価格下落と格闘する米国の「トウモロコシ」ビジネス

価格下落と格闘する米国の「トウモロコシ」ビジネス

  • JBpress
  • 更新日:2017/10/13
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ADM(Archer Daniels Midland)社の穀物エレベーター塔

2017年8月にアメリカ穀物協会から「持続可能性に貢献するアメリカの最新農業技術」を視察しないかとの招待をいただき、視察旅行に参加してきた。4回にわたり、そのレポートを掲載している。最終回となる4回目は、アメリカのトウモロコシについて書いていこう。

今回の視察では、穀物エレベーター業者と、製粉業者、そしてバイオフューエル研究所にも行くことができた。まず見学させてもらったのは、ミズーリ州・セントルイスにある穀物エレベーターである。カーギルの次に大きな取扱高を持つ巨大穀物商社、ADM(Archer Daniels Midland)社の施設だ。

横を流れるミシシッピ川には穀物輸送用のバージ船(日本で言う「はしけ」)の船着き場があり、構内には鉄路も走っている。もっとも現在、全取り扱い量のうち鉄道を使う割合は1%ほどしかないそうだ。ちなみにミシシッピ川沿いで、ここがADM社の一番北にある集荷拠点になる。アメリカから輸出される穀物のうち20%がセントルイスを通って輸出される(上流からやってきて、セントルスイスを通過するだけのバージ船も含む)が、そのうち6%がこのエレベーターを通るという。

ミシシッピ川を横目に見つつ簡素な事務所に入ると、パソコンが置かれた机がたくさん並んでいる。そして壁には、シカゴ穀物市場と自社の時期別、作物別の価格表が表示されている。表示は液晶画面ではなくスライドであった。

ここで行われている仕事は、農家から、いつ、どのグレードの穀物をどれだけ売るのか連絡を受け、価格交渉がまとまり農家や運送業者から運ばれてきた穀物を貯蔵し、バージ船に積み込んで、輸出拠点となっている下流のニューオーリンズに輸送することだ。この間に価格が変動すると損失を被ることになるため、シカゴ市場を利用する。たとえば、農家からトウモロコシを受け入れたら、農家に金を払うと同時に、受け入れた分だけシカゴ市場のトウモロコシ先物を売る。そうすると、価格下落リスクをなくすことができる。そのため毎日、シカゴの穀物商品取引所の価格と、にらめっこする必要があるわけだ。

(参考・関連記事)
「素人はやけどする?『ハイリスク』イメージを払いたいコメ先物取引」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42532

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30年前より「穀物の品質は明らかに上がった」

次にエレベーター管理施設に向かう。施設の稼働状況を監視するPCが数台並んでいるが、50あるエレベーター容器に何がどれほど入っているのかはホワイトボートでの管理である。大豆やトウモロコシなど、少ない時でも1日200台、多い時は500台のトレーラーがやってきて、50あるエレベータータンクに振り分けていく。この作業は全てコンピューター化していいようなものでもないらしい。

ホワイトボードの横には、以前出荷した穀物のサンプルが保管されている。何か問題があった時、トレーサビリティの要請に応えるためだ。

誰かが質問する。「ここでは非遺伝子組み換え作物は扱わないのですか?」

「昔は扱っていましたが、今は扱っていません」と答が返ってきた。理由はコストが合わないからだ。

「非遺伝子組み換え作物を扱う場合、遺伝子組み換え作物との混入を避けるために特別扱いが必要です。貯蔵タンクやその他使う施設を特別に清掃・整備しなければなりません。我々は求められれば、対応することはできます。しかし、そんな努力に見合うほど非遺伝子組み換え作物は高く買っていただけないのです」

それと同時に、遺伝子組み換え作物の登場によって、30年前より扱う穀物の品質は明らかに上がったとの言葉もあった。遺伝子組み換え作物と栽培技術の進化がもたらした成果は明確だと断言もされた。

トウモロコシをプラスチックに、事業化の成否は?

次に訪問したのは、製粉業を営むSEMOミリング社である。ここで製粉されたトウモロコシが食品会社などに送られてビールやコーンミール、スナック菓子などの最終製品になる。併産物として出る「かす」は飼料として出荷される。穀物は周囲の農家から集めている。中には非遺伝子組み換え作物もあるが、集荷基準は非遺伝子組み換えが条件ではないため、同じ扱いであるという(遺伝子組み換え作物と混ぜられるという意味だ)。

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SEMOミリング社のトウモロコシ粉が使われている製品群

顧客にはペプシコやアンハイザーブッシュ、イングリングなど有名大企業も多い。しかし応対してくださったコモディティマネージャー(商品部長)アダム・トーマス氏の顔は、少々うかない。というのも、販売先で伸びているのが、米国国際開発庁(USAID)に売る援助物資(穀物粉)だけだからだ。援助物資は世界食料計画を通して飢餓救済物資として輸出されている。製粉したままでは栄養が偏るため、タンパクやビタミンも加えてあるという。書いていいのか分からないので数字は伏せるが、他の扱い品目よりも利益率は相当に低い。うかない顔にもなる。

