ミャンマー市民が少数民族武装組織と共闘、軍政との「内戦」に発展する可能性

ミャンマー市民が少数民族武装組織と共闘、軍政との「内戦」に発展する可能性

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/06/10
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本格的内戦への懸念

クーデターで民主的政権を倒して軍による統治を進めているミャンマー軍政は、最近、国際赤十字関係者や東南アジア諸国連合(ASEAN)代表と首都ネピドーで会談するなど外交面でも着々と実績と既成事実の構築を進めている。

その背景には、国際社会からの批判を念頭に、社会的な安定と政権掌握が順調に進んでいることをアピールする狙いがあるのは確実だ。

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〔PHOTO〕gettyimages

民主政権を担ってきたアウン・サン・スー・チー国家最高顧問はクーデター当日の2月1日、軍によって身柄を拘束された後、複数の容疑で起訴され現在は公判中の身だ。

5月24日に公判でのスー・チーさんの写真をクーデター後初めて公開したことも軍政による司法掌握を示すものと理解されており、軍政の「政治権力の基盤の安定化」に関する自信の表れとみられている。

しかしその一方で、軍政への反発を強める「国民統一政府(NUG)」関係者やその防衛組織「国民防衛隊(PDF)」などによる反軍政の動きもまた活発化している。

都市部の学生や若者が国境周辺で長年ミャンマー軍と衝突を繰り返してきた少数民族武装勢力と連携して軍事訓練や武器供与を受け、都市部での軍による非武装・無抵抗の一般市民に対する実弾発砲などの一方的残虐行為に「武器で対抗し、これ以上の人権侵害を許さない」との状況が生まれつつあるという。

さらには、スー・チー政権時代には少数イスラム教徒として政治社会経済的に差別を受けてきた西部ラカイン州のロヒンギャ族に対してNUGが「軍政に対抗するため連携を」と呼びかける事態にもなっている。

このように、このところのミャンマー情勢は、軍政による政治経済の安定アピールにもかかわらず、少数民族武装勢力との連携、共同戦線による武装闘争への気運が高まりつつあり、本格的内戦への展開も懸念される状況となっている。

ASEAN代表、赤十字総裁と会談

軍政トップのミン・アウン・フライン国軍司令官は6月4日、ネピドーで今年のASEAN議長国であるブルネイのエルワン第2外相、リム・ジョクホイASEAN事務局長と会談した。

会談ではASEAN側が、4月24日にジャカルタで開催され、ミン・アウン・フライン国軍司令官も出席したASEAN臨時首脳会で合意した「暴力行為の停止、ASEAN特使派遣」などの5項目について履行を求めたのに対し、ミン・アウン・フライン国軍司令官は民主派が組織したNUGは違法であると主張、人道支援強力に関して意見交換したという。

ジャカルタで合意された5項目に関しては、その後ミャンマー軍政が「適当な時期が来たら対応する」として履行に関しては何ら言質を与えておらず、今回もASEAN側が派遣するASEAN特使の候補者名を軍政に伝えた(6日にASEANが明らかにした)ものの、特使受け入れに関して具体的な進展はいまのところはないという。

このASEAN特使との会談に先立ち、6月3日、ミン・アウン・フライン国軍司令官は赤十字国際委員会のペーター・マウラ―総裁と会談している。この会談では人道支援の強化や医療従事者の尊重、そして暴力の停止を赤十字側が申し入れたとしているが、軍政の反応に関する報道はない。

クーデター発生後、ミン・アウン・フライン国軍司令官は初の外遊としてインドネシアのジャカルタを訪問、ASEANが司令官を「ミャンマー首脳」として遇したことを踏み台にして、赤十字国際委員会総裁、ASEAN代表との相次ぐ会談は、「実質的な国家指導者」としての立場を内外にアピールする格好の場となったといえる。

NUGはASEAN代表に対して「軍政だけでなく我々NUGとも会談するべきだ」と主張したものの、NUGを非合法組織としている軍政がそれを認める訳もなく、反軍政の市民らからは「ASEANには失望した」との批判も出る事態になっている。

着々進むスー・チーさん公判

軍政が「政権掌握」に自信を示し始めたもう一つの証左が、スー・チーさんの公判に関する情報提供である。

不法に無線機を所持した容疑やコロナ対策を怠ったという自然災害管理法違反など複数の容疑で起訴されているスー・チーさんの裁判は、弁護士すら面会が困難な状況で進められていたが、5月24日、公判に出廷中のスー・チーさんの写真を国営メディアが公開した。

