清算された「ハブ」が、過去最高を更新している秘密

清算された「ハブ」が、過去最高を更新している秘密

  • ITmedia ビジネスオンライン
  • 更新日:2017/12/06
No image

英国パブをモデルにした「HUB」「82」を展開しているハブが元気である。2017年2月期の売上高は過去最高(前期比7%増の102億円)、18期連続で増収だ。

「HUBの看板は見たことがあるけれど、利用したことがないなあ」という人に、簡単にご紹介しよう。ハブはダイエーが絶好調だった1980年に誕生。ダイエーの創業者、中内功さんが英国のパブを体験したことがきっかけで、当時の日本では珍しかった「キャッシュオンデリバリー(注文ごとに代金を支払う)」を導入。良いモノをどんどん安くすることをウリにしていたので、週刊誌が1部180円だったころに、生ビールを1杯180円で提供する。ちなみに、現在は360円。『週刊新潮』(400円)、『週刊文春』(420円)よりも安く飲むことができる。

カウンターでドリンクとおつまみを注文して、気の合った仲間と会話を楽しむことができる。しかも低価格で。それまでの日本にはなかったスタイルの店だったので、設立時に10年で1000店の目標をぶちあげる。「ダイエーの売上高が1兆円を超えて、一番勢いがあるときだったので、実現できると思っていた」(ハブの関係者)

1号店は神戸の三宮に出店。その後、外国人の多い六本木、若者の多い渋谷などではウケたものの、地方の店舗は苦戦を強いられる。業績は伸び悩み、86年に清算。多くの飲食店は「ここで終わり」……のはず。しかし、同社は違った。「HUB」の屋号を残し、その後、順調に売り上げを伸ばし、01年以降は業績不振による退店がないのだ。

一度は死んだはずなのに、なぜハブは蘇ったのか。その理由について、同社の太田剛社長に聞いた。聞き手は、ITmedia ビジネスオンラインの土肥義則。

「HUB」の屋号は残して、細々と営業

土肥: ハブは1980年に創業して、神戸の三宮にオープンしました。当時の状況を教えてください。

太田: ダイエー創業者の中内さんは英国に行って、現地のパブに足を運びました。そして「英国のパブを日本でも広めよう」となって、三宮に1号店をオープンしました。2号店は六本木。その後、渋谷にも出店して、いずれも繁盛していたのですが、地方の札幌、沖縄、平塚などは苦戦していました。

土肥: ちょ、ちょっと待ってください。店舗戦略がひどくないですか? 神戸に出店したのであれば、次は大阪、次は京都……といった感じで、近隣に出店するのが“王道”なのでは?

太田: ご指摘のとおり、当時は出店戦略が定まっていませんでした。ただ、「10年で1000店」という目標を掲げていたので、それくらい大胆なことをやらなければいけない。また、当時のダイエーは絶好調だったので、大胆なことができる――。などと思っていました。

とはいえ無謀な出店戦略などがたたって、1986年に事業を清算しました。会社として拡大するのは難しいかもしれないが、パブ事業は残そうと。「HUB」の屋号は残して、細々と営業を続けてきました。

土肥: 日本のあちこちに店舗をつくったことのほかに、うまくいかなかった要因はどのように分析していますか?

太田: カウンターでドリンクとおつまみを注文をする。そして、自分でドリンクを運ぶ「キャッシュオンデリバリー」を普及させようと思っていたのですが、なかなか受け入れてもらえませんでした。お客さまからは「オレが買いにいくのか? 面倒だなあ」「買うたびに席を立ったら、酔うことができないじゃないか」「フードメニューはこれだけ? もっと増やしてよ」といった意見がありました。

こうした声を受けて、一部の店を変えてみることに。お客さまの注文を聞いて、ドリンクを提供する。フードもおつまみだけでなく、さまざまなモノを用意する。結果、どのようになったと思いますか。「洋風居酒屋」のような形になったんですよね。

このほかにも収益を上げるために、さまざまな手を打ちました。例えば、カラオケがブームになれば店内にカラオケの部屋をつくったり、他社で昼にアルコールを出す店が好調であれば朝も昼も営業したり。事業の軸がブレにブレながらも、なんとかギリギリの収益をあげながら運営していました。

会社のターニングポイント

土肥: ハブは開業して6年目に清算しました。その後も迷走を続けるわけですが、ターニングポイントはあったのでしょうか?

