
借方・貸方とは?(デザイン:苗代澤真祐)
簿記を勉強して多くの人がはじめにつまずくのが、借方・貸方です。この記事では、簿記を勉強し始めた人や簿記の知識がない人にもわかりやすいように借方・貸方を解説しました。財務諸表や経理業務に興味のある人、中小企業経営者の参考になるように、公認会計士が実例を用いながら解説しています。
借方・貸方とは
借方とは、仕訳の左側のことで、資産の増加や費用の増加などを表します。一方の貸方とは、仕訳の右側のことで、資産の減少や収益の増加などを表します。
仕訳とは、取引の結果を記録することを意味する会計用語です。この仕訳を起票する際に、借方・貸方の知識が必要になります。
しかしながら、初めて簿記について学ぶ人にはわかりづらいものです。ここでは、そんなわかりづらい借方・貸方の概念や振り分け方を解説します。
借方・貸方は複式簿記で使われる概念
借方・貸方は複式簿記で使われます。複式簿記とは、取引が発生した際に借方と貸方の両方に記載することで、会計上の五つの区分である「資産」「負債」「純資産」「収益」「費用」の何が増えて何が減ったかを表す方法です。
対義語としては単式簿記というものがあります。単式簿記は、家計簿のようなイメージです。何を買ったかは書いていきますが、相手となる項目を記載しません。そのため、単式簿記では借方・貸方は使われません。
複式簿記は、法人や個人事業主として事業をおこない、税金の申告を青色申告にするときに採用します。そのため、青色申告を考えている人は複式簿記について正しい知識を得ておく必要があります。
借方・貸方の振り分け方
ここでは、借方・貸方の振り分け方について解説します。
複式簿記では、「資産」「負債」「純資産」「収益」「負債」の五つの分類があります。この分類が増えたり減ったりする際に貸借対照表、あるいは損益計算書の借方・貸方に記載していきます。分類と増減の振り分け方は以下の表にまとめました。
取引が発生すると、五つの区分が増減します。それを表すのが借方・貸方です。例えば、資産が増えたら貸借対照表の借方に振り分けられます。
なお、五つの分類と貸借対照表・損益計算書との関係性については「貸借対照表と損益計算書の借方・貸方」の見出しにて解説します。
借方・貸方は海外から入ってきた言葉
海外では、借方はデビット(Debit)、貸方はクレジット(Credit)と言います。これが和訳されたものが借方と貸方です。借方という文字をみると、「借」という文字から借入金である負債が増えるように見えます。しかし、負債は減少するのが借方です。こういったところが覚えづらい要因になっていますが、割り切って覚えるしかありません。
借方・貸方の基本的なルール
借方・貸方は誰もが初めて聞いたときに理解に苦しむ項目です。しかし、基本的なルールさえ覚えてしまえば、その後は苦労せずに頭に入ってきます。ここでは、基本的なルールを紹介します。
取引の記録に使用する
仕訳が起票されるのは取引が発生したときです。取引とは、上述した五つの区分の何かが動いたときです。例えば、商品が納品され、取引が完了したときです。この場合は売上という収益が増加し、資産である売掛金が増加します。
取引というと現金が動いたときを想定しがちですが、それだけではありません。五つの区分はさまざまな場面で動くことになります。取引を借方・貸方を用いて記録をすることがルールです。
借方は左側、貸方は右側【覚え方付き】
複式簿記において、必ず借方は左側、貸方は右側に記載します。これは不変的なルールです。しかし、左右が分からなくなったことも多いと思います。そのときは、借方の「り」は左側を向いていて、貸方は「し」が右側を向いているので、それで思い出しましょう。簿記講座でよく使われる教え方です。筆者もどちらかわからなくなったときは、いまだにこの方法で思い出しています。
借方・貸方は必ず一致させる
仕訳を起票するときには、一つの取引に対し、借方・貸方の両方を記載します。取引の内容によっては、借方・貸方ともに複数科目が登場することもあります。このとき、必ず貸方と借方の合計金額を一致させないといけません。合計金額が一致していないと貸借対照表は一致しないことになり、正確な決算書が作れなくなります。
借方・貸方の仕訳例
借方・貸方を実際に使って仕訳の例を紹介します。いくつかの例を用意したので、読んでいただければイメージをつけられると思います。
現金取引の場合
現金は資産です。現金を使った取引は、現金が増えたり減ったりするため、イメージがつきやすいでしょう。例えば、以下のような取引があったとします。
①(例)事務用品300円を購入し現金で支払った
この場合は、消耗品費という「費用」が増えているため、借方に計上します。一方、事務用品を購入し、現金を払ったことにより「資産」は減っているため、貸方に計上しています。
