40代に告ぐ!医師がすすめる「アルツハイマー治療」の秘策

40代に告ぐ!医師がすすめる「アルツハイマー治療」の秘策

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2017/08/13
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5人に1人が認知症という現実

これから日本人を待ち受けているさまざまなリスクの中で、最もおそるべきものは何だろうか。

2048年までにかなりの確率で起こるとされる南海トラフ巨大地震は、もちろんその筆頭候補だろう。その被害は最大で死者32万3000人、経済損失は220兆3000億円にのぼるとも予想されている。しかし、そのような外力によるカタルシスのほかに、社会の内側からひたひたと忍び寄っている脅威もある。

2025年に日本は、国民の3人に1人が65歳以上の高齢者という、かつて人類が経験したことのない「超・超高齢化社会」を迎える。いわゆる「2025年問題」である。

そしてその頃には、高齢者の5人に1人が、認知症にかかっていると厚生労働省は予想している(現在は高齢者の7人に1人が、認知症者かその予備軍)。その数は、650万人から700万人にも上るという。

単純にいえば「5人に1人の確率」とは、あなたが65歳以上で両親も存命なら、3人のうち誰かが認知症になる確率が60%ということである。もし同年輩の配偶者やその両親もいれば、そのうち1人は必ず認知症になるということだ。

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認知症の家族をもつ者の苦しみは、筆舌に尽くしがたい。最近は認知症者の運転による交通事故が社会問題となってきているが、ハンドルを握れなくなるのは、認知症の症状としてはまだ初期段階である。やがて記憶が次々に失われ、夫や妻、子どものことさえわからなくなる。

幻覚、暴言、暴力がみられはじめ、愛する人がまったく別人格になっていくショックは家族にとって耐えがたいものだ。さらに症状が進み、ところ構わずの排便や、夜中に一人で外出する徘徊が始まれば、介護者はもうまともに眠ることさえできなくなる。

政府は認知症者をなるべく在宅で介護することを推奨しているようだが、この段階に至ってなお在宅介護を続けることは、家族にとっては「地獄」にほかならない。しかし、特養老人ホームなどの介護施設に入所させようにも慢性的に数が不足していて、1年も2年も順番を待たなければならない場合もある。

介護のために働き盛りの人が仕事を辞めざるをえなくなる介護離職から、果ては心中や殺人といった痛ましい事件まで、認知症介護がもたらす悲劇があとを絶たないのは当然ともいえるのだ。

このまま2025年に予想される状況を迎えたら、日本社会は巨大地震にも匹敵するダメージをこうむることになるだろう。

正常に発達した知能が、脳の後天的な障害によって正常なレベル以下に低下した状態

あらためていうと認知症とは、脳のこのような症状の総称である。ただし、認知症とはあくまで「症状」を表す言葉であり、その原因となる「疾患」はいくつかある。
たとえば、脳梗塞や脳出血によって脳血管障害をきたすことで認知機能が低下する「血管性認知症」の場合は、適切な措置をすることで進行をくいとめ、治療できる可能性がある。

しかし、認知症の原因疾患として最も多いのは、脳が少しずつ萎縮していくアルツハイマー型認知症、いわゆるアルツハイマー病である。とくに高齢者が深刻な状態に陥る認知症のほとんどはこのタイプのため、認知症とアルツハイマー病を同じものと考えている人も多い。

根本原因も分からず治療法もない

アルツハイマー病は1906年にドイツの精神科医フロイス・アルツハイマーが、記憶障害と妄想の傾向がある50代の女性を診療したことがきっかけで発見された。その女性はつねに夫の浮気を疑っていた。死後にその脳を解剖したところ、「老人斑」「神経原線維変化」などの明らかな病変が見られた。しかし、その理由はわからなかった。

それから110年が過ぎたが、アルツハイマー病がどのようにして引き起こされるかは、実はいまだにはっきりとした結論は出されていない。したがって、有効な対策も見つかっていないままだ。

要するに、迫りくる「超・超高齢化社会」の脅威に立ち向かうには、このアルツハイマー病を日本人にとっての「国民病」ととらえ、なぜ発症するのか、どうすれば克服できるかを考えていくしかないのである。

アルツハイマー病の家族の介護経験がある人なら、「アリセプト」という薬の名前は聞いたことがあるかもしれない。米国のファイザー社と日本のエーザイが共同で開発し、1996年に米国で認可された「ドネペジル」の商品名だ。

