三井物産を辞めマンションの一室から化学メーカーを始めた理由 化学・ベンチャー、2つの業界常識を変革中

三井物産を辞めマンションの一室から化学メーカーを始めた理由 化学・ベンチャー、2つの業界常識を変革中

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  • 更新日:2018/02/10
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ベンチャーが挑戦するには難しいとされる製造業、そのなかでもケミカル産業に、今までの技術とは全く違ったプロセスで世界を変革しようと、「マンションの一室から事業をスタート」したという、マイクロ波化学の吉野巌社長に話をうかがいました。

吉野さんは、1967年大阪生まれ、3歳までは大阪だったそうですが、東京や海外で過ごしました。高校・大学時代にアメリカンフットボール部に所属し、「勝つことは全て、勝つことが唯一」を叩き込まれたそうです。

大学を卒業後に三井物産に入社し、化学分野の担当でトレーディングの部署に配属されました。組織で動くというよりも、トレーダーとしての「個」の世界を見ることになりました。大手商社に所属していても、化学業界のトレーダーは個人の信用が大事が第一の「切った張ったの世界」です。

サラリーマン社会との違いを感じ、組織人を求める会社とに「差」を感じ始め、社会人10年で、先の見えているサラリーマン、やりたくない仕事をやるのはもう止めようと思い、退職の道を選びました。そしてもう一度勉強しようと、自費でMBA取得にカルフォルニア大学バークレイ校へと通うため移り住んだそうです。

吉野さん(右)と塚原さん(左)と、社員の皆さん

インスパイアされた米国 ベンチャーが面白いと思った

変わった人に出会ったシリコンバレー、まさにカウンターカルチャーの名残がそこにはあり、多様性の容認という部分から米国の広さを感じ、インスパイアされたと話します。

個人ができることが大きいことも感じたそうで、まさに小さな組織でも大きな変革ができることを確信したそうで、大手企業である理由は何もないと思ったそうです。

MBAを取得後も米国に残り、マーチャント・バンク(ベンチャー支援をする会社)で仕事をさせてもらい、米国〜カナダの企業とりわけ環境・エネルギー分野のベンチャー興味を持ち見聞を広げていたそうです。

「半分プータロー生活も同然でした、この頃お金が大して無くても人間生きていけるもんだぁなと思いました」と、吉野さんは笑います。

この環境・エネルギー分野の中で、バイオエタノールの技術系ベンチャーの手伝いをすることになり、日本と米国とを半々で生活している最中、大阪大学でマイクロ波の研究をしている塚原保徳さんと出会い、マイクロ波化学の共同創業に繋がっていきます。

軍隊みたいなところからイノベーションは生まれない

「個」を重要視し、サラリーマンを辞め起業の道に進んだ、吉野さん。「軍隊みたいなところからイノベーションは生まれない、規律、規則で雁字搦めの日本企業からは画一的なことは上手にできるが、まさに革命的な革新は生まれません」と言います。

実際に、会社運営についてお聞きしても、「たしかに当社には高学歴な人が多い、しかし、従業員間で大学の話も一切ないし聞いたこともない。逆に無茶振りに近い仕事を依頼している、全員がやりたい! と返事をもらえること、NOはありません」とも。

皆さん会社が好きで集い、しかも組織が「フラット」であること。人材登用でも、元保母さんが人事責任者に、行政の案内係の方が広報担当に、過去の仕事も全く無視。吉野さんの機会を創り与え人としての成長場面もこの会社の強さに繋がっているのだと思います。

マイクロ波化学とは?

IT企業では、急速な事業拡大、それに伴う短期間での上場が可能です。それに対して、時間とお金がかかるモノづくりベンチャーは、立ち上げることから難しいというのが常識です。さらに、全く新しい技術で巨大産業である化学産業にチャレンジするとなると、相当ハードルが高くなります。

そして、電子レンジにも使われる「マイクロ波」を産業で実用化することは難しいとされてきました。それにチャレンジしているのがマイクロ波化学です。あえて厳しい障壁を壊すことで、「世界にインパクトを与えるビジネスで勝負する」という想いで、ヴィジョンである、「Make Wave, Make World(世界が知らない 世界をつくれ)」を実現しようとしています。

マンション一室から大学へ

起業(2007年8月)は、自宅マンションだったそうで、資金は、創業メンバー2人の全額自己資金600万円でスタートしました。政府系の助成金を申請し、審査が良い具合に進んでいる矢先、「どこで研究開発しているの?」と問われたところ、「マンションの一室です」と、返答したため、助成金の拠出がストップしそうになり、会社設立からたった1カ月で消滅の危機に見舞われました。

