酒類自粛を追い風に進化する「ノンアルコールペアリング」の世界

酒類自粛を追い風に進化する「ノンアルコールペアリング」の世界

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2021/06/13
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東京をはじめ、国内各地で出ている酒類提供の自粛要請は、コロナ禍に苦しむ飲食業界に追い討ちをかけているのは間違いない。しかし、苦境にありつつも、アルコール飲料の代わりに、ノンアルコールでのペアリングを開発する店が増え、新たな料理の楽しみ方も生まれつつある。

ファインダイニングと呼ばれるレストランでは、この期間にどう対応し、ゲストらはどう反応しているのだろうか。ミシュラン選出の人気店、日本を代表する美食家に話を聞いた。

「皿の外のソース」という考え方

国内で早い時期からノンアルコールペアリングに積極的に取り組んできたのが、東京・外苑前で、川手寛康シェフが率いるモダンフレンチ「フロリレージュ」だ。ミシュラン二つ星の同店は、今年3月に発表されたアジアのベストレストラン50でも7位にランクインするなど、海外での評判も高い。

料理は、国産のトリュフなど希少な和の食材も取り入れ、パンは酒粕の入ったふんわりとした蒸しパンを使うなど、フランス料理の骨格の中に日本らしさを取り入れた独創的なスタイル。また、経産牛の持つ旨味を生かした料理など、サステナブルなアプローチでも知られる。

同店が本格的にノンアルコールのペアリングを始めたのは2017年。店舗を現在の場所に移転したタイミングで、ノンアルコールが広がりつつあるヨーロッパなど海外からのゲストを意識してのことだった。

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役割としては「皿の外のソース」のような位置づけで、料理の構成要素に寄り添う作り方。日本のカツオ昆布出汁、コールドプレスジューサーで絞ったフレッシュフルーツジュース、中国茶や緑茶などをブレンドし、料理に合わせて提供。ほうれん草の茎など食材の端を使うこともあり、フードロスを減らすアプローチにもつながっている。

「通常のカクテルはアルコールで骨格ができるが、ノンアルコールカクテルはより繊細に味のバランスを取る必要がある」(川手氏)と手間のかかるもので、料理と同じように細心の注意を払って味や香りの構成を考えている。

フロリレージュは、オープンキッチンを客席がコの字型に囲む劇場型のレストラン。皿の上の料理のみならず、食体験をトータルで楽しんでほしいという川手氏の思いは、ドリンクのプレゼンテーションにも表れている。グラスにハーブを美しくあしらったり、日本酒の升で提供したり、「次に何が出てくるのだろう?」と、目でも楽しめるワクワク感もあり、ノンアルコールだからといって物足りなさを感じることはない。

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これまでも客の15%ほどがノンアルコールペアリングを頼んでいたが、酒類提供自粛により、ゲストの約半数がオーダーするようになったという。よりフロリレージュらしい独創性が楽しめると、あえてノンアルコールペアリングを頼むゲストが今後も増えていきそうだ。

新たにノンアルコールペアリングを打ち出したのが、東京・代官山にあるミシュラン一つ星のフランス料理店「recte」だ。これまでも、自家製のジンジャーエールなどのノンアルコールドリンクはあったが、顧客の8割がワインを注文することもあり、ペアリングでは提案してこなかった。

フランス産ワインに合う”香り”を大切にした料理を生み出してきた佐々木直歩シェフは、「これまでも料理に使う食材を抜き出して自家製のジュースを作ってみたことはあったが、当たり前に合いすぎて、ワインが料理に与えるような相乗効果や味の輪郭を際立たせることができなかった」と話す。

しかし、今回の自粛を受け、以前から温めてきた6杯のノンアルコールペアリングの提供を開始した。

開発を担当した支配人でソムリエの横山信氏は、特に気を使ったのが、糖分の調整だと語る。市販でも、ワイン用のぶどう品種を使ったジュースなどが存在するが、料理との相性を考えると甘すぎたり、日本に出回っているブランドが少ないため、他店との差別化が難しい。それならば、自分たちで、料理に合わせた「ノンアルコールワイン」を作ろうと考えた。

