「仮想通貨で稼いで一緒に世界を旅行しよう」SNSで被害が急増する国際ロマンス詐欺の最新手口

「仮想通貨で稼いで一緒に世界を旅行しよう」SNSで被害が急増する国際ロマンス詐欺の最新手口

  • PRESIDENT Online
  • 更新日:2022/09/23

SNSを通じて「愛してる」などのメッセージを送り、最終的には金銭を騙し取る「国際ロマンス詐欺」の被害が急増している。ノンフィクションライターの水谷竹秀さんは「警察による犯人の特定や被害額の回収は困難なのが実状だ。私のところにも米兵女性をかたるアカウントからメッセージが来たが、その相手は詐欺目的のナイジェリアの男性だった」という――。

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写真=iStock.com/Tero Vesalainen

全国の男女65人が総額約4億円を騙し取られた

彼らも泣き寝入りするしかないのか――。

国際ロマンス詐欺に関与したとして国際手配され、西アフリカのガーナに潜伏していた森川光容疑者(58)が現地で拘束され、日本に送還された事件。8月29日に詐欺罪で大阪地検に起訴された森川被告は、国際犯罪グループに所属し、日本人メンバーの取りまとめ役として、全国の男女65人から総額約4億円を騙し取ったとみられている。1人当たりの被害額に換算すると、615万円になる計算だ。

その65人全員が、私が取材してきた被害者たちと同じように、被害額を回収できないまま失意の日々を送っているのではないか。

国際ロマンス詐欺は、インスタグラムなどのSNSやマッチングアプリを介して相手と知り合い、親しくなって投資話を持ちかけられる特殊詐欺の一種である。被害額は数百万円から多い時で数千万円に上り、今年6月に発覚した、山梨県在住の50代男性は約1億5000万円も詐取されていた。

独身だけでなく、既婚者も被害に遭っている

国民生活センターの越境消費者センター(CCJ)によると、ロマンス詐欺に関連した相談件数は2021年に192件で、2年前の5件から急増した。これはコロナ禍によって出会いの場が対面からネットへ移行したためだ。うち男性が6割を占める。年齢層も20代〜60代まで(女性は50代まで)と、中高年層の女性に集中していた以前に比べると、幅広く、老若男女を問わなくなっている。これはマッチングアプリの台頭が1つの要因とみられる。

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国民生活センターHP 資料より作成

ある人は貯金を切り崩し、親族にも借金をし、挙げ句は消費者金融にも手を出して根こそぎ搾り取られ、自己破産してしまう。特に最近は20代の若者までもが巻き込まれるケースが増えており、マッチングアプリで知り合った外国人の相手に仮想通貨への取引を勧誘され、数百万円から1000万円以上を騙し取られている。また、必ずしも独身というわけではなく、既婚者でも被害に遭っている。

「まるで天使が地球に舞い降りてきたみたい!」

その手口はこんな形で始まる。

ある日突然、身に覚えのない欧米人、しかも端正な顔立ちをしたプロフィール写真の異性から「Hello!」、「こんにちは!」などとメッセージが届く。承認すると、軽い自己紹介をしてLINEへ誘導される。メッセージは朝の「おはよう」から始まり、「今日は仕事?」「お昼は何食べた?」「お風呂は?」「ペットは元気?」など日常の些細なことから仕事の話、生い立ちや家族構成にまで広がり、「おやすみ」で1日が終了する。そしてまた翌朝も欠かさずメッセージが届くのだ。

親しくなると、呼び方が「ハニー!」に進化し、2人の距離は徐々に縮まる。やがてはこうしたメッセージが飛び出してくるのだ。

「おはよう! 笑顔に包まれた1日になりますように!」
「今日のあなたはとても美しい。まるで天使が地球に舞い降りてきたみたいだ!」
「あなたはとても強く、そして勇敢だ。外見だけでなく、内面までもが美しい。そんなあなたは私の心の中に常に存在している」