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クーデター発生直後に身柄を拘束されたスー・チーさんの写真が公開されたのは初めてで、少なくとも元気でいる様子が伝えられたことで反軍政の市民やスー・チーさんが率いた政党「国民民主連盟(NLD)」の関係者、NUG関係者は胸をなでおろすとともに、軍政への怒りを露わにした。

7日に開かれた公判後にスー・チーさんの弁護士は約30分、スー・チーさんと面会したことを明らかにし、裁判所は毎週月曜日と火曜日に公判を開く予定で、今後180日以内に結審する方針であるという。

約6ヵ月後に結審して判決が言い渡されることになるが、こうした裁判日程を明らかにするところにも軍政の「自信」が表れ、反軍政の市民に「スー・チーさんの釈放はない」とのプレッシャーをかけようとする戦略とみられている。

NUGがロヒンギャ組織に連携を提案

こうした軍政の動きに対応してNUGは、軍による「民族浄化」とさえ言われた西部ラカイン州に多く住む少数イスラム教徒ロヒンギャ族に対して、「反軍政での連携」を呼びかけている。

軍の弾圧を逃れた70万人以上のロヒンギャ族は国境を越え、現在も隣国バングラデシュのコックスバザールなどの難民キャンプで不自由な生活を余儀なくされている。

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〔PHOTO〕gettyimages

ミャンマー政府はこれまでロヒンギャ族に対してミャンマー国籍や市民権を付与することを拒否してきた経緯があり、ロヒンギャ族も当然、ミャンマー軍とミャンマー政府には大きな不信感を歴史的に抱いてきた。

2月1日のクーデターでスー・チーさんの拘束が伝えられると、ロヒンギャ族からは歓呼の声が上がったとさえいわれている。

しかし、軍政に対抗するには「全ての民族による結束」が不可欠として、NUGはバングラデシュの難民キャンプに滞在するロヒンギャ族に対して「いつの日か政権を取り戻したら、市民権付与を約束する」との条件を提示して反軍政での連携を呼びかけているという。

これに対しロヒンギャ族関係者は、「ミャンマー政府には何度も裏切られてきた、そう簡単に信用するわけにはいかない」としながらも「連携の提案を歓迎する」との立場をメディアに示しているという。

ただ、ラカイン州には多数派の仏教徒住民が多く、そして仏教徒ラカイン族の武装組織「アラカン軍(AA)」が依然として活動していることから、ロヒンギャ族側も「将来のミャンマー帰還の障害になりかねない」と警戒心を抱いており、NUGの今後の対応策が注目されている。

ちなみにミン・アウン・フライン国軍司令官の軍政はロヒンギャ族を「ミャンマー国民ではない」として、国内での在住を認めない立場を示している。

少数民族武装組織と市民の共闘

最近は軍や警察による反軍政デモ、活動家の逮捕、実力行使の報道が減少しているようだ。主要都市ヤンゴンでは、軍政が民政の安定を内外に示すために要求したことや生活困窮などの経済的理由から、商店や飲食店、市場などが続々と再開、経済活動が活発化している。

とはいえ、ゲリラ的な反軍政運動やデモは各都市で散発的に行われ、それに伴う犠牲者も出ている。

6月5日には南部エーヤワディの村で治安当局の銃撃により市民20人が死亡した、と地元メディアが伝えた。軍は「村で手製の銃や爆弾を製造しているとの情報に基づいて行った。死者は3人だ」と主張しているという。

この衝突で市民側は手製の催涙弾を使用して反撃したとも伝えられており、これまでの非武装・無抵抗の反軍政運動が、市民の「武装化」により、今後は武装闘争として激化する懸念も高まっている。

さらに複数のメディアの報道によると、ミャンマーの若者が最近、ヤンゴンから南部カレン州のジャングル地帯に潜入して、「カレン民族同盟(KNU)」の戦闘員から銃の使い方や戦闘の訓練を受け、武器の供与を受けて都市部に戻っている状況が伝えられている。

同じようなことは北部カチン州の「カチン独立軍(KIA)」でも行われているとみられ、軍による一方的な反軍政市民への「虐殺行為」「人権侵害行為」に抵抗するために、市民が少数民族武装組織の支援を得て共闘する構図が浮かび上がっている。

こうした動きは、軍政による安全安定のアピールの裏側で、本格的な武装衝突、そして内戦への危険が高まっていることを示しているといえ、表向きは平静を保ちながら軍によるさらなる弾圧の危険も指摘されている。

ミャンマー情勢は緊張がこれまで以上に高まっており、依然として目が離せない状況が続いている。

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