利用総額「7億超え」木更津の地域通貨への本気度

利用総額「7億超え」木更津の地域通貨への本気度

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2021/10/14
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木更津市内で展開する電子地域通貨「アクアコイン」。市内店舗への導入率は約30%まで伸びているという。その普及の取り組みについて取材しました(写真:木更津市役所提供)

千葉県木更津市──。人口約13万人を有するこの地域で、近い将来、キャッシュレス決済が街のインフラとして機能するかもしれない。

木更津市内で展開する電子地域通貨「アクアコイン」は、木更津市内限定で利用できるキャッシュレス決済だ。決済方法は、PayPayやLINE Payなどと同じで、加盟店に設置されたQRコードを専用アプリで読み取り、支払い額を入力するだけ。ただし利用するには、1円=1コインの価値がある「アクアコイン」をアプリ内でチャージする必要がある。

2018年10月、木更津市・君津信用組合・木更津商工会議所の三者連携によって運用が開始され、2021年9月12日現在、加盟店舗数は約710店舗。運用母体の1つ、木更津市産業振興課・島村領一係長によると、市内店舗への導入率は約30%まで伸びているという。

島村氏は「アクアコインを単なる決済手段ではなく、街づくりのインフラとして普及させていきたい」と意気込む。PayPayをはじめ大手が軒を連ねる“キャッシュレス全盛時代”に、いったいどのような取り組みをしているのだろうか?

地域経済とコミュニティーの活性化が目的

そもそも地域通貨とは、地域の団体や行政などが独自に発行している地域限定のお金だ。さらにその地域通貨を電子決済によってキャッシュレス化したものが、電子地域通貨と呼ばれている。

近年はさまざまな地域で電子地域通貨が取り入れられており、アクアコイン以外にも、岐阜県飛騨高山地域の「さるぼぼコイン」や、東京都世田谷区の「せたがやPay」などが有名だ。しかしなぜ、地域で続々と電子地域通貨を導入し始めているのだろうか?

背景の1つには、「地域経済の活性化」がある。

われわれが普段利用している「円」は法定通貨と呼ばれ、全国どこでも使うことができる。が、汎用性、流動性があることによって地域内にとどまらず、経済活動の集積地である大都市圏に流出してしまう傾向にある。

一方、地域通貨は利用地域こそ限定されるが、それによって大都市への通貨流出を防ぎ、地域内でお金を循環させることが可能。島村氏も、「地域通貨の目的は、地域の外にお金を流出させないこと」と話す。

また、アクアコインの場合は「地域コミュニティーの活性化」も導入理由の1つだ。

2015(平成27)年の国勢調査では、木更津市の世帯数(「施設等の世帯」以外の一般世帯)5万4827世帯のうち、単独世帯は1万7399世帯と一般世帯の31.7%を占めた。また、高齢夫婦世帯や高齢単身世帯数も増加傾向にある。

市内の高齢化や単身世帯の増加に伴い、地域コミュニティーの担い手不足や社会的孤立、コミュニティー意識の希薄化といった課題が顕在化。そこで、アクアコインをきっかけに利用者・加盟店・行政などがつながる“輪”をつくり、地域コミュニティーの活性化を図ることとなった。

アクアコインの独自機能で大手と差別化

「普通に取り組んでいたら、大手のキャッシュレス決済には勝てません。だからアクアコインは、市民の皆さんが愛着を持って使えることを意識しています」(島村氏)

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オンライン取材に応じてくれた木更津市産業振興課・島村領一係長(筆者撮影)

地域経済とコミュニティーの活性化を目的に始まったアクアコイン。しかし、単なる“地域限定キャッシュレス決済”にするだけでは、PayPayなどの大手に割って入れない。

そこで木更津市では、アクアコインのプラットフォームを提供しているフィノバレーと独自機能を開発し、大手との差別化を行っている。

その代表的な機能が、「らづポイント」だ。

「らづポイント」は、ボランティア活動などへの参加によって付与される行政ポイント。ボランティア活動などの見えない“価値”を、ポイントという“数値”にして見える化することで、「地域への関心を高めてもらったり、積極的に街づくりに関わっていただいたりしています」と島村氏。

