死の間際まで自分らしさを失わなかった夫。作家・曽野綾子の考える介護とは? 13万部突破『夫の後始末』

死の間際まで自分らしさを失わなかった夫。作家・曽野綾子の考える介護とは? 13万部突破『夫の後始末』

  • ダ・ヴィンチニュース
  • 更新日:2018/01/14
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『夫の後始末』(曽野綾子/講談社)

長寿大国となり、超高齢化社会となった日本では、「介護」は喫緊の課題。多くの人が、する側にもされる側にもなり得る。老々介護、在宅介護で追い詰められた結果の殺人、介護施設での虐待など、介護に関する問題は尽きない。大切な人の介護は、きちんと行いたい。本人の望むように見送ってあげたい。誰もがそう願いつつも、仕事や私生活との間で大変な思いをしているのではないだろうか。

『夫の後始末』(曽野綾子/講談社)では、自宅での介護の末、2017年の2月に夫を看取った曽野綾子氏が、介護に対する姿勢や思いを淡々と語っている。そこには、無理をし過ぎることなく、常に慈愛の精神を持ち、相手の望みに応えようとする女性の姿があった。綺麗ごとでは済まされない介護に潔く向き合い、ユーモアすら交えてそれを語る姿は、「清々しい」の一言に尽きる。

「僕は幸せだ。この住み慣れた家で、廻りに本がたくさんあって、時々庭を眺めて、野菜畑でピーマンや茄子が大きくなるのが見える。ほんとうにありがとう」

夫である三浦朱門氏が、2015年に検査入院をして帰宅した時の言葉。信じられないくらい喜び、こう語った夫を前にして、曽野氏は夫の「介護人」になるという覚悟を決めた。作家として自宅で仕事をすることが出来、金銭的な心配がないとはいえ、自宅で介護をするのは簡単ではない。しかし、著者の場合は、夫の前に、夫の両親と実母の3人を看取っており、その頃から「老人とともに暮らすことの技術」を少しずつ学んでいた。その結果、段差がない、孤立した空間に本人を置かない、トイレを汚してしまった場合のために床に排水装置を付けるなど、介護をしやすい環境を整えていたという。

本書で印象的なのは、著者と夫の絶妙な掛け合い。自らも80代という高齢で夫を介護する状況では、想像を絶する苦労もあっただろう。しかし、そんな苦労話も、夫とのやり取りを交えて軽快に語られる。

夫は若い時から、不真面目を絵に描いたような人であった。決してまともな表現をしない。

著者は、夫の三浦氏を、言葉の上の「不良」だったと述べる。これは、年老いて体が弱るような変化が出た後でも変わらなかったそう。そんな三浦氏は、ある日突然倒れ、頭にこぶを作り、右目に青あざが出来てしまった。それを人に聞かれると、上機嫌でこう答える。

「ええ、これは女房に殴られたんです」

驚くべきことに、血中酸素量が極端に下がり、救急車で病院に搬送されて末期医療の看護を受けていた時にも、三浦氏のユーモアは健在だった。三浦氏がERから病室に移された時に、著者が「女房の悪口は、初めからしっかり言わないと浸透しないわよ」とアドバイスした時の返答だ。

「あれはもう古びたから、新しいのにする」

著者曰く「低酸素で普通なら生きていられないような病人」が放った言葉。散々使ってきた女房の悪口も、使い古したものは面白くないから、新しいバージョンを考えるという。息を引き取るまでの、病院での最期の九日間に出た言葉とは思えないユニークさだ。この後も、意識が混濁して自宅が五反田だと言い張る三浦氏に、著者が「五反田の家には、何という女の人がいるの?」とふざけて聞くと、数秒間の沈黙の後、「あやこさん」(妻である曽野氏と同じ名前)と答えたとか。最期の時まで、三浦氏は自分らしさを失わなかった。

著者は、自身が行った介護を「手抜き」だと語る。しかし、半世紀以上の人生を共にした伴侶が年老いて、周囲の助けなしには生活出来なくなっても、今までと変わらず敬意の念を抱いているのが伝わってくる。夫らしいところが残っていることに驚きながらも喜び、面白がって今までのように接する。それは、大切な家族への愛情そのものだ。そんな気持ちを持ち続けられたのは、自分を労わるために「手抜き」をしたからなのかもしれない。介護のことを考えると不安を感じることが多かったが、本書を読み、少し肩の力が抜けたような気がした。

文=松澤友子

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