ロシア版スノーデンが告発「プーチン大統領もドーピングを了承した」

ロシア版スノーデンが告発「プーチン大統領もドーピングを了承した」

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2018/02/14
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ロシアの陸上選手の99%がドーピング? ロンドンオリンピックでロシアが獲得した81個のメダルのうち、50%以上もドーピングによるもの?

この数年、ドキュメンタリー作品が明かしてきたロシアによる国家ぐるみのドーピングに関する衝撃の告発──。ライターの松谷創一郎氏が、Netflixオリジナル作品『イカロス』を取り上げる。なぜ異例かつ稀有な作品なのか。

ロシア「国家ぐるみ」のドーピング

2月9日に開幕した平昌オリンピック。しかし、開会式には、これまでのオリンピックを賑わせてきたロシア選手団の姿はなかった。

昨年12月、IOC(国際オリンピック委員会)はこの大会にロシアが参加できないことを正式に発表した。過去にドーピング違反をしていないなどの厳格な基準を満たしているロシアの選手は、中立選手(OAR:オリンピック・アスリート・フロム・ロシア)として個人で参加している。

2016年のリオデジャネイロ夏季オリンピックでは、陸上からは完全に締め出されたものの、多くの選手が条件付きで参加を認められた。それに対し、今回の平昌でIOCはよりいっそう厳しい姿勢を見せたと言える。

IOCがここまで断固たる態度を見せたのは、ロシア選手のドーピングが国家ぐるみで行われていたからだ。それが発覚したのは、2014年12月9日のことだった。

スクープしたのは、ドイツの公共放送・ARDだ。

『ドーピングの秘密 ロシアはいかにして勝者を作り出したのか』と題されたドキュメンタリー(日本では、2016年にNHK-BSで『ドーピング~ロシア陸上チーム・暴かれた実態~』というタイトルで数回放送されている)において、ロシアの女子陸上選手・ユリア・ステパノワと、その夫であるロシアの反ドーピング機関(RUSADA)のビタリー・ステパノワが告発したのである。

そこでは、ロシアの陸上選手の99%がドーピングを行っているとされ、その手口も詳細に説明された。リオデジャネイロ・オリンピックからロシアの陸上選手が完全に締め出されたのは、このドキュメンタリーがあったからだ。

監督自らドーピングをして…

こうしたロシアのドーピング問題が発覚する前から、その中心人物と接触していたもうひとつのドキュメンタリー作品がある。

それが、昨年夏にNetflixで公開され、2017年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にもノミネートされている『イカロス』だ。この作品は、ドーピング騒動が巻き起こる半年前の2014年6月から撮影が開始されている。

当初の目的は、アマチュア自転車レーサーでもある監督のブライアン・フォーゲルが、自らドーピングをして検査体制をいかにくぐり抜けることができるかを試すことだった。

フォーゲル監督がドーピングに興味を持った背景には、ランス・アームストロングの存在があった。1999年から2005年まで、ツール・ド・フランスで7連覇を達成したアームストロングは、自転車レースではだれも知る英雄だった。

しかし、2012年にドーピングが発覚し、彼は過去のタイトルをすべて剥奪され、永久追放される。

「スノーデンを知っているか? なら分かるだろ」

フォーゲル監督に協力したのは、ロシアの反ドーピング機関(RUSADA)の所長だったグリゴリー・ロドチェンコフだ。

ふたりはスカイプで連絡を取り合いながらドーピングを進め、翌2015年の大会に備えていた。

ロドチェンコフは、非常に陽気な男性だ。スカイプではいつも上半身裸で、ペットの犬とじゃれ合いながらフォーゲル監督に指示を出す。危うい橋を渡っているにもかかわらず、ふたりのやり取りに緊張感はあまりない。

途中、一度フォーゲル監督のいるアメリカにも渡り、彼の尿サンプルをロシアに持ち帰った。そうした過程で、両者はたしかな信頼関係を培った。

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告発されたロドチェンコフはアメリカへと亡命し…〔PHOTO〕gettyimages

ドイツでARDのドキュメンタリー『ドーピングの秘密』が放送されたのは、まさにふたりがドーピングを行っている最中だった。この番組において、ロドチェンコフはドーピングのスペシャリストとして告発されたのである。

さらに2015年11月、ARDの告発を受けた世界反ドーピング機関(WADA)の独立委員会は、ロシアのドーピング問題についての詳しい調査報告書を発表する。ロドチェンコフはそこでも中心人物だとされていた。

まさにこのとき、『イカロス』でロドチェンコフは深刻な面持ちでこのように話している。

「スノーデンを知っているか? なら分かるだろ」

CIAの元局員だったエドワード・スノーデンは、告発者となってアメリカを追われ、ロシアでの亡命状態にある。ロドチェンコフは、ロシア版のスノーデンになったのだ。

「もし私が粛清されたら、ロシアはオリンピックに参加する。生き延びねば」

命の危険を感じたロドチェンコフはロシアを離れ、アメリカのフォーゲル監督のもとに身を寄せる。ふたりがアメリカで再会したのは、2015年11月17日のことだった。

身の危険を感じマスコミに告発

ロシアのドーピング問題が拡大の一途をたどるなかで、『イカロス』は当初の目的から離れ、渦中の人物に最接近したドキュメンタリーへと姿を変えた。前半部の明るい雰囲気は消え失せ、中盤以降は一気に深刻な様相を呈していく。

