なぜ「不妊」「不妊治療」はタブーなのか? 「セックスしたら妊娠するのは当たり前」という勘違い

なぜ「不妊」「不妊治療」はタブーなのか? 「セックスしたら妊娠するのは当たり前」という勘違い

  • サイゾーウーマン
  • 更新日:2020/02/15
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少子化が叫ばれる一方、「子どもがほしいのに、なかなか授かることができない」という「不妊」の悩みを持つ男女が少なくない現代。2018年1月期には、不妊治療をテーマにした連続ドラマ『隣の家族は青く見える』(フジテレビ系)が放送され話題を呼んだほか、ネット上では不妊治療の保険適用化が議論されたり、女性が不妊治療によって退職せざる得ない事態が疑問視されるなど、「不妊」「不妊治療」は社会的な問題として扱われるようになっている。

しかし、まだまだ「不妊」「不妊治療」は“タブー”とされる面も強いのではないだろうか。不妊に悩む女性たちが集うネット掲示板を覗いてみると、「不妊治療しんどい」という声が飛び交い、その理由を「不妊であることを周囲に相談できずつらい」「不妊治療をしていると孤独感に苛まれる」とする切実なコメントを少なからず目にする。治療自体の身体的・金銭的負担、仕事と治療の両立といった問題以前に、世間がタブー視することによって、精神的に追い詰められてしまう当事者がいるようだ。

なぜ「不妊」「不妊治療」はタブーなのか、それが当事者を苦しめる要因になっているのではないか――今回、「“不妊”をもっと“普通に話せること”に」を活動理念の一つに掲げ、現在・過去・未来の不妊体験者を支援する「NPO法人Fine」の理事長・松本亜樹子氏に話を聞いた。

タブーは「不妊は異常」という大いなる勘違いから生まれる

――不妊や不妊治療の当事者を精神的に追い詰めている背景に、これらがタブー視されていることがあるように思うのですが、どうお考えでしょうか。

松本亜樹子氏(以下、松本) 確かにタブー視されていると思います。そのタブーを生んでいるのは、「子どもはできて当たり前」「不妊は普通ではない、異常なこと」という偏見・勘違いによるものではないでしょうか。現在、日本で不妊に悩むカップルは5.5組に1組、また体外受精で生まれている子どもは16人に1人と言われているなど、不妊や不妊治療は決して珍しくないことなのですが……それがまったく知られていないため、当事者が「どうして私は子どもができないんだろう」と思い詰め、かつそれを周囲に話しづらくなって、一人で悩みを抱え込んでしまう状況が生まれているのだと思います。

――松本さんは「Fine」の活動を通して多くの当事者の話をお聞きになってきたと思います。不妊や不妊症への勘違いが、当事者を傷つけてしまうケースも少なくないのではないでしょうか。

松本 「不妊は特殊」という勘違いによって、「かわいそう」「気の毒」と同情されてしまい、それが当事者の精神的負担になることがあります。また、不妊の原因はわからないことがほとんどで、むしろはっきりわかる方が稀なのに、それが知られていないため、「不摂生しているから」「どちらかの体に欠陥があるのでは」「若い頃、女遊び/男遊びをしすぎたのがよくなかった」などと言われてしまうことまである。これも当事者を傷つけると思います。

おそらく、当事者は周囲に同情され、気を使われるのが最もしんどいように思いますね。例えば、子持ちの友人たちが、自分の前では子どもの話をあえてしない……など。もちろん、思いやりからなんでしょうが、当事者は「気を使わせてしまって悪い」と自分を責めてしまうんです。逆に、「これを食べると妊娠しやすいらしい」「ここの病院がいいよ」など、良かれと思っていろんなアドバイスやおすすめをしてくれることもありますが、これもすでに試していたり、それでもだめだったりするケースが多いので、対応に困るという話はよく聞きます。

――実際に妊娠・出産するのは女性であることから、不妊治療は女性が中心になりがちです。パートナーの不妊への偏見・勘違いが、女性側を苦しめるといったケースもあると思います。

松本 それは本当によくありますね。例えば、妊娠・出産の正しい知識を知らず、「妊娠はいつでもできるから」と、子どもをつくることや結婚自体を先延ばしにして、女性側を悩ませるケース。危機感のなさゆえに、病院に行くことを嫌がる話もよく耳にしますね。

