受験生を国全体で応援する!? 韓国人ユーチューバーが語る韓国ならではの受験事情

受験生を国全体で応援する!? 韓国人ユーチューバーが語る韓国ならではの受験事情

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2022/01/16
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再び感染拡大の中、今年も受験シーズンがスタートした。受験生の方々には、今までの成果を発揮できるように心から祈りたい。

韓国の大学受験(日本の大学入学共通テストにあたる「スヌン:大学修学能力試験」)はすでに、2021年11月18日に終了し、今回も受験会場に遅れそうな生徒をパトカーが送迎するシーンなどが報道された。

日本以上に、厳しいとされる韓国の受験事情。熾烈な戦いどころか犯罪にまで手を染める受験をテーマにした韓国ドラマなども登場する中、果たして実態はどうなのか? 自らも厳しい韓国の受験戦争を経験した韓国人YouTuberのジンさんに、受験から就職までの事情を詳しく伺ってみることにした。前編では、韓国の大学受験事情について、話を聞いた。

※ジンさんのお話は、以下よりー。

“inソウル大”が就職には必須条件?

『SKYキャッスル ~上流階級の妻たち~』(Netfilxなどで配信中)と言う韓国ドラマをご存じでしょうか? 2018年11月23日~2019年2月1日まで放映され、初回は1.7%と振るわない視聴率だったにも関わらず、最終回は23.8%という視聴率を獲得し、韓国では社会現象にもなった作品です。

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こちらが大ヒットした『SKYキャッスル~上流階級の妻たち』。この5人は物語を動かす母親と左上がSKYへ導く受験コーディネイター。出典/SKYキャッスル公式サイト

このドラマは、韓国の、しかもセレブ界の受験戦争を描いた作品として注目されました。タイトルになっている“SKY”とは、韓国・ソウルの名門大である「ソウル大学」「高麗(コリョ)大学」「延世(ヨンセ)大学」の頭文字。ソウル大は日本で例えるとしたら東大的なポジションとして君臨する大学です。韓国の受験生はこれらの名門大学に入るべく、受験戦争を繰り広げています。

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こちらが韓国トップのソウル大学。出典/ソウル大学公式サイトより

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ソウル大学と並んでSKYのひとつにあがる「延世大学」。photo/iStock

韓国には336の大学があり、そのうちソウルには48の大学があります。一番優秀なのは“SKY”で、その次にあるのが「西江(ソガン)大学」「漢陽(ハニャン)大学」「成均館(ソンギュングァン)大学」といった、“2号線ライン”と呼ばれる大学群。2号線とはソウルを走るメトロの番号のことで、この沿線には比較的優秀な大学が集まっています。

その次のクラスは、“inソウル”で、これはソウルにある大学という意味です。韓国は競争がすごいので、たとえSKYがダメでも「inソウルなら上出来」と言われています。

その下のクラスは、「首都圏」にある大学です。「安養(アニャン)大」「仁川(インチョン)大」など、ソウル郊外の大学がこれに当たります。ですが、地方大でも大田(テジョン)にあり、理工学専門で世界の大学ランキング上位にも入る「KAIST(カイスト):韓国科学技術院)」、釜山(プサン)にある「 釜山大学」、大邱(テグ)にある「慶北(キョンブク)大学」のように、広域市のいいところの国立大学は入るのが難しいです。

そして最後が、地方の名門ではない大学。これは地方の雑多な大学、略して「地雑(ちざつ)大」と呼ばれています。韓国では就職の際、何よりも学歴を重視するので、もしもinソウルと地雑大で争ったら、地雑大の人がどれだけ外国語を流暢に話そうと、素晴らしい活動履歴を持っていようと、inソウルには勝てません。

学校が塾のような役割も担って受験をバックアップ

『SKYキャッスル ~上流階級の妻たち~』には、学生を名門大学に確実に合格させるVVIP(VIPの上:超VIP)専門の「イプシコーディネーター(入試コーディネーター)」が登場し、波乱を起こします。ですが、結論から言いますとこういう人は実在しません。

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『SKYキャッスル』で受験コーディネイターを演じた、キム・ソヒョン。SKYへの合格の代わりに子どもたちや家族に変化が生じ始める……。出典/『SKYキャッスル』公式サイトより

