ニコラス・ケイジ演じる父親役の「切ない笑い」がたまらない。ラヴクラフト原作のSFホラー『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』は万人が楽しめる!?

ニコラス・ケイジ演じる父親役の「切ない笑い」がたまらない。ラヴクラフト原作のSFホラー『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』は万人が楽しめる!?

  • ハーバービジネスオンライン
  • 更新日:2020/08/01
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(c)2019 ACE PICTURES ENTERTAINMENT LLC. All Rights Reserved

7月31日より、映画『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』が公開されている。

愉快(?)なポスタービジュアルなどから、イロモノ映画のような印象を持たれるかもしれないが、実際は万人が楽しめるエンターテインメント要素も十分に備わっている、今日に通じる普遍的な恐怖が描かれた作品であった。その具体的な魅力について記していこう。

◆意外な親しみやすさもあるSFホラーである

大都会の喧騒を離れ、田舎に移住してきた一家の幸せな生活は、前庭に隕石が来襲してきたことで終わりを迎える。彼らは心身に異常をきたす謎の地球外生命体の影に怯えることになり、やがて周りの景色は“極彩色”の悪夢へと変わるのだった……。

このメインのプロットを言い換えれば、「ロハスな生活をしていた家族が未知の存在との戦いを強いられる」と一行で説明できるほどにシンプルだ。徐々に日常が侵食されていく様は恐ろしく、想定外の事態に翻弄されていく過程には驚きのアイデアがたくさん込められている。SFホラー映画として、真っ当なつくりになっていると言っていいだろう。

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加えて、「憧れの生活が外部的要因で崩壊してしまう」「外出が危険であるために自宅に逃げ込む」ことは、現実のコロナ渦の世の中ともシンクロしている。母親が田舎暮らしでも可能な、リモートによる仕事をしているというのもタイムリーな要素だ。

また、父親が一種の家父長制的な価値観にプレッシャーを感じているようだったり、子供たちも思春期らしい悩みを持っているなど、各キャラクターも感情移入がしやすいものになっている。こうしたところから、予備知識が全く必要でなく、小難しくもない、意外な親しみやすさがある映画だということを、まずは期待して観てほしいのだ。

◆かわいいアルパカは狂ったビジネスの象徴だった

本作の親しみやすさを、さらに加速させるのはアルパカだ。ご存知、もふもふな毛並み、タレ目でつぶらな瞳、どこかのんびりとしている佇まいなどから、かわいいの権化とされる存在のアルパカが、このSFホラー映画の中に平然と姿を現わすのである。

「なぜアルパカ?」と誰もが思うところだが、リチャード・スタンリー監督によると、アルパカを登場させたのは「リタイアした人の狂った新ビジネスを描いてみたかった」という意向のためであり、一時はダチョウも候補にあがっていたのだという。

わかりやすい利益が見込める牛や羊などではなく、通常であれば選択しないであろうアルパカを、仕事をリタイアした父親が主導して世話をしているいうこと……それ自体が、通常のビジネスの感覚から逸脱したものなのは確かだ。アルパカは、一家が異常な悪夢に巻き込まれる“前兆”を象徴しているとも言えるだろう。

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そして、このかわいいアルパカがどのような顛末を迎えるかは……実際に見て確認してほしい。良くも悪くも、より一層の思い入れがアルパカにできることは間違いない。

◆キレ散らかすニコラス・ケイジは、普遍的な世のお父さんの姿?

本作の目玉として、ニコラス・ケイジ主演作であることをあげないわけないにはいかない。そのキャリア上でも屈指の“キレ演技”を堪能できる様はほぼほぼブラックコメディにようになっているところさえあるのだから。

白眉となるのは、「せっかく収穫したトマトが不味かった」というシーンだ。ここでニコラス・ケイジがトマトに対してキレ散らかすだけでも笑ってしまうし、その後のある行動とその時のセリフに至ってはもう爆笑もの。ニコラス・ケイジのファンにとって、ここだけでも本作は必見だと断言する。

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そもそものニコラス・ケイジの役柄が「あまり威厳のない、ちょっとダメな父親」であるというのも味わい深い。この非常事態の最中、彼は懸命に家族を守ろうと奔走しているのだが、結局はほとんど空回りしていく。そのため、前述したようなコメディ要素は笑えるだけでなく、「がんばっているお父さんが報われなくてかわいそう」という切なさも同居している。その後に彼の精神が崩壊間近になっていくに従って、彼のことを応援したくなる気持ちも生まれていくだろう。