このように同じ借方が増える区分同士の仕訳もありえます。その場合はどちらかが増えて片方は減るという関係になります。
②(例)店舗で10,000円を売り上げて現金をもらった
この場合は、売上という「収益」が増えているため、貸方に計上します。売上が増えた結果、現金という「資産」をもらって増えているため、借方に計上します。
このように、借方と貸方で増える区分が違う場合は、両方とも増えるということがありえます。
掛け取引で売上を計上した
掛け取引とは、売り上げたときに現金でもらわずに1カ月分を翌月以降にもらう取引のことをいいます。なお、掛け取引は売上以外に、仕入れでも使います。今回は売上の場合を確認していきます。
①(例)50,000円を売り上げて掛け取引とした
この場合は、売上という「収益」が増えているため、貸方に計上します。売上が増えた結果、現金ではありませんが、売掛金という将来現金化される資産が増えているため、借方に計上します。現金取引と同じ仕訳構造になりますが、資産の種類が異なります。
②(例)50,000円の売掛金が普通預金口座に入金された
この場合は、売掛金という「資産」は入金により減っているため、貸方に計上します。一方、普通預金という「資産」は増えているため、「借方」に計上しています。この場合は、同じ資産同士が入れ替わったという形で借方・貸方を使います。
銀行から借入を受けた
事業をおこなうと、事業用や設備投資のために銀行から借入をすることがあります。その場合の借方・貸方の動きを見ていきましょう。
①(例)銀行から100万円の借入を受け、普通預金口座に入金された
この場合は、借入金という「負債」が増えたことから貸方に計上します。また、借入をしたことで普通預金という「資産」が増えたことから借方に計上しています。
②(例)借入金の元本15,000円を、利息300円とともに普通預金から支払った
この場合は、借入金という「負債」が減っているために借方に計上されます。また、支払利息という「費用」は増加しているため、同じく借方に計上します。一方、両者を普通預金で支払ったことで「資産」は減少しているため、貸方に計上しています。
このように一回の仕訳で複数の科目が借方や貸方に計上されることもあります。その場合であっても必ず借方と貸方の合計額は一致します。
株主から出資を受けた
創業するときや事業を拡大するときに、株主から出資を受けることもあるでしょう。その場合の借方・貸方の動きを見ていきます。
①(例)株主から100万円の出資を受け、普通預金に振り込まれた
この場合は、資本金という「純資産」が増えているため、貸方に計上します。資本金が入金され、普通預金という「資産」が増えているため、借方に計上しています。
あまり純資産を使う仕訳は多くないですが、「資産」や「負債」と同じように、増えた・減ったを意識して仕訳をすると難しくありません。
貸借対照表と損益計算書の借方・貸方
貸借対照表とは、企業や個人事業主の決算日時点で、保有する資産や負っている負債を表すものです。損益計算書とは、企業や個人事業主の1年間の経営成績を表すものです。売上がいくらあり、費用がどれだけ発生して、その結果として利益をどれくらい得たかを表します。
どちらの書類でも借方・貸方を用いて会計処理をおこないます。しかし、正確に借方・貸方の処理をしないと正確な書類を作れません。そのため、ここではそれぞれの書類の借方・貸方について解説します。
貸借対照表の場合
貸借対照表では、五つの分類のうち、「資産」「負債」「純資産」が記載されます。「資産」は借方に計上され、「負債」「純資産」は貸方に計上されています。

貸借対照表のイメージ・著者作成
損益計算書の場合
損益計算書では五つの分類のうち、「収益」「費用」が記載されます。「収益」は貸方に計上され、「費用」は借方に記載されます。
なお、一般的な損益計算書は貸借対照表のような表になっていません。そのため、見ただけではどちらに計上されているかがわかりづらいですが、以下のようにイメージしてもらえるとわかりやすいと思います。

損益計算書のイメージ・著者作成
借方・貸方は慣れるしかない
今回の記事では、借方・貸方について五つの会計上の区分と、それらの増減を借方・貸方で表現していくことを解説しました。また、具体的な仕訳例や、最終的に作られる貸借対照表や損益計算書での記載のされ方も確認しました。
借方・貸方は、英語がもとになっているため、日本人としては覚えづらいかと思います。しかし、そこはそういうものだと受け入れて、何回も仕訳を見て、何が増えて何が減ったのかを考えていくことで覚えていくしかありません。はじめて簿記を学ぶ人の多くがつまずくポイントです。何回も確認して、慣れていきましょう。
金森俊亮