日本にも、漫画の『ドラゴン桜』をはじめ、テレビによく出てくる林修さんのような受験のプロの有名人がいますよね。韓国にも入試に関する講演をするような有名な先生もいますが、受験生を抱えたセレブ家庭がそういう先生を、入札で選ぶシステムはないです。コーディネーターという呼び方もしません。

ちなみに、韓国では塾のことを「学院」と呼びます。もちろんVVIPどうし「この学院の先生はいいよ」「この家庭教師はいいよ」と紹介し合うことはあるでしょうが、その程度です。映画『パラサイト 半地下の家族』でも、紹介で家庭教師を決めていましたよね。

受験生の中には学校に残って勉強している人もいます。これを「夜間自立学習」といい、夜の22時半くらいまで居残ります。これは学校が管理する自習になるので、選択すれば強制になりサボれません。韓国は昼食と夕食が学校で出るので、それを食べて遅くまで頑張るわけです。高校2年生の冬から始まり、希望すれば冬休み、春休みも利用できます。

私が受験生のときには、先生がものすごくスパルタで、夜間自立学習をさぼっていたらすぐに親のところに連絡が行きました。「息子さんは来ていませんが、大丈夫ですか? ご両親はそれを知っていますか?」と。うちの親は「はい、知ってます。それでいいですよ、どうぞ」と答えたそうです(笑)。なので私はもう勉強をせずに、家でゲームばかりやっていました。

国民全体で受験生を応援する「スヌン」の日

日本には、小学校や中学校、高校、大学など、それぞれのタイミングで受験生がいますが、韓国で「受験生」といえば基本的に大学受験をする高校3年生のみを指します。

そして、日本でもニュースで取り上げられているように、韓国では「スヌン(大学修学能力試験。日本の大学入学共通テストのようなもの)」の日に、パトカーや白バイで受験生を現場まで送る光景がよく見られます。日本ではビックリされるかもしれませんが、韓国では当然のこと。スヌンは人生で一度しかないので、この日ばかりは国民全体が受験生に配慮しないといけません。

たとえば最寄りのバス停にバスが来ない、タクシーが拾えないなどの理由で試験に遅れたら、これまでどれだけ準備して勉強してきてもすべてがムダになってしまいますよね。そんな気の毒なことはあってはならない。なので当日の朝は、ほとんどの会社が出勤時間を10時に後ろ倒しにし、なるべく車に乗らないなどの気づかいをして受験生ファーストを徹底します。

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パトカーや白バイでの送り迎えだけでなく、受験している間、寺で合格を祈り続ける両親も多く、お寺には行列ができるという。photo/Getty Images

それでも世の中には話のわからない人がいて、一部のエリアで渋滞が発生することもあります。そんな場合に備えて、当日の朝から警察や救急車などが路上で待機しているのです。国の将来のためにも大切な一日なのだ、という認識ですね。

受験のシステムも変わりました。以前は「君の成績ならソウル大に受かりそうだから、ソウル大を受けなさい」と、高校の先生から指定された大学を受けるというしくみだったため、本人が別の大学に行きたいと思っても行けず、滑り止めを受けることもできませんでした。なのでそこに落ちたら浪人するしかなかったのです。でもスヌンになってからは自分のレベルに合わせて志願できるようになり、何度かトライすることも可能になりました。

目指す大学に受かるまで、浪人する人も多いです。母の末弟がソウル大出身なのですが、なんと3浪しています。彼は頭がいいからこそソウル大を目指して浪人したわけですが、なかには「浪人生には賢いイメージがある」という理由で、たいして優秀でもないのにあえて浪人する人もいます。それで2回、3回と受験し続ける。運よく名門大に受かればいいですが、ダメだった時は悲惨です。プライドだけがムダに残り、これといった学歴もないまま年を重ねてしまいますからね。