そのとき、後に共同創業者となる塚原保徳さんの所属する大阪大学との縁で実験室を借りることができたところから、なんとか乗り越えることになりました。ただ、その1年後に起こったリーマンショックの煽りを受け、資金集めには苦労しながらも、ベンチャーキャピタルや金融機関、政府系期間からの資金調達で2012年には本格的な事業化ができるようになりました。

吉野さんは「人間なんとかなるものだなぁとしみじみ感じました」と笑顔で振り返ります。

ビジネスモデルの壁

吉野さんのビジネスプランは次のようなものです。

まず、マイクロ波を活用(いわゆる、家庭用電子レンジの技術を産業化に転用する)することで、今までの化学産業に対し、①省エネ、②高効率、③コンパクトを実現すること。

マイクロ波については、過去から研究されてきました。ラボレベルでは面白い結果が出ていましたが、産業化するようなスケールアップすることは難しいと言われていました。

そうしたなか考えたのが、当時注目されていたバイオディーゼルを、化学メーカーや食品メーカーなどの工場で出てくる廃油を原料として、製造するというものです。さらに、自社工場ではなく、廃油を出すメーカーの工場内で製造・販売しようと考えていました。企業体力から考えても自社で工場を作って製造販売することは難しいためです。

国内のメーカーとのタイアップを模索しましたが、「マイクロ波って身体に悪いのでは?」、「よくわからないものをうちの工場に入れたくない」という反応から、目論見は外れました。

そこで、販売でなく「マイクロ波を使ってどうやって作るか」という「作り方」自体を化学メーカーに販売するという、「マイクロ波技術のライセンスや共同事業」というモデルにたどり着きました。

1号ラインの壁 前例なきことに尻込する日本企業

吉野さんをはじめ、シリコンバレーにいた方々に話を聞く中で、よくシリコンバレーでは「初物」に手が挙がり、日本では「実績」に手が挙がると聞きます。

マイクロ波化学でも、最初の工場ラインを作る際に壁があったそうです。前述のビジネスモデルを固めて、吉野さんは「消費エネルギーは1/3、工場面積は1/5にできます」と営業をかけたそうです。

ところが、「その技術をつかったプラント実績は?」と問われ、「御社が第1号です」と答えるたびに全てがストップしていったそうです。いくら自社の技術に自信、実力があると思っても、立ちはだかる「前例なきものは採用できない」。

ここを打ち破るために、プランを見直し、自社での単独工場設立に踏み切ります。これは技術系ベンチャーは、研究開発だけやったほうが上手くいくという言わば、常識を打ち破った瞬間であり大きな決断でした。

2014年には大阪工場が竣工し、自社での製造・開発が可能になりました。

世界的企業や大手化学メーカーとの共同開発もスタート

自社の生産設備を有した工場、その隣にマイクロ波を用いた試作棟も稼働し始めると、「本当にマイクロ波を使ってモノづくりをしている」という話が、化学業界に広まり始め、多方面の企業から問い合わせが入ってたそうです。

そして、世界最大の化学メーカのドイツのBASF社とポリマー製造工程におけるマイクロ波技術を用いた製造プロセスを活用した共同開発契約の締結に至ります。その後も太陽化学、三井化学、三井金属、フタムラ化学、など国内外の化学メーカー企業とも業務提携、資本提携が進んでいます。

資金調達の壁

世界的企業との連携したマイクロ波化学ですが、事業スタート時からここまで度重なる資金調達の壁に出くわしてきたそうです。誰も踏み入れたことのない事業化の話に、金融機関、ベンチャーキャピタル数十社に何度も説明を続ける膨大な時間を過ごしてきた吉野さんは「あの時間をもっと事業に掛けられたら、もっとスピードが出たと思います」と話します。

しかし、この資金調達の壁を乗り越えるたびに、金融機関や政府系機関との信頼関係が増してきたことも事実です。結果としてこのとんでもない時間が、今の信頼関係に繋がっているとも。この資金調達の壁を乗り越えた同社は現在、資本金37億1400万円、社員数は41名となっています。

モノづくりベンチャーとして、度重なる壁をある時は乗り越え、ある時はぶち壊して歩を進めてきた吉野さん。マイクロ波で化学品を効率よく製造できる技術を開発し「世界のものづくりを変える」を基本概念に、技術の産業化に取り組んでいます。巨大ベンチャー企業(ユニコーン)が大阪、日本から世界に飛び立つことを楽しみにしています。

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