これはある被害者が実際に受け取ったメッセージである。

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写真=筆者提供

日本人同士なら珍しい、愛情あふれる言葉や表現の数々。日常のやり取りの中でそれらが巧みに織り混ぜられ、その気になったところで本題を突きつけられる。

「日本で一緒に暮らそう。そのために日本に荷物を送りたいので、搬送料を支払ってほしい。日本で会った時に返すから」

振込先の銀行口座を伝えられ、その言葉を信じて振り込んでしまう。今度は荷物搬送時にトラブルが発生し、「税関で手数料が必要になった」などと追加を要求される。それを振り込むと、また別のトラブルが……と、繰り返されていく。

マッチングアプリから仮想通貨取引に勧誘される

最近の手口では、仮想通貨の取引への勧誘が圧倒的に多い。偽の仮想通貨取引所を紹介され、「僕の指示通りにやれば大丈夫」とまずは取引の練習から入る。「利益」が出たことをデータで示され、「夢を叶えるチャンスです」「仮想通貨で稼いだお金で一緒に世界を旅行しよう」「日本は貧富の差が激しい。多くの人は努力しても家を買う余裕がない」などともっともらしい言葉を次々に掛けられ、現金を振り込んでどんどん深みにハマってしまう。

データ上は、投資した金額以上に数字が増えているので、儲かったような気になる。ところがいざ引き出そうとすると「手数料が必要です」、「所得税を支払ってください」などと追加の振り込みを指示される。おかしいと訴えてもらちが明かず、そこでようやく詐欺だと気づくパターンが大半だ。

特に仮想通貨の場合は、練習による「実績」で相手を信用してしまうため、そこまでの恋愛感情がなくても、一獲千金のチャンスかもしれないと期待する。ゆえに本当の意味での「ロマンス」かどうかは微妙な場合が多い。被害者の1人が語る。

「そこまで本気にはなっていませんでした。だって会ったこともないですから。でも振り込んだお金が増えたデータを見せられ、相手の指示通りに取引すれば儲かるかもしれないという気にさせられたんです」

一旦、数十万円や数百万円の大金を注ぎ込んでしまうと、今度はそれを取り返そうという心理が働き、後に引けなくなる。

やりとりは全てスマホで完結するため、相手と会うこともない。会おうと持ち掛けても、もっともらしい理由ではぐらかされるのがオチである。

「イエメンで国際平和維持軍に参加している」女性からのメッセージ

一方、相手の犯人は、プロフィール写真と同一人物ではない。ネットで引っ張ってきた写真を無断で使う、いわば「仮面」を被った詐欺師なのだ。使われる顔写真は欧米系が多かったが、最近は、中国、韓国などのアジア系も増えている。

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メッセージを送ってきたアカウントのプロフィール(写真=筆者提供)

年齢は20〜50代で、職業は軍人、医師、投資家、実業家、金融系など、基本的には「勝ち組」を装っている。メッセージの言語も2〜3年前は英語が主流だったが、翻訳アプリの発達により、最近はほとんど日本語が使われている。

そんな犯人たちは一体、どこに姿をくらましているのだろうか。

1年半ほど前のこと。私のもとに、プロフィール写真が米兵女性のFacebookアカウントからメッセージが入った。端麗な容姿に加え、「イエメンで国際平和維持軍に参加している」と自己紹介され、詐欺師だと確信した。その時にはすでにロマンス詐欺の取材を始めており、犯人の特徴は心得ていたからだ。私は騙されたふりをしてメッセージのやり取りを続けた。すると、相手からの「愛の囁き」が始まった。

「ハニー! あなたはこの世界で最も大切な人。だからあなたを愛している」

ビデオ通話に写っていたのはナイジェリアの男性だった

私も負けじと、

「ハニー! あなたを心の底から愛している。あなたに狂いそうだ」

などと返信し、詐欺師との「愛」を育み続けた。

やがて「荷物を日本に搬送したい」と搬送料の支払いも要求されたが、お茶を濁してメッセージを続け、知りあってから半年後に身元を明かした。ロマンス詐欺の取材をしているジャーナリストであること、最初から詐欺師だとわかっていたことなどを伝えると、相手も「仮面」を剝がして本性を現したのだ。