本人は「ちゃんとした父親でありたい」と願っているのに、「何かに対して怒っている姿が滑稽」というのは、世のお父さんの普遍的な姿でもあるのではないか。家族を大切に思っている全てのお父さんは彼に共感できるだろうし、そうでない人もお父さんにちょっと優しくなれるかもしれない。そういう意味でも、切ない笑いを引き起こさせてくれるニコラス・ケイジというキャスティングには必然性があった。

◆4:今日に通じる普遍的な恐怖を描いている

本作の原作は、“クトゥルフ神話”の始祖としても知られるH・P・ラヴクラフトが執筆した、自身が宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)と呼ぶSFホラー小説だ。映画では、この原作から様々なアレンジが施されている。

例えば、一家の娘と水文学者の青年の間に淡いラブロマンスがあることは映画オリジナル。これにより、男兄弟しかいなかった原作よりも、青年が一家に協力する動機に説得力が増している。それでいて、原作のキモと言える恐ろしい展開はしっかり再現されている(時にはおぞましさが増している)のでラヴクラフトのファンも納得できるだろう。

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何より、映画という媒体にしたことで、そのものズバリ“色”がついているということが大きい。赤と青が混ざり合ったネオンカラー的な色彩そのものが襲いかかってくるということ、目に見える形で狂気的な世界に巻き込まれたという感覚は、それだけで十二分にゾッとさせてくれる。

また、通常のホラー映画であれば殺人鬼やモンスターなど、明確な殺意や目的意識を持った者が脅威となるところだが、本作における“色”は、ただ宇宙からやってきて、生態系に無秩序に影響を及ぼしていくという、意思も何もない不条理な存在だ。その理解ができない、対処しようもなく、事態に翻弄されるしかない、という事実こそが恐ろしい。これは現実の公害や放射能、はたまた新型コロナウイルスにも当てはまる恐怖だ。

『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』は、メインのプロットはスタンダードなSFホラーであり、なおかつ古典と言える小説を原作としているのにも関わらず、これらの要素から十分にフレッシュな魅力を提供しており、なおかつ今日に通じる普遍的な恐怖を描いているのだ。やはり、イロモノ的なパッと見のイメージで侮ることなく、真面目な映画として観てほしいと願う。

ちなみに、ラヴクラフトの小説は、日本のマンガ家である田邊剛が、美麗なイラストによるコミカライズを手がけていたりもする。今回の映画の原作『異世界の色彩』も電子書籍・紙媒体の両方で販売されているので、活字が苦手な方はこちらに触れてみるのもいいだろう。

◆5:合わせてオススメしたい3本の映画

最後に、本作と合わせてオススメしたい、連想した3本の映画を紹介しよう。いずれもグロテスクな描写もあるアクの強い作風であるが、それこそが魅力となっている。

1.『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』(2018)

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『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』と同じくニコラス・ケイジ主演、同じ制作会社SpectreVisionが手がけた作品だ。内容は「復讐鬼と化した男が狂気の集団を血祭りにあげる」とシンプルで、真っ赤な靄がかかった映像と重厚な音楽のおかげで、出口のない悪夢に迷い込んだような感覚に襲われる。できるだけ劇場に近い、集中して観られる環境で楽しんでいただきたい1本だ。

2.『アナイアレイション -全滅領域-』(2018)

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Netflix限定で配信されているオリジナル映画だ。不可解な現象が起こる謎の領域に女性の調査団が向かうと、そこには異常な景色が広がり、突然変異によって生まれたおぞましい生き物たちがいた……というSFホラーだ。悪夢的な世界観と、不条理な事態に翻弄される様が『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』に通じていた。こちらも、なるべく集中できる環境で観てほしい。

3.『ヘレディタリー 継承』(2018)

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『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』における、家族の誰かが心身に異常をきたし、酷い目に遭う様を観て、“21世紀最高のホラー映画”とまで称されたこの作品を連想する方はいるだろう。こちらで心底イヤな気分にされてくれた(褒め言葉)重低音を響かせたサックス奏者でもあるコリン・ステットソンは、今回も極彩色の悪夢にぴったりな楽曲を提供している。どちらもビジュアルだけでなく、音にもこだわった作品であることを念頭において観てみるのも良いだろう。

<文/ヒナタカ>

【ヒナタカ】

インディーズ映画や4DX上映やマンガの実写映画化作品などを応援している雑食系映画ライター。過去には“シネマズPLUS”で、現在は“ねとらぼ”や“CHINTAI”で映画記事を執筆。“カゲヒナタの映画レビューブログ”も運営中。『君の名は。』や『ハウルの動く城』などの解説記事が検索上位にあることが数少ない自慢。ブログ「カゲヒナタの映画レビューブログ」Twitter:@HinatakaJeF

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