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例えば、ホワイトアスパラガスのヴァン・ジョーヌソースには、実際の赤ワインにきび砂糖を入れて煮詰め、アルコールを飛ばしたシロップにゴボウ茶を加え、土っぽさ、熟成感のある赤ワインの味わいを再現したドリンクを用意した。この他、炭酸水を加えることで料理の脂分をすっきりとさせる工夫をし、リースリングやシャルドネ、サングリアなどをイメージしたドリンクを作った。

ノンアルコールドリンクは、自由に味の調整ができるという利点がある。対話の中で、ゲストの好みに合わせたアレンジができ、よりゲストの好みに寄り添ったサービスができるのも魅力だ。

以前、ワインペアリングを頼んでいたのは全体の3割ほどだったが、ノンアルコールペアリングも、同じくらいの割合で注文が入る。また、単品で水以外のノンアルコールドリンクをオーダーする人は、全体の9割に達するという。

特に、若い世代が「面白そう」とノンアルコールペアリングをオーダーすることが多く、最近のソーバー・キュリアスの流れも相まって、「ワインが好きで選んできたが、ワインと同じ味でノンアルコールならそちらの方が良い」という声もあるという。

また、ワインペアリングであれば、recteでは一人あたりボトル半分程度のワインを提供するが、「ワインを飲みたいけれどアルコールはあまり強くない、という方に、ワインペアリングの一部をノンアルコールドリンクに置き換える、ミックスペアリングという提案もでき、サービスの幅が広がった」(横山氏)と、自粛が解除されたあとも提供を続けようと考えている。

さて、アルコール愛好家はこの期間をどのように過ごしているのだろうか。

シャンパンやウィスキーのアンバサダーを務めるなど、世界の上質な酒に精通する美食家であり、「世界のベストレストラン50」の評議委員長を務める中村孝則氏に話を聞いた。

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「セザン」のプレビューで、エゾジカのローストに合わせて提供された「ノンアルコールサングリア」を持つ中村氏

仕事柄、「普段からレストランで酒と共に食事をとることも多く、健康診断などの特別な理由がない限り、毎日アルコールを楽しんでいた」という中村氏だが、酒類提供自粛を受けて店で酒を飲まなくなり、約30年ぶりにノンアルコールの日を設けるようになったという。夜早く就寝することで朝型になり、生活スタイルにもメリハリが出たと話す。

さらには、「これまでは必ずアルコールペアリングをオーダーしていた」店で初めてノンアルコールペアリングを楽しんだことで、新たな可能性も感じるようになったという。

「従来のアルコールペアリングは、ワインならぶどう、日本酒なら米と、限られた材料で作られます。しかし、ノンアルコールは、自由に食材を使えるため、より幅広い表現が可能」と語る。

中村氏は大日本茶道学会の茶道教授でもあり、世界的にティーペアリングを出す店が増えてきているトレンドにも注目。「日本には、日本茶という誇るべき文化がある。茶葉の産地や製法の違いのみならず、茶せんで点てる抹茶、急須で淹れるお茶、さらには水出しまで提供方法も様々。もっと追求すれば、日本独自のティーペアリングが生まれ、ノンアルコールペアリングの最先端を日本から発信することもできるはず」と考えている。

取材したのは、7月1日にフォーシーズンズホテル東京丸の内にオープンする「セザン」のプレビューの場。そこでは、アジアで4位に輝いた気鋭のダニエル・カルヴァートシェフによる料理とノンアルコールペアリングが提供されていた。

個人的に非常に印象深かったのが、サバをマリネした料理とノンアルコールのモヒートの組み合わせだ。

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青背の魚は特に、鉄分の多いワインと合わせると化学反応で魚臭さが出てしまうため、ペアリングが難しい。しかし、ノンアルコールモヒートがキンと口の中を冷やし(この感覚を実現するには、シェイクのカクテルが出来立てで届くことが必須)、ミントの香りを加えることで、サバの味の良い部分だけを感じておいしくいただけた。これは、アルコールの提供が再開しても、あえて頼みたいペアリングだと感じた。

ワインは基本的に提供温度が決まっているが、こんな風により自由に温度を選べ、口の中での印象を幅広くコントロールできるのも、これからのペアリングの面白さと言えるだろう。

今回の酒類提供自粛で、レストランでの新しいドリンクを考案している飲食店も多い。アルコールの生産者を「家飲み」で支えつつ、外食の際には、レストランのたゆまぬ努力で進化するノンアルコールペアリングを楽しむという形も広がっていくかもしれない。

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