「他の男と同時進行されていた。それなのに...」最低な元カノから届いた、ありえないメッセージ

「他の男と同時進行されていた。それなのに...」最低な元カノから届いた、ありえないメッセージ

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  • 更新日:2021/05/06

女といるのが向いていない、男たち。

傷つくことを恐れ、女性と真剣に向き合おうとしない。そして、趣味や生きがいを何よりも大切にしてしまう。

結果、彼女たちは愛想をつかして離れていってしまうのだ。

「恋愛なんて面倒だし、ひとりでいるのがラク。だからもう誰とも付き合わないし、結婚もしない」

そう言って“一生独身でいること”を選択した、ひとりの男がいた。

これは、女と生きることを諦めた橘 泰平(35)の物語だ。

◆これまでのあらすじ

夕食の買い物をした帰り道。突然麻里亜の婚約者が現れ、彼女に振られてしまう。思いもよらぬタイミングでの失恋に、茫然自失とする泰平。

それを心配した親友の樹は、食事会をキャンセルして泰平の部屋にやってきたのだった。

▶前回:彼女とのデート中、いきなり手を振りほどかれて…?女が奇行に走った、許されない理由

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「何があったよ?」

心配そうな表情を浮かべつつ、僕の部屋の玄関で靴を脱ぐ樹。そんな彼に向かって、先ほど起きた出来事を説明する。

「麻里亜が、婚約者のところに帰っていったんだ。…ってわけで二度目の失恋をした。しかも今回の方が、随分きついや」

苦笑することもできず真顔で言うと、樹はソファに腰掛けながら手をひらひらさせた。

「悪いけど、俺は安心したよ」

「なんで?」

「こないだ会ってみてわかったけど、麻里亜ちゃんは聖母なんかじゃないわ。疫病神に近いね。もしくは泥棒。お前の時間と自尊心をどんどん奪っていくタイプ」

「…めちゃくちゃに言うんだな」

樹は悪びれもせずに「あのヤバさが見抜けないのは、さすが泰平だな」と一人で頷く。そして「俺は、あの子と結婚することになるその男に同情するわ」とまで言うのだった。

キッチンからは、チーズがこんがり焼けた香りが漂ってくる。

「え、なんか作ってるの?」

「グラタン。本当は麻里亜のリクエストだったんだけど」

「じゃあ、俺が食べてあげよう」

樹は調子づいて、勝手にワインセラーまで歩いて行き物色を始める。図々しいヤツだなあ、と微笑ましい気持ちで見守っていたそのとき。LINEの通知が鳴った。

『葉山麻里亜』

表示された名前を見て、僕は咄嗟にそれを開いた。

麻里亜から届いた、メッセージの内容とは…。

『本当にごめん。許してくれますか』

絵文字も何もない文に、麻里亜の疲れた表情が浮かんでくるようだった。返信に困っていると、もう一通メッセージが届く。

『いや、許してなんて図々しいね。本当にごめんなさい。憎んでいいです』

「麻里亜ちゃんだろ?」

「…うん。謝ってきた」

スマホを持つ手が震える。

先ほどまで、僕は確かに彼女に失望していた。なんて勝手なことをする子なんだろうと。

でも恨んだり憎んだりということは、どうしてもできない。自分でも不思議だけれど、なんだか麻里亜のことが心配なのだ。

「…ああ。麻里亜が、心配だ」

思ったままを口に出してみると、樹はギョッとした顔で僕を見つめた。

「え、なんて?怖いんだけどお前。…どうせ『憎んだりしないよ、心配してるよ』みたいに返信しようと思ってんだろ?」

図星すぎて、今度は僕がギョッとしながら樹を見る。

「…図星か。お前、頭ん中お花畑だな。スルーしろ、スルー。それがあの子には一番こたえる」

「そんなこと…」

そして樹は「これ可愛いじゃん」とアルマヴィーヴァのボトルを手に取って、テーブルに並べた。僕はオーブンからグラタンを取り出し、そのボトルの横に置く。

麻里亜と食べるはずだった二人分のグラタン。

…寂しくならないで済んでいるのは、紛れもなく樹のおかげなのだった。

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「うんまい!」

乾杯するやいなや豪快にワインを飲み、グラタンを幸せそうに頬張る樹を見て思う。

― まあ別に、女がいなくたって幸せなのだ。もうこれでいい。

「これでもう、僕は本物の独身貴族だ」

「…正真正銘の?」

彼の悪戯っぽい笑顔に僕は頷く。こればっかりは仕方ないのだ。向き不向きの問題なのだから。

「そう。もう無理するのも疲れたよ。たまにお前がこうして来てくれればいいや」

樹は、おかわりのグラタンを山のように盛りつけながら笑った。

「ふうん。こんな美味いもん作る男が生涯独身なんて、もったいないな。誰か紹介しようか?」

首を横に振ると、彼は小さくため息をついてみせた。

「本当はな、俺は灯を推したかったんだよ。お前の結婚相手に」

「…そう」

その言葉に僕は、灯と過ごした楽しかった時間を思い出す。

たった数回だったけれど、麻里亜といるときと違って、言葉の一つひとつに気をつける必要はなかった。それにのびのびしていて、呼吸のしやすい時間だったと思う。

そんなことを考えていると、樹は「でも…」と口を開いた。

「この前聞いちゃったんだけど」

灯が、樹だけに打ち明けていたこととは…?

「灯ね、今は恋愛するつもりないんだって。恋愛がわからないって言ってた」

「ああ…」

確かに、そんな感じはしていた。彼女は性格的に自立していて仕事も順風満帆だし、“恋愛”というものが入るスペースが少ないのはわかる気がする。

「お前と灯だったら、応援するのにな。灯はイイ女だよ。確実に言えるけど、あの子の方が聖母だな」

グラスを傾けながら、樹は「まあ、泰平には見抜けないんだろうけど」と笑うのだった。

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21時過ぎ。

樹が帰ってしまった後の部屋で、僕は久しぶりにドキュメンタリー番組を再生した。麻里亜といるときは見る時間が取れないでいたから、何週分も溜まっていたのだ。

座り心地の良いソファに沈みながら、ワイン片手にドキュメンタリー番組を見る。一人きりの空間でそれを楽しむのは、僕にとって最上級の贅沢だ。

もしここに麻里亜がいたら、こんなに安らいだ気持ちにはなれない。

僕はもう気づいていた。こういう時間を失くしていた、ついこの前までの僕は、全然自分らしくなかったと。

今日のドキュメンタリーは「リーマン劇団」がテーマだった。

サラリーマンたちが毎週日曜に集まってみっちり稽古をし、チャリティー公演を重ねている。同世代の大人たちが、熱い様子でぶつかりあったり、飲み明かして語ったりしている様子を見て思う。

…この人たちに比べて、僕の人生はどうしてこうも孤独な色をしているんだろう。

長いため息をつきながら、体中が諦めで満ちていくのを感じる。

それから、僕はスマホを取り出した。樹には「スルーしろ」と言われていたが、やっぱり無理だったのだ。

麻里亜とのトーク画面を開き、こう打ち込む。

『幸せになれよ、ちゃんと』

そして返信を待ったりしないでいいように、ブロックを押した。

麻里亜も孤独なのだ。それが手にとるようにわかった。でも、彼女の孤独を救えるのは僕じゃない。

先ほどチラリと見た、婚約者の顔を思い出す。

― あの人ならきっと救ってくれるはず。そう信じる以外、なす術もない。

独身貴族として改めて一歩を踏み出した僕の元に、ある電話がかかって来たのは、その1週間後のことだった。

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あの人から、電話で突然呼び出され…?

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