――女性と男性とでは、妊娠・出産の知識に違いがありそうですね。

松本 1年間で自然妊娠する確率、年齢とともに卵子が老化すること、さらには妊娠しても出産できるとは限らないことなど、知らない男性は結構いると思いますよ。あと、近年ようやく「男性不妊」が取り上げられつつありますが、「不妊は女性の問題」と勘違いしている男性は多いですね。「自分に原因はない」と言い張り、不妊治療の検査を受けたがらないというケースは珍しくありません。「『〇〇レディースクリニック』なんて名前の病院は、俺が行くところではない!」と、断固として病院に行くことすら拒否する男性の話も聞きましたね。女性側にとって「パートナーが一緒に病院へ行ってくれるだけありがたい」という現状もあるように思います。あと、パートナーだけでなく、自分の母親と確執ができてしまう女性も結構いるんです。

――親子という間柄から、母親が不妊に対してズケズケと口を出すのでしょうか。

松本 母親自身も娘が不妊であることにショックを受け、「私はあなたを健康に産んで、健康に育ててきたはずなのに」などと口にしてしまうんです。また、どこかで自分と娘を重ね合わせてしまうのか、不妊治療に首をつっこんでくることはよくあって、妊娠に効果的と言われる食料品を送り付けてきたり、病院までついてきたり……心配なのはわかりますが、娘の気持ちとしては、できれば口を出してほしくない。そっとしておいてほしい……そう思う方は多いです。

そもそも母親って、子どもを産んでいるわけですから、不妊当事者ではないわけですよね。だから、その点を踏まえ、いくら親子といえど、不妊に関してはわかり合えないと最初から理解した上でコミュニケーションを取っていかないと、2人の間に修復できないような亀裂が走ってしまう可能性もあります。母親の言っていることを、聞き流せるなら聞き流し、距離を置けるなら置かないといけません。ただ、不妊に関しては、母親の方が娘との距離感がわからなくなっているケースが多いかもしれません。

――母親もまた、不妊や不妊治療について知らないがゆえに、こうした事態が発生してしまうんですね。

松本 母親の介入によって、パートナーの男性が置いてけぼりになることもあるんですよ。妊娠・出産は、やはりカップル2人の問題であって、親の問題ではない。不妊をめぐる母親との関係に悩む人は、「不妊については、つらくなるのでもう話さないでほしい。自分たちで話し合って決めていくので、見守ってほしい」とはっきり伝えた方がいいでしょう。

――パートナー、母親、友人知人らに不妊や不妊治療の話をできないとなると、あとはもう、当事者同士で悩みを共有するしかないですね。

松本 不妊治療のクリニックへ行くと、自分以外にも不妊の人はたくさんいるとわかりますが、ただ、張りつめたような独特な空気があって、ほかの患者さんに話しかけることはできませんよね。不妊治療を受けている同士といっても、相手がどんな状況にあるかわかりませんから。例えば、隣に座っている患者さんは、妊娠したけれど流産して処置しにきた人かもしれないし、今回が最後と決めて体外受精の結果待ちをしている人かもしれない、はたまたこれから治療を始める初診の人かもしれない。できるだけ近しい状況の人と話せればいいのだけど、人それぞれ状況が違うだけに、当事者同士であっても、おいそれと悩みを打ち明けられないと思います。

それでもやはり、不妊や不妊治療のことを話す相手がおらず、孤立してしまうことは、当事者にとって最も大きな問題。なかなか難しいことですが、誰かが口火を切ることで、もっと不妊や不妊治療がオープンになってほしい。みんながみんな、気を使い合って黙ったままでは、状況は変わらないので、自分の話せる範囲で自己開示していくことも大切だと思います。「Fine」では当事者を「ひとりぼっちにしない」ための支援も行っていますので、ぜひ気軽に利用していただけるといいなと思います。

――そもそも、なぜ「子どもはできて当たり前」という偏見・勘違いが、これほどまで世間に浸透しているのでしょうか。

松本 日本の性教育が影響していると思います。学校の教科書では「生理→妊娠の仕組み→性病と中絶」と順を追って学ぶと思うのですが、そこに「不妊」がない。「生理のある人がセックスしたら妊娠する」という前提のもと、避妊方法などは教わる一方、「セックスしても妊娠しないことがある」とは教わらないんですね。性に関する話は家族の間でもしにくいだけに、不妊や不妊症への偏見・勘違いは、教育のところから変えていかないと解消しないと感じています。

