《どうか本校をお助けください》京都のミッション系伝統校「平安女学院」からSOS 校長が“学院出禁”の異常事態発生

《どうか本校をお助けください》京都のミッション系伝統校「平安女学院」からSOS 校長が“学院出禁”の異常事態発生

  • 文春オンライン
  • 更新日:2021/07/22

《どうか本校をお助けください。現在、理事長の理不尽な命令で中学校・高等学校の校長が校内への立ち入りを禁じられており、自宅待機処分となっております。理事長に異論を唱えた副校長、教頭ら4人も役職を解任されました。これは理事長の職権乱用です》

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7月上旬、差し迫った様子のメールが「文春オンライン」に届いた。訴えるのは古都・京都にある創立146周年を誇る平安女学院中学校・高等学校(以下・平女)の学院関係者だという。

平女は、1875年(明治8年)に設立された幼稚園から短大・大学までが備わったキリスト教主義の女子校だ。京都市内の中心地にあり、京都御所に隣接、すぐ近くには世界遺産の二条城がある。日本で初めてセーラー服を採用したともいわれ、元NMB48の山本彩も通っていたことがある。

そんな伝統校で校長が“出禁”になる異常事態が発生したというのだ。

卒業式での理事長の式辞が“大問題”に

事の発端は、今年3月1日に高等学校で行われた第73回卒業式での出来事だ。朝10時から校内の体育館で行われた卒業式には、卒業生約130名と教職員約70人の計200人ほどが出席。コロナの影響で来賓や保護者の参列はなく、卒業生の保護者限定で式の様子はライブ配信が実施された。

当日は俳優の吉沢亮が、主演を務めた映画「ママレード・ボーイ」(2018年公開)のPRで同校をサプライズ訪問したのが縁でVTR出演。卒業生も大いに盛り上がるはずだった。

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京都の中心地にある平安女学院 ©文藝春秋

卒業式ではまず卒業証書授与が行われ、校長の告辞、校歌演奏と順調に進み、次に山岡景一郎理事長(学院長・大学学長も兼任/91)が壇上で式辞を述べた。

《小さくても、エルメスやヴィトンとか、そういうようなブランドというのは、小さくてもピカッと光っています。私どもの学生たちは、今はそういうブランド大学だという誇りを持っております》

《世の中には5種類の人間がいますね。1人は世の中にどうしてもあってほしい人。2番目は、どちらかというとまあ、いてほしい人。3番目は、世の中にいてもいいひんでもいい人。4番目は、世の中におったらあまりよくない人。5番目は、世の中におったら害になる人。さて、どれが1番いいでしょう? それは1番目の世の中に必要な人だと私は思っています》

《私がみなさんに一番伝えたいことは、成功すること。成功は最後までやり遂げること。ということは、成功するまでやること》

式辞の問題点「平女146年の歴史とは相いれない」

この式辞の内容が、平女関係者の間で“大問題”となった。前出の学院関係者が解説する。

「理事長の式辞はキリスト教主義を掲げる平女には大変不適切なものでした。まず、理事長は平女を“エルメスやヴィトンと同じようなブランド大学”と表現しました。しかし、これは言い換えれば他の学校は、平女より品格が劣るということを言っていると同義であり、謙虚さを重んじてきた平女146年の歴史とは相いれません。

また、理事長は人間を5つのタイプに分類し、その中で1番目のタイプの人が1番いいと述べましたが、そもそもキリスト教は人間の存在そのものを赦し、肯定しています。わが校が掲げる博愛精神から言っても人間をランク分けすることなどあってはならないのです。《世の中におったら害になる人》などと差別したりすることも教義に反します。

同じ意味で『成功すること』だけに人間の将来の価値を置くような言い回しも平女の伝統から言って極めて不適切です。実際、理事長の式辞を聞いた卒業生や教職員の中には、あまりに場違いな言動に頭を抱えるものもいたほどです」

卒業式終了後には、理事長の式辞に対して卒業生や保護者からクレームの電話が殺到したという。

「直接のお叱りだけでなく、理事長の問題発言はネットでも拡散され、OGらから『言葉を失いました』『差別発言が公式の場で、最高責任者から出た』『伝統ある学校なのに良い伝統が守られて無い』『いまの理事長になってから平女は変わってしまった』といったたくさんの批判的な内容が投稿されました」(同前)

