先だって。
ずいぶん前にスタッフをしてくれていた女性と会った。
ちょうど彼女が19歳で、私の歌が好きになり手紙をくれたことからの縁だ。
女優を目指し、歌もうまい。
そのうえ、実務能力も高い。
ずいぶんと助けられた。
その彼女は、その頃、寝たきりのお父さまの介護をしていて。
足の不自由なお母さまと、お姉さんと弟さんがいた。
その後、お姉さんは結婚、弟さんも家を出て。
大変だなあと思った。
でも、人の家の大変さは、軽く口にできない。
しょせん、アドバイスなんて、できるものではないのだ。
人には人それぞれの事情がある。
「ご飯誘ってね」と言われながら、なんだかんだと月日は流れ、お父さまが亡くなり、今はお母さまとの二人暮らし。
なんだか私と似た状況だ。
「私は通いだから、まだ楽だよ」と言うと。
「いやあ、通いのほうが大変だよ」と言う。
介護にはすっかり慣れているはずの彼女も、なかなかに苦戦しているようだ。
「母親がデイサービス嫌だっていうからねえ」
高齢の母親の対処は、それぞれむずかしい。
母親と娘の二人だけ、なんていうのは、だいたいがむずかしくて当たり前なのだろう。
ぜったい怒らないと決めているはずの私自身でさえ、時々アッと思った瞬間、ガードしてたはずのココロの殻のどこかに亀裂が入ったように、そこから怒りの言葉が流れ出てくる。
それは、もう太古の昔からそこに溜まっていたマグマのようで、自分自身が驚く。
一生懸命、それこそ「愛」という名のガードで保護していたものが、さんざんに砕け散る。
がっかりする。
自分にがっかりする。
そういう日は、つらい。
一人になってもつらい。
帰ってから愚痴を言う相手もいない。
そういう時は、結婚でもしときゃ良かったかと思う。
犬や猫や鳥でもいたらいいと思う。
でもまあ、翌日になれば、今日のように晴れていれば、ココロは明るい。
しぶとくなるのさ。
小娘じゃないんだからさ。
クミコ