議員会館内保育所に夜間保育園... 働く母の「最後の砦」に見る現実とは

議員会館内保育所に夜間保育園... 働く母の「最後の砦」に見る現実とは

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  • 更新日:2017/09/16
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「第2どろんこ夜間保育園」定員55人/0~5歳/11~22時(最長7~26時)/1982年5月開設/20年以上前から玄米給食、モンテッソーリ教育などを導入(撮影/江藤大作)「第2どろんこ夜間保育園」定員55人/0~5歳/11~22時(最長7~26時)/1982年5月開設/20年以上前から玄米給食、モンテッソーリ教育などを導入(撮影/江藤大作)

仕事と子育ての両立は、どうしてこんなにつらいのか。そう感じながら、毎日必死で走り続けている人は少なくない。待機児童のニュースを聞くたびに、上司や同僚に気を使い、後ろ髪をひかれながら会社を後にするたびに、いつになったら楽になるの?と思ってしまう。小学生になっても、ティーンエイジャーになっても新たな「壁」があらわれると聞けば、なおさらだ。AERA 2017年9月18日号では、そんな「仕事と子育て」を大特集。「職育接近」が最後の切り札になりそうだ。

【写真】公用車での送迎が問題となった金子恵美衆議院議員

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自民党の金子恵美衆議院議員(39)の一日は、午前6時に始まる。1歳半の長男がムズムズと起きだすと、眠い目をこすりながら朝食の準備。ほぼ大人と同じものが食べられるようになって、食事の支度は少し楽になった。それでも、自身の身支度をしながら子どもにご飯を食べさせ、着替えさせて保育園の登園準備をする朝の時間帯は、目が回りそうな慌ただしさだ。

東京・赤坂の議員宿舎を出るのは午前8時30分過ぎ。約1キロ離れた議員会館内にある認証保育所まで約20分、ベビーカーを押して坂道を上る。

「夜は地元の新潟県での会合も多い。だから私は主に送りを担当し、迎えは夫。夫婦でどうにもならないときは実家の母を頼っています。私4、夫3、母3の割合で育児を分担し、何とか回しています」(金子さん)

●国会議員ばかりズルい

今年6月、週刊新潮が、当時総務政務官だった金子さんが議員会館内の保育所への息子の送迎に公用車を使っているのは公用車の私的利用にあたる、と批判したことは記憶に新しい。

批判、擁護から同情までさまざまな声が上がったが、都市部を中心に多かったのは「私たちは雨の中、傘を差しながら必死でベビーカーを押しているのに、国会議員が公用車で登園なんてズルい」という声だ。金子さんは、公用車での送迎はその前後に公務があるときのみだったと説明しつつ、謝罪した。

「以前から徒歩でも送り迎えしていたし、『謝るべきではない』というご意見もいただきました。ただ、批判は真摯に受け止めて公用車を使うのをやめ、政治家はもちろん、誰もが堂々と子育てしながら仕事ができる環境づくりをしなければならないと思ったんです」(同)

金子さんへの批判は、仕事と子育ての両立がまだ多くの当事者にとって決して楽なことではないという現実の裏返しだ。待機児童問題を筆頭にいつまでも状況が変わらないから、政府が「女性活躍」や「子育て支援」を声高に叫び、多くの企業が産休や育休、復帰後の時短勤務などの制度を整えても、私たちは国会議員が出産や子育てで仕事を休むことに寛容になれない。

だが、子育て政策や待機児童問題に関する立法を担う国会議員に妊娠や出産、育児を認めない社会が健全だと言えるのか。7月にも、無所属の鈴木貴子衆議院議員(31)が、切迫早産と診断されて安静を余儀なくされたことをブログで報告したところ、「任期中の妊娠はいかがなものか」「辞職すべきだ」などの声が届いた。金子さんは言う。

「議員にはいろんな立場の人がいるべきで、出産、子育てをしながら働くことの大変さを肌で知る政治家も必要です。代理人制度やテレワークの導入はできないか。国会議員の働き方にも議論の余地はあるはずです」

そもそも、国会議員や「特別職国家公務員」にあたる公設秘書などは原則として労働基準法の適用外で、産休や育休の制度がない。妊娠や出産で国会を休んでも歳費や手当が満額支給されることが、逆に批判の的となっている。議員秘書歴20年以上で『国会女子の忖度(そんたく)日記』(徳間書店)の著書がある神澤志万(かみざわしま)さんも、こう話す。

「出産後に復帰した公設秘書はほとんどいません」

数少ない子育て中の秘書は、国会が遅くなるときは子どもを保育園から議員会館の事務所に連れてくる。共謀罪法案の審議中は、夜10時くらいまで子どもたちが走り回っていた。神澤さん自身、議員会館内を子どもを抱っこして歩いていてベテラン男性議員に「けしからん」と怒られたり、元保育士だった女性議員に「出ていけ」と言われたりしたこともあるという。

●大量着信の夢を見る

国会議員は24時間365日国民のために働き、公設秘書も同様に働く。その結果、議員の原稿草案を作成する各省庁の官僚や公務員、それを報じるマスコミなどが長時間労働を強いられる。こうした人々の受け皿になっているのが夜間保育園だ。

