夢と家庭の両立は可能か?元サッカー日本代表が選んだ「驚きの道」

夢と家庭の両立は可能か?元サッカー日本代表が選んだ「驚きの道」

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2018/01/14
No image

元サッカー日本代表の岩政大樹さんは、鹿島アントラーズで長く活躍した後、ファジアーノ岡山、タイプレミアリーグを経て、2017年に関東一部リーグの東京ユナイテッドに移籍し周囲を驚かせました。小野寺史宜さんの小説『それ自体が奇跡』は、30歳のサラリーマンが、Jリーグ入りを目指すチーム(東京ユナイテッドがモデル)に加入し、「無償だけど本気のサッカー」に打ち込む小説です。常に新しい環境に身を置き、挑戦し続けてきた岩政さんは、この小説をどう読んだのでしょうか?

山口県の小さな島のサッカー少年

学校が終わると、駐車場で待つおじいちゃんのトラックに飛び乗る。40分かけて練習場へ向かう。定年を迎えたばかりのおじいちゃんは島でも有名な元気印だ。

トラックの中でいつも、おばあちゃんが持たせてくれた軽食を食べた。自家製みかんジュースとおにぎりが定番だ。おばあちゃんはみかん作りが生きがいの世話好きばあちゃんだ。

練習が終わると今度は両親の番。教師をしていた両親のどちらかが勤めを終えると、車で迎えにきてくれた。その頃まだ有料だった大島大橋を渡って家に帰った。

家に着くのは何時だったのだろう。

僕は小学生のとき、そんな日々を送っていた。「サッカーをやりたい」と言い出した僕のわがままから、岩政家の時間は僕を中心に回り始めた。

3つ上の兄は、僕に嫉妬するどころかずっと1番のサポーターだった。5人の家族はさもそれが当たり前のように僕のサッカーを応援し、サポートしてくれた。

僕は気づいていなかった。それ自体が奇跡であることに。

僕は、山口県周防大島町で生まれた。大島という名の小さな島。「星が降り注ぐ」という言葉が誇張に聞こえないほどの空の下、澄んだ空気と豊かな自然に囲まれて育った。

小学校の同級生は6人。学校にサッカーチームがあるはずもなく、県の大会に出るには島の外のチームに所属するしかなかった。

だから、サッカーをやるには家族の協力が必要不可欠だった。毎日の送り迎え、週末の試合観戦。子を持つ親、仕事に忙しいおじさんになった今なら分かる。「子どものため」とはいえ大変だったはずだ。

僕が「サッカーをする」ためには入り口から「近くの人を想う」がセットだったのだ。

小野寺史宜さんの小説『それ自体が奇跡』を読んで最初に浮かんだのは、サッカーを始めた頃の記憶だった。

No image

いつの間にかプロサッカー選手になっていた

サッカー選手になれるなんて、僕自身はおろか、周りも誰も思わなかった。ただ少し体がでかいだけの少年だった。あの頃僕にあったのは「サッカーが好き」という純粋な心だけ。「もっとうまくなりたい」「勝ちたい」、その一心だったように思う。
では、支えてくれた家族にあったのは?

「ダイキがやりたいことを思い切りやらせてあげよう」

その一心だったのだろうか。今思い返しても、ただの一度も辛そうな顔を見せられたことがない。兄も僕に嫉妬するような気持ちをほんのかけらも見せたことがないのだ。

それは当たり前だろうか。いや、そんなはずはない。

僕がサッカー選手になることは岩政家でしかなし得なかった。僕は奇跡の中で育ったのだ。

僕は導かれるようにプロサッカー選手になった。

中学、高校、大学といつも進学したらサッカーをやめるつもりだった。しかし、その度にサッカーをやめられなくなる出来事が起こり、そうして続けていくうちにプロへの道が開けてしまった。僕は決して「サッカー選手になるため」にサッカーをしていたわけではなく、「もっとうまくなりたい」「勝ちたい」、その一心のままだったのだ。

僕らはいつからか「夢を持て」と教わる。それが全てだとでもいうように。

でも、小さい頃の僕にはそれがピンとこなかった。当時はインターネットもない時代。島を出ることでさえ遠く感じていた僕には、5年生の時に華やかに始まったJリーグも「テレビの中のもの」でしかなく、存在しているのは分かるけど現実味がなさすぎて、「夢のような世界」から変わることはなかったのだ。

だから、プロサッカー選手になってからは強烈な劣等感と戦うことになった。

周りを見渡せば、僕よりも圧倒的にサッカーの才能を持ち合わせた選手ばかりだった。

僕は自分の生きる道を探した。みんなにはない、“僕だからできること”を。

鹿島アントラーズを勝たせることと日本代表になること。その2つを達成した僕は、いつしかオリジナルの道を歩きたいと思うようになった。

人が歩かない道を、人が歩かないからこそ歩もう。

それを僕の生き方と合わせられたら、“僕だからできること”につながる気がした。
では「僕の生き方」とはなんだ?

