リーグ)レベルのチームに勝ってきただけだ」と自嘲するように話していた。

筆者もまた、英国人の友人たちとの間で利用しているメッセンジャーアプリ『WhatsApp』のグループに、「日本代表でもここまで来れたのではないか?」という意地の悪い内容のメッセージを送ってみた。数名から戻ってきたのは、「バカを言うな」という言葉だったが、より冷静なタイプからは「そうかもしれないが、目の前に与えられた敵しか倒すことができないのだから」という返答もあった。

確かに、言い得て妙である。イングランド代表のスカッドを机上の実力だけで判断すれば、この結果は当然ともいえる。しかしながら、今回ドイツやスペインが早期敗退し、開催国ロシアが大躍進を遂げたとおり、額面どおりに物事が進むわけではないのがフットボールだ。特にこういったビッグトーナメントでは頻繁に起こる。

「ゆとり世代」を知り尽くす指揮官の巧みなマネジメント

となれば、スリーライオンズの躍進は運だけではないと考えていいのではないか? 成功したのは、偶然ではなくて必然だったのではないだろうか?

解説者がよく語るのが、ガレス・サウスゲイトの“包容力”に溢れるアプローチだ。前回ワールドカップで準決勝に進出した際、すなわち28年前に代表のキャプテンを務めたテリー・ブッチャーは、サウスゲイトのリラックスしたスタイルをこう称える。

「例えば今回、ガレスはキャンプに家族を招き入れるようにした。素晴らしいことだ。家族と一緒にいる選手は気持ちを落ち着かせることができる。大会中に顔を合わせられることで、自宅にいるときのように落ち着けるんだ。とてもいいアイデアだった」

「彼は選手のこういった面をよく理解している。これもまた、ガレスが一生けん命に続けてきたイングランド代表のDNAを変える一環だ。彼は信念を持って『これはこうする、あれはこのようにやる』と続けてきた。FA(イングランドサッカー協会)も以前より、ガレスのように前衛的な考えを持ち、サポートしている」

またサウスゲイトは、ワールドカップに出場するほかのどの国よりも早く大会に臨む23人の最終メンバーを発表している。「選手たちを苦しませる必要はない。早い段階で知ることで、選手はプレーに集中できる」というのがその理由だった。ほかにも、ロシアへ飛び立つ前に合宿を張ったイングランドの国立フットボールセンターであるセント・ジョージズ・パークで、選手全員がメディア対応する日を採用したりもした。

後者については、マスコミとの距離を縮めてより応援しやすい環境を作るという目的とともに、合宿上で缶詰め状態になった選手たちの気分転換になるようにと配慮した結果でもあった。ちなみに先日、「今回のイングランドは国民と近い存在になれているのではないか」と指揮官は語っていたが、これはそういった監督の気配りの賜物と言えるかもしれない。

あくまで選手ありき。U-21イングランド代表監督を務めるなど、これまで若い世代と仕事をしてきただけに、この年代の選手たちを理解しているのである。欧米の英語圏の国では「ミレニアル」という言葉が使われるが、日本でいえば「ゆとり世代」に似た意味合いを持つ。つまり一昔前の熱血・スパルタ時代とは異なった価値観を持ち、新しいライフスタイルを好む世代である。サウスゲイトはこれらの世代の特性を理解して、「よき兄貴分」として上手に掌握している。

準決勝に先駆けて『BBC』のインタビューに応じた、カイル・ウォーカーは現在のチームのムードについて次のように述べている。

「以前は、代表として集まると“ナショナルチーム”という感じだったが、今はクラブチームにいるような連帯感がある。練習が終了したら自分の部屋に戻っていた。しかし現在は、ほかの選手の部屋を行き来したりして、この風通しの良さは監督のおかげだ」

クラブ的な雰囲気が生み出した責任感

ポルトガルのクリスティアーノ・ロナウドやアルゼンチンのリオネル・メッシ、ブラジルのネイマールやフランスのキリアン・エムバペ、ベルギーのエデン・アザールといった、個人の力でチームを勝利に導くような存在は現在のイングランド代表にはない。ただ、ウォーカーが話したとおり、現スカッドにはサッカーに欠かせないチームワークがある。

『BBC』で解説を務めるジャーメイン・ジーナスは、スウェーデン戦後に選手たちをこう褒め称えている。

「現チームは、全員が連帯責任を持ってプレーしている。この試合でも、終盤にウォーカーがボールを持った状況で、ハリー・ケインが前方に立っていたところ、『こっちに来て守備を手伝え』とキャプテンに対して叫んでいた。ジョーダン・ヘンダーソンもウォーカーやケインとやりあっていた。ジョン・ストーンズやハリー・マグワイアも同様だ。私は、これは良いことだと思う。みんなが声を出して、責任を持ってプレーしている証拠だ」

さらに、監督就任直後の1年間は予選通過を最優先して、自分の目指すサッカーを押しつけるようなリスクは負わなかった。だが昨年秋にワールドカップ予選突破を決めると、サウスゲイトは自身の好むプレースタイルを一貫して推し続けた。

それは3バックをベースにしたパスサッカーであり、その完成度を求める中で、結果的に予選ではレギュラークラスだった選手もあっさりとスカッドから外している。それがジョー・ハートであり、マンチェスター・ユナイテッドでレギュラーを張るクリス・スモーリングであり、昨季に活躍したジャック・ウィルシャーであった。

一方で、ラヒーム・スターリングやデリ・アリ、マグワイアやキーラン・トリッピアー、ジョーダン・ピックフォードなど、世論から懐疑的な目が向けられている選手たちを信頼して使い続けて、現チームにおいて重要な存在に成長させている。

特にトリッピアー、マグワイア、ピックフォードは今大会で急激に株を上げていて、大会後にはステップアップの可能性も囁かれているほどである。

成長を続けるヤングライオンズと、彼らに52年ぶりの世界制覇の期待を寄せるイングランド国民。記述のとおり、これまでの相手が簡単すぎたという懐疑的な目を向けられているのも確かだ。しかし今は選手たちだけではなく、この国全体が信じて疑わない。

「フットボール・イズ・カミング・ホーム」

フットボールが聖地に戻るその瞬間が、数日後に訪れることを……。

(取材・文:松澤浩三【イングランド】)

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