「犬を殺す池」が猛暑で出現! 症状は「15分」から出ると警告も

「犬を殺す池」が猛暑で出現! 症状は「15分」から出ると警告も

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2019/08/25
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あまりにも暑い夏。だからといって池で泳いではいけません。好評連載「今月の科学ニュース」、解説するのは「藻」的なものの脅威です。……どういうこと?

愛犬を遊ばせただけなのに……

毎年言っている気もするが、今年の夏は暑かった。熱中症で亡くなった人のニュースが連日流れた。「命の危険がある暑さ」とまで言われると、外出するのも命がけに思えた。

猛暑がもたらした「命の危険」は、熱中症のような直接的なものだけではなかった。アメリカやイギリスでは、池や湖で有毒な藻が大量発生しているが、これもこの夏の高温が原因のひとつとされている。

この有毒な藻のせいで、アメリカ・ノースカロライナ州のメリッサ・マーティンさんは、3匹の愛犬を一度に失った。

8月8日の夜、マーティンさんは暑さをしのぐために池にイヌたちを連れて行き、遊ばせた。その日のうちに、イヌたちにけいれんの症状があらわれ、獣医師に診せたが、日付が変わるころには3匹とも死んでしまった。

その池には有毒な藻が大量発生していて、イヌたちはその毒素で肝臓障害を起こしたと考えられるという

「イヌたちがボールを追いかけたり、泥の中を転げ回ったりして、楽しく遊んでいた夜だったのが、大切な命を失うことになってしまった」そう悲しむマーティンさんのフェイスブックの投稿は、これまでに3万回以上シェアされている。

この有毒な藻は、英語では一般に「blue-green algae(青緑色の藻)」と呼ばれるが、実は藻類ではない。

「シアノバクテリア(cyanobacteria)」と呼ばれる細菌の一種だ。日本語では「ラン藻」ともいう。細胞のつくりは細菌だが、植物と同じように光合成をして酸素を生み出す。

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シアノバクテリアの顕微鏡写真 Photo by Getty Images

温度が高い夏には、このシアノバクテリアが湖などで大量発生する。

日本では「アオコ」や「水の華」と呼ばれる現象で、水面がまるで青や明るい緑色のペンキを流したようになり、悪臭を放つ。その水には、シアノバクテリアが生み出す毒素が含まれている。

暑い夏に楽しく水辺で遊んでいたイヌたちが、あっという間に死んでしまった。そんな痛ましいニュースの衝撃は大きく、ニューヨーク・タイムズ紙CNNBBCなどのメディアや、イギリス獣医師協会などが、アオコが発生している池などにイヌを近づけないよう、飼い主に注意を呼びかけている。

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イギリス獣医師協会がWeb上で発した警告

アメリカ環境保護庁は、アオコの池に入ってしまったときには、ただちにきれいな水で洗い、下痢や嘔吐、ふらつき、けいれんや呼吸障害などの症状が出たら、すぐに獣医に連れて行くようアドバイスしている。

症状は15分から数日で出るという。

マーティンさんは、3匹のイヌたちを襲った悲劇を繰り返したくないと、有毒なアオコが発生する池などに注意喚起の看板を設置する活動を始めた。

9日からスタートしたクラウドファンディングは、20日時点で目標額の2000ドルの2倍以上の5530ドルを集めている。

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マーティンさんが始めたクラウドファンディングのサイト

人間にも被害が

もちろん、アオコは以前から起こっている現象だ。五大湖の1つエリー湖では、今年もすでにアオコが発生しているが、2011年と2015年にも非常に大規模なアオコが発生している

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アオコに覆われたエリー湖 Photo by Getty Images

日本でも各地の湖でアオコが毎年発生している。身近なところでは、皇居のお濠の水面が真緑になっているのを見たことがある。

気になるのは気候変動との関連だ。アオコは温度が高く、流れが少なく、栄養分に富んだ水で発生する。アオコが発生すると、日光を吸収して水温を上昇させる。そうなると、さらにアオコが増えるという悪循環になる