アメリカへ渡ったロドチェンコフは、カメラの前でロシアが国ぐるみでドーピングをおこなっていたことと、自分がそれを仕切っていたこととを証言した。

北京オリンピックで獲得した73個のメダルのうち、30個がドーピングによるもの──。

ロンドンオリンピックで獲得した81個のメダルのうち、50%以上もドーピングによるもの──。

プーチン大統領やムトコスポーツ大臣も、ドーピングをやっていることを了解済みで、ロドチェンコフの存在も知っている──。

そんな隠匿生活を送っていた2016年2月、ロドチェンコフが所長を務めていたロシア反ドーピング機関の最高責任者であるニキータ・カマエフが突然死亡する。

死因は重度の心臓発作だとされたが、学生時代からカマエフと親交のあったロドチェンコフは、「心臓が悪いなんて聞いたことがない」と話す。

一方、アメリカの当局も動き出す。2016年3月、FBIがロドチェンコフと接触するなどし、大陪審への召喚状が出される。

身を危険が高まっていることを感じた彼らは、大陪審での証言を前に、マスコミで告発することを決断する。媒体は、大手新聞「ニューヨーク・タイムズ」だ。

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ニューヨーク・タイムズが衝撃の告白を記事にした

一報が出たのは、2016年5月12日だった。'Russian Insider Says State-Run Doping Fueled Olympic Gold'(「オリンピックの金メダルは国家ぐるみのドーピングによって成り立っているとロシアの内部関係者は話す」)。

ロドチェンコフがそこで証言したのは、2014年のソチオリンピックでのドーピングについてだ。

旧KGBのFSB(ロシア連邦保安庁)が尿サンプルをすり替え、メダリスト15人をはじめとする多くのロシア人選手がドーピングを行っていたと証言した。

そしてこの記事の中に出てくる「アメリカのフィルムメーカー、ブライアン・フォーゲルが手がけるドキュメンタリー」が、この『イカロス』だった──。

追われる立場になることを見越していた?

この作品は、とにかく驚きの連続だ。

報道されていたが、日本ではロシアのドーピング問題がここまで深刻だったと知る者はそれほど多くなかったはずだ。細工してあった壁の穴を使って尿サンプルを入れ替えていたことなど、唖然とさせられる。

同時に、これはきわめて稀有な作品だ。

もちろんドキュメンタリーで告発が行われたことは過去にもあったが、国家に命を狙われる告発者が出演している点においてその深刻度は格段に高い。しかも作品の冒頭ではただの協力者だった人物が、途中から告発者に姿を変える異例の特徴もある。

観ていて思うのは、おそらくロドチェンコフはARDの取材が進んでいる情報を得た上で、フォーゲル監督に協力したのではないか、ということだ。つまり、将来的に自らが追われる立場になることをある程度見越していたのだ。

ドーピングの細かいプロセスを開陳することや、刻一刻と危うくなる自らの立場を記録することが、結果的に自分を守ることに繋がると考えたのだろう。

つまり、ロドチェンコフはフォーゲル監督を巻き込んだのである。そして、実際そのことによってロドチェンコフの命は救われた。

昨年9月、ロシアはロドチェンコフの逮捕状を請求したが、彼はアメリカで証人保護プログラムのもと隠匿生活を続けている。

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プーチン大統領とロドチェンコフの立場は対立したままだ〔PHOTO〕gettyimages

つい先日の1月29日にも、ロドチェンコフはARDの取材に応じ、プーチン大統領がドーピングに関与していたと主張した。

それに対し、プーチン大統領は「ロドチェンコフはアメリカに引き込まれた愚かな人間だ」と反論した。両者の立場は現在も対立したままだ。

平和を謳うオリンピックが、政治や金にまみれていることはこれまでも頻繁に報じられてきた。

今回の平昌オリンピックでも、韓国と北朝鮮が女子アイスホッケーで統一チームを作り、北朝鮮からは金正恩委員長の実妹である金与正氏が開会式に姿を見せ、友好ムードをアピールした。緊張がピークに達していた北朝鮮情勢は、大きく風向きを変える可能性もある。

ロシアが国家ぐるみでドーピングを続けてきたのも、なかば独裁状態のプーチン大統領が内政の安定を期待した上での人気獲得手段だったからだ。スポーツの祭典とは言え、それが政治と無縁とは言い切れないのである。

そして問題はさらに続くはずだ。

今年6月、ロシアではサッカーのワールドカップが開催される予定だ。ドーピング大国の悪名が広がりきったいま、それは果たして滞りなく終わるのか。

さらに2年後には、東京オリンピックも待っている。ロシアとIOCの対立は、そのときにどうなっているのか。今後の展開にも注視が必要だ。

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