ミッション系女子校にやってきた“敏腕経営者”

平安女学院はアメリカから来日した宣教師によって1875年に創設され、146年の歴史を紡いできた。学生らは毎朝教室で礼拝し、聖書を学び、聖歌を歌う。教職員は敬虔なクリスチャンが多く、「俗世間とは隔絶されたような雰囲気」(地元紙記者)があるという。

「名門校ではありますが、過去には経営難から学院が傾きかけたことがある。そこにテコ入れしたのが、2003年に平安女学院理事長・学院長に就任し、2005年から大学学長も兼任している山岡理事長なんです。山岡理事長は人件費カットなどで80億円を超える累積債務を解消して学校経営を立て直しました。

経営コンサルタント会社や出版社を経営する傍ら、地元行政の重要ポストを歴任し、2011年からは京都府立医科大学の客員教授、2015年からは京都大学特任教授として、90歳を超えた現在も現役教授として大学の教壇に立っている。京都の政財界、教育界に大きな影響力を持つ “凄腕”ですよ」(同前)

山岡理事長は理事長就任後、伝統あるキリスト教教育よりも経営重視の方針をこれまで採り続けてきた。そのため、過去には伝統を重んじる在学生や職員らと対立し、裁判沙汰になることもあった。

「2005年、平安女学院大学のびわ湖守山キャンパス(滋賀)が高槻キャンパス(大阪)に統合されることをめぐって、在学生が卒業まで守山キャンパスで就学できるよう裁判所に求めましたが、棄却されました。

2011年には、当時の事務職員が学院側から執拗な退職勧告を受け、解雇されたとして、学院側を提訴。事務職員は『合理的な理由がない』と解雇の無効が認められましたが、職場復帰後、学院側が仕事らしい仕事を与えなかったことから再度訴訟となり、職員側が勝訴したこともあります」(同前)

山岡理事長は過去のインタビューで、学校経営のあり方についてこう見解を述べている。

山岡 「私の予定は、いつも学生行事を最優先にしている。そこで得意のマジックを披露する。学校経営もマジックと同じ。理解されなくてもいい。成功すればいいのだ(略)」

――ワンマン経営者を自認しているとか

山岡 「そうだ。危機的な局面では、ワンマン経営でないと意思決定が迅速にできないし、難局は乗り切れない。教職員に対しても、理事長室のドアは開けている。いつでも理事長に対して公然と批判していい、と伝えている。徹底的に議論する。最終的に決めるのは、私だ」

「読売新聞教育ネットワーク」(Vol.37 2018年2月2日配信)

理事長が私淑する昭和の名経営者・松下幸之助

ちなみに山岡理事長が私淑するのは昭和の名経営者・松下幸之助だ。こうした“敏腕経営者然”とした方針は、平女の教職員には受け入れがたかった。前出の学院関係者が打ち明ける。

「理事長の式辞の内容は、平女の定める寄附行為(※基本規則のこと)にある『キリスト教の精神にもとづく学校教育および保育を行うことを目的とする』という項目に抵触する可能性もありました。そのため、教職員間で3月末の理事会でその責任を追及しようという話になったのです」(同前)

かくして平女の“令和のお家騒動”の幕が切って落とされたのだ。

秘密裏に行われた“理事長糾弾”への賛同集め

「理事長に式辞内容への説明を求めるため、ある教職員が問題発言を『意見書』にまとめました。その職員は理事長側に勘付かれないよう秘密裏に中高学校の教職員らに『意見書』の賛同を募って回ったんです。匿名ながら、専任教職員の9割が賛同。そのことを明記した『意見書』が今井校長に託され、『評議会』で議題にあげてもらうことになりました」(同前)

平女では学院運営を協議するため、定期的に理事会が行われている。理事会のメンバーは理事長の他に、理事長の親族を含めた5名だ。そして理事会に動議を出すには、その前に行われる評議会を通さなければならないのだという。評議委員会のメンバーはこの理事会メンバー5人を含めた11人。今井千和世校長は中学高校の代表として名を連ねていた。

3月下旬、今井校長は意見書を受け取り、教職員らとともに11人の評議員のうち過半数への根回しを済ませて評議委員会へ向かった。しかしいざ会議となった時に、動議に賛同してもらえると思っていた評議員数人が欠席していることに気づいたという。