――確かに、不妊について学校で学んだ記憶はありません。

松本 セックスしたら妊娠“してしまう”というニュアンスで教わった人も多いと思います。日本の性教育は遅れている、アンタッチャブルな分野と言われていますが、今後もっと切り込んでいかなくてはいけないと感じます。不妊に関して言えば、不妊自体や人工授精・体外受精の治療を教えるだけでなく、精子提供・卵子提供によって妊娠・出産する人もいること、さらに発展させて、さまざまな家族の在り方として、養子縁組などについても扱うべきではないでしょうか。海外にはそういったことを教えているところも実際にあるんですよ。

――教育以外でも、世間の不妊への意識を変えていく方法はありますか。

松本 国が不妊や不妊治療に関する取り組みを行うことで、人々の意識が変わることはあると思っています。今年の春、厚生労働省が不妊治療と仕事の両立支援のため、企業向けのマニュアルを出すことになったんです。また6月から施行される「改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)」にも、不妊治療を行っている人に対するハラスメントが対象に入ることになりました。これまで市民権を得ていなかったように思う不妊の当事者の状況が、少しずつではありますが、変わってきたと思います。このように、国側の取り組みがきっかけで、人々が「もしかして不妊の人っていっぱいいる?」「自分の周りにも不妊治療をしている人がいるかもしれない」と気づき、決して特殊ではないという認識が広がっていってほしいですね。

――そうした制度や法律が、「子どもはできて当たり前」の空気をなくし、めぐりめぐって、不妊に苦しむ当事者を救うことにもつながるといいですね。

松本 ただそうなるためには、例えば、会社に不妊治療をめぐる制度ができても、使えなかったら意味がない。不妊治療は生理周期に合わせて突発的で頻回な通院が必要で、クリニックに行くと想定外の通院予定を言われることも多いのに、「不妊治療の休暇制度は1カ月前に申請を出さないといけない」というルールを敷く会社も実際にあると聞きます。せっかく制度をつくってくれているのに、実情に即していないものであると、当事者が使えず、もったいないことになりかねません。何も不妊治療に対して新しく制度をつくってほしいということでもなく、現状の制度を「不妊治療にも」使えるようにしてもらえれば、それでも十分助かる人は多いはずです。また制度をつくること自体より、“風土”が大事という点にも、注視していかなければいけません。せっかく制度があるのに、それを使いづらい風土があっては、結局絵に描いた餅になってしまいます。それが最ももったいないことではないでしょうか。

社会が、突然ガラッと変わることはないと思いますが、だからこそ、学校や職場でちょっとずつちょっとずつ妊娠の正しい情報、不妊についての啓発を行い、“刷り込み”をしていき、人々の意識が変わっていく……そして、不妊当事者が「自分はおかしい」「人に言えない」と悩むことがなくなる社会になっていってほしいと思います。

松本亜樹子(まつもと・あきこ)
「NPO法人Fine」理事長。一般社団法人日本支援対話学会理事。長崎県長崎市生まれ。コーチ、人材育成・企業研修講師、フリーアナウンサーとして活躍。自身の不妊体験から2004年、「NPO法人Fine」を立ち上げる。著書に『不妊治療のやめどき』(WAVE出版)がある。

NPO法人Fine
不妊体験者による、不妊体験者のための、セルフサポートグループ。「『不妊』や『不妊治療』が、社会全体にもっと正しく理解され、不妊治療を受けることや、それを受けずに自然にまかせて授かる日を待つこと、また夫婦二人の道を選ぶこと、あるいは養子や里子を迎えることなど、不妊に関わるすべてのことが『ごくありふれた普通のこと』になること」を理想に掲げ、講演会・シンポジウム、勉強会等の開催、カウンセリング事業、公的機関・医療機関等、関係各機関への働きかけなど、不妊にまつわるさまざまな活動を行っている。
連絡先:Eメール npofine@j-fine.jp/Fax 03-5665-1606
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