オードリー・タンが「日本のハンコ問題はハンコの話ではない」と言う理由

オードリー・タンが「日本のハンコ問題はハンコの話ではない」と言う理由

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2020/11/20
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オードリー・タン。
新型コロナウィルスが蔓延する台湾で、マスク在庫がリアルタイムで確認できるアプリ「マスクマップ」を開発し、その対応が絶賛されたことで名前を知った人も多いことだろう。
彼女(氏によれば「性別なし」なのだが、ここでは便宜的にそう呼ばせていただく)は2016年、35歳という若さで蔡英文政権に入閣、デジタル担当政務委員(大臣)に就任。
そんな彼女が語った、このデジタル時代に「自由になる」ということ、貴重なインタビューを『オードリー・タン 自由への手紙』よりお届け。第13回は「スキルセットから自由になる」。>今までの連載はこちら!

スキルセットから自由になる

「それの何がいけないんですか?」

インタビューの中で、「今後、人間の仕事はAIやロボットに取って代わられるのではないかと危惧する人々がたくさんいる」と聞き、私は反射的にこう答えました。

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オードリー・タン氏

「工業先進国では少子高齢化が進んでいる」

「人々はどんどん年老いていき、労働力のような無形資源を得ようとする競争も増えている」

こうした議論が盛んになされていることは知っています。

AIが怖くない2つの理由

私はAIが脅威であるという論調については懐疑的です。

労働力には限界があり、有限なものなのだという見方は疑わしいとも思います。シンプルに、世界の労働力に限りがあるとは考えていません。

それには2つの理由があります。

1.テクノロジーで労働力を補うことができる
2.テクノロジーは認知労働も供給しうる

順番に説明しましょう。

労働力が足りない――つまり労働の「量」が欲しいというとき、工業ロボットの助けがあればどうでしょう? 人を集め、働き続けてもらうのは大変なことでも、ロボットであればあっという間に何台も確保できます。

繰り返しの単純な構造の労働については、人間が行っているほとんどの労働は自動化できます。そして実際に、世界中でありとあらゆる機能が自動化に向かっています。

つまり第一の理由、「テクノロジーで労働力は補える」というのはすでに現実化していることです。

認知労働もAIがこなす

「それは量だけが必要な仕事であって、知的な仕事はロボットでは無理だ」という意見もありますが、人間が行う労働の「質」とロボットの行う労働の「質」に大きな違いがあるということについても、私は疑問に思います。

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※画像はイメージです。Photo by iStock

私たちがテクノロジーによる代替が難しいと考えている知的な仕事、つまり認知労働についても、今や文章生成言語モデルGPT-3などが状況を一変させています。

仮にあなたが本を書こうとしているとして、ひたすらキーボードを叩き続ける時間が確保できないとしても、GPT-3に初動の構想と一連の動作さえ指示すれば、残りは仕上げてくれます。

まだ完全とは言えませんが、こうしたテクノロジーによる認知労働も労働の自動化を促進してくれるわけです。だから私は、認知労働についても肉体労働についても、労働資源が有限なものだとは考えていません。

これが第二の理由、「テクノロジーで認知労働も供給しうる」ということです。

山登りはドローンにお任せ?

この話をすると、再び同じ質問が繰り返されました。

「テクノロジーの発達は素晴らしいことですが、認知労働さえこなすGPT-3は脅威だ。今後、人間の仕事はAIやロボットに取って代わられるのではないかと危惧する人々がたくさんいますよ」と。

しかし、私は心配していません。みんな安心していていいのです。

「危機感が募ってしまうのなら、山登りをしてみてはどうでしょう?」

こんな提案をしたいところです。これまでお話ししてきたように、台湾にはぜひ足を運んでいただきたい素晴らしい山がたくさんあります。

ちなみに、山にとても速く登ることができるロボットもあります。私が登るよりずっと速い! 防寒具やテント、水や食料もいらない!

それでも私は、山登りロボットは使わないでしょう。

ロボットを山に登らせて、朝日が昇るぴったりの瞬間にすてきな写真を撮らせ、最速で戻ってこさせようとは思いません。

山登りは、自分自身が登山道を自由に歩いて楽しむものだからです。もちろん、誰と競争することもなく。

つまり私は、山登りを自動化して、自然とのかかわりや自分の楽しみを壊してしまうことはしないでしょう。

それでも山登りの目的は、常に楽しみとは限りません。

「電波の具合がおかしくて、みんなスマホもパソコンもつながらなくなっている。山頂に設置されたテレコムの通信用5Gタワーが機能しているかどうかを、大至急、確かめたい」

こうした目的なら、私は何のためらいもなくドローンを飛ばすでしょう。そこに登山の楽しみはないわけで、点検・修理が目的だからです。

「ハンコ問題」は、ハンコの話ではない

何事も多面的に考えると、問題がクリアになります。

たとえば日本では、「契約書や行政手続きの押印廃止」という流れが起きているという話題が、このインタビューでも出ました。

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※画像はイメージです。Photo by iStock

台湾も日本と同じ印鑑文化の国です。2016年の入閣にあたって、私は「大臣としてのアカウントをつくる際に必要だ」と言われたために、ハンコを用意しました。ところが2020年5月に再入閣した際、持参のハンコを使う場面がありませんでした。すっかりサインに変わっていたのです。

しかし、「ハンコ問題」とは、実はハンコではなく「紙の問題」です。

紙に押印しているからウェブ上でのやりとりが難しく、テレワークなどにそぐわないという視点も必要です。紙に代わるような「ハンコを押せるコンピュータ画面」にアップデートしたら、印鑑文化の新たな生かし方が見つかるかもしれません。

問題を考えるときは、たくさんの視座をもつといいでしょう。

自分の価値観を置く場所

AIについての話は労働力や労働の質が本題ではありません。すべては、私たちがどこに価値を置くかによるという議論だと思います。

もしも自主性や相互関係、共有の価値観などを大切にするのであれば、AIは単に補助的知能です。整然として正確に機能する、良いものだと見なされるでしょう。自分を助けてくれるのですから。

もしも何か特定のスキルセットこそ、自分と切り離せないものだと考えているなら、AIは脅威となるでしょう。

「この仕事のこの技術こそ、自分である」

それがプログラミングであれ、文章を書くことであれ、データ分析をすることであれ、何らかのスキルセットを重視している場合、ロボットは仕事を奪い去る敵となり、不安が生まれます。

私自身にスキルセットはありません。だから少しも心配していないのです。

どうしても心配になったら、のんびりと山に登りながら、考えてみるといいのではないでしょうか。

「自分の価値観をどこに置くか――それはスキルセットでいいのだろうか?」と。

『オードリー・タン 自由への手紙』最終回は、「お金から自由になる」です。明日公開。

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