もちろん嘆いてばかりもいられないので、SEMO社はトウモロコシを原材料とするプラスチックの事業化にも挑戦した。ポテトチップスの袋に生分解性プラスチックの袋を作って供給しようとした。スナック菓子の包装に使ってもらえれば、かなり大きなビジネスになるし、石油由来の製品ではないから環境に優しいと評価されることも期待された。しかし、うまくいかなかった。

包装材としては十分機能を満たし、当初は製品の成り立ちを知った消費者からも好評を得ていた。しかし、好評は長くは続かなかった。袋をさわった時に鳴るガシャガシャ音が不評で、食品メーカーは再び石油由来のプラスチックの袋に戻したのだった。

「消費者の皆さんから受け入れられなければ、我々としてはどうしようもありません・・・」

トウモロコシの価格低迷がエタノールを生んだ

いわゆる“エコ”のビジネスが甘くないのは、バイオエタノール業界も同様である。

バイオエタノールの生産は2007年米国環境庁(EPA)がガソリンにバイオエタノールを混ぜる「再生可能燃料基準」を制定してから急速に増えたが、2009年以降の生産量は横ばい傾向にある(下のグラフ)。とはいえ、これで8万6000人の雇用も産み出してもいるので大きな成果を挙げているのは間違いない。

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アメリカにおけるトウモロコシ由来のバイオエタノールの生産量の推移。2009年以降の生産量は横ばい傾向にある。DDGとは併産物となる残差のことで飼料などにされる

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下の図をごらんいただきたい。アメリカのバイオエタノールの名目生産量と施設数を州別に見ると、バイオエタノールの生産はアメリカ中北部に集中しているのが分かる。

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州別に見たアメリカのバイオエタノールの名目生産量と施設数

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なぜアメリカ中北部にエタノール生産が集中しているのかというと、単純にトウモロコシの生産が多い、いわゆるコーンベルト地帯だからだ。

ただ、背景にあるのは、20世紀から続いてきたトウモロコシの価格下落である。

1986年は特にひどかった。当時、教育社(現キョーイクソフト)という出版社が「Common Sense」という雑誌を出していた。この雑誌に、アメリカの穀物在庫が膨れ上がり、価格低迷によって多くの農家が苦境に陥っているという特集記事が掲載されていた。「Common Sense」は。国際問題をビジュアルに見せるのが上手な雑誌で、穀物価格下落によって破産寸前になりながらも「まだ負けない」と妻と息子と手を繋ぎ、3人で農地を見つめる農家を後ろから撮った写真が載っていたのを今でも覚えている・・・いや、この写真のインパクトが大きかったから、30年以上も前の雑誌記事を今も覚えていると言った方が正確だ。

その後、最悪の86年よりは多少穀物価格は持ち直したが、あくまで“多少”に過ぎず、価格低迷は続いた。そんな中、トウモロコシ関係者の誰かがドラッカーの言う「需要の創造」にヒントを得て、トウモロコシからエタノールを作る需要創造を思いつき、説得して回ったのに違いない。その時、ブラジルが先行して穀物由来のエタノールを生産し自動車燃料にしていたのは幸いであったろう。先行事例があれば「前例がない」と否定する人を黙らせることができる。

そうした布教師(エバンジェリスト)の努力が実って、1997年にイリノイ州・エドワーズビルに「国立トウモロコシ由来エタノール研究センター」(National Corn to Ethanol research Center、NCERC)ができた。バイオエタノールの効率生産および商業化の委託研究や教育を行う研究機関である。

日本人が来たからだろう。この研究所には、島津製作所の開発した分析機器があって、これが大変優秀だと皆がやたらと褒めちぎっていたのが印象に残っている。オバマ政権発足前からトウモロコシ由来のエタノール生産が伸びていたのは、こうした研究機関の頑張りも大きかったのだろう。

エタノールという「需要の創造」は、当初は成功した。エタノール需要がトウモロコシの需給を引き締めた。米国環境庁(EPA)がガソリンにバイオエタノールを混ぜる「再生可能燃料基準」を制定した2007年に1ブッシェル4ドル20セントだったトウモロコシ価格は2012年には過去最高の6ドル89セントまで上がった。

しかし翌年の2103年から価格は暴落し、2014年からは2007年の価格水準をも下回る3ドル台で推移している。もっと効率良くエタノールを生産できる品種作りや、さらに新しい新規需要の開発など、同研究所に求められる仕事はまだまだ山積している。

今後も世界人口は増え続けていくので、需給はいずれ引き締まり、価格も上昇するだろうが、当面は生産者にも、関係業者にも、つらい状況が続きそうだ。

日本にコメでエタノールを作る研究をしているところがあるかどうかは知らないが、エコビジネスも甘くない──。そんな学びを得て、私のアメリカ農業視察は終わった。

[バックナンバー]
(第1回)誤解の中で農業の啓蒙活動に取り組むモンサント
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/51073
(第2回)元グーグル社員が開発、農地監視システムの実力は?
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/51135
(第3回)日本と同じ?米国の大規模農業は効率的ではなかった
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/51227

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