韓国で受験といえば、基本「大学受験」のこと

さきほど、韓国では「大学受験をする人を受験生と呼ぶ」といいましたが、実は韓国も1960年代頃までは中学・高校受験など、大学以外の受験がありました。そもそも韓国の学校は日本人が作ったものが多く、私が通っていた私立高校も元々は日本人の将軍が作った学校です。昔、日本人の政治家や将軍などの子どもが通っていた学校で、そういうところは大概いい学校なんですよね。学費も高いし。

それがそのまま名門校として残っていたのですが、戦争が終わって民主化運動を経て、地域間の格差をなくすために、1970年くらいから試験や制度も変わってきました。まず国が最初にやったのが、高校の名門校をなくすことです。なぜかというと、体が出来上がる成長期に受験勉強などさせたら、食事や睡眠の質が落ちて不健康な子どもになってしまう、という理由からです。貧富の差によって不公平感が出ないよう、家庭教師をつけての個人的な勉強も禁止されました。

さらに、学校で教える勉強のレベルも標準化して、格差を解消。これは「高校標準化」と呼ばれています。名門校もなくして、筆記試験による高校受験も廃止。試験がない代わりに、内申点で自宅近くの学校にランダムに入学できるようになりました。これを「ぐるぐる世代」と呼ぶのですが、私もこの世代に当たります。

じゃあ韓国ではすべての高校が同等レベルかというとそうではなく、一般高校以外にいくつか特別な高校も存在します。まず、本気で勉強をしたい子が行く「英才学校」。科学英才学校、科学芸術英才学校がこれに当たります。とにかく頭のいい子が入る高校です。全国8ヵ所にあります。

次に特殊な目的を持つ高校、略して「特目高」があります。科学高校、外国語高校、芸術高校、体育高校、国際高校などですね。科学高校、外国語高校、国際高校は内申点と面接で受験できます。ソウルの外国語高校、国際高校は、難関大に合格しやすいという理由で行く子も多いです。

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ソウル大への合格者も多い「ソウル科学高等学校」は難関校で人気も高い。出典/ソウル科学高等学校公式サイトより

自立型私立高校、略して「自私高」は、独自の運営をする私立高校です。内申点と面接で受験をして入ります。ソウルに多く、全国だと40校くらいあります。私立なので学費はかかりますが、自由度が高く、難関校への合格者も多いです。

問題視されつつある「特目高」の存在

内申点は中学3年間の成績で決まります。「特目高」に進学するためには内申点が重要ですが、それがまた問題で。成績がいい子以外に、やはり政治家の子どもや学校関係の偉い人の子どもなどは合格しやすいと言われています。

それともうひとつ、どうしてもお金持ちの家庭の子どものほうが有利、という事情もあります。たとえば幼い頃からアメリカに住んだり、日本に行ったりしている家の子は、自然と外国語が身に付きますよね。そういう子が外国語高校を受けたら、それは100点を取りますよ。最初から差がついているということで、近年問題になっています。この「特目高」には、全体の1%ほどが入学します。

「特目高」を出た子たちは名門大に進学することが多く、学校全体の半数が“SKY”のような有名大学に入ります。でも、彼らが大学でどのくらいの成績を残すかといったら、実は一般高校から受験して入ってきた子とあまり差がないんですね。なので最近では「『特目高』って何の意味があるの?」「結局、政治家やお偉いさんの子に有利なインフラなだけでは?」といった疑問の声も上がっています。

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『SKYキャッスル』に出てくる子どもたちが通う高校もいわゆる「特目高」だ。出典/『SKYキャッスル』公式サイトより

韓国ではこのように、大学に入るまでにかなりのエネルギーを消費します。なので入学した時点で燃え尽きてしまって、大学ではお酒を飲んでばかりで勉強をしないという学生も出てくる。特にアメリカ留学をした学生の場合、卒業できないまま退学するケースも少なくないと言われています。

後編では、大学受験がどれだけ韓国人の就職や将来設計に影響するのか、受験の後のその後の話をジンさんにじっくり伺ってみよう。

後編はこちらから
『サムスン、LG…就職格差は日本以上!? 韓国人ユーチューバーが語る大学のその先』

構成・文/上田恵子

今回の取材内容をジンさんがわかりやすく解説、YouTubeでも配信中です!
記事には触れられなかった内容もお話しているので、ぜひこちらも合せてごらんください。

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