
ブラジルで、世にも珍しい「犬」と「パンパスギツネ」の交雑種が発見されたそうだ。
その子はひき逃げにあって怪我していたところを保護された。当初、黒っぽい毛並みをした犬のメスに思われたが、仕草や行動に不審な点がいくつも見られたのだ。
詳しい検査が行われたところ、その遺伝子から犬の父親とパンパスギツネの母親から生まれた交雑種であることが判明した。
世界初の発見であるとして専門誌『Animals』(2023年8月3日付)に報告された。
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車にひかれて保護された動物は犬のような、犬でないような
2021年、リオグランデ・ド・スル州ヴァカリアの救助隊へ、怪我をした動物が道路でうずくまっているとの通報が入った。
ひき逃げにあったらしいそのメスの動物は、リオグランデ・ド・スル連邦大学付属の動物病院で治療され、それから野生動物保全リハビリセンターで保護された。
見た感じは、黒っぽい毛並みの犬のように見えた。目の形は犬らしいものだったし、鳴き声も犬っぽかった。ところが、野生のイヌ科にしては耳が長く、他にもいくつかの違和感がある。
また普通なら犬が食べるはずのエサをまったく食べないのだ。その代わりに小さなネズミなら食べた。
さらに茂みに登って、そこでじっとするという犬らしからぬ行動も見られた。

車に引かれて保護された動物は犬の特徴がありつつ別の特徴もあった / image credit: Flavia Ferrari
この動物は犬とパンパスギツネのハイブリッドだった
職員たちは思った。「なんだかパンパスギツネみたいじゃない?」
ブラジル南部をはじめ、南米の草原に生息する「パンパスギツネ」は、キツネと呼ばれるが、キツネ属ではなく、実はスジオイヌ属の仲間だ。

南アメリカ大陸に生息するパンパスギツネ photo by iStock
保護されたその動物は、そこかしこからパンパスギツネっぽい特徴がうかがえたのである。
パンパスギツネの耳は幅広く大きな三角形でをしており、この動物の特徴に当てはまる。ただしパンパスギツネの毛のはこの動物とは異なり、白と茶色とグレーが混じった感じの色が一般的だ。
この子の面倒を見ていた、獣医のフラビア・フェラーリさんは不審に思い、ペロタス連邦大学の遺伝学者のタレス・レナート・オチョトレナ・デ・フレイタス教授に連絡することに。
そこで行われた検査によって、この個体が犬とパンパスギツネの雑種であることが明らかになったのだ。

A)今回発見された動物、B)一般的なパンパスギツネ / image credit: Flavia Ferrari
遺伝子検査で交雑種であることを確認
交雑種であるという証拠は遺伝子レベルで確認されている。この子の細胞には染色体が76本ある。
この子が発見されたヴァカリア島周辺に生息する動物で、染色体が76本あるのは、タテガミオオカミだけだ。だが、この子の姿はタテガミオオカミとは違う。
一方、パンパスギツネの染色体は74本、イヌの染色体は78本だ。
子供は母親と父親からそれぞれ半分ずつ染色体を受け継ぐ。
仮にパンパスギツネとイヌから子供が生まれるのだとすれば、両親から染色体をそれぞれ37本と39本もらうことになるので、子供の染色体は合計76本になる。よって保護された子の染色体の数と一致する。
この発見を裏付けるために、フレイタス教授らはさらに「ミトコンドリアDNA」に注目した。このDNAは、「核DNA」とは違い、母親からしかもらえない。
その分析から、この個体の母親はパンパスギツネであることがはっきりした。一方、核DNAからは、イヌとパンパスギツネ両方の遺伝物質が混ざっていることがわかったのだ。
つまり、この個体が本当に犬とパンパスギツネのハイブリッドであることが確認されたのだ。ちなみに父親である犬の犬種はわかっていない。

イヌギツネは他にもいる可能性
当初、イヌギツネ(dogfox)と呼ばれていたこの犬とパンパスギツネの交雑種は「ドッキシム(dogxim)」あるいは「グラクソラ(graxorra)」という名前が提案されている。いずれもポルトガル語のメス犬とパンパスギツネにちなんだものだ。
この交雑種が確認されたことで、ほかにも同じような雑種がいる可能性が浮上している。
「今のところ、この地域に他のイヌギツネがいるという科学的証拠はありません。それでも今回のケースが唯一ではないと思われます」(リオグランデ・ド・スル連邦大学 ブルーナ・シンウェルスキー氏)
じつは2019年に少々風変わりな動物が2頭ほど目撃されているのだという。しかも今回保護された子は、そのうちの1頭ではないかと目されている(もう1頭は最初の発見以降、目撃されていない)。
First Documented Case Of Hybridization Between A Dog And A Pampas Fox
自然交配の可能性が高い
また、こうした交雑種は進化についても物語っているかもしれない。
「パンパスギツネとイヌは約670万年前に分岐し、異なる属の仲間ですが、DNAはほとんど同じです。だからこそ、この雑種が誕生できたのでしょう」(ペロタス連邦大学 ラファエル・クレッチマー氏)
さらにパンパスギツネの生息環境の変化や、保護区に犬がいることも、両者の出会いの背景にあると考えられる。
つまり人為的な交配ではなく、自然下で異なる種の動物が交配した「自然交雑」である可能性が高いのだ。
交雑種のもつリスク
こうした不思議な存在は、自然界や動物への興味をかき立ててくれるが、野生動物保護という視点からは少々気がかりなこともある。
というのも異なる種が交わることで、それまでは片方のものだけだった病気が、種の垣根をこえて広まってしまう恐れがあるからだ。
病気にくわえて、交雑種の外見は、野生で生きることを難しくする可能性もあるという。
なお、今回発見されたイヌギツネは交通事故の怪我からは完全に回復したが、その後に移された別の施設で、半年ほど前に死んでしまったという。死因は原因不明だそうだ。
イヌギツネの世話をしていたフラビア・フェラーリさんによると、この子は飼い犬ほど従順ではなかったが、野生のイヌ科動物のような攻撃性は持ち合わせていなかっという。
最初は人間を警戒していたが、徐々に慣れ、なでられると喜び、おもちゃで遊ぶのが好きだったそうだ。
References:First Documented Case Of Hybridization Between A Dog And A Pampas Fox | IFLScience/The first known hybrid between a dog and a fox was discovered in Brazil after being hit by a car/Animals/ written by hiroching / edited by /parumo
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