鹿島アントラーズ退団後の選択

僕はそれを「プロらしく生きない」ことだと考えた。周りの選手はみんなプロになろうとしてプロになった。でも僕は違う。プロになるつもりなんて本当になかったのだ。

小さい頃から好きだったのは、自分が活躍することよりむしろ「チーム全体を動かすこと」や「人を動かすこと」だった。僕には一人で大きなことを成し遂げる力などない。だから、みんなを輝かせることが僕が輝く唯一の方法だった。

教師の血を少なからず受け継いだのかな。

僕はそんな「僕の生き方」に正直になれるタイミングを探していた。

鹿島アントラーズで10年という区切りを迎えた僕はついに、個人として上を目指す“プロらしい”生き方に踏ん切りをつける決心を固めた。

そして、“僕だからできること”を探す旅に出た。「僕の生き方」で勝負する、新しい挑戦だ。

まずは「チーム全体を動かす」ということを外国人としてやってみたいと思い、Jリーグよりレベルの落ちるタイリーグに新天地を求めた。

タイで成果をあげられると、今度は日本の歴史が浅いクラブで、「チーム全体を動かす」ことに加え「人を動かす」ことにトライしたいと考え、ファジアーノ岡山で2年を過ごした。

現在はさらにカテゴリーを落とし、5部リーグにあたる関東社会人リーグの東京ユナイテッドで、チーム初のプロ選手、そして兼任コーチという立場での挑戦をしている。
いずれの決断にも様々な理由が絡んでいるが、結局僕は「お前しかいない。」という言葉に弱いのだと思う。やりがいを感じたらやってみたい。それが“僕だからできること”だからだ。

No image

東京ユナイテッドで選手とコーチを兼任。

その間、鹿島を離れた年に生まれた娘のことは妻に任せきりになった。

妻から見れば、僕の決断を理解はできたとしても納得はできなかっただろうと思う。確かに僕の決断はいつもちょっと変わっていて、「そんなことをしなくても」と考える方が普通だから尚更だっただろう。

それに、僕はいつも相談を始めたときには、すでに次なる道を心に決めていた。長い付き合いの妻にはそれも伝わっていただろうから、『それ自体が奇跡』の主人公の夫婦のように僕たちもギクシャクしたことがあった。

本当のところ、あのとき妻はどう感じていただろうか。

仕事をしながら本気のサッカーをする

『それ自体が奇跡』を読み進めながら、僕の思考は今の家族に移っていった。

僕はいつも人生の選択のときに家族を一番に考える。暑苦しい愛に溢れた家族に育てられた僕だ。家族は一緒に居るべきだ、と思う。

ただ、その次に「家族のためってどうすることだろう?」と考える。僕が「家族のため」だという名目をつけて、本当にやりたい挑戦をやめたら、僕はいつか自分の人生を「家族のせい」と捉えるかもしれない。それは本当に「家族のためだろうか?」と。

でも、そんなカッコつけたことを言っても妻と娘の目の前には日々がある。僕が好きなことをやることが本当に家族のためなのだろうか。

こうやって何度も僕の頭は行ったり来たりするのだ。

だから、そう!

「好きなことを思い切りやるって、近くの人を想うこととセット」。

いつもそうなんだ。そんなことをこの本で改めて思い出させてもらった。

僕は今、東京ユナイテッドでサッカーを続けている。ここにはJリーグで味わうようなスタジアムの熱狂はない。仕事をしながら本気でサッカーをする、その大変さに追われて毎週時間が過ぎていく。プロを目指して戦うとか、チームをJリーグに昇格させたいとか、そういう夢は確かにどこかにはあるのだけど、そんなことより大事なものがここにはある。

サッカーがしたい。サッカーが好き。そして、試合に勝ちたい。

それは昔の記憶の中にいる、小さな頃の僕に戻ったかのようだ。

時間があると家の前にある大きな壁にボールを蹴り続けていたあの頃。「そろそろご飯よ。」と家族の誰かが大きな声で僕を呼んだ。

それでも僕は蹴り続けた。サッカー選手になるために蹴っていたわけじゃない。ただ、蹴りたかった。

正月には毎年、家族を連れて大島の実家に帰る。おじいちゃんとおばあちゃんはもうそこにはいない。2人が座っていた席に、兄と僕の子供たちが肩を並べて座る。

僕には聞こえる。感じる。そこには僕の人生の家族が勢揃いしている。

僕の家のリビングには一枚の写真がある。娘が生まれてすぐに全員で撮った写真。そこには、おじいちゃんもおばあちゃんも、お父さんもお母さんも、兄も兄の家族も、そして僕も僕の家族もいる。僕の宝物だ。

その奇跡の写真は、妻がきれいに額に入れて、部屋の一番目立つところに飾ってある。

No image
No image

岩政大樹『PITCH LEVEL』サッカーから読む7つの論点と39の考察。「ピッチ目線」でサッカーの見方が180度変わる。

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

Jリーグカテゴリの人気記事

グノシーで話題の記事を読もう!
先発総入れ替えも3連勝!! 森保ジャパン、北朝鮮に3発勝利でGL首位通過
ようやく生まれた攻撃陣初ゴール!! MF三好康児「どうしても得点に結び付けたかった」
帝京大可児の選手権躍進は「嬉しさと羨ましさ半々」、岐阜入団の中大MF三島頌平が加入一年目の活躍誓う
森保ジャパン新星MF伊藤洋輝 俊輔直伝の左足FK
徳島、今年こそJ1昇格 元U17スペイン代表MFシシーニョ獲得
  • このエントリーをはてなブックマークに追加