太田: 95年に金鹿研一さんが社長に就任して、大きく変わりました。社長に「太田さん、あなたは一体何をやりたいの?」と聞かれて、「原点はパブです。英国のパブを本気でやりたい」と答えました。当時、入社して12〜13年が経っていたのですが、現地のパブを見るどころか、英国にも行ったことがなかったんですよね。「じゃあ、一度本物を見て来い」と言われて、英国のパブを見ることになりました。

空港に着いて、最初のパブを見たときには衝撃を受けました。私たちが運営しているパブと、現地のパブはメニュー、サービス、内装などが大きく違っていたんですよね。15年間運営してきたのに、HUBには英国のビールが置いていませんでした(一部の店では英国産の缶ビールを発売)。あと、フィッシュアンドチップスも置いていませんでした。このままではいけないということで、視察後、ギネスビールやフィッシュアンドチップスなどを主力商品にしました。

HUBでもキャッシュオンデリバリーを導入していたわけですが、接客について大きな勘違いをしていました。「キャッシュオンデリバリー=ノーサービス」といった解釈をしていまして……これではダメですよね。フレンドリーであってもいいけれど、お客さまにおもてなしが伝わるような接客を心がけました。

内装についても、当時のHUBはできるだけ安く仕上げていたので、どこか安っぽい雰囲気が漂っていたんですよね。三宮店は英国パブに近い形だったのですが、他の店は違っていました。例えば、ある店は米国映画に出てくるバーのような感じ。コンクリート打ちっ放しにしたり、倉庫のようなデザインだったり。振り返ってみると、当時は「自分たちは英国のパブ文化を日本に根付かせるんだ」といった気持ちを忘れていました。

土肥: ふむふむ。

太田: 現地に足を運んで本物のパブに触れたわけですが、日本のHUBにすべてを取り入れたわけではありません。例えば、接客。英国ではお客さんが勝手に入ってきて、勝手に出ていく感じ。日本ではこうしたスタンスはなかなか難しいかなと思い、入店されたときは、元気よく「いらっしゃいませ」、退店されたときは「ありがとうございました」と言うようにしました。このほかにも、さまざまなところで日本人向けにカスタマイズしているので、店名に「英国風」と付けているんですよね。

土肥: なんと、そういった経緯があったわけですか。考えてみると「○○風」って、いろいろ応用できそうですね。「一流記者風の記事」とか「池上彰風の分かりやすい記事」とか。や、話がそれました。実際に英国のパブを見て、取り入れるところは取り入れて、結果どうなったのでしょうか?

ドミナント戦略がジワジワ効いている

太田: 英国のパブを見て「本物はこうだったのか」「中内さんが考えていたことはこういう店だったのか」といった気付きがあって、メニュー、接客、内装を見直すことに。97年、池袋に新しい形のHUBを出店したところ、爆発的に支持されました。ただ、1店だけでは分かりません。自分たちの勘違いかもしれないので、新宿の歌舞伎町に2店目を出したところ、そこも支持されました。

「これはいける!」と感じたので、98年以降はドミナント戦略にチカラを入れることに。乗降客数が1日10万人を超える駅を中心に、出店していきました。首都圏のほかに、関西、名古屋、仙台に進出しました。じゃあ、例えば広島はどうか? 「まだ早い」と思っています。

土肥: どうしてですか? 乗降客数を調べたところ……広島駅は14万人ほどですよ。

太田: なぜなら「HUBの認知度が低い」から。毎年調査を行っているのですが、HUBの認知度は50%ほどしかないんですよね。以前は20〜30%なので伸びているのですが、まだまだ。なぜ認知度が上がっているのかというと、ドミナント戦略がジワジワと効いているから。出店すると、お客さまが来店される。近隣エリアの人たちにもなんとなくHUBのことが伝わって、そこに店舗を出す。店を増やすことで、少しずつ利用される人が増えてきているのではないでしょうか。

土肥: 出店エリアで「HUBファンを増やしていく」わけですね。少しずつファンを増やした結果、売り上げは過去最高、18期連続で増収になったわけでしょうか?

太田: 飲食業で新しい業態を始めて、スタートダッシュに成功されているところがありますよね。いまの消費者のニーズをうまくつかんで売り上げをドーンと伸ばす。でも、そうした商売だと、18期連続で増収は難しいかもしれません。では、なぜハブはそうしたことができたのか。当社の場合、新しい店ができても、お客さまは「なんの店ができたのかな」といった感じで、ゆっくり進んでいくんですよね。まずは「パブとは何か」といったところからスタートする感じ。

いまは100店舗ほどなので、年に10店舗ペースで出店できればいいと思っています。このようなことを言うと、「たくさん出店して、売り上げがイマイチなところは閉店すればいいんですよ。20店増やして、ダメな5店を閉鎖する。でも15店増えることになる」とアドバイスされる。でも、私たちにはHUBと82の2つのブランドしかありません。新規事業を考えるよりも、パブ事業に特化していきたい。

というわけで、イケイケドンドンで出店しても、たった1つの店が失敗しただけでブランドを棄損するかもしれません。ブランドの棄損というのは、会社全体の棄損につながるので、きちんと人材を育成したうえで、出店していかなければいけません。

「店を存続させること」が大切

土肥: 2001年以降、業績不振による撤退がないことや、既存店売上高は7期連続でプラスであることは、「少しずつ、少しずつ戦略」が要因だと?

