
有村架純 <画像をもっとみる>
安田弘之の同名漫画を映像化したNetflix映画『ちひろさん』で、主人公のちひろ役に扮した有村架純の演技が話題となっている。本作の舞台あいさつで彼女は、「ここまで役に近づけない、近づかせてもらえない役どころは初めて」と告白。自身にとって新境地となったことを明かしていたが、いつの間にか周囲を癒やしてしまう力と、孤独を愛する影を併せ持ったちひろは、今年2月に30歳となった有村の進化と真骨頂を味わえる役柄だったように感じる。真面目で健気、その一方でどこかミステリアス。そんな不思議な引力を持つ女優、有村架純の魅力に迫る。
【写真】凛とした美しさに目を奪われる―有村架純、インタビュー撮り下ろしショット
■元風俗嬢のちひろさんが、なぜハマり役に?
風俗嬢の仕事を辞めて、今は海辺の小さな街にあるお弁当屋さんで働いている女性・ちひろを主人公とした本作。ちひろの元には吸い寄せられるように人々が集まり、ちひろが時に優しく、時に強く、彼らの背中を押していく姿を描く。
四つん這いになって猫のマダムさんにあいさつをする冒頭から、ちひろの自由な姿に釘付けになる。元風俗嬢という過去も軽やかに周囲に伝え、誰にどう見られるかも気にしない。子どもや女子高生、ホームレスやシングルマザーなどどんな人にも分け隔てなく接するちひろは、「人はこうあるべき」と決めつけることもなく、他者を包み込むような懐の深さを持っている。「相談事、聞くよ!」と近づいてきているわけではないのに、なぜかみんなちひろの前では、自分の“ありのまま”を見せたくなってしまうのだ。
有村がそんなちひろの包容力と、周囲との絶妙な距離感を見事に体現している。たとえば、家族との関係に悩み、自分の気持ちをうまく表現できない女子高生のオカジ(豊嶋花)とちひろが対峙する場面では、そっけなくも見えるちひろの優しさと爽やかさに、涙をこぼした人も多いのではないだろうか。「こんな人に出会ってみたい」と観客の心も癒やす主人公としてちひろを演じ切った有村だが、メガホンをとった今泉力哉監督は、彼女自身とちひろの重なりを感じることもあったという。
舞台あいさつで、ちひろさんはまるで磁石のように近づかせてくれない役柄だったと打ち明けた有村に、今泉監督は「有村さんがつかめない距離なりに、ずっとちひろさんを、尊いもの、届かないものとして扱ってくれていたから、このちひろさんになったのかなと思う」。さらに「ちひろさんって、変な大人で常識に縛られずに生きている人。ひょうひょうとしていて、適当な大人という印象があったんですが、取材などを通して、逆に真面目な人だと思うようになった。有村さんの真面目な部分と、ちひろさんがすごくリンクした」とコメント。
またインタビューでは、有村が「“ひとり”とか“孤独”ってネガティブな印象がありますが、私は全然悪いことではないと思っていて。孤独だからこそ、自分の大事にしたいものが見える」と孤独を大切なものとして捉えていると語っていた。この言葉からも、孤独を受け入れて生きるちひろとの相性の良さが感じられた。有村自身の葛藤や資質が役柄に反映されたからこそ、本作のちひろに魂が宿り、キラキラと光を放つ存在になったのだろう。
■応援したくなるひたむきさ
この真面目さや誠実さは、有村の大きな魅力の一つだ。以前のインタビューでは「心配性で“気にしい”な性格。バラエティー番組に出させていただいたりしても、しゃべりすぎたかなとか反省しちゃう」、「いろいろなことに筋を通さないと、自分も納得できないタイプ」と自身の生真面目な性格を分析していた有村だが、イベントや舞台あいさつなどでも、いつでも一つ一つしっかりと考えながら、自分の言葉に責任を持って発言をしているように見える。
そんな彼女だからこそ、“ひたむきに頑張る”というキャラクターもよく似合う。大学合格を目指す金髪ギャルを演じた『映画 ビリギャル』(2015)では、第39回日本アカデミー賞の優秀主演女優賞と新人俳優賞を受賞。NHK連続テレビ小説『ひよっこ』(2017)では、行方不明になった父親を探しながらも、明るい笑顔で前を向こうとするヒロインの姿が、幅広い世代の視聴者の胸を打った。
そして放送中の大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合/毎週日曜20時ほか)で演じている瀬名の健気さも、家康の心を動かす説得力十分。どの役柄も、たとえるならば春の陽だまりのような温かさを持ったキャラクターで、観ているこちらが応援したくなる真っすぐさにあふれている。
■「もっと知りたい」と思わせる引力が、坂元裕二や佐藤健をも魅了!
もう一方でミステリアスな魅力も持ち合わせているのが、有村が特別な女優である理由だ。『花束みたいな恋をした』(2021)では、脚本家の坂元裕二と『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(2016、フジテレビ系)以来の再タッグを果たした有村。
同作でのインタビューで彼女は、「坂元さんは、私のことは“今でもよく分からない人。できればずっと知りたくない人だ”とおっしゃっていました」と振り返りながら、「私は“知らないままでいてください”と答えたんです。坂元さんの中で、私についていろいろな想像をしてもらって、捜索していってほしい」と楽しそうに語っていた。また同作の初日イベントでも、坂元は「(有村は)とてもミステリアス。不思議な手品を見せられているようなお芝居をいつも見せていただいて、感激しています」としみじみ。
さらに『るろうに剣心 最終章 The Beginning』(2021)で共演した佐藤健も、イベントで「心の奥底でなにを考えているのか分からないというか、なにか隠し持っているんじゃないかと思わせるような、もっと知りたいと思わせるような人」と有村について、興味をそそられる人だと語っていた。たしかに同作で有村は、主人公・剣心の運命の女性である巴の、消えてしまいそうな儚さを素晴らしく表現。有村のミステリアスな佇まいが、ピタリとハマったキャラクターとなった。
どんな仕事をする上でも、真面目さは最大の武器になる。そして稀代のクリエイターをも刺激するミステリアスな魅力は、女優としてこれ以上にない強みだ。これからまた有村がどのような顔を見せてくれるのか大いに楽しみだが、まずは彼女の“陰と陽”どちらもが詰まった『ちひろさん』をぜひ堪能してほしい。(文:成田おり枝)
Netflix映画『ちひろさん』はNetflixにて配信中。
クランクイン!