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ウーバーイーツ監督のガチンコ路上労働ドキュメンタリー『東京自転車節』 「社会問題の提起と働ける喜びの狭間」

ウーバーイーツ監督のガチンコ路上労働ドキュメンタリー『東京自転車節』 「社会問題の提起と働ける喜びの狭間」

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  • 更新日:2021/07/22
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『東京自転車節』©2021水口屋フィルム/ノンデライコ

2019年の『家族を想うとき』、2020年の『ノマドランド』など海外作品では個人事業主扱いの仕事の過酷さが描かれてきたが、ウーバーイーツは私たちの身近にありながら内情が知られてこなかった。おそらく世界初の配達員によるセルフドキュメンタリー『東京自転車節』を撮ったのは、現在28歳の青柳拓監督。その動機、背景を聞いた。

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『東京自転車節』©2021水口屋フィルム/ノンデライコ

「マグロ漁船に乗ろうかと思っていた」

―なぜウーバーイーツで働き、それを映画にすることになったのでしょうか。働かなければならない切迫感と、人がいない東京を撮ること以外の動機はあったんですか?

日本映画大学を卒業して、なんとか映画で奨学金を返したいっていう気持ちがあって、コロナ以前は自分が借金を返していくドキュメンタリーを撮りたいと切実に考えていたんです。マグロ漁船に乗りたいなとか。素人でも乗り始められるっていう話を聞いて、就労セミナーにも行きました。でもマグロ漁船では映像を撮るのは絶対だめで、だとしたら取材してもノンフィクション作品にはできるかもしれないけれど、映画は無理だなと。

あと、やっぱり一度働いてすぐ出て行ってしまうような人は雇用する側から考えたら良くないと思うので、 ちゃんと契約して撮るのか、本当に骨を埋める覚悟でそこに行くのか……。諦めて運転代行の仕事をしていたときに、新型コロナウイルスというもっとまた違うものが出てきて、すぐにウーバーイーツに切り替えて動けました。

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『東京自転車節』©2021水口屋フィルム/ノンデライコ

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―労働条件を見て、1件当たりの報酬が少なすぎるなどとは思いませんでしたか?

奨学金を返せるかといえば、現実的ではないとわかってはいました。ただ、稼がなきゃ、働かなきゃなっていうのもあったので。ウーバーイーツでYouTube動画を投稿されている方が結構いて、それで頑張れば1日15,000円か、じゃあ……と僕もバカなので、毎日やれば稼げると思ったんですよ。本当に体力があるからって感じですよね。自分の若さみたいなのも利用して行けるんじゃないかっていうのもありました。

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『東京自転車節』©2021水口屋フィルム/ノンデライコ

だから無鉄砲なのは否めないんですけど、ああいう時期(緊急事態宣言1回目のころ)って単発の仕事がすごく求められていた。就職も出来たんですけど、先も見えない状況の中で、単発で仕事を自由にしたいって時に、ウーバーとかそういうフードデリバリーの仕事って、すごくちょうど良かった。選択肢として本当に、そこぐらいしか思い浮かばなかったっていうのもあったんですよ。あの場面では結構、重宝した人は多かったと思います。

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『東京自転車節』©2021水口屋フィルム/ノンデライコ

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“ウーバーイーツあるある”で感じた「ケン・ローチはやっぱすごい」

―ウーバーだけでなく奨学金制度の問題などもあぶりだされてくるわけですが、そういうことは意識してたんですか?

奨学金制度という名の借金に苦しむ若者の問題って、どこか根底では感じてるんですけど、どう訴えていいかわからない。矛先が複雑すぎて。僕ら同世代、怒りの矛先も見えないし怒り方もわからない。だから自分自身も奨学金制度どうなの? っていうのを、どう踏み込んだらいいか、どう訴えたらいいかは正直まだちょっとわかんなくて。

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『東京自転車節』©2021水口屋フィルム/ノンデライコ

―そのもどかしさも作品に結実していると思いました。映像はウーバーで働きながら撮影し毎日チェックしていたんですか?

3日ごとぐらいですかね。iPhoneとGoProを使って撮ったんですけど、GoProは装着に時間がかかるので結構決めて撮るっていう感じで、ずっとつけていたけど、そんなに回してはいないです。前に井戸を掘るドキュメンタリーを撮ったんですけど、GoProってすごく肉体とリンクしやすいなとしっくりきて、その感触を持って『東京自転車節』の撮影をしたんです。自転車の疾走感をどうしても見せたかった。見てくださる人にも、配達しているような気持ちになってもらえたらいいなと思って。