テレビカメラマンの女性(37)は、今年4月から1歳半の長男を福岡市内の第2どろんこ夜間保育園に預けている。飲食店経営の夫の帰りは深夜で、毎日の迎えは女性がするしかない。

出産前は早朝7時から深夜2時までという「ありえない働き方」をしていたが、出産後は夜の仕事をセーブ。それでも通常の認可保育園の時間内に迎えに行けず、夜10時までの夜間保育園に行きついた。毎日の迎えは9時半くらい。長男はいつも、起きて帰りを待っている。

「撮影中はどうしても電話に出られない。気づいたら保育園から何十件も着信があって息子が大変なことになっている、という悪夢を見ます(笑)。子育て中の女性カメラマンはゼロに近く、私もこの園がなければ、仕事は諦めていたと思う」

この園の園長で、全国夜間保育園連盟会長の天久(あまひさ)薫さん(67)は言う。

「夜間保育園というと、いわゆる夜の仕事をするシングルマザーが子どもを預ける場所というイメージが強いかもしれないが、いまは違う。残業が多い公務員、マスコミ、医者なども多くいます。うちの園に通う46世帯のうち、約5割は会社員で、あとは飲食店などの自営業です」

夜間保育園は、働き方を変えられない業界で働く親たちの「最後の砦(とりで)」なのだ。

夜間保育園が国の制度として認められたのは、1981年。それ以前は劣悪な環境で子どもが死亡する事故などが相次ぎ、行政も対策に乗り出した。だがいまも、認可の夜間保育園は全国でわずか82園。増えないのは、

「行政側に『夜間保育園が増えると育児放棄を助長する』という間違った認識が残っているから。子どもにとってよくないのは夜間保育ではなく、『夜間に子どもの世話をする人がいない』という環境です」(天久さん)

ソフトウェア企業に勤務する三浦孝之さん(30)は、長女(6)が1歳のときからこの園に預けている。クライアントの都合に左右される仕事で、急な対応を求められると断れない。飲食店で深夜まで働いていた妻とは、昨年10月に離婚した。

「ここに預けている限りは、クライアントの急な依頼にも対応できる。それに、園にはいろいろな立場の人がいるし、シングルでも引け目は感じません。ただ、小学校に上がった後が不安です。小学校内の学童では遅くまで預かってはもらえないので、仕事を変えることも含めて、どうするか考えています」

本田彩子さん(33)も3歳の長男と1歳の次男を預けて西日本新聞の記者として働く。事件や事故が起きれば現場にかけつける社会部員。小さな子を持つ女性記者は少ない。しかも夫の勤務地は鹿児島県で、平日の育児は本田さんのワンオペだ。

入社5年目で長男を出産した後は極端に仕事をセーブして午後6時前にはお迎えに行った。

「周りが過度に気を使ってくれる分、こちらも遠慮して、仕事は中途半端になった。心が仕事に残ってしまうせいで育児にも全力投球できない。これでは働いている意味がないと思った」

次男の出産後は土日勤務の際は夫に預け、平日は夕食を終えるまで保育園に預けるスタイルに。会社の残業制限制度を利用しつつ、興味のある教育分野を重点的に取材している。

「園の夕食は栄養バランスも緻密に考えられていて、私が作るより健康的(笑)。子育て政策を検証する立場の私たちも、変わるべきです」(本田さん)

●風土が変わらなければ

実際、社内に色濃く染みついた「男性的価値観」を変えようと試みる企業もある。

今年4月、佐川急便などを擁するSGホールディングスは、東京事務所近くの自社ビルにグループ初となる企業内保育所「SGH Kids Garden」をオープンした。2011年にトップダウンの女性活躍推進プロジェクトが発足。従業員の8割が男性で、社内は圧倒的に男性社会だったが、「収益の30%を女性が担う」を目標に従業員や管理職の女性比率アップを目指す方針に舵を切った。

各営業所に女性専用トイレや更衣室を設置することから始め、育休や時短勤務の期間も延長。企業内保育所の開設は懸案だった。人事部シニアマネジャーの小林香織さん(43)は、保育所の開設は女性従業員の復職支援だけでなく、男性従業員の意識改革という狙いもある、と話す。

次男(1)を預けるグループ会社社員の中島佑介さん(36)は江戸川区在住。認可保育所の年長に在籍する長男(6)のときはなかなか入所できず苦労した。次男も同様で、送り迎えの利便性も考えて企業内保育所を選んだという。

「家事と送迎は妻と分担。自宅から1駅なので、私の職場近くにすれば便利だと思いました」

男性社員にはこんなふうに育児に参加するよう促したい、と小林さんは言う。

「制度をつくっても、風土が変わらないと実効性を持ちません。理解は体験から生まれます」

8月には栗和田榮一会長、町田公志社長をはじめ国内各事業会社の社長がイクボスを宣言。男性の育児休業取得の目標値設定も検討しているという。

「女性が働きやすい職場は男性にとっても働きやすい。女性の活躍推進がひいては従業員全体のワーク・ライフ・バランス向上につながります」(小林さん)

(編集部・作田裕史、石田かおる)

※AERA 2017年9月18日

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