ビデオ通話で会話を始めると、スクリーンの対面には黒人の若い男性が写っていた。西アフリカ、ナイジェリアの最大都市ラゴスにいると白状し、詐欺師であると認めた上で、

「申し訳なかった」

と詫びてきた。

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写真=筆者提供

ナイジェリア人がアジアで集団摘発されるケースも続出

ナイジェリアは、森川被告が潜伏していたガーナの東に位置する同じ西アフリカ域内だ。

1980年代、「ナイジェリアからの手紙」と呼ばれる詐欺が横行していた。手口は、政府高官を装って手紙やFAXを海外の企業に送り、取引を持ちかけて金を騙し取るものだ。ナイジェリア刑法419条に抵触することから、「419詐欺事件」とも呼ばれていた。

当初は歴史的に関係の深い欧米諸国が対象だったが、90年代に入り、東欧やアジア、中南米へと標的を広げた。日本人の被害は1999年に起きている。神奈川県の中古車輸出業の男性が「コンゴの軍人」と名乗る者から手紙を受け取り、「内戦の混乱で引き出した2000万ドルを移したい。口座を貸してくれれば謝礼を渡す」と持ち掛けられた。その後、打ち合わせのために南アフリカに渡って誘拐され、数百万円を奪われた。

こうした手口は、ネット社会に移行したことで、手紙がメールに変わり、近年はSNSやマッチングアプリを使ったロマンス詐欺という新たな手口が生まれた。西アフリカの中でも特に、ナイジェリアとガーナは英語が公用語であるため、犯行グループの潜伏先になっているようだ。

標的にされたのは同じ英語圏の欧米だけでなく、日本も対象になった。いずれも先進国だからだろう。前出の国民生活センターに初めて相談が寄せられたのは今から10年ほど前で、被害が増え始めたのはここ4〜5年だ。

犯行グループにとってはスマホやパソコンさえあればどこでも着手が可能である。それゆえ彼らの活動範囲も広がっており、最近では、ナイジェリア人がフィリピンやタイ、マレーシアなどのアジア域内で集団摘発されるケースも続出している。

犯人の特定は「極めて困難」と言われるワケ

「海外にいる犯人の特定は難しいです」
「現状は口座の凍結ぐらいしかできません」
「泣き寝入りするしかないと思います」

これらは被害者たちが警察に駆け込んだ際に受けた説明の数々だ。振込先の口座を提供すれば、確かに口座の凍結は可能だが、すでに引き出されている場合がほとんど。しかも口座の名義人と本丸の犯行グループが繋がっているとは限らないため、名義人から海外にいる犯行グループを突き止めるのは難しい。売ったり貸したりした銀行口座が、ロマンス詐欺の振込先として悪用されただけなのだ。

これが仮想通貨になるとその仕組み上、「犯行グループの追及はさらに困難になる」というのが、投資詐欺に詳しい弁護士たちの共通認識だ。ゆえに被害額が回収できないのである。

被害者たちの泣き寝入り状態は続く

こうした被害の深刻化を受け、東京投資被害弁護士研究会は昨年、マッチングアプリの運営会社に国外からの登録を排除するよう申し入れ、LINEには犯人とみられる登録者情報の開示を求めるなどの取り組みを行っている。一部運営会社ではすでに、国外からのアクセスが禁止された。

といっても撲滅には程遠く、警察も海外には捜査権限が及ばないため、事実上のお手上げだ。被害者の泣き寝入り状態が解消する見込みは当分なさそうで、被害を事前に食い止めるためにはやはり、この犯罪を周知徹底させることだろう。

被害者の1人は、あらためてこんな言葉を教訓にしている。

「そんなにおいしい話が転がっているはずがない」

多くの人は分かっている。

それでも被害は続出しているのだ。

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水谷 竹秀(みずたに・たけひで)
ノンフィクションライター
1975年、三重県生まれ。上智大学外国語学部卒業。新聞記者やカメラマンを経てフリーに。2011年、『日本を捨てた男たち』(集英社)で開高健ノンフィクション賞を受賞。他に『だから、居場所が欲しかった。』(集英社)など。10年超のフィリピン滞在歴をもとに「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材。5月上旬までウクライナに滞在していた。
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水谷 竹秀

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