地球温暖化で海面が上昇すれば、低地に浅くて流れのない池が増え、アオコが発生しやすくなる可能性もあるという。

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Photo by iStock

ウッズホール海洋学研究所のドナルド・アンダーソン氏ロサンゼルス・タイムズ紙で、「地球温暖化によって、淡水で有害なアオコがひんぱんに発生するようになり、アオコの濃度も高くなる」と語っている。

アオコによる被害も昔からある。オーストラリアなどでは以前から、ウシやウマ、ブタなどの家畜の被害が報告されている。BBCは、アオコが発生した湖で保護されていた白鳥が死んだと報じている。

アオコの毒素はシアノバクテリアによるものだ。毒素を出さないシアノバクテリアもいる一方で、ふぐ毒にも匹敵する猛毒ミクロシスチンを出すものもある。

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ミクロシスチン-LRの構造

イヌの場合、池で泳ぐときに水を飲んだり、毛についた水をなめたりすることで、そうした毒素が体内に入りやすいという。

人間がアオコの毒の被害を受けたケースもある。1996年にはブラジルの病院が、アオコが発生した水源の水を十分浄水せずに利用したために、50人以上の透析患者がミクロシスチンによって亡くなった

2018年には、オレゴン州の水源で発生したアオコの毒素が水道水からも検出された。近くの市は、子どもや肝臓・腎臓障害の患者、妊婦や授乳中の母親、高齢者、ペットに水道水を飲ませないよう呼びかけた

大悪党? いえ、大恩人です

シアノバクテリアは世界中に分布している。温泉のような高温の場所や、南極の湖の底、氷河の表面などの低温の場所にも生息する。

光合成で生きているのに、太陽の光が届かない地下600メートルの岩石の中からも見つかっている

とてつもなくタフな大悪党。そんなイメージだが、そもそも私たち人間は、シアノバクテリアを悪者あつかいできる立場ではない。

今から27億年から30億年前、酸素がほとんどなかった地球に登場し、海中で光合成をおこなって酸素を作りはじめたのがシアノバクテリアだ。

海中でシアノバクテリアが作り出した酸素は、海水に溶けていた鉄と結合し、海底に少しずつ沈殿して、縞状鉄鉱層という鉱床になった。この鉱床が、現代の鉄生産量のかなりの割合を占めている。

シアノバクテリアはその後、単独の生物として進化しただけでなく、ほかの細胞内に共生するようにもなった。植物や藻類の細胞内で光合成を受け持つ「葉緑体」になったのだ。

酸素、鉄、植物。どれも私たちが生きていくのに、そして生活していくのに欠かせないものだ。そんな大恩人のシアノバクテリアが、私たちにとって危険な生物でもあるのは皮肉に思える。

しかし、ノースカロライナ大学チャペルヒル校のハンス・ペール氏は、問題はシアノバクテリアそのものではなく、その大量発生だとする

「大量発生が起こるのは、肥料や排水、都市の雨水などによって、リンや窒素などの栄養分が増加して、水を汚染しているからです」

そうした人間による池や湖の富栄養化が、気温の上昇や、流れの少ない水環境などと組み合わさって「アオコが発生するのに理想的な条件を生み出す」という。

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アオコが大量発生した湖で息絶えた魚(中国・雲南省で撮影) Photo by Getty Images

有毒なアオコを生み出し、イヌの命を危険にさらしている本当の敵は、人間自身だといえる。

温暖化が進めば、アオコの発生はもっと多くなるかもしれない。ただ、アオコ発生の条件は温度だけではない。池や湖の富栄養化を防げれば、アオコ発生の条件がひとつ減る。実際に皇居のお濠では、水質改善によってアオコが減ってきているという

愛する小さな命がかかっていると思えば、環境保護や地球温暖化という聞き慣れた言葉にも、また違った重みを感じる。

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