太田: 「パブ事業がおかしくなったらいけないので、いまのうちに新しい事業を始めたほうがいいよ」といったアドバイスを受けることがあるのですが、このビジネスではちょっと合わないかなあと思っています。新規事業を展開すると、多くの場合、既存事業が弱くなっていく。繰り返しになりますが、私たちは失敗が許されないので、計画通りにいっていない店舗でも立て直しを図っていかなければいけません。

土肥: どのようにして立て直すのでしょうか?

太田: 「店を存続させること」が大切なんです。

土肥: そ、それはそうでしょう。どういう意味でしょうか。

太田: 計画通りにいかない店は、パブを理解されていないお客さまが多い。もちろん、お客さまが悪いという話をしているのではなく、「パブとはなにか」「HUBはこういうお店です」ということをじっくり伝えていかなければいけません。先ほど「きちんと人材を育成したうえで、出店していかなければいけません」と言いましたが、優秀な店長は伝えることがうまい。結果、店の業績がいいんです。

土肥: 一般的に居酒屋にはたくさんスタッフがいますよね。料理する人、ホールの人、洗い場の人など。一方のHUB、料理はそれほど手の込んだモノがないので、たくさんの人は不要。キャッシュオンデリバリーなのでホール係は少人数でOK。となると、店長の育成ってそれほど難しくないのでは?

太田: いえ、そうではありません。人気のHUBに行けば、満員電車の中でドリンクを楽しむといった感じになるんですよね。そこで、統制がとれていなければ、トラブルが起きるかもしれません。でも、お客さまには「安心」を感じてもらわなければ、再び来てくれません。というわけで、店長は、この人はこういう仲間と来ているとか、この人はこういう人など、さまざまな情報を把握していなければいけません。

店をコントロールできていないと、一時的に客数は増えるんです。「お、この店いいな。自由で」といった形で。でも、その一方で不快に感じる人も多い。「この店はダメだ」と。そういう人が増えていくと、客数がどんどん減っていく。というわけで、人材を育ててから、出店しなければいけません。

土肥: 人材を育てて、新しい飲み方を知ってもらう。そして、ファンを増やす。再び、人材を育てる、新しい飲み方を知ってもらう、ファンを増やす……といったサイクルですか?

太田: はい。

パブ事業の参入障壁

土肥: ハブの売り上げが好調となると、ライバルが増えるはず。パブ事業の参入障壁は何になるのでしょうか。

太田: 儲(もう)からないビジネスなので、誰もやらないのでは?(苦笑)。HUBを出店するのに、7000〜8000万円ほど必要なんですよね。それを回収するのに6年ほどかかる。飲食業界で、6年先のことを予想できる人はいるでしょうか? ほとんどいないと思います。

パブは地域コミュニティの場なので、流行り廃りの影響はあまり受けないでしょう。とはいえ、「変わらない」と言ってもらえるためには、常に変化していなければいけません。10年前と何も変わっていません、新しいメニューも出しません、キャンペーンもしません、といったスタンスだと飽きられてしまう。ただ、これまで一度も「パブブーム」がないんですよね(笑)。焼き鳥、串カツ、イタリアンなどのブームはありましたが、パブブームはない。業界の専門誌でもそのようなタイトルを見たことがない。

土肥: 確かに、パブブームは聞いたことがないですね。

太田: 外食産業には優秀な経営者がたくさんいます。時流に合わせてトレンドをつるくのが上手なので、すぐに投資回収をする。そして、次のトレンドを生み出す。業界関係者から「太田さん、パブだけやっていて、飽きませんか? 新しいことやりたいと思わないのですか?」とよく聞かれます。でも、パブはものすごく可能性があると思っているんですよね。

さまざまなシーンでデジタル化が進むと、コミュニケーションが不足するかもしれません。そうしたなかで、「今日はこんなことがあった」「あんなことがあった」といったことが語り合えるような場がこれからも必要になるになるのではないでしょうか。

(終わり)

行列研究所が著者になりました!

ITmedia ビジネスオンラインの連載をまとめた書籍『バカ売れ法則大全』(行列研究所/SBクリエイティブ)が発売されました。本連載「水曜インタビュー劇場の人気記事をピックアップして、大幅に加筆。また弊誌では掲載していない記事もご紹介しています。

→『バカ売れ法則大全』(Kindle版

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

経済カテゴリの人気記事

グノシーで話題の記事を読もう!
「高く買わないでください」 人気酒「獺祭」の広告に驚きと称賛の声 社長「本当は広告出したくない」
ホンダ「フリード Modulo X」発売 専用装備で「上質かつしなやかな乗り味」追求
マツダ、いよいよ初期型「ロードスター」のレストア・サービス受付を開始 外装修復のみなら250万円から
ビットコインなんてやってはいけない...投機の道具、犯罪の温床に
今、証券会社のトップ営業マンが続々と転職している「ある職業」
  • このエントリーをはてなブックマークに追加