「評議委員会で過半数の賛同がなければ動議は理事会へと移行しません。賛同してもらえるはずだった評議員が欠席してしまったため、今井校長は過半数の賛同が得られないと判断して、意見書の提出を断念しました。

過去に事務職員を不当解雇した理事長のことです。強引に意見書を提出すれば、『この文書を作ったのは誰や?』と文書を作った教職員を特定し、その教職員を解雇する可能性もあると今井校長は考えたそうです。

しかし、事態は既に今井校長が考えている以上に深刻なものになっていました。こうした教職員らの動きは理事長側に既に知られていたようで、今井校長は件の評議委員会が終了したあと、大学内にある理事長室に何度も呼び出されていました。校長によると、理事長から恫喝を受けていたそうです」(同前)

それからしばらくして、今井校長の自宅のポストに何者かによる怪文書が投函されるようになったのだという。

「校長が教職員に語った話によると、怪文書には《身の回りを警戒しなさい》《ご用心》《面従腹背の三役を警戒しなさい》などと書かれていたそうです。もちろん、理事長がしたことだと決めつけることはできませんが、教職員の誰もが理事長の意向が反映されたものなのではないかと疑っていました。

説明を求める質問状を提出

それ以降も理事長は、校長や反発する教職員に対してクビをチラつかせて、言葉による圧力をかけ続けていました。それに業を煮やした副校長と教頭が、理事長に『式辞での問題発言について説明を求める質問状』(5月27日付)を作って、同日に理事長の第一秘書ともいえる学院統括室の職員に提出したのです」(同前)

取材班はこの質問状を入手した。《2020年度 高等学校卒業証書授与式における式辞について》と題された山岡理事長宛てのA4用紙2枚の文書にはこう書かれている。

《式後より、校長を通して理事長の真意を問うてきました。その後の経緯の中で、釈明も謝罪の意志もお持ちでないことも聞き及んでいます。私たち中学校高等学校の管理職としては、式辞およびその後の対応は、上述の理由から、学校法人 平安女学院の社会的責任が問われることだと捉えています。(略)理事長のご真意をお答えください》

質問状の回答期限は5月末としていたが、理事長から回答が返ってくることはなかったという。

「副校長や教頭は、6月11日に改めて回答を求める文書を作成し、理事長に再度回答を求めました。ですが、質問状を受け取った学院統括室の職員から理事長は目を通していないと伝えられ、理事長からの回答がないまま時間だけが過ぎていきました。理事長は無視をし続けるのだろうかと思っていたら、6月16日の放課後に今井校長が中高の教職員全員を教員室に集めたのです」(同前)

多くの教職員を前に立った校長は「今まで見たことがない神妙な表情」(同前)だったという。

「校長は教職員が集まったことを確認すると、『たった今、理事長から自宅待機を命じられました。校内への立ち入りも禁じられました。でも、私は必ずまた戻ってきます』と語り始めました。他の教職員や在校生、卒業生、学校に関わる業者との接触も禁じられたそうです」(同前)

職員室に集まった教職員たちはどよめいた。学院関係者によると今井校長は「平女の象徴のような存在」だったという。

愛の教育を大切にし、キリスト教精神に基づいた教育

「今井先生は非常勤講師として平女で働き始め、2017年に校長に就任しました。校長は一貫して、『この世に生まれてきたすべての人は、望まれて生まれてきたかけがえのない大切な存在である』と伝えてこられた。どんなときも愛の教育を大切にし、キリスト教精神に基づいた教育を行っていました。

入学前の説明会で校長の話を聞いて平女への入学を決める生徒も少なくありません。中学と高校で社会科の授業を受け持ち、生徒たちもとても慕っていた。気軽に校長室を訪れる生徒も多かった」(同前)

しかし、そんな平女の“精神的支柱”は、理事長の指示により自宅待機を言い渡され、学校から姿を消した。残された教職員を待ち受けていたのは、理事長による報復人事と内通者による監視に怯える日々だった。(#2へつづく

7月22日(木)21時〜の「文春オンラインTV」では、本件について担当記者が詳しく解説する。

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《京都・平安女学院で内紛勃発》“敏腕経営者”理事長vs.“愛の教育”ミッション系教職員の行方は?へ続く

(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))

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