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『東京自転車節』©2021水口屋フィルム/ノンデライコ

―転倒したりiPhoneが落ちたり、あわや大事故っていうシーンが結構あって……。

あれは“ウーバーイーツあるある”だと思っていて。iPhoneが落ちて壊れるとか、たまたま水たまりに落ちたみたいなことは、あれ以外にもあと2回ぐらいあって。だからそういうときに、ああケン・ローチ監督が言ってた!(笑)。あれは、この延長線なんだなって。自転車とか携帯が壊れたりしたら自己負担で払っていくのが当たり前だと思っていたけど、そうじゃないのかもしれない。ケン・ローチはやっぱすごいなあと思って。

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『東京自転車節』©2021水口屋フィルム/ノンデライコ

自分にはケン・ローチ監督よりも、『ノマドランド』の描き方が合っていた

―『家族を想うとき』を見ていたら、決して踏み込まない世界に踏み込んで行かれたわけで。

自由に働けるってことは自分にとってもすごくいいなと思いながらも、ただやっぱり状況としてどうなのかなっていうのは僕も悶々としながら。ケン・ローチ監督の映画とかを見ると、すごくはっきり浮き彫りにしてくれるとは思うんです。でも『ノマドランド』の描き方が自分にはすごく合ってたっていうか、社会問題として訴えたい気持ちはあるけど、ウーバーイーツで働くことの喜びとか誇りっていうのも出したいなぁというのもあって。

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『東京自転車節』©2021水口屋フィルム/ノンデライコ

―メディアに出てくるウーバーイーツが、手放しで新しい素晴らしいと大絶賛か、逆に組合と交渉しないブラック企業みたいな両極端な記事しかなくて、じゃあ中の人はどんな気持ちで働いてるの? ってことに映画で初めて光を当てたのが青柳さんだったと思うんですよね。自分を撮ることについて、カメラはどの程度意識していたんですか。

僕もセルフドキュメンタリーは好きで見ていて、ちょっと作為的っていうか、いやらしいなあとか思うことはあるので、なるべくそうならないように、稼ぐことに意識を向けようと決めてはいました。とにかく配達する、それだけに集中する。自分の雑念とか作りたい欲みたいなものが浮かんだら、飛ばす。カメラっていうものを忘れられないけど、忘れるぐらい肉体と馴染ませておくみたいな。

正直、カメラが回ってるか回ってないかもわからなかった感じの時もありました。あの期間ずっとカメラと一緒で、周りにも誰もいなくて、カメラに語りかけるように生きていた。カメラのスタートボタンを押してる時の意識はあるんだけど、なんて言うか……外に向かってというよりか生きてることを伝える、みたいな。だから最後のシーンとかは、撮れてるってことは編集段階で気がつきました。

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『東京自転車節』©2021水口屋フィルム/ノンデライコ

とにかく自分に正直に、稼いだお金を使っちゃうところとか、全然お金が貯まらないところも撮ろうと。ただただ稼いでいくってことにも限界があるなあって配達してて思って、アパホテルとかで使ってしまうシーンも腹くくろうと。それも作為的かもしれませんが。

―いえ、あのシーンも面白かったです。私たちみんなが陥る罠だなと思いました。お金を使うことが楽しいって刷り込まれていて、何か気晴らしをしようとしたら消費に向かってしまう。ウーバーイーツを頼んでいる人たちも、お金を使わされている感じもしたんですよ。タワマンの人たちからさえ豊かさを感じられない。

配達のスピード的にも、すごく近くに見えるタワマンだけど、部屋にたどり着くまで本当に遠いんですよ。関門があって、検問所みたいなところで名前を書いてとか。住んでいる方もルームキーを何個も持ってるから、本当に遠いんだなと。

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『東京自転車節』©2021水口屋フィルム/ノンデライコ

NHKプレミアムドラマ『ライオンのおやつ』土村芳インタビュー 余命宣告を受けた29歳、“家族の中の違和感”とは【第1回】

「ちょうどオリンピックと重なるので『AKIRA』とかも意識して(笑)」

―次回作のご予定はありますか?

まずこの映画を大勢の人に見てもらいたいです。山形ドキュメンタリー映画祭には応募しようと思っています。 もし通ったら字幕を付けてもらえるって話を聞いたんで。お金がないので(笑)、まずは通ったらいいなと。

―上映館も、緊急事態宣言下でもコロナ対策万全で頑張っています。

本作の上映がオリンピックとちょうど重なるので、『AKIRA』(1988年)とかも意識して(笑)。2020年のオリンピックの旗の横で、赤い服着てdocomoシェアの赤いレンタルバイクに乗ろうと思ってます。まあ、とにかく自分のことを突き詰めていくことで、いまの状況が少しでも良くなるか、状況をわかってもらうのが大事なんじゃないかなと思ってます。

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『東京自転車節』©2021水口屋フィルム/ノンデライコ

取材・文:遠藤京子

『東京自転車節』は2021年7月10日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開

遠藤京子

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