このドネペジルこそが、アルツハイマー病発見以来90年目にしてようやく実現した治療薬と期待され、一時は「救世主」のようにももてはやされた薬剤だった。その開発研究中、エーザイは「エーザイ不夜城」ともいわれ、午後5時に退出すると「早退扱い」にされたという“伝説”も残っている。開発を主導した杉本八郎氏(現・同志社大学教授)は、創薬界で最高の賞といわれる英国のガリアン賞特別賞を受賞した。

しかし、残念ながら――ドネペジルはアルツハイマー病の原因を根本から断つものではなかった。病気の進行を遅らせることさえ難しく、物忘れに対して一定程度の効き目があるのみにすぎなかったのである。

以後、アルツハイマー病に直接・間接を問わず治療効果があるとされる薬は、いまだに開発されていない。人類とアルツハイマー病との戦いは、これが現時点での偽らざる状況なのだ。

ドネペジルが効かなかった理由は、アルツハイマー病の発病のしくみを考えてみればわかる。現在では(まだ定説とはされていないが)、この疾患の原因物質と発病メカニズムについては、ようやく大筋が明らかになってきている。

ごく簡単に説明すると、アルツハイマー病は、アミロイドβタンパクという絹糸のように強靭な線維性のタンパク質が脳内に過剰に蓄積して、神経細胞に老人斑という塊ができることから始まる。

記憶などの情報は脳内で、神経細胞のタンパク質が次々に「リン酸化」されることで、リレーのように伝えられているが、老人斑ができると神経細胞のタンパク質は過剰にリン酸化する。この過剰なリン酸化が次々に伝わり、異常なタンパク質が神経細胞に凝集して神経原線維変化という反応を起こすと、毒性が生じ、神経細胞が次々に死滅していってしまうと考えられているのである。

一つの反応から始まって、次々と連続して反応が起きることをカスケード反応という。アミロイドβタンパクの蓄積に始まる一連のカスケード反応がアルツハイマー病を引き起こすというこの考え方は1992年に提唱され、「アミロイド・カスケード仮説」と呼ばれた。仮説とされてはいるが、現在ではほぼ真実であろうと考えられている。

ドネペジルが開発された当時は、まだアミロイド・カスケード仮説は提唱されていなかった。一方で、アルツハイマー病患者の死後脳では、アセチルコリンという神経伝達物質が減少していたことから、脳内でのアセチルコリンの分解・消失が発病の原因であろうとする「コリン仮説」が唱えられていた。

ドネペジルは、アセチルコリンの分解を阻害することを目的とする薬だったのだ。現在では、アセチルコリンの減少はアルツハイマー病の進行にともなう結果にすぎないと考えられている。

アルツハイマー病を防ぐには、アミロイドβタンパクの蓄積から始まる「魔のリレー」の発動を防がなくてはならない。ようやくそこまではわかってきたのだが、では、なぜアミロイドβタンパクが蓄積するのだろうか?

この謎の答えは、意外なところから明らかになってきた。

糖尿病はアルツハイマーの予備軍

糖尿病の患者がアルツハイマー病にかかりやすいことは、近年、国内外の研究で数多く報告されていて、いまでは周知の事実となっている。たとえば日本の九州大学が福岡県久山町の60歳以上の男女1500人以上を15年間にわたって追跡調査し、糖尿病患者のアルツハイマー病罹患率は非糖尿病者の2倍にのぼるとした報告は世界的に有名である。

近年、糖尿病は全世界で増加傾向にあり、日本でも糖尿病人口は1950年の約30万人から、2015年には約721万人と、実に20倍に増えている。現在、40歳以上の日本人の4人に1人が糖尿病かその予備軍ともいわれ(見逃されている患者も多いと思われる)、これもまた、日本人にとって「国民病」の一つといえる。

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よく知られているように糖尿病とは、血液中のブドウ糖が細胞の中に取り込まれたり、エネルギーとして消費されたりするのを促す「インスリン」というホルモンが不足している、もしくはうまく作用しないために血糖値が上昇し、それによって血管が強く冒される病気である。

糖尿病が進行すると、数年のうちに神経症・網膜症・腎症という三大合併症を発症し、足の潰瘍や壊死、失明、人工透析に至る。そのほか、心筋梗塞・脳梗塞や各種のがんを発病するリスクも高くなるなど、いまさらいうまでもなく、恐ろしい病気である。