もちろん、貯まった「らづポイント」はアクアコインと併用可能。1らづポイント=1円として、アクアコイン加盟店全店で利用できる。

2020年9月には、アプリ内に「らづFit」というヘルスケア機能も搭載した。らづFitはスマートフォンの歩数計と連動しており、1日8000歩を歩くと「らづポイント」が付与される。「子どもからお年寄りまで、市民の皆さんの健康を後押しする機能」(島村氏)まで備えているのだ。

こうした独自機能が市民に受け入れられ、現在はアプリの累計インストール数が1万9000件を超えている。直近3カ月間の平均利用額は、約3000万円、累計の利用金額は7億円を超えた。

島村氏は「アクアコインの利便性はもちろん、『地域とつながる、誰かのためになる』という“地域貢献”の側面もご理解いただけているのかなと思います」と成果を実感している。

だが、すぐに市民の理解を得られたわけではない。地元の飲食店や商店には当初、電子決済自体に抵抗感を持つ店主もいた。

「地域の商店さんや個店さんは高齢化が進んでいて、スマートフォンでのキャッシュレス決済に対して『難しい・よくわからない』というイメージがあったんです。でも1つひとつ丁寧に説明してから使ってもらうと『簡単で面白いね』と理解を得られました」(島村氏)

木更津市役所・君津信用組合・木更津商工会議所の職員が根気よく説明を続けたことで、徐々に“理解者の輪”が増えていった。今では飲食店だけでなく、神社仏閣のような地域に根付いた場所にも導入されている。市内の八剱八幡神社(やつるぎはちまんじんじゃ)では、アクアコインで賽銭奉納ができるのだ。

とはいえ、いくら利用場所が増えても、スマートフォンを持っていなければアクアコインで決済できない。そして高齢者の中には、スマートフォンを持っていない人も多い。木更津市は、この点も見逃さなかった。

今年に入ってから君津信用組合やフィノバレーと共同で、リストバンドにICチップを内蔵した「リストバンド決済」を考案。6月から9月まで木更津市内でも高齢化率の高い「富来田地区」で、7月から来年3月まで「真舟地区」でリストバンド決済の実証実験を実施。協力してくれた高齢者の反応は上々だったという。

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リストバンド決済の様子。協力店舗は加盟店向けアプリ搭載のAndroid端末にてICチップを読み取る(写真:アイリッジのプレスリリース)

「実証実験に参加する高齢者の方々からは、『会計が楽になっていい』『荷物が少なくなってうれしい』といった声をいただきました。すごくいい方向に実験できましたね」(島村氏)

今回の実証実験では移動スーパーなどに利用シーンを限定したが、今後は利用シーンの拡大も見据えて本格運用を目指す。

アクアコインによって行政手続きも迅速に

さらに木更津市役所では、アクアコインで行政手続きができるよう内部環境の整備にも取り組んでいる。住民票や一部行政書類の交付手数料をアクアコインで支払えるのがその一例だ。

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市役所内部でもアクアコインの環境整備に取り組み、”行政手続きの迅速化”を進める(写真:木更津市役所提供)

また、今年の4月から12月末までにマイナンバーカードを交付申請した人には、アクアコインのポイントを1000ポイント付与する。

これは、総務省が行っている「自治体マイナポイントモデル事業」の採択団体に木更津市が選ばれたことによる取り組み。ポイントの付与は今年の11月から始まる。

今年の10月1日からは、市県民税、 固定資産税、都市計画税、軽自動車税、国民健康保険税をアクアコインで納付できるようになった。納付書に付いているバーコードをアプリ内のカメラで読み取れば、家にいながら納税できる。

島村氏は、行政側がキャッシュレス決済を導入することで、手続きの“迅速化”を推進したい考えだ。

「特別定額給付金のとき、紙で審査をしていると給付に時間がかかってしまいました。でもアクアコインを活用することで、早ければ1日で給付できるようになる。行政手続きの迅速化という面でも、アクアコインはこれから重要になってくると思います」

今後はアクアコインでふるさと納税ができる仕組みや、アプリ内でボランティア団体や市民団体に寄付できるクラウドファンディングのような機能の実装も検討しているという。

「アクアコインは『キャッシュレス決済』という枠に収まらず、木更津市内のあらゆることに関われるようにする。それが今後のビジョンです」(島村氏)

(新妻 翔:フリーライター)

新妻 翔

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