【文豪の湯宿】島崎藤村が愛した「松貮」の間 今も残る明治の光景

【文豪の湯宿】島崎藤村が愛した「松貮」の間 今も残る明治の光景

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  • 更新日:2017/11/12
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凝った欄間と竹を生かした手の込んだ意匠が静謐な雰囲気を醸し出す(撮影/写真部・松永卓也)

文豪たちの作品に登場する温泉宿を訪ねる新連載「文豪の湯宿」。今回は「島崎藤村」の「福住楼」(神奈川県・塔ノ沢温泉)だ。

【写真で紹介】島崎藤村が愛した温泉宿、箱根・福住楼の内部とは?

*  *  *

〈晝(ひる)すこし前頃、三人は塔の澤へ入つた。千歳橋の畔(たもと)にある温泉宿へ着いて、往来の方へ向いた二階の一室(ひとま)へ案内された。庭の池へ落ちる筧(かけひ)の音は早川の水聲と一緒に成つて、涼しい雨を聞くやうな思(おもひ)をさせる。〉

明治41年に「東京朝日新聞」で連載された島崎藤村の自伝的小説「春」の、この宿を描いた場面である。

かつての文豪たちにとって温泉宿は、長逗留して執筆を行う創作活動の拠点でもあったのだ。

明治23年創業の福住楼には、藤村の愛した「松貮」の間が今も残る。窓側2辺を縁側が囲む書院造りのこの和室は、当時の最上級の部屋とされ、「店二階」と呼ばれていた。

藤村がこの部屋を訪れてから百余年。〈庭の百日紅(さるすべり)も花盛りの頃で、この廊下を美しく見せた。〉と書くほど思い入れがあった百日紅の大木は台風で失われ、窓から見える千歳橋は昭和8年に現在の姿に変わった。

しかし、部屋のすぐ脇を流れる早川側の窓を見れば昔と同じように緑の木々が茂り、川の流れの静かな音が聞こえてくる。藤村が愛した明治期の姿そのままに、平成の今も内外の客を「松貮」は迎え入れている。(文/本誌・鈴木裕也)

■福住楼(ふくずみろう) 神奈川県箱根町塔ノ沢74

※週刊朝日 2017年11月17日号

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