では、なぜ糖尿病になるとアルツハイマー病にもかかりやすくなるのだろうか。その理由として、従来は、高血圧や脂質異常症などを合併して動脈硬化が進行し、脳血管障害を起こしやすくなるため、また、細胞組織のタンパク質が、高血糖状態が続くことで毒性をもち、老化を早めるため、などが考えられてきた。

しかし、実はこの二つの病気の間には、それだけではない深い関係があることがわかってきたのである。

インスリンが膵臓でつくられていることは、よく知られている。しかし、このホルモンはなんと、脳の中で記憶をつかさどる「海馬」でもつくられているといったら、驚かれるのではないだろうか。

2011年に発表された重要な論文がある。それによると、健康なラットの海馬の神経幹細胞(神経細胞に変わる能力をもった幹細胞)を糖尿病のラットの膵臓に移植すると、インスリンの分泌能力が高まり、糖尿病が改善されたという。このことは、健康な海馬の神経幹細胞が膵臓に移植されて、インスリンをつくるようになったことを意味している。

このようにインスリンは海馬でもつくられていて、そこでは「記憶物質」として機能しているのだ。具体的には、臓器の中で最も「大食い」である脳が大量に必要とするブドウ糖を血中から取り込むように海馬に働きかけて、記憶力を高めていることが近年の研究でわかってきたのである。

そして、このことから、アルツハイマー病とは、いわば脳が糖尿病と同じ状態になり、インスリンが作用しなくなったために、海馬がブドウ糖を取り込めなくなって引き起こされるのではないか、という仮説が生まれてきたのである。

では、「脳が糖尿病になる」とはどういうことだろうか。

一般的な糖尿病では、初期段階の高血糖状態のときに、膵臓はなんとか頑張ってインスリンを出して、血糖値を下げようとする。そのため、血中のインスリン濃度が異様に高くなる。

しかし、糖尿病が進行すると、インスリンをいくら出しても、ブドウ糖の取り込み機能がいわば「バカになって」しまって、それに見合うほどには血糖値は下がらなくなる。つまり、インスリンが効かなくなってしまう。これを「インスリン抵抗性」という。インスリン抵抗性は、糖尿病の程度を示す重要な指標である。

「脳が糖尿病になる」とは、海馬において、このインスリン抵抗性が高まった状態をいう。そのために、脳がブドウ糖を取り込めなくなり、糖が利用できなくなってしまうのだ。

糖を大量に必要とする脳がブドウ糖を取り込めなくなれば、当然、記憶や認知機能に障害をきたすことになる。

さらに、海馬のインスリン抵抗性が高まると、もうひとつの問題が起こる。インスリンは量が増えすぎると弊害があるので、脳内ではその量を調節するために、インスリン分解酵素が働いている。

しかし実はこの酵素には、アミロイドβタンパクを分解する作用もある。脳内に過剰に蓄積すると「魔のリレー」を発動させる、アルツハイマー病の原因物質だ。ところが、海馬のインスリン抵抗性が高まり、インスリンが異常に分泌されるようになると、インスリン分解酵素はインスリンの分解だけで大量に消費されてしまい、アミロイドβタンパクを分解できなくなってしまうのである。

「脳が糖尿病になる」ことがアルツハイマー病の原因であるという仮説は、このような根拠からみちびかれるのだ。

ラットを用いた実験結果は…

この仮説を証明するために、ラットを用いて先駆的な実験を試みた日本人の研究者がいる。広島大学名誉教授の鬼頭昭三氏と、沖中記念成人病研究所主任研究員の新郷明子氏である。

2人は、まず「脳が糖尿病になったラット」をつくるため、ストレプトゾトシンという薬剤をラットの脳内に注射した。これによって、インスリンがブドウ糖を脳内に取り込む作用が阻害されるのである。

アルツハイマー病の中心的な症状は、「いつ」(曜日、日時、季節)、「どこで」(場所、方角)、「だれと」(相手)がわからなくなることだ。鬼頭氏と新郷氏は「脳の糖尿病ラット」を用いて、このうち「どこ」についての認知機能を調べる実験を試みた。

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(1)直径180センチ、深さ100センチの円形のたらいに、墨汁などで不透明にした水を満たす。水面下に、10cm四方のプラットホームを、水面の上からは見えないように置く。

(2)正常なラットと、「脳の糖尿病ラット」を水中に入れ、自力でプラットホームがある場所まで泳ぎ着かせたあと、時間をとって、景色(そこから何が見えるか)を記憶させる。

以上の準備をしたあとで、それぞれのラットをもう一度、水に入れ、彼らが景色の記憶を頼りに泳いでプラットホームにたどりつくまでの時間や、経路の効率性を計測したのだ。

1日に1回の実験を9日間連続で繰り返したところ、正常なラットでは3日目から学習効果が顕著に表れ、ほとんど一直線にプラットホームに到達するようになった。ところが「脳の糖尿病ラット」は、9日目になってもひどく迂回して時間をかけなければたどり着けず、学習効果はまったく見られなかったのだ。

ところが、この「脳の糖尿病ラット」に、「デテミル」というインスリン製剤(糖尿病患者にインスリンを補給する薬剤)を1回だけ注射したところ、翌日からひどい迂回に改善がみられ、3日目にはほぼ正常になり、5日目以降は正常なラットとまったく同じ成績を収めたのである。

また、実験後に「脳の糖尿病ラット」の脳を、海馬を中心に調べたところ、アミロイドβタンパクが正常なラットより1.5倍多く蓄積していた。インスリン分解酵素は逆に減少していた。ところが「デテミル」注射後の「脳の糖尿病ラット」では、アミロイドβタンパクの蓄積は正常なラットよりむしろ低く、インスリン分解酵素も正常なラット並みに回復していたのだ!

この実験結果は、まさにアルツハイマー病とは「脳が糖尿病になった状態」であることを立証するものであると、鬼頭氏、新郷氏は考えている。

では、私たちの脳はどのようなときに「糖尿病の状態」になるのだろうか。近年、脳のMRI画像を分析する手法が発達し、アルツハイマー病の特徴である「海馬の委縮」の程度が詳細に観察できるようになってきた。その結果、わかってきたのは、海馬の委縮は糖尿病を患っている人に多くみられるという事実だった。しかも、糖尿病を患っている年数が長いほど、海馬の委縮の程度は大きくなっていたのである。

このことは、結局、脳から下が一般的な糖尿病になることによって、脳も糖尿病の状態になる可能性が高くなることを示唆している。

その理由の1つとして、全身と脳の間にある、「血液脳関門」の存在がある。血液脳関門とは、脳というきわめて重要な器官に異物が入り込まないよう、全身からの血流を監視し、多くの物質を通行止めにしている「血管の関所」である。しかし膵臓でつくられたインスリンは、脳でもブドウ糖の取り込みに必要なので、この関所を容易に通過することができる。

ところが、糖尿病を患って全身のインスリン抵抗性が高まると、インスリンが血液脳関門を通過できなくなることがわかっている。その結果、脳内でインスリンが不足し、脳が糖尿病状態となってしまうのだ。

「アルツハイマー病は脳の糖尿病である」という仮説は、もはや仮説にとどまらない真実性を帯びてきている。そしてこの前提に立つことで、従来、有効な手立てがなかったアルツハイマー病対策への展望は一気に開けてくる。

アルツハイマー治療の切り札

基本的には、通常の糖尿病対策こそが、アルツハイマー病対策としてもそのまま有効であると、「脳の糖尿病ラット」の実験をした一人、鬼頭氏はいう。糖尿病対策の大きな柱といえば、よく知られているように食事療法と運動療法だ。

なお、鬼頭氏は1927年生まれで現在、90歳。いまも神奈川県の医療施設で神経科外来の患者を診察する現役の医師であり、かつ北米神経学会名誉会員として研究発表を続けている現役の研究者でもある。

その話しぶりは卒寿とは思えないほど明晰そのもので、アルコールやたばこはもちろん、糖尿病の原因因子とされるものは若い頃からいっさい遠ざけてきたという言葉には説得力がある。

糖尿病対策としての食事療法や運動療法については巷間さまざまなものが紹介されているのでここではふれないが、これらでは十分な効果があがらないときは、薬剤による治療を考えることになる。

ただし、薬によって血糖値を下げるのは、低血糖という危険な症状を招くおそれがあるので、慎重に薬を選ばなくてはならない。その意味で鬼頭氏が糖尿病薬の第一選択として推奨するのは、インクレチン関連薬だ。

インクレチンとは食事をすると小腸から分泌される消化管ホルモンで、血糖値が高いときだけ膵臓に働きかけ、インスリンの分泌を促進する作用をもつ。

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インクレチンにはGLP‐1、GLP‐2の2種類があり、このうちGLP‐1には、膵臓への作用のほかにも筋肉や脂肪での糖取り込みの促進、心機能の亢進、血管の拡張など、多くの有益な生理作用があるのでより有効なのだが、非常に短い時間で分解されてしまう性質がある。そこでGLP‐1の分解を抑え、長く作用するようにつくられたのがGLP‐1受容体作動薬である。

「リラグルチド」(商品名「ビクトーザ」)、「エキセナチド」(商品名「バイエッタ」「ビデュリオン」)、「リキシセナチド」(商品名「リキスミア」)、「デュラグルチド」(商品名「トルリシティ」)などがすでに商品化されているが、いずれも糖尿病薬としては理想的なものと考えてよいと鬼頭氏はいう。服用には、自己注射するのが効果的だそうだ。

では、さらに一歩進めて、今後、アルツハイマー病そのものを治療する薬が開発される可能性はないのだろうか。

1つの候補として、女性ホルモンのエストロゲンには認知機能を高める作用があり、アルツハイマー病予防に有効と考えられるという。鬼頭氏と新郷氏はラットを使った実験で、エストロゲンと同等の作用をもつイソフラボン(大豆の成分)を投与したラットは、認知機能に大きな向上がみられることを証明した。

性ホルモンは加齢とともに減少していくが、不思議なことに50歳以上の男女を比べると、女性ホルモンであるエストロゲンは男性のほうが多くもっている。男性は男性ホルモンのテストステロンをエストロゲンに変換することができるからだ。それに比べ、女性は更年期になるとエストロゲンが急速に減少し、70歳前後で枯渇する。

アルツハイマー病は男性よりも女性に多いのは、こうした理由からなのだ。その意味で、ホルモン補充療法はとくに女性にとっては、アルツハイマー病予防の有効な選択肢の1つと考えられるという。

しかし鬼頭氏はさらに、根本的なアルツハイマー病治療薬の可能性について言及する。

「脳の糖尿病とは、つまるところ脳内のインスリン作用の不足ですから、究極としては、インスリンをアルツハイマー病薬として使うことが最も合理的です」

その意味で、最善の治療薬と考えられるのは経鼻インスリン吸入薬だという。脳との関係が最も直接的な感覚器官である鼻から吸入することで、インスリンが効率よく脳に届くからだ。

実はすでに米国では、「アフレッツァ」「アビドラ」などの経鼻インスリン吸入薬がアルツハイマー病治療薬として発売され、あるいは試用段階にある。しかし日本では残念ながら、まだ経鼻インスリン吸入薬の使用は認められていない。

それでも、希望はあると鬼頭氏はいう。

「さきほど糖尿病治療薬の第一選択としてあげたGLP‐1受容体作動薬は、アルツハイマー病の根本的治療薬としても、現状で使用できる数少ないものの1つであると考えられます」

GLP‐1に多くの有益な作用があることは前述したが、実はこのホルモンは脳でもつくられていて、神経の成長やシナプス機能の向上に貢献していることが確認されている。そして、海馬においては神経細胞を増やし、傷ついた神経細部を修復し、アミロイドβタンパクによる神経細胞の障害を抑制して、「魔のリレー」の発動をくいとめる働きをしていると考えられているのだ。

これらの作用を強化するGLP‐1受容体作動薬には、まさにアルツハイマー病対策の切り札となる可能性があるという。

「しかし、これらの薬の処方には、現行の健康保険制度では医師によって糖尿病の診断を受けていることが必要です。利用の幅を広げるためには、適応症を追加するなどの社会的・政治的な配慮が望まれます」(鬼頭氏)

2015年、米国のウィスコンシン大学とアイオワ大学の共同研究によって、全身のインスリン抵抗性の高まりが、脳の糖代謝の低下と関連していることが示された。

アルツハイマー病が「脳の糖尿病」であるという考え方は、いまや多くの研究機関で受け入れられ、研究が始まっている。冷静にみれば、それらはまだ基礎研究の段階だが、人類が苦戦をしいられてきたアルツハイマー病との戦いに、いずれはパラダイムシフトが起きることを予感させる。

いまこのときも介護で苦しんでいる人たちのために、そのときが一日